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其の三の一
①
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人が歩くと道ができるものだ。
しかし、ここは道と言ってよいものか、道があるとも言えない道である。
そして暗がり。
暗がりであればうっすらと足元周りやあたりを感じる事が出来るものだが、ここは闇だ。
しかし、ただ闇と言っていいものやら分からない場所だった。
そんな中をナナ太郎は歩いていた。
しばらくしてふと足を止め、ちょっと首をかしげ考え込んだかと思うとおもむろに手を左から上へそして右、そしてまた下に、最後に元の場所の左に向って動かす。すると手の軌跡の通りの四角い窓のような光がぼうっと浮かんできた。
ナナ太郎はその光を覗き、じっと見つめていた。
ナナ太郎の見つめているその先には舞台に立つ風雷桐三郎の姿があった。
「ああ、かまいたちですか」
桐三郎の姿を見たナナ太郎はそう呟いた。
大喝采の中、ナナ太郎に観られているとは露とも知らず、得意気に舞台の右へ左へと動き芝居をしている桐三郎だ。
さらに、ドンガラと地響きをさせて、芝居を観ている人々が悲鳴を上げるほど本物の雷鳴を思わせるような迫力で一匹の獣が登場する。
6本の足と2本の尾を持つその獣に、よく作られている、張りぼてには見えない、と観客は拍手喝采だった。
「あれは雷獣ですか。周りにいるのも狸や狢…舞台の上は妖怪ばかりで固めていますね」
ナナ太郎は、誰に言うでなく独り言を言いながらしばらく眺めていた。
何かを思い立ったのか、窓の光をふさぐように両掌を前に押しやる。すると、またあたりは真っ暗になった。
ナナ太郎は再び暗がりの中を少し探すように歩いたかと思うと、ぴたりと足を止め首をかしげうんとうなずいた。
先程と同じように手を左から上へ、そして右、下に向かいそして左と動かすと四角い光が窓のように浮かんでくる。
ナナ太郎がまたその光を覗くと、そこには縛られてグッタリしているお可奈とおみつがいた。
━━あの日、偽おみつに誘われて芝居見物にやって来たお可奈。
かねてから噂の、お客が舞台上に上がると言う芝居の中で、お可奈は風雷桐三郎に指名され舞台上に上がったのだった。
促がされるまま舞台上へ上がったお可奈だが、すぐさま舞台袖に連れてこられ入れ替わりに偽お可奈が舞台に現れた。
本物のお可奈の方はと言えば、舞台へは戻らず一座の手の者に抵抗するも無理やり奥へ奥へと引っ張られ連れ去られたのだった。
そして何食わぬ顔で客席に戻ったのはお可奈の偽者。
狸が化けたお可奈である。
お可奈のお供のお糸は偽お可奈とは気づかず、まんまと狸に化かされたという次第だ。
お可奈は引っ張られるままにどこをどうして歩いたかもわからなかった。
行き着いたのは狸の穴蔵のような暗い部屋だった。
「何するのよ!」
「何って、ここで獲物が来るのを待つんだよ」
「獲物?」
気の強いお可奈はこのような状況でもひるむことはなかった。
「そうさ獲物だよ。お前が餌なんだ。あいつの隙を突かないとね。いきなり近づいたら怪我をする。桐三郎様がそう言っておったわ」
「あいつって……」
お可奈はナナ太郎のことを思い出したが、口には出さなかった。
ナナ太郎の名前を言いださなかったのはナナ太郎を知っていることでナナ太郎に迷惑がかかるのではないかと考えたからだった。
「桐三郎様がな、とにかく面白おかしいことが起きるって言うんだよ。おれらはいつだって何かないかと鵜の目鷹の目で過ごしているんだ。そうと聞きゃあわくわくして待ちどうしくて仕方ないのさね」
暗い洞穴のような部屋にもだんだん目がなれて、部屋の中の様子が分かるようになると、部屋の隅に人影があるのが見えた。
石の塊のような人影は、お可奈に気づいて大きく動き、その唇を動かしたのがお可奈にも見えた。
「お可奈ちゃん…」
声はか細いものだったが、確かにお可奈が聞いた事のある声だ。
「おみっちゃん?」
