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其の二の二
③
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それから何日かした後の暮れ六つ時。
日も沈み、世界は怪しく薄暗く魔物たちが動き始める逢魔が刻。
師走の寒いこんな時間に為松とお可奈、そして今日はおみつと三人での外出である。
薄暗い中、ウキウキとして歩いているお可奈とおみつであったが、為松はいつものようにお可奈のわがままに押された形だ。
しかも今回はお可奈だけではなく、お可奈とおみつの二人のわがままである。
為松が付いて来ないのなら二人だけでも出かけると脅されたような形で、お供をする事となったのだった。
お可奈といえば、もちろん物の怪に対する興味もあったが、もしやナナ太郎に会えるのではと心の隅で思っていた。
為松はお可奈の気持ちにも気づいていたので、ナナ太郎なる人物に対する言いようも無い不安も感じてのお供と言うこともあった。
三人は両国橋を渡って本所辺りに向った。
この頃の本所は江戸外れと言われてはいたが、それでも師走で人々は忙しそうにいつもより行きかっていた。
大通りから一本入った裏道は静かだったので、三人はひと気のない場所ひと気のない場所と屋台を探しながらうろうろ歩いていた。
「ねえ、お可奈ちゃん。いつもいつもうまい事化け物なんて出るわけ無いよ。今日はここらで引き上げようよ」
為松がまた弱気なことを言う。
「何言ってんの、為松ちゃん。今日はせっかくおみっちゃんも一緒なんだからさ、もう少し歩いてみようじゃないの」
「そうよ、為松さん。今日はお可奈ちゃんは私の家で食事を取って帰る事になってるんだから、そんなに早く帰ったらかえってヘンじゃない」
「そうそう、こっちだっておみっちゃんを家の食事に招待してるってことになってるんだからさ、お互い早く帰ったら余計にまずいでしょ」
娘二人の言葉は為松に向って弾丸ように降って来る。
いつもの倍のわがままに付き合う為松は、なだめる勢いもか細いものになっており、言われるがままにお供をするしかなかった。
しばらく歩いていると、おみつがある一点を指差して言った。
「ねえ見てよ、お可奈ちゃん!」
おみつが指差す方を見ると、ほのかに見える屋台の影。
「行ってみましょうよ」
お可奈が勢いよく駆け出し、その後をおみつ、そしてしかたなしに為松が走り出す。
こんなに調子よく、河童だ水虎だと出会うわけが無い。今度は主人のいない蕎麦屋だと?ありえない。などとぶつくさと独り言を言いながらお可奈とおみつの後をついて行く為松である。
「すごい! 見て見て! 話の通りじゃない!」
叫ぶおみつの大きな声に驚いて改めて屋台を見てみると、そこにはまさに、主人のいない屋台があった。
「本当にご主人がいないわねぇ」とお可奈が言えばおみつが「美味しそうなお蕎麦があるわよ。お腹空いてきちゃった。食べちゃおか」と好奇心いっぱいの二人だ。
それを聞いて慌てたのは為松だ。二人だけで話を進めると何を始めてしまうかわからないのである。
「とんでもない。火を消しただけで災いが起きるというのに食べるなんてもってのほか。さあ、気がすんだでしょ。急いで帰りましょう」
そこは為松なりに年上の威厳を保ちたしなめる様に言った。
「でも……やっと見つけたんだから」
おみつが蕎麦の入っているどんぶりに手をかけようとした時だった。
生暖かないやな風が三人を舐めるように吹いた。
三人が三人とも風が身体を品定めしているよう吹いているに感じたかと思うと、風は一塊になったようにおみつの周りになお一層強く吹く。すると次の瞬間いきなり嵐のような突風が吹きおみつを天高く吹き上げた。
「お、おみっちゃん!」
「おみつお嬢様!」
お可奈と為松が見ている前で、あれよという間におみつはどんどん高く舞い上がり、終いにはおみつの姿は暗い闇夜の空の中に消えてしまった。
「どうしよう為松ちゃん、おみっちゃん、おみっちゃんが!」
「どうにもこうにも、空の上では探しようにも……だから言ったんだ。食べようなんて言うから」
「今そんな事言ったって、おみっちゃんがいないのよ、どこかへ飛んで行っちゃったのよ」
気の強いお可奈が今にも泣きそうだった。
そんなお可奈を見て為松は、弱気な自分を奮い立たせ言葉を選びながら言った。
「ごめん。確かに今はどうしたらいいか考えなきゃいけないよね」
