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其の二の四
②
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「兄ちゃん、おいらも占って欲しい……」
「君は袖引き小僧ですね」
袖引き小僧が現れたのを見て、商売の邪魔をしてはいけないと思った平次郎である。
「じゃ、ナナ太郎さん、今日はあっしはこれでけえるんで」
平次郎は片手を挙げ帰るそぶりをみせた。
それを見たナナ太郎は慌て、すかさず平次郎に言った。
「平次郎さん、後で必ず伺うから詳しく話してください。きっとですよ」
「なあに、あっしのほうからそちらに伺いますよ。それに、これからはナナ太郎さんの隣にいるんですから、慌てなくったっていつだって話せるってもんだ。」
ナナ太郎は自分の父親の存在など考えてみた事もなかった。
それが、天から降ったような平次郎の話に、驚いたのと同時に「温かい」と思われるものが心の中に沸き立って、いても立ってもいられなかった。
この「温かい」と言うものが何なのか、今のナナ太郎にはよく分からなかった。
暗がり坂を後ろにして帰っていく平次朗の姿に、追いかけてすぐにでも話を聞きたい思いに駆られていた。
「ねえ、おいらのおとっちゃんやおっかちゃんはどこにいると思う?」
袖引き小僧は気もそぞろなナナ太郎に話しかけた。
ナナ太郎は袖引き小僧のすがるような目を見て、なにやら今の自分と重なるように感じナナ太郎は優しく袖引き小僧に答えた。
「分かりました。ちゃんと占ってあげましょう」
今日の本当の初めてのお客である。
「おいら、いつも誰かに聞きたくて話しかけるんだけど、みんな驚いたり逃げたりするんだ」
「話しかけるのですか? そうではなく今みたいに最初に袖を引っ張るのではないですか?」
「う…うん」
「それに、袖を引っ張るだけで姿を見せないのでしょう」
「う……ん」
「それじゃあ誰だって驚きます。本当におとっちゃんとおっかちゃんのことを聞く為だけで袖を引くのですか? 驚くのが面白いと思っていませんか? 」
「まあ、そう言うのもあるかな」
図星を刺された袖引き小僧である。袖引き小僧はちょっと開き直った。
「それじゃあいつまで経っても、独りぼっちでしょう」
「えっ」
今度はちょいとばかり悲しげな顔をした袖引き小僧だ。
「それはいつまで経ってもおとっちゃんとおっかちゃんは見つかんないって言うのが占いの答えかい?」
「いいえそれは占いなどではなく……それではちゃんと見てみましょう」
袖引き小僧の顔を覗きこんだ時だった。
ズザザザザザ……
いきなり2人の頭の上から大きな首が落ちてくる。
ナナ太郎はその首をヒョイと避けた。
落ちてきたのは釣瓶下ろしの首。
釣瓶下しは太いだみ声で言った。
「ほう、こやつか。かまいたち共が騒いでおったやつは」
ナナ太郎は落ちてきた首に「あなたは釣瓶下ろしの…」と言いかけるとその首は「原左衛門と申す」と丁寧に名前を名乗った。
そして宙に浮いている首はナナ太郎の顔をグッと見据える。
「なるほど、聞いた通りに肝の中に潜んでいるものがある」
「釣瓶のおじちゃんは、良い奴なのか? それとも悪い奴なのか? いつもは人間達を脅したり食ったりしてんじゃなかったっけ? て言うか、兄ちゃんの敵か見方か?」
占いの途中に割って入った事に、いささか不満げな袖引き小僧が口を尖らせていると、原左衛門と名乗るその首が袖引き小僧の方を向いた。
「敵でもなければ見方でもないわ。確かにその肝の中にある勾玉にはたいした力があり、この世を牛耳ろうとする者にとっては魅力的な珠である事であろうが、わしは、そんなこと考えた事もないし、ただ、興味があって見物に来ただけの話じゃ。かまいたちが、いや、かまいたちだけではないが、とにかく奴らが騒ぎ立てている珠を一度見ておきたかったのだ」
「えっ? そんなすごい珠をこの兄ちゃんは持ってんの? てことは兄ちゃんはこの世を牛耳るのか?」
「原左衛門さん、誰がなんと言ったか知りませんが、この私の肝の中にある勾玉は私の一部にございます。見世物でもなければましては世界を牛耳る為のものなんてものでもありません」
「あんたにとってそれがなんでもないものであっても、世界を牛耳りたいなんて暇つぶしにでもたいそうな事を思う奴らにとっては、えらく魅力的なものだって事だよ。自覚して用心した方がいいね。わしだって、その珠が欲しい訳ではないが、わざわざ奥の一本松の住処から、話の種にとこうしてここまでやって来たんだ」
ナナ太郎の前には大きな釣瓶下しの顔があった。
その近くには青白い顔をした小さな子供がいる。
ナナ太郎が占いを出している暗がり坂の入り口は、民家などはなくうっそうとした樹木が立ち並んでいて、昼間であっても薄暗く、月夜であってもほんのわずかな光しか届かないようなところである。
夜ともなれば人の姿などはある訳もなく、シンと耳にまで聞こえてくるような静けさだ。
そんな場所で三名が話をしている様子は何とも不思議な光景だった。
突然、静けさを破る叫び声がこだました。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
袖引き小僧が叫び声のした方を指差して言った。
「人間が倒れてるよ、兄ちゃん」
ナナ太郎が目を凝らして見ると、そこには知った顔の男が一人倒れている。
「あれは…この間の弁慶濠での時の御仁ではないですか。今日はあの威勢の良いお嬢さん無しで一人でここへ?…来たのでしょうか? 」
