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幽韻之志
16/夢、破れて燦臥あり。
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あれから一週間
療養のため晃汰と同棲を始めた俺は、今日もキスで目覚める。
起きがけ機能しない不自由な体を労うモーニングコーヒーを一緒に飲むのが日課。
俺の好きな浅煎りブレンドでは物足りないのに付き合ってくれる晃汰の手が伸びるとドアの隙間から殺気を放つ抜群の存在感で玲音が睨みを利かせる。
青の一門はサディストの集団
性質の異なる者は認められない掟が存在する。その理由は?
玲音は、M奴隷。
従事する立場には適しているが、俺らとは根本的に違う生き物だ。
まず執着心が強すぎる。強いというか激しすぎて、病的。
嫉妬して落ち着かない姿はまるで動物園の折で飼われた猛獣の如し、放てば襲い掛かる勢いを制御するために厳しい態度でリードしないとこっちが怪我する。ここまで人を獰猛に作り変えることができるマスターの存在は世界的に見ても類がない。
願わくば…使い捨てにされる命を、どうか大切にして欲しい。
「わんこだねぇ。番犬が欲しいなんて頼んだ覚えないのに」
人として対等に見てない晃汰のメンタルも強すぎる。
「あ、劉青が会いたいって。体に障るだろうから外で飯でも…どう?」
頷くと指輪だらけの手で頭を撫でられた。
晃汰とでかける時はバイクで移動
陰ながら護衛がついても涼しい顔でハンドルを握る晃汰はこれが当たり前の生活スタイル、ある程度の距離で尾行する玲音だがあまりにもイケメンで周囲から黄色い悲鳴が沸くので居場所がわかる。
「アイツ、隠密に向いてねぇな」
「あ、玲音だ。おーいこっちにおいでよ」
自由奔放な劉青は相変わらず青嵐そっくりでドキッとするけど影武者です。
この面子で外食すると目立つ、どころか…
「わぁ…何あれ、病気?」
「頭真っ白なんだけど」
「やめなよ、子供でしょう。可哀そうに」
俺の姿に多く同情が寄せられる。
こういう時、声が出なくて本当によかったと心底思う。
「快気祝いに、いいもの貰ったね」
「全く…父さんは余計なことしかしない。これ、家で飼ってんだぞ?」
「我々も依代みたいなもの、お仲間ですって」
「あの、青嵐様…で、宜しいですか?」
「そっくりだけど青嵐じゃないよ、息子の劉青です」
フォークの先にソースをつめて舐める劉青に、木の葉の影がざわめく。
風は俺の後ろから吹いていた。
「動物の内臓はどうしてこんなに美味しいんだろう。青嵐と一緒にアリゾナを旅した時、蛇が主食だった。毒の味は刺激的だったけど、忠興に飲まされたアレが人生の中で一番忘れられない…玲音に伝手はないの?」
「薬物ですか?」
「RCW(放射能汚染水)」
「ああ、研究所で飲み放題の…」
「マジで?国産は味が薄いんだ、資源が違うのかな」
何の話が始まったのかと思ったら、昔むかし…
青嵐が若かりし頃、妻・黒鬼小夜子を惨殺して、まだ幼い劉青を連れ去り逃亡。
一夜にして起きた裏切りの惨劇は世界的な指名手配に及び3年後、米国某州で起きた大規模なテロ行為の犠牲者として劉青の身柄が確保された。
それまでのテロ行為とは異なり、食中毒による大規模な死亡事故として取り上げられたが、真相は闇に葬らされた"あの事件"の首謀者は、科戸忠興。
昼間の公園にアイスクリームの販売が来れば、人々は何の疑いも無しに商品を購入する。
ドリンクカップの中身は…