隅の方に小さく見える人影は本物のおみつだった。
お可奈は、おみつのところへ駆け寄ろうとしたが、ぎゅっと腕を掴まれたかと思うと、あっという間にグルグルと縄で縛られてしまった。
「あんた! なんかヘンな術を使ったわね。こんなにきつくちゃ息も出来ないわ!」
「術か。人間共にしたらそんな風に思うんだろうな。ふん、そんだけしゃべれりゃ息はできるだろ。おとなしくしてれば苦しくはないよ」
そう言うと桐三郎の手下は、おみつのいる場所にお可奈を突き飛ばした。
「大丈夫? お可奈ちゃん!」
先程とは違いしっかりとした口調でおみつは叫び、動けない身体をお可奈の側までにじり寄らせた。
おみつはお可奈の事を心配そうに見つめていた。
「おみっちゃんこそ」
二人の動けない様子を確かめた一座の手下達は、部屋から出て扉にガチャリと鍵を掛けた。
二人は聞き耳を立てて扉の外の様子を窺っていたが、足音がだんだん小さくなっていったので、ひとまず胸をなでおろし顔を見合わせた。
辺りが静かになると、おみつは改めたようにお可奈の顔を見て声を出して泣き始めたのだった。
「おみっちゃんを助けに来たんだけどね」
お可奈はおみつにやさしく言った。
「うん」
お可奈にしても同じように泣きたい気持ちに変わりはなかった。
おみつに先に泣かれてしまったのでここは自分がしっかりしなければとグッとこらえる。
お可奈だって同じ状況に置かれているのだ。
いくら気が強い二人とは言え、おみつはまだ十四、そしてお可奈は十五歳。
その心細さは計り知れないものなのであった。
両手足を縛られ暗い部屋の中に閉じ込められての再会に、お互い喜び合うも、ひとしきり泣き、少し心が落ち着いて二人でいられることに安堵したおみつだ。
お可奈が来るまでは出される食べ物を一つも口にしなかったおみつの疲労困憊は激しかった。
「お可奈ちゃん。私たちいったいどうなるのかしら……誰か助けに来てくれるかしら」
か細い声でおみつが言った。
しばらくはそんなおみつを見て、もうすぐ助けが来るからと励ます以外にお可奈が掛ける言葉はなかったのだった。
しかし、ここは道と言ってよいものか、道があるとも言えない道である。
そして暗がり。
暗がりであればうっすらと足元周りやあたりを感じる事が出来るものだが、ここは闇だ。
しかし、ただ闇と言っていいものやら分からない場所だった。
そんな中をナナ太郎は歩いていた。
しばらくしてふと足を止め、ちょっと首をかしげ考え込んだかと思うとおもむろに手を左から上へそして右、そしてまた下に、最後に元の場所の左に向って動かす。すると手の軌跡の通りの四角い窓のような光がぼうっと浮かんできた。
ナナ太郎はその光を覗き、じっと見つめていた。
ナナ太郎の見つめているその先には舞台に立つ風雷桐三郎の姿があった。
「ああ、かまいたちですか」
桐三郎の姿を見たナナ太郎はそう呟いた。
大喝采の中、ナナ太郎に観られているとは露とも知らず、得意気に舞台の右へ左へと動き芝居をしている桐三郎だ。
さらに、ドンガラと地響きをさせて、芝居を観ている人々が悲鳴を上げるほど本物の雷鳴を思わせるような迫力で一匹の獣が登場する。
6本の足と2本の尾を持つその獣に、よく作られている、張りぼてには見えない、と観客は拍手喝采だった。
「あれは雷獣ですか。周りにいるのも狸や狢…舞台の上は妖怪ばかりで固めていますね」
ナナ太郎は、誰に言うでなく独り言を言いながらしばらく眺めていた。
何かを思い立ったのか、窓の光をふさぐように両掌を前に押しやる。すると、またあたりは真っ暗になった。
ナナ太郎は再び暗がりの中を少し探すように歩いたかと思うと、ぴたりと足を止め首をかしげうんとうなずいた。
先程と同じように手を左から上へ、そして右、下に向かいそして左と動かすと四角い光が窓のように浮かんでくる。
ナナ太郎がまたその光を覗くと、そこには縛られてグッタリしているお可奈とおみつがいた。
━━あの日、偽おみつに誘われて芝居見物にやって来たお可奈。
