8 / 28
子供
しおりを挟む
街を出て暫く歩くと森にぶつかった。王都までへの地図はカイトが全て暗記しているが、森を抜けないと辿り着けない。
予想はしていたが一時間足らずでリチャードの息は上がり始めた。本当ならば馬を買いたかったのだが、あの街には馬を売っている店が無かったのだ。
次の最寄の街で馬を買おうと決意したが、今のままでは彼の負担が大きすぎる。
カイトはさり気なく彼の鞄を取った。力や体力がカイトよりあるユキに持たせなかったのは、背が低く、小柄なユキに鞄を取られたら彼が罪悪感を感じそうだったからだ。
「頑張って、リチャード。後ちょっとしたら下り坂になるよ!」
まともに返す気力もないだろうに、励ますユキに薄く笑い歩みを速めた彼に、早めに馬を買おうと改めて思った。
今まで通っていた獣道が下り坂に差し掛かろうとした時、ユキが歩みを止めた。
どうしたのか尋ねようとしたら口を手で塞がれた。斜め右のほうをじっと見つめる彼女に何かあるのかと察し、カイトはリチャードを後ろに庇った。
暫くするとユキが少しずつ前へと進んだので彼女に続く。
進んだ先でようやくカイトも事情を飲み込めた。
子供の泣き声と、男達の怒鳴り声がする。
リチャードにも聞こえたように静かに息を詰めた。
「うぅん、山賊だね、多分。どうする?」
正直なところ、ユキと二人だったなら面倒ごとには巻き込まれたくないし、この世界ではよくあることだと知っているから、このまま気づかなかったふりをして通り過ぎるのだが、さすがにリチャードの前でそんなことして良いのか憚られた。
「……子供は、攫われて来たのか……?」
リチャードの声にカイト達は同時に彼に目を向けた。
「おそらくな、ここら辺で街はさっきのところが一番近いし、まさかあいつらの子供何てことは無いだろう」
顔を歪めた彼に、少し苦笑し、ユキに顔を向けた。一瞬だけ目が合い、それだけでカイトの意思を理解した。ユキが薄く笑って前を向いた。
「子供だけでも助けよっか。あ、うぅん、でもちょっとスプラッタかも……」
リチャードにはユキの言葉の意味が理解できなかったがカイトは理解した。
「なんだ、血の匂いでもするのか?」
彼が顔色を悪くした。その様子にカイトは二人でユキの帰りを待とうかと尋ねたが、彼は頑なに一緒に行くことを譲らなかった。
「これも、この国で起こっている出来事なのだろう?……全てを見ておく責任が、私にはある」
彼の言葉にユキは満足そうに笑った。カイトはそんな二人にため息を吐いた。一度決めたら頑固そうな彼に、これ以上の説得は無意味だと判断し、ユキの後に続いて子供と山賊がいるであろう場所に向かって走った。
途中で転びそうになる彼をリチャードが時折支え、声の元にどんどんと近づいて行くと、前を走っていたユキが先に行ったのか、見えなくなっていた。
ここでようやくカイトも鉄の匂いを感じることが出来た。
たどり着いた先は酷い光景が広がっていた。
隣でリチャードが口を手で覆っていた。一気に青ざめた彼にそっと背中をさする。
子供は攫われて来たのでは無かった。
馬車道が大破し、近くに馬が木に繋がれている。四人、きちんと数えられるだけの原型を保った死体の数だ。
少し遠くに五歳くらいの子供と恐らく赤ん坊。二人を抱えたユキが三人くらいの山賊らしき男性と対峙していた。
山賊は皆無精髭を生やし、酷く汚れた服を着ており、揃いも揃って巨体の持ち主だった。
因みに、ユキがすでに仕掛けたのかだいぶ傷だらけで死にそうになっていたが。
彼女がこちらに来て子供達をカイトとリチャードに預ける。二人とも今まで泣いていて疲れたのか起きてはいるが、表情に覇気が無い。
リチャードが子供を抱きしめ静かにあやし始めた。
ユキはそれを見届けると、見るからに戦意喪失している山賊達へと歩みを進めた。
「さぁて、正直あんた達のことなんかどうでも良いんだけどねぇ。ご主人様の心をあんなにも痛めちゃったんだから、それなりの礼はして貰うわよぉ」
そう言い、恐らくそこに居る山賊達よりも、悪党らしくにやりと笑い、拳を振り上げた。
