親友と異世界トリップ

瀬尾

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異世界に到着

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 「Bランク昇格おめでとうございます!お二人ならきっとSランクになれますよ!いやぁ、知り合ってから一カ月も経ってないなんて信じられませんですよ!」

 興奮した様子でいつも以上に話しかけてくるのは、ギルドに登録した時にお世話になって以来懇意にしている受付嬢だ。確かにまだ一カ月も経っていない。この短期間にBランクになるのはほぼ不可能だと言われてたらしく、彼女の興奮した大声でだいぶ広まって、周りの人間がほとんどこちらを見ていた。

 「大袈裟ですよライラさん。俺たち地道に頑張ってただけですよ。Bランクでもきつかったんですから、Sランクなんてとてもとても…」

 苦笑いして彼女の手からランクが変わったギルドカードを受け取った。

 この世界は、以前いた世界で言うファンタジー。魔物が存在し、それを倒す冒険者が存在し、その冒険者を統括するギルドが存在する。

 ギルドはギルドカードによって個人の情報管理がなされており、このカードが身分証になる。
 
 この世界は絶対王政であり、文明が遅れている。何より、使える人は極少数で、基本的に国に数人しか存在しないという絶滅危惧種扱いをされているが、魔法使いがいる。魔法が存在するのだ。

 俺は後ろで退屈そうにこちらを眺めていたユキに目配せし、ギルドを出た。

 この世界に来た時。本当に大変だった。金もない。知識もない。文字も読めない。書けない。野宿したのも1日2日ではない。

 今ではそこらの金持ちより金があるが。

 「カイト、今日は疲れた。眠い。寝たい!てかお腹すいた。ご飯作って」

 「はぁ、買い物して帰るか……」

 腕に絡み付いてきた彼女に苦笑いをしながら答えた。少し低い位置にある頭、抜群のプロポーション、可愛らしい顔に騙されるが、彼女は恐らくこの世界で一二を争う強さの持ち主だ。

 ちなみに、料理は下手ではないが上手くない。食事は全てカイトが作る。何故わざわざ作っているのかと言うと。

「ここのご飯まじで無理。口に合わなすぎて死ぬ」

 あまり美味しくない。が、別に不味くもない筈なのだが。雪は割と美食家の気があり、少し食に煩い。おかげでわざわざキッチンのある宿を借りるまでに至った。だいぶ宿でお金が消えているのが現状だ。

 「あまり大きな声を出すなよ。目立つだろう?俺は普通だけどなぁ」

 こちらの食材は幸い日本にいた時のものとほぼ同じものが多かった。流石に名前は違うが。

 買い物をして、持参していたバックに買ったものを入れ、そのまま宿に帰ろうと店を出た。

 近道のため、少し治安が悪い細い裏路地を二人で通っていた時。普段から使っている道に、初めて見る光景が広がっていた。

 「大人しくしろっていってんだろぉが!!」

 カイトより頭一つ分大きい、巨体の持ち主が、フードを被った、カイトより少しだけ大きいくらいの、細身だが恐らく男性を殴り倒した。

 目の前に倒れてきたその人は、衝撃でフードが脱げ、金の糸が視界に写った。

 「ぅ、わぁ……」

 声を上げたのは倒れた人ではなく、隣のユキ。感嘆のため息とでもいうところだ。事実カイトも目を奪われていた。

 まるで黄金の様な髪と、目も眩むような美貌。殴られ頬が腫れている以外で、体調が悪いのか、目が潤み、焦点が合っていない。

 目の錯覚で、彼の周りにキラキラと光が差しているように感じた。まるで、天使、いや、神のようだとさえ。

 二人で一瞬見惚れている隙に、彼を殴った男が近づいて、彼の胸ぐらを掴み掛かろうとした。下卑た笑みで彼を見つめる男は鼻息を荒くしている、その様は嫌悪感しかない。

 彼に触れるだろうその瞬間、男は消えた。

 大きな破壊音が少し先の方で聞こえた。ついでに隣のユキも消えた。何かを殴る音と、低い、男のうめき声が小さい裏路地に響いた。

 カイトは倒れたままの彼を横抱きに抱えた。見ただけで分かってわいたがかなり体が熱い。恐らく相当熱が高い。一瞬目が合ったがすぐに彼は気絶してしまった。

 少し危険な状況だ。

 「おい!ユキ!遊んでないでさっさと帰るぞ!彼の体調が良くない!!」

 隣に買い物袋を持ったユキがいた。カイトは改めて優しく彼を抱え直し、急いで宿に向かった。

 ユキが走ると基本的にカイトは見えない。速すぎて目が追いつかない。日本ではそんなことはなかったのだが、トリップしてから身体がどんどん強くなっていったのだ。カイトも人のこと言えないが、彼は一般的な冒険者程度だ。

 「この人、綺麗だね」

 宿に着いて最初のユキの言葉だった。

 不思議と彼にはユキとカイト、二人を、もしかしたら人を、惹きつける力がある。カイトは彼の少し汗ばんだ頬を撫でた。
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