かねてから噂の、お客が舞台上に上がると言う芝居の中で、お可奈は風雷桐三郎に指名され舞台上に上がったのだった。
促がされるまま舞台上へ上がったお可奈だが、すぐさま舞台袖に連れてこられ入れ替わりに偽お可奈が舞台に現れた。
本物のお可奈の方はと言えば、舞台へは戻らず一座の手の者に抵抗するも無理やり奥へ奥へと引っ張られ連れ去られたのだった。
そして何食わぬ顔で客席に戻ったのはお可奈の偽者。
狸が化けたお可奈である。
お可奈のお供のお糸は偽お可奈とは気づかず、まんまと狸に化かされたという次第だ。
お可奈は引っ張られるままにどこをどうして歩いたかもわからなかった。
行き着いたのは狸の穴蔵のような暗い部屋だった。
「何するのよ!」
「何って、ここで獲物が来るのを待つんだよ」
「獲物?」
気の強いお可奈はこのような状況でもひるむことはなかった。
「そうさ獲物だよ。お前が餌なんだ。あいつの隙を突かないとね。いきなり近づいたら怪我をする。桐三郎様がそう言っておったわ」
「あいつって……」
お可奈はナナ太郎のことを思い出したが、口には出さなかった。
ナナ太郎の名前を言いださなかったのはナナ太郎を知っていることでナナ太郎に迷惑がかかるのではないかと考えたからだった。
「桐三郎様がな、とにかく面白おかしいことが起きるって言うんだよ。おれらはいつだって何かないかと鵜の目鷹の目で過ごしているんだ。そうと聞きゃあわくわくして待ちどうしくて仕方ないのさね」
暗い洞穴のような部屋にもだんだん目がなれて、部屋の中の様子が分かるようになると、部屋の隅に人影があるのが見えた。
石の塊のような人影は、お可奈に気づいて大きく動き、その唇を動かしたのがお可奈にも見えた。
「お可奈ちゃん…」
声はか細いものだったが、確かにお可奈が聞いた事のある声だ。
「おみっちゃん?」
隅の方に小さく見える人影は本物のおみつだった。
お可奈は、おみつのところへ駆け寄ろうとしたが、ぎゅっと腕を掴まれたかと思うと、あっという間にグルグルと縄で縛られてしまった。
「あんた! なんかヘンな術を使ったわね。こんなにきつくちゃ息も出来ないわ!」
「術か。人間共にしたらそんな風に思うんだろうな。ふん、そんだけしゃべれりゃ息はできるだろ。おとなしくしてれば苦しくはないよ」
そう言うと桐三郎の手下は、おみつのいる場所にお可奈を突き飛ばした。
「大丈夫? お可奈ちゃん!」
先程とは違いしっかりとした口調でおみつは叫び、動けない身体をお可奈の側までにじり寄らせた。
おみつはお可奈の事を心配そうに見つめていた。
「おみっちゃんこそ」
二人の動けない様子を確かめた一座の手下達は、部屋から出て扉にガチャリと鍵を掛けた。
二人は聞き耳を立てて扉の外の様子を窺っていたが、足音がだんだん小さくなっていったので、ひとまず胸をなでおろし顔を見合わせた。
辺りが静かになると、おみつは改めたようにお可奈の顔を見て声を出して泣き始めたのだった。
「おみっちゃんを助けに来たんだけどね」
お可奈はおみつにやさしく言った。
「うん」
お可奈にしても同じように泣きたい気持ちに変わりはなかった。
おみつに先に泣かれてしまったのでここは自分がしっかりしなければとグッとこらえる。
お可奈だって同じ状況に置かれているのだ。
いくら気が強い二人とは言え、おみつはまだ十四、そしてお可奈は十五歳。
その心細さは計り知れないものなのであった。
両手足を縛られ暗い部屋の中に閉じ込められての再会に、お互い喜び合うも、ひとしきり泣き、少し心が落ち着いて二人でいられることに安堵したおみつだ。
お可奈が来るまでは出される食べ物を一つも口にしなかったおみつの疲労困憊は激しかった。
「お可奈ちゃん。私たちいったいどうなるのかしら……誰か助けに来てくれるかしら」
か細い声でおみつが言った。
しばらくはそんなおみつを見て、もうすぐ助けが来るからと励ます以外にお可奈が掛ける言葉はなかったのだった。
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