次々に倒れる人々の中で、劉青はただひとり立ち尽くし、今まで経験したことのない違和感に体が震えて駆け付けた警察官にこう言った。
「みんな、逃げて」
特定の食品を口にした人々は全員死亡。
ただ独り生き残った劉青は国が指定するホスピスに収監され、およそ8か月の治療を受けて回復。数年後、媒介感染症のガイドラインが世界保健機関から報じられると同時に某国製薬会社が抗ウイルス剤と先駆けとなるワクチン開発を発表した。
死亡事故との一連を調べようとする者は不幸な事故に遭い、警察も捜索をしないという異例の自体に美丈夫の劉青は…
「甥っ子を殺し損ねた挙句、国連の闇に売り飛ばし、巨万の富を築いた忠興が玲音の親と出会うのは避けられない運命。何も殺さずともよかったのに…」
劉青は紅茶を飲みながら微笑む。
「まぁウチも度々ある。周りが死んでいくのは仕方ないって」
「だから依代鄙が破れても気にすんな」
「同意です。昌宗様には少し、酷な…話かも知れませんが」
箸を止め、遠くをみつめる俺は陽射しに溶ける女の素顔を見て、急に立ち上がる。
夢で見たあの人は…
いつも遠くから青嵐を見守っている、愛しい面影に涙が伝う。
青嵐がこんなにも愛しいのはあなたと繋がった証拠。ずっと隠していた俺の気持ちをあなたは知っていたんだね。そして青嵐もまた、あなたを愛している。
六喩会の「夢」こと黒鬼小夜子の存在に触れられるのは、血の通った者だけ。
彼女は青嵐を愛し続けて、この世を彷徨う。
あの日見た庭の模様は枯山水というあの世とこの世を渡る波。狭間で救われた俺は霊的な能力も無しに必然的に出会った。
ただ、ひとつだけ不可解なことがある。
夢から引き離された俺は、黄金に輝く美しい王子様のキスで目覚めた。
奇しくも落雷による停電が起こり、命が現世に繋がれる危険な状態から奇跡的な回復を果たした俺の死に纏わる不可解な出来事は、来る筈もない明日を呼び覚まし、未来を照らす。
療養のため晃汰と同棲を始めた俺は、今日もキスで目覚める。
起きがけ機能しない不自由な体を労うモーニングコーヒーを一緒に飲むのが日課。
俺の好きな浅煎りブレンドでは物足りないのに付き合ってくれる晃汰の手が伸びるとドアの隙間から殺気を放つ抜群の存在感で玲音が睨みを利かせる。
青の一門はサディストの集団
性質の異なる者は認められない掟が存在する。その理由は?
玲音は、M奴隷。
従事する立場には適しているが、俺らとは根本的に違う生き物だ。
まず執着心が強すぎる。強いというか激しすぎて、病的。
嫉妬して落ち着かない姿はまるで動物園の折で飼われた猛獣の如し、放てば襲い掛かる勢いを制御するために厳しい態度でリードしないとこっちが怪我する。ここまで人を獰猛に作り変えることができるマスターの存在は世界的に見ても類がない。
願わくば…使い捨てにされる命を、どうか大切にして欲しい。
「わんこだねぇ。番犬が欲しいなんて頼んだ覚えないのに」
人として対等に見てない晃汰のメンタルも強すぎる。
「あ、劉青が会いたいって。体に障るだろうから外で飯でも…どう?」
頷くと指輪だらけの手で頭を撫でられた。
晃汰とでかける時はバイクで移動
陰ながら護衛がついても涼しい顔でハンドルを握る晃汰はこれが当たり前の生活スタイル、ある程度の距離で尾行する玲音だがあまりにもイケメンで周囲から黄色い悲鳴が沸くので居場所がわかる。
「アイツ、隠密に向いてねぇな」
「あ、玲音だ。おーいこっちにおいでよ」
自由奔放な劉青は相変わらず青嵐そっくりでドキッとするけど影武者です。
この面子で外食すると目立つ、どころか…
「わぁ…何あれ、病気?」
「頭真っ白なんだけど」