為松のいつになく冷静な言葉に、お可奈も徐々に落ちつきを取り戻していった。
気を取り直したお可奈。辺りを見回すと、先ほどまでそこにあった屋台が跡形もなく消えている。
「為松ちゃん、屋台はどこに行っちゃったの?」
「それが、あの突風と共に消えたみたいなんだ」
「突風に飛ばされたのかしら?おみつちゃんと一緒に?」
「何が起きたかよくわからないけど、たぶん…」
「妖怪の仕業じゃなくて?」
今一状況が把握しきれない二人だったがおみつがいなくなったのは事実。屋台までも消えてしまった現実を再び目の当たりにして、いつも強気なお可奈も今日ばかりは涙が目にあふれ出している。
「どうしよう。私が、妖怪話に夢中になっていたからいけないんだ。どうしよう為松ちゃん」
「とりあえず、番屋に行っておみつお嬢様が居なくなった事を言おうよ。それに花田屋の旦那さんにも説明しないと」
気が小さくて頼りないと思っていた為松が、思いもかけず落ち着いていたので、お可奈も知らずと素直に従っていた。
「そうね……だけど、おみっちゃんどこまで飛ばされちゃったんだろう」
二人は逢魔ヶ刻の薄暗い道を急ぎ歩き出した。
お可奈と為松が本所からおみつの家の花田屋がある神田界隈に戻った時には辺りはすっかり夜となっていた。
「おや、お可奈坊、どうしたんだい? 忘れ物かい? 」
店を閉めようとしている番頭さんと立ち話をしていた花田屋の旦那さんが、お可奈の姿を見つけて声をかけてきた。
「あの、おみっちゃんが……」
気の強いお可奈が声を震わせて申す様子に驚いた花田屋の旦那さんが、何事が起きたかと優しく聞き返した。
「おみつは今帰って来たばかりだが…おみつを呼べばいいのかい?」
花田屋の旦那さんがおみつを呼ぶ?
おみっちゃんが家に居るの?
驚いたのはお可奈である。
「おみっちゃんは戻っているんですか!?」
思わず大きな声を出した。
「さっき、そこの小僧さんとお可奈坊でおみつを送ってきてくれたじゃないか」
「えっ……」
そんな外の騒ぎを聞きつけたのか、店の奥からおみつが姿を現した。
「あら、お可奈さん、何か?」
何事もなかったようにさらりと言うおみつにお可奈の頭に血が上る。
「何かって、心配したのよ。どうやって戻ってきたの?どうやって…」
どれほど心配したか、何がどうなったか何から聞いたらいいかと頭を巡らせているうちにお可奈は言葉を詰まらせてしまった。
「何言ってるのよ、あなた方二人で送ってきてくれたじゃないですか」
おみつの様子は、どこか人ごとのようで感情が入っていなかった。
「だけど…」
お可奈には聞きたい事が山ほどある。
しかし、誰にも何も言わせないと言う雰囲気をおみつが漂よわせていたので、珍しくもお可奈は口をつぐんだ。
「もう、今日は疲れたからこれで、お可奈さんも早く家にお戻りなさいな」
そう言うとおみつはそそくさと家の中に戻って行った。
「お可奈坊、またおみつと遊んでやっておくれな。愛田屋さんにもよろしく言っとくれ。じゃあ、今日はもうお家にお帰りな」
花田屋の旦那さんもお可奈を気遣いながらも忙しそうに店の中に戻っていったので、お可奈と為松は花田屋の店の外に残された形となった。
二人は、愛田屋に帰るべく歩き始めるしかしようがなかった。
しばし二人は黙って歩いていた。
何が起こったのかと為松も頭の中で整理していたのだが、うんとうなずくとその沈黙を破るようにお可奈に向って明るく言った。
「良かったぁ。おみつお嬢様、家の近くまで吹き飛ばされてたんだよ」
これ以上お加奈になにやらされては困るという事で、とりあえず何事もなかったと穏便に済ませたい為松だ。
「ねえ、為松ちゃん。おみっちゃん、何かヘンじゃなかった?」
お可奈の返事は神妙だった。
為松はお可奈が何かまたとんでもない事を言い出しやしないかと、おそるおそる聞き返した。
「ヘンって?」
「おかしいじゃないの。私たち、おみっちゃんのこと送ったりしてないわよ」
「まあ、そうだけど」
「あの話し方だって、妙に他人行儀だわ」
「まあ、そう言えばそうだけど」
「あれ、おみっちゃんじゃないわ」
「何を言うんだよ」
そうは言ったが確かにあの様子はおかしいと為松も思っていた。
「そう思えばそうも思えるけど」
為松はお可奈に聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で言った。
「本物のおみっちゃんを探さなきゃ」
そらきた!
