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彼
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ベッドに彼を寝かした。荒い呼吸にほんのり赤い頬、意識がないためされるがままの体は、無性にカイト達を不安にさせた。
ユキに食材の整理を頼み、カイトは彼の額に手を当てた。だいぶ熱が高い。
そのまま、こちらでは使えるだけで貴族になれる程のお金と名誉が貰えるとまで言われている魔法を使った。
実はカイト、治癒魔法限定だが魔法が使えるのだ。こちらに来て最初の日に、武器も知識も無い状態で魔物に遭ってしまい、ユキが大怪我をした時に習得した。
実はトリップした時、森の中だったのだ。
腹から血を流し、少しずつ青ざめ、呼吸が小さくなるユキにカイトは泣きそうになりながら、傷のあった腹に手を置いた。
震える手を必死に押さえつけ、考えても考えても彼女を救う方法が見つからなくて、必死に治ってくれと願った。
願った瞬間、彼の手から光が溢れた。こんな非科学的なこと信じられなかったが、少しづつ良くなっていくユキの顔つきにカイトは必死にその力の使い方を覚えた。
結局、トリップしたその日のうちに魔法を覚えた。感覚を覚えても、治癒以外出来なかったので恐らくカイトにはそれしか出来ないのだろう。
ただ、死ぬところだったユキの傷をまるで最初からなかったかの様にした彼の治癒魔法は、本人が思っている以上にこの世界では貴重な力なのだが。
その魔法を連れてきた彼に使うのだ。
「ユキ、取り敢えず水を、入れたボウルとハンカチか何にか持ってきてくれる?」
彼の額にで光る手を眺めながらユキに話しかけた。彼女は直ぐに頷き、隣の部屋に消えていった。
少しずつ熱が下がり、呼吸が落ち着いていく彼に、もう大丈夫だろうと、ユキの持ってきた濡れた布を彼の額に置いた。
「完治させないの?」
不思議そうに尋ねてくる彼女に、カイトは苦笑を返した。
「完治させて本人の免疫が下がってしまったら危険だろう?元々、風邪なんかは最後まで完治させず、多少は本人の免疫に任せた方がいいって考えてたんだ」
そんなものかと彼女は納得した。
「それよりお腹空いただろう?今ご飯作るから少し彼を見ていてくれ」
キッチンで少し急いでご飯を作る。だいぶ治したので恐らく彼がすぐに起きてくる。本来作ろうとしていたものではなく、消化がよく、作りやすいリゾットを作ることにした。
その頃、ユキは寝ている彼を見つめていた。綺麗な髪は少し汚れていて、服も高そうな物なのに所々穴が空いていたり、汚れていたり。熱が下がり顔の赤みが無くなり、余計に目立つ殴られた跡。
表情は穏やかで、辛そうではない。
が、ユキは何か神聖なものを汚された様な、そんな感情が胸の中に燻っていた。
非常に気分が悪い。
赤く腫れている頬を優しく手で撫でつけた。
「悪い、それ治すの忘れてたな」
後ろからカイトの手が伸び、ユキの手の上から光を当てた。上を見上げた時の彼の表情は無かったが、目には確かに怒りが滲んでいた。
「ご飯が出来た。食べるだろう?」
「食べる!」
彼女は直ぐに後ろのテーブルに置いてあるリゾットを食べ始めた。
カイトは美味しそうに食べる彼女を見つめて苦笑した。正直、自分でご飯を作るのは面倒くさいし、お金もかかる。が、それでも作り続けているのはユキが毎回幸せそうに自分の料理を頬張るからだ。
どうしても彼女には甘くなってしまう。
「……ぅん、……」
ベッドから微かな呻き声が聞こえ、慌て目を向けると彼が目を開けていた。
「大丈夫ですか?気分はどうでしょう?」
「起きた!起きた!」
少し、驚いた様に目を丸くした彼は、呆然とカイト達を眺めた。
「あ、あぁ、……助けて頂いた、のかな?……ありがとう」
だいぶ混乱している様だが体調は良さそうだ。辺りを見回して自身の状況を確認しようとしている。
カイトはリゾットを持って来て彼に差し出した。
「食べられますか?」
リゾットはこの世界には無い料理だ。物凄く不思議そうに皿を受け取る。そのまま暫く見つめた。食べないのはきっと初めて見る食べ物だというだけではないだろう。
「カイトの料理は美味しいよ!食べてみたら分かる。そこら辺の高級店より美味しいんだから!」
彼のベッドの脇に座り込み、顔を覗き込む様にしてユキは朗らかに言った。
彼はユキの顔を見ると驚いた様に目を丸くした。慌ててカイトの顔を見た。そのまま一瞬固まった。
カイトは彼と目が合ってる筈なのに、彼の見つめる先が自分でないことがわかった。
「……大丈夫ですか?」
「……っ、だ、大丈夫。ありがとう」
そう言って料理に手を付けた。
「……おいしい……」
先程から彼の驚いている表情しか見ていない。カイトは自分も食事をしようと席に着いた。
「お兄さん、名前何て言うの?」
ユキが、彼に話しかけた時、一瞬食事の手が止まった。