「釣瓶のおじちゃん。今日はあの人を食べないであげてくれる? 兄ちゃんの知り合いみたいだからさ」
「君は袖引き小僧ですね」
袖引き小僧が現れたのを見て、商売の邪魔をしてはいけないと思った平次郎である。
「じゃ、ナナ太郎さん、今日はあっしはこれでけえるんで」
平次郎は片手を挙げ帰るそぶりをみせた。
それを見たナナ太郎は慌て、すかさず平次郎に言った。
「平次郎さん、後で必ず伺うから詳しく話してください。きっとですよ」
「なあに、あっしのほうからそちらに伺いますよ。それに、これからはナナ太郎さんの隣にいるんですから、慌てなくったっていつだって話せるってもんだ。」
ナナ太郎は自分の父親の存在など考えてみた事もなかった。
それが、天から降ったような平次郎の話に、驚いたのと同時に「温かい」と思われるものが心の中に沸き立って、いても立ってもいられなかった。
この「温かい」と言うものが何なのか、今のナナ太郎にはよく分からなかった。
暗がり坂を後ろにして帰っていく平次朗の姿に、追いかけてすぐにでも話を聞きたい思いに駆られていた。
「ねえ、おいらのおとっちゃんやおっかちゃんはどこにいると思う?」
袖引き小僧は気もそぞろなナナ太郎に話しかけた。
ナナ太郎は袖引き小僧のすがるような目を見て、なにやら今の自分と重なるように感じナナ太郎は優しく袖引き小僧に答えた。
「分かりました。ちゃんと占ってあげましょう」
今日の本当の初めてのお客である。
「おいら、いつも誰かに聞きたくて話しかけるんだけど、みんな驚いたり逃げたりするんだ」
「話しかけるのですか? そうではなく今みたいに最初に袖を引っ張るのではないですか?」
「う…うん」
「それに、袖を引っ張るだけで姿を見せないのでしょう」
「う……ん」
「それじゃあ誰だって驚きます。本当におとっちゃんとおっかちゃんのことを聞く為だけで袖を引くのですか? 驚くのが面白いと思っていませんか? 」
「まあ、そう言うのもあるかな」
図星を刺された袖引き小僧である。袖引き小僧はちょっと開き直った。
「それじゃあいつまで経っても、独りぼっちでしょう」
「えっ」
今度はちょいとばかり悲しげな顔をした袖引き小僧だ。
「それはいつまで経ってもおとっちゃんとおっかちゃんは見つかんないって言うのが占いの答えかい?」
「いいえそれは占いなどではなく……それではちゃんと見てみましょう」
袖引き小僧の顔を覗きこんだ時だった。
ズザザザザザ……
いきなり2人の頭の上から大きな首が落ちてくる。
ナナ太郎はその首をヒョイと避けた。
落ちてきたのは釣瓶下ろしの首。
釣瓶下しは太いだみ声で言った。
「ほう、こやつか。かまいたち共が騒いでおったやつは」
ナナ太郎は落ちてきた首に「あなたは釣瓶下ろしの…」と言いかけるとその首は「原左衛門と申す」と丁寧に名前を名乗った。
そして宙に浮いている首はナナ太郎の顔をグッと見据える。
「なるほど、聞いた通りに肝の中に潜んでいるものがある」
「釣瓶のおじちゃんは、良い奴なのか? それとも悪い奴なのか? いつもは人間達を脅したり食ったりしてんじゃなかったっけ? て言うか、兄ちゃんの敵か見方か?」
占いの途中に割って入った事に、いささか不満げな袖引き小僧が口を尖らせていると、原左衛門と名乗るその首が袖引き小僧の方を向いた。
「敵でもなければ見方でもないわ。確かにその肝の中にある勾玉にはたいした力があり、この世を牛耳ろうとする者にとっては魅力的な珠である事であろうが、わしは、そんなこと考えた事もないし、ただ、興味があって見物に来ただけの話じゃ。かまいたちが、いや、かまいたちだけではないが、とにかく奴らが騒ぎ立てている珠を一度見ておきたかったのだ」
「えっ? そんなすごい珠をこの兄ちゃんは持ってんの? てことは兄ちゃんはこの世を牛耳るのか?」
「原左衛門さん、誰がなんと言ったか知りませんが、この私の肝の中にある勾玉は私の一部にございます。見世物でもなければましては世界を牛耳る為のものなんてものでもありません」
「あんたにとってそれがなんでもないものであっても、世界を牛耳りたいなんて暇つぶしにでもたいそうな事を思う奴らにとっては、えらく魅力的なものだって事だよ。自覚して用心した方がいいね。わしだって、その珠が欲しい訳ではないが、わざわざ奥の一本松の住処から、話の種にとこうしてここまでやって来たんだ」
ナナ太郎の前には大きな釣瓶下しの顔があった。
その近くには青白い顔をした小さな子供がいる。
ナナ太郎が占いを出している暗がり坂の入り口は、民家などはなくうっそうとした樹木が立ち並んでいて、昼間であっても薄暗く、月夜であってもほんのわずかな光しか届かないようなところである。
夜ともなれば人の姿などはある訳もなく、シンと耳にまで聞こえてくるような静けさだ。
そんな場所で三名が話をしている様子は何とも不思議な光景だった。
突然、静けさを破る叫び声がこだました。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
袖引き小僧が叫び声のした方を指差して言った。
「人間が倒れてるよ、兄ちゃん」
ナナ太郎が目を凝らして見ると、そこには知った顔の男が一人倒れている。
「あれは…この間の弁慶濠での時の御仁ではないですか。今日はあの威勢の良いお嬢さん無しで一人でここへ?…来たのでしょうか? 」
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