と為松。
「どうやって探すというんだよ」
「ん~…あの偽者のおみっちゃんがきっと知ってると思う。あの偽者の化けの皮をはがして白状させる。それしかないと思うの」
「まさか今から花田屋さんに戻るの? それはちょっとまずいよ……これ以上遅くなると旦那さんや大番頭さん達に叱られちゃう」
先ほどの冷静な為松はどこへやら、同じく先ほどまで泣きそうなお可奈もまたどこへやらである。
「まったく、為松ちゃんたらしょうがないわね。明日からよ。明日から。今日はあの様子じゃあ取り付く島もないでしょ。毎日おみっちゃんちに行って、様子を見て化けの皮をはがす! あと、為松ちゃんはナナ太郎さん探しも忘れないでね」
「えっ、それって何の関係が」
「きっと、何か関係あんのよ」
勢いよく話す様子は強気のお可奈に戻っていた。
行動力抜群のお可奈のおみつの化けの皮はがしとナナ太郎探し宣言で、また心配事が増えてしまい、いつもの事ながら胸中複雑な思いの為松であった。
日も沈み、世界は怪しく薄暗く魔物たちが動き始める逢魔が刻。
師走の寒いこんな時間に為松とお可奈、そして今日はおみつと三人での外出である。
薄暗い中、ウキウキとして歩いているお可奈とおみつであったが、為松はいつものようにお可奈のわがままに押された形だ。
しかも今回はお可奈だけではなく、お可奈とおみつの二人のわがままである。
為松が付いて来ないのなら二人だけでも出かけると脅されたような形で、お供をする事となったのだった。
お可奈といえば、もちろん物の怪に対する興味もあったが、もしやナナ太郎に会えるのではと心の隅で思っていた。
為松はお可奈の気持ちにも気づいていたので、ナナ太郎なる人物に対する言いようも無い不安も感じてのお供と言うこともあった。
三人は両国橋を渡って本所辺りに向った。
この頃の本所は江戸外れと言われてはいたが、それでも師走で人々は忙しそうにいつもより行きかっていた。
大通りから一本入った裏道は静かだったので、三人はひと気のない場所ひと気のない場所と屋台を探しながらうろうろ歩いていた。
「ねえ、お可奈ちゃん。いつもいつもうまい事化け物なんて出るわけ無いよ。今日はここらで引き上げようよ」
為松がまた弱気なことを言う。
「何言ってんの、為松ちゃん。今日はせっかくおみっちゃんも一緒なんだからさ、もう少し歩いてみようじゃないの」
「そうよ、為松さん。今日はお可奈ちゃんは私の家で食事を取って帰る事になってるんだから、そんなに早く帰ったらかえってヘンじゃない」
「そうそう、こっちだっておみっちゃんを家の食事に招待してるってことになってるんだからさ、お互い早く帰ったら余計にまずいでしょ」
娘二人の言葉は為松に向って弾丸ように降って来る。
いつもの倍のわがままに付き合う為松は、なだめる勢いもか細いものになっており、言われるがままにお供をするしかなかった。
しばらく歩いていると、おみつがある一点を指差して言った。
「ねえ見てよ、お可奈ちゃん!」
おみつが指差す方を見ると、ほのかに見える屋台の影。
「行ってみましょうよ」
お可奈が勢いよく駆け出し、その後をおみつ、そしてしかたなしに為松が走り出す。
こんなに調子よく、河童だ水虎だと出会うわけが無い。今度は主人のいない蕎麦屋だと?ありえない。などとぶつくさと独り言を言いながらお可奈とおみつの後をついて行く為松である。
「すごい! 見て見て! 話の通りじゃない!」