「やめなよ、子供でしょう。可哀そうに」
俺の姿に多く同情が寄せられる。
こういう時、声が出なくて本当によかったと心底思う。
「快気祝いに、いいもの貰ったね」
「全く…父さんは余計なことしかしない。これ、家で飼ってんだぞ?」
「我々も依代みたいなもの、お仲間ですって」
「あの、青嵐様…で、宜しいですか?」
「そっくりだけど青嵐じゃないよ、息子の劉青です」
フォークの先にソースをつめて舐める劉青に、木の葉の影がざわめく。
風は俺の後ろから吹いていた。
「動物の内臓はどうしてこんなに美味しいんだろう。青嵐と一緒にアリゾナを旅した時、蛇が主食だった。毒の味は刺激的だったけど、忠興に飲まされたアレが人生の中で一番忘れられない…玲音に伝手はないの?」
「薬物ですか?」
「RCW(放射能汚染水)」
「ああ、研究所で飲み放題の…」
「マジで?国産は味が薄いんだ、資源が違うのかな」
何の話が始まったのかと思ったら、昔むかし…
青嵐が若かりし頃、妻・黒鬼小夜子を惨殺して、まだ幼い劉青を連れ去り逃亡。
一夜にして起きた裏切りの惨劇は世界的な指名手配に及び3年後、米国某州で起きた大規模なテロ行為の犠牲者として劉青の身柄が確保された。
それまでのテロ行為とは異なり、食中毒による大規模な死亡事故として取り上げられたが、真相は闇に葬らされた"あの事件"の首謀者は、科戸忠興。
昼間の公園にアイスクリームの販売が来れば、人々は何の疑いも無しに商品を購入する。
ドリンクカップの中身は…
次々に倒れる人々の中で、劉青はただひとり立ち尽くし、今まで経験したことのない違和感に体が震えて駆け付けた警察官にこう言った。
「みんな、逃げて」
特定の食品を口にした人々は全員死亡。
ただ独り生き残った劉青は国が指定するホスピスに収監され、およそ8か月の治療を受けて回復。数年後、媒介感染症のガイドラインが世界保健機関から報じられると同時に某国製薬会社が抗ウイルス剤と先駆けとなるワクチン開発を発表した。
死亡事故との一連を調べようとする者は不幸な事故に遭い、警察も捜索をしないという異例の自体に美丈夫の劉青は…
「甥っ子を殺し損ねた挙句、国連の闇に売り飛ばし、巨万の富を築いた忠興が玲音の親と出会うのは避けられない運命。何も殺さずともよかったのに…」
劉青は紅茶を飲みながら微笑む。
「まぁウチも度々ある。周りが死んでいくのは仕方ないって」
「だから依代鄙が破れても気にすんな」
「同意です。昌宗様には少し、酷な…話かも知れませんが」
箸を止め、遠くをみつめる俺は陽射しに溶ける女の素顔を見て、急に立ち上がる。
夢で見たあの人は…
いつも遠くから青嵐を見守っている、愛しい面影に涙が伝う。
青嵐がこんなにも愛しいのはあなたと繋がった証拠。ずっと隠していた俺の気持ちをあなたは知っていたんだね。そして青嵐もまた、あなたを愛している。
六喩会の「夢」こと黒鬼小夜子の存在に触れられるのは、血の通った者だけ。
彼女は青嵐を愛し続けて、この世を彷徨う。
あの日見た庭の模様は枯山水というあの世とこの世を渡る波。狭間で救われた俺は霊的な能力も無しに必然的に出会った。
ただ、ひとつだけ不可解なことがある。
夢から引き離された俺は、黄金に輝く美しい王子様のキスで目覚めた。
奇しくも落雷による停電が起こり、命が現世に繋がれる危険な状態から奇跡的な回復を果たした俺の死に纏わる不可解な出来事は、来る筈もない明日を呼び覚まし、未来を照らす。
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