辺りにユキが山賊を殴る鈍い音がこだました。
酷く楽しそうに笑いながら殴りつける彼女は、どこからどう見ても犯罪者だ。何時もなら無感動にただそれを眺めているカイトも、さすがにため息が漏れた。
隣にいる彼と子供が目の錯覚などでは無く震えている。
赤ん坊は寝ているが、五歳位の子供は泣くのも忘れて、愕然とした様な顔でそれを見つめていた。とても子供のする顔では無い。
「……ユキ。もう意識無いだろう?……早く次の街に行きたいんだが」
予想はしていたが一時間足らずでリチャードの息は上がり始めた。本当ならば馬を買いたかったのだが、あの街には馬を売っている店が無かったのだ。
次の最寄の街で馬を買おうと決意したが、今のままでは彼の負担が大きすぎる。
カイトはさり気なく彼の鞄を取った。力や体力がカイトよりあるユキに持たせなかったのは、背が低く、小柄なユキに鞄を取られたら彼が罪悪感を感じそうだったからだ。
「頑張って、リチャード。後ちょっとしたら下り坂になるよ!」
まともに返す気力もないだろうに、励ますユキに薄く笑い歩みを速めた彼に、早めに馬を買おうと改めて思った。
今まで通っていた獣道が下り坂に差し掛かろうとした時、ユキが歩みを止めた。
どうしたのか尋ねようとしたら口を手で塞がれた。斜め右のほうをじっと見つめる彼女に何かあるのかと察し、カイトはリチャードを後ろに庇った。
暫くするとユキが少しずつ前へと進んだので彼女に続く。
進んだ先でようやくカイトも事情を飲み込めた。
子供の泣き声と、男達の怒鳴り声がする。
リチャードにも聞こえたように静かに息を詰めた。
「うぅん、山賊だね、多分。どうする?」
正直なところ、ユキと二人だったなら面倒ごとには巻き込まれたくないし、この世界ではよくあることだと知っているから、このまま気づかなかったふりをして通り過ぎるのだが、さすがにリチャードの前でそんなことして良いのか憚られた。
「……子供は、攫われて来たのか……?」
リチャードの声にカイト達は同時に彼に目を向けた。
「おそらくな、ここら辺で街はさっきのところが一番近いし、まさかあいつらの子供何てことは無いだろう」
顔を歪めた彼に、少し苦笑し、ユキに顔を向けた。一瞬だけ目が合い、それだけでカイトの意思を理解した。ユキが薄く笑って前を向いた。
「子供だけでも助けよっか。あ、うぅん、でもちょっとスプラッタかも……」
リチャードにはユキの言葉の意味が理解できなかったがカイトは理解した。
「なんだ、血の匂いでもするのか?」
彼が顔色を悪くした。その様子にカイトは二人でユキの帰りを待とうかと尋ねたが、彼は頑なに一緒に行くことを譲らなかった。
「これも、この国で起こっている出来事なのだろう?……全てを見ておく責任が、私にはある」
彼の言葉にユキは満足そうに笑った。カイトはそんな二人にため息を吐いた。一度決めたら頑固そうな彼に、これ以上の説得は無意味だと判断し、ユキの後に続いて子供と山賊がいるであろう場所に向かって走った。
途中で転びそうになる彼をリチャードが時折支え、声の元にどんどんと近づいて行くと、前を走っていたユキが先に行ったのか、見えなくなっていた。
ここでようやくカイトも鉄の匂いを感じることが出来た。
たどり着いた先は酷い光景が広がっていた。
隣でリチャードが口を手で覆っていた。一気に青ざめた彼にそっと背中をさする。
子供は攫われて来たのでは無かった。
馬車道が大破し、近くに馬が木に繋がれている。四人、きちんと数えられるだけの原型を保った死体の数だ。
少し遠くに五歳くらいの子供と恐らく赤ん坊。二人を抱えたユキが三人くらいの山賊らしき男性と対峙していた。
山賊は皆無精髭を生やし、酷く汚れた服を着ており、揃いも揃って巨体の持ち主だった。
因みに、ユキがすでに仕掛けたのかだいぶ傷だらけで死にそうになっていたが。
彼女がこちらに来て子供達をカイトとリチャードに預ける。二人とも今まで泣いていて疲れたのか起きてはいるが、表情に覇気が無い。
リチャードが子供を抱きしめ静かにあやし始めた。
ユキはそれを見