叫ぶおみつの大きな声に驚いて改めて屋台を見てみると、そこにはまさに、主人のいない屋台があった。
「本当にご主人がいないわねぇ」とお可奈が言えばおみつが「美味しそうなお蕎麦があるわよ。お腹空いてきちゃった。食べちゃおか」と好奇心いっぱいの二人だ。
それを聞いて慌てたのは為松だ。二人だけで話を進めると何を始めてしまうかわからないのである。
「とんでもない。火を消しただけで災いが起きるというのに食べるなんてもってのほか。さあ、気がすんだでしょ。急いで帰りましょう」
そこは為松なりに年上の威厳を保ちたしなめる様に言った。
「でも……やっと見つけたんだから」
おみつが蕎麦の入っているどんぶりに手をかけようとした時だった。
生暖かないやな風が三人を舐めるように吹いた。
三人が三人とも風が身体を品定めしているよう吹いているに感じたかと思うと、風は一塊になったようにおみつの周りになお一層強く吹く。すると次の瞬間いきなり嵐のような突風が吹きおみつを天高く吹き上げた。
「お、おみっちゃん!」
「おみつお嬢様!」
お可奈と為松が見ている前で、あれよという間におみつはどんどん高く舞い上がり、終いにはおみつの姿は暗い闇夜の空の中に消えてしまった。
「どうしよう為松ちゃん、おみっちゃん、おみっちゃんが!」
「どうにもこうにも、空の上では探しようにも……だから言ったんだ。食べようなんて言うから」
「今そんな事言ったって、おみっちゃんがいないのよ、どこかへ飛んで行っちゃったのよ」
気の強いお可奈が今にも泣きそうだった。
そんなお可奈を見て為松は、弱気な自分を奮い立たせ言葉を選びながら言った。
「ごめん。確かに今はどうしたらいいか考えなきゃいけないよね」
為松のいつになく冷静な言葉に、お可奈も徐々に落ちつきを取り戻していった。
気を取り直したお可奈。辺りを見回すと、先ほどまでそこにあった屋台が跡形もなく消えている。
「為松ちゃん、屋台はどこに行っちゃったの?」
「それが、あの突風と共に消えたみたいなんだ」
「突風に飛ばされたのかしら?おみつちゃんと一緒に?」
「何が起きたかよくわからないけど、たぶん…」
「妖怪の仕業じゃなくて?」
今一状況が把握しきれない二人だったがおみつがいなくなったのは事実。屋台までも消えてしまった現実を再び目の当たりにして、いつも強気なお可奈も今日ばかりは涙が目にあふれ出している。
「どうしよう。私が、妖怪話に夢中になっていたからいけないんだ。どうしよう為松ちゃん」
「とりあえず、番屋に行っておみつお嬢様が居なくなった事を言おうよ。それに花田屋の旦那さんにも説明しないと」
気が小さくて頼りないと思っていた為松が、思いもかけず落ち着いていたので、お可奈も知らずと素直に従っていた。
「そうね……だけど、おみっちゃんどこまで飛ばされちゃったんだろう」
二人は逢魔ヶ刻の薄暗い道を急ぎ歩き出した。
お可奈と為松が本所からおみつの家の花田屋がある神田界隈に戻った時には辺りはすっかり夜となっていた。
「おや、お可奈坊、どうしたんだい? 忘れ物かい? 」
店を閉めようとしている番頭さんと立ち話をしていた花田屋の旦那さんが、お可奈の姿を見つけて声をかけてきた。
「あの、おみっちゃんが……」
気の強いお可奈が声を震わせて申す様子に驚いた花田屋の旦那さんが、何事が起きたかと優しく聞き返した。
「おみつは今帰って来たばかりだが…おみつを呼べばいいのかい?」
花田屋の旦那さんがおみつを呼ぶ?