「……リチャード、リチャード・マクベス・ミッドフォード」
くしくもそれは、この国の第二王子と同じ名前だった。
ユキに食材の整理を頼み、カイトは彼の額に手を当てた。だいぶ熱が高い。
そのまま、こちらでは使えるだけで貴族になれる程のお金と名誉が貰えるとまで言われている魔法を使った。
実はカイト、治癒魔法限定だが魔法が使えるのだ。こちらに来て最初の日に、武器も知識も無い状態で魔物に遭ってしまい、ユキが大怪我をした時に習得した。
実はトリップした時、森の中だったのだ。
腹から血を流し、少しずつ青ざめ、呼吸が小さくなるユキにカイトは泣きそうになりながら、傷のあった腹に手を置いた。
震える手を必死に押さえつけ、考えても考えても彼女を救う方法が見つからなくて、必死に治ってくれと願った。
願った瞬間、彼の手から光が溢れた。こんな非科学的なこと信じられなかったが、少しづつ良くなっていくユキの顔つきにカイトは必死にその力の使い方を覚えた。
結局、トリップしたその日のうちに魔法を覚えた。感覚を覚えても、治癒以外出来なかったので恐らくカイトにはそれしか出来ないのだろう。
ただ、死ぬところだったユキの傷をまるで最初からなかったかの様にした彼の治癒魔法は、本人が思っている以上にこの世界では貴重な力なのだが。
その魔法を連れてきた彼に使うのだ。
「ユキ、取り敢えず水を、入れたボウルとハンカチか何にか持ってきてくれる?」
彼の額にで光る手を眺めながらユキに話しかけた。彼女は直ぐに頷き、隣の部屋に消えていった。
少しずつ熱が下がり、呼吸が落ち着いていく彼に、もう大丈夫だろうと、ユキの持ってきた濡れた布を彼の額に置いた。
「完治させないの?」
不思議そうに尋ねてくる彼女に、カイトは苦笑を返した。
「完治させて本人の免疫が下がってしまったら危険だろう?元々、風邪なんかは最後まで完治させず、多少は本人の免疫に任せた方がいいって考えてたんだ」
そんなものかと彼女は納得した。
「それよりお腹空いただろう?今ご飯作るから少し彼を見ていてくれ」
キッチンで少し急いでご飯を作る。だいぶ治したので恐らく彼がすぐに起きてくる。本来作ろうとしていたものではなく、消化がよく、作りやすいリゾットを作ることにした。
その頃、ユキは寝ている彼を見つめていた。綺麗な髪は少し汚れていて、服も高そうな物なのに所々穴が空いていたり、汚れていたり。熱が下がり顔の赤みが無くなり、余計に目立つ殴られた跡。
表情は穏やかで、辛そうではない。
が、ユキは何か神聖なものを汚された様な、そんな感情が胸の中に燻っていた。
非常に気分が悪い。
赤く腫れている頬を優しく手で撫でつけた。
「悪い、それ治すの忘れてたな」
後ろからカイトの手が伸び、ユキの手の上から光を当てた。上を見上げた時の彼の表情は無かったが、目には確かに怒りが滲んでいた。
「ご飯が出来た。食べるだろう?」
「食べる!」
彼女は直ぐに後ろのテーブルに置いてあるリゾットを食べ始めた。
カイトは美味しそうに食べる彼女を見つめて苦笑した。正直、自分でご飯を作るのは面倒くさいし、お金もかかる。が、それでも作り続けているのはユキが毎回幸せそうに自分の料理を頬張るからだ。
どうしても彼女には甘くなってしまう。
「……ぅん、……」
ベッドから微かな呻き声が聞こえ、慌て目を向けると彼が目を開けていた。
「大丈夫ですか?気分はどうでしょう?」
「起きた!起きた!」
少し、驚いた様に目を丸くした彼は、呆然とカイト達を眺めた。
「あ、あぁ、……助けて頂いた、のかな?……ありがとう」
だいぶ混乱している様だが体調は良さそうだ。辺りを見回して自身の状況を確認しようとしている。
カイトはリゾットを持って来て彼に差し出した。
「食べられますか?」
リゾットはこの世界には無い料理だ。物凄く不思議そうに皿を受け取る。そのまま暫く見つめた。食べないのはきっと初めて見る食べ物だというだけではないだろう。
「カイトの料理は美味しいよ!食べてみたら分かる。そこら辺の高級店より美味しいんだから!」
彼のベッドの脇に座り込み、顔を覗き込む様にしてユキは朗らかに言った。
彼はユキの顔を見ると驚いた様に目を丸くした。慌ててカイトの顔を見た。そのまま一瞬固まった。
カイトは彼と目が合ってる筈なのに、彼の見つめる先が自分でないことがわかった。
「……大丈夫ですか?」
「……っ、だ、大丈夫。ありがとう」
そう言って料理に手を付けた。
「……おいしい……」
先程から彼の驚いている表情しか見ていない。カイトは自分も食事をしようと席に着いた。
「お兄さん、名前何て言うの?」
ユキが、彼に話しかけた時、一瞬食事の手が止まった。
「……リチャード、リチャード・マクベス・ミッドフォード」
くしくもそれは、この国の第二王子と同じ名前だった。
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