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其の三の五
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お可奈はあの暗い部屋に捕まっていた時に、何度も何度も為松の名前を心の中で唱えていた自分を思い出した。
その気持ちはお可奈の心の支えとなっていた。
為松はお可奈の微妙な心の変化に気づかずにこれまでのいきさつの話続けた。
「それで、これはあの河童を退治したナナ太郎さんじゃなきゃ無理だ。なんとかナナ太郎さんを探し出さなきゃって思ってさ。運よく、大工の梅吉さんからナナ太郎さんの話を聞いてナナ太郎さんのところへ訪ねていく事が出来たって訳なんだ。その後はナナ太郎さんがお可奈ちゃんを探しに行くっていうから、私もついて行きたかったんだけどさ、ここで待っててッていうからさ。ずいぶん待ったんだよ」
「そうか、やっぱりナナ太郎さんだよね」
そう言ってナナ太郎の方を振り返ると、そこにナナ太郎はいなかった。
お加奈と為松が、二人、長い間会わなかった時間、何をしていたか埋めるように話している間に姿を消してしまったのだった。
夕暮れになり薄暗くなった部屋にはお可奈と為松、ただ二人だけだった。
「ナナ太郎さんが消えた!」
慌てふためいて為松が言った。
「……きっと帰ったのよ」
ナナ太郎が消えた事をいつもだったら大騒ぎしそうなお加奈だが、お加奈は落ち着いていた。
お可奈はナナ太郎が消えたことよりも別の事が頭をめぐり嬉しかったのである。
私の記憶は消さなかったんだ。
今、ナナ太郎の姿が無いと言うことは、記憶を消されなかったという事。
もし記憶を消されるのならもうとっくに消されているはずだと思った。
心の中でお可奈は記憶をそのままにしておいてくれたナナ太郎に感謝した。
そんなお可奈よりもナナ太郎がいないことに驚いていたのは為松の方だった。
「帰ったって、この部屋から出て行ってないじゃないか」
「あの弁慶濠の時と同じ。闇の中を歩いて帰ったんだと思う」
「あの弁慶濠……」
為松は、あの夜の不思議を思い出した。
ナナ太郎はいったい何者なんだろうと思っていたものの、その答えに蓋をしている自分がいる。怖がりの為松はナナ太郎の素性についてはあまり深く考えないようにしていた。
「あの人は、もしかしたら人ではないのかもしれない…」
お可奈がポツリと言った。
為松はちょっと不満そうに「じゃあ、何だというの?」と言い返す。為松は、あのナナ太郎が人じゃないなんてあってはならないと思っていた。
お可奈はその言葉に返事をしなかった。
ずっと黙っているお可奈の目を覗き込んで為松は答えを待っていた。
「あの人は……」
やっぱり人なのだと言おうとしてお可奈はまた黙った。今日、自分が目にしたことは人がやれる事なのだろうかと思い、そこでまた考え込んだのだった。
まったくお可奈らしくない様子である。
「お可奈ちゃんを救ってくれた人だよ。それ以外になにもない」
何時になく為松がきっぱりとした口調だったので、お可奈もそれ以上は言わなかった。
「為松ちゃん、ナナ太郎さんにお礼をしに行かなくちゃね。居場所は分かってるんでしょう?」
「うん。梅吉さんの住む長屋。梅吉さんの隣だよ。なんだかあったかい感じのする長屋だったよ」
「じゃあ、明日にでも二人で行きましょうよ。それから、今日の事はないしょにね」
「分かってる。こんな事、誰かに言ったって誰も信じてくれやしないよ」
お可奈と為松は顔を見合っていた。
口には出さなかったが安堵している自分をお互いが感じていたのだった。
二人の間に暖かな時間が流れていた。
その気持ちはお可奈の心の支えとなっていた。
為松はお可奈の微妙な心の変化に気づかずにこれまでのいきさつの話続けた。
「それで、これはあの河童を退治したナナ太郎さんじゃなきゃ無理だ。なんとかナナ太郎さんを探し出さなきゃって思ってさ。運よく、大工の梅吉さんからナナ太郎さんの話を聞いてナナ太郎さんのところへ訪ねていく事が出来たって訳なんだ。その後はナナ太郎さんがお可奈ちゃんを探しに行くっていうから、私もついて行きたかったんだけどさ、ここで待っててッていうからさ。ずいぶん待ったんだよ」
「そうか、やっぱりナナ太郎さんだよね」
そう言ってナナ太郎の方を振り返ると、そこにナナ太郎はいなかった。
お加奈と為松が、二人、長い間会わなかった時間、何をしていたか埋めるように話している間に姿を消してしまったのだった。
夕暮れになり薄暗くなった部屋にはお可奈と為松、ただ二人だけだった。
「ナナ太郎さんが消えた!」
慌てふためいて為松が言った。
「……きっと帰ったのよ」
ナナ太郎が消えた事をいつもだったら大騒ぎしそうなお加奈だが、お加奈は落ち着いていた。
お可奈はナナ太郎が消えたことよりも別の事が頭をめぐり嬉しかったのである。
私の記憶は消さなかったんだ。
今、ナナ太郎の姿が無いと言うことは、記憶を消されなかったという事。
もし記憶を消されるのならもうとっくに消されているはずだと思った。
心の中でお可奈は記憶をそのままにしておいてくれたナナ太郎に感謝した。
そんなお可奈よりもナナ太郎がいないことに驚いていたのは為松の方だった。
「帰ったって、この部屋から出て行ってないじゃないか」
「あの弁慶濠の時と同じ。闇の中を歩いて帰ったんだと思う」
「あの弁慶濠……」
為松は、あの夜の不思議を思い出した。
ナナ太郎はいったい何者なんだろうと思っていたものの、その答えに蓋をしている自分がいる。怖がりの為松はナナ太郎の素性についてはあまり深く考えないようにしていた。
「あの人は、もしかしたら人ではないのかもしれない…」
お可奈がポツリと言った。
為松はちょっと不満そうに「じゃあ、何だというの?」と言い返す。為松は、あのナナ太郎が人じゃないなんてあってはならないと思っていた。
お可奈はその言葉に返事をしなかった。
ずっと黙っているお可奈の目を覗き込んで為松は答えを待っていた。
「あの人は……」
やっぱり人なのだと言おうとしてお可奈はまた黙った。今日、自分が目にしたことは人がやれる事なのだろうかと思い、そこでまた考え込んだのだった。
まったくお可奈らしくない様子である。
「お可奈ちゃんを救ってくれた人だよ。それ以外になにもない」
何時になく為松がきっぱりとした口調だったので、お可奈もそれ以上は言わなかった。
「為松ちゃん、ナナ太郎さんにお礼をしに行かなくちゃね。居場所は分かってるんでしょう?」
「うん。梅吉さんの住む長屋。梅吉さんの隣だよ。なんだかあったかい感じのする長屋だったよ」
「じゃあ、明日にでも二人で行きましょうよ。それから、今日の事はないしょにね」
「分かってる。こんな事、誰かに言ったって誰も信じてくれやしないよ」
お可奈と為松は顔を見合っていた。
口には出さなかったが安堵している自分をお互いが感じていたのだった。
二人の間に暖かな時間が流れていた。
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