おみっちゃんが家に居るの?
驚いたのはお可奈である。
「おみっちゃんは戻っているんですか!?」
思わず大きな声を出した。
「さっき、そこの小僧さんとお可奈坊でおみつを送ってきてくれたじゃないか」
「えっ……」
そんな外の騒ぎを聞きつけたのか、店の奥からおみつが姿を現した。
「あら、お可奈さん、何か?」
何事もなかったようにさらりと言うおみつにお可奈の頭に血が上る。
「何かって、心配したのよ。どうやって戻ってきたの?どうやって…」
どれほど心配したか、何がどうなったか何から聞いたらいいかと頭を巡らせているうちにお可奈は言葉を詰まらせてしまった。
「何言ってるのよ、あなた方二人で送ってきてくれたじゃないですか」
おみつの様子は、どこか人ごとのようで感情が入っていなかった。
「だけど…」
お可奈には聞きたい事が山ほどある。
しかし、誰にも何も言わせないと言う雰囲気をおみつが漂よわせていたので、珍しくもお可奈は口をつぐんだ。
「もう、今日は疲れたからこれで、お可奈さんも早く家にお戻りなさいな」
そう言うとおみつはそそくさと家の中に戻って行った。
「お可奈坊、またおみつと遊んでやっておくれな。愛田屋さんにもよろしく言っとくれ。じゃあ、今日はもうお家にお帰りな」
花田屋の旦那さんもお可奈を気遣いながらも忙しそうに店の中に戻っていったので、お可奈と為松は花田屋の店の外に残された形となった。
二人は、愛田屋に帰るべく歩き始めるしかしようがなかった。
しばし二人は黙って歩いていた。
何が起こったのかと為松も頭の中で整理していたのだが、うんとうなずくとその沈黙を破るようにお可奈に向って明るく言った。
「良かったぁ。おみつお嬢様、家の近くまで吹き飛ばされてたんだよ」
これ以上お加奈になにやらされては困るという事で、とりあえず何事もなかったと穏便に済ませたい為松だ。
「ねえ、為松ちゃん。おみっちゃん、何かヘンじゃなかった?」
お可奈の返事は神妙だった。
為松はお可奈が何かまたとんでもない事を言い出しやしないかと、おそるおそる聞き返した。
「ヘンって?」
「おかしいじゃないの。私たち、おみっちゃんのこと送ったりしてないわよ」
「まあ、そうだけど」
「あの話し方だって、妙に他人行儀だわ」
「まあ、そう言えばそうだけど」
「あれ、おみっちゃんじゃないわ」
「何を言うんだよ」
そうは言ったが確かにあの様子はおかしいと為松も思っていた。
「そう思えばそうも思えるけど」
為松はお可奈に聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で言った。
「本物のおみっちゃんを探さなきゃ」
そらきた!
と為松。
「どうやって探すというんだよ」
「ん~…あの偽者のおみっちゃんがきっと知ってると思う。あの偽者の化けの皮をはがして白状させる。それしかないと思うの」
「まさか今から花田屋さんに戻るの? それはちょっとまずいよ……これ以上遅くなると旦那さんや大番頭さん達に叱られちゃう」
先ほどの冷静な為松はどこへやら、同じく先ほどまで泣きそうなお可奈もまたどこへやらである。
「まったく、為松ちゃんたらしょうがないわね。明日からよ。明日から。今日はあの様子じゃあ取り付く島もないでしょ。毎日おみっちゃんちに行って、様子を見て化けの皮をはがす! あと、為松ちゃんはナナ太郎さん探しも忘れないでね」
「えっ、それって何の関係が」
「きっと、何か関係あんのよ」
勢いよく話す様子は強気のお可奈に戻っていた。
行動力抜群のお可奈のおみつの化けの皮はがしとナナ太郎探し宣言で、また心配事が増えてしまい、いつもの事ながら胸中複雑な思いの為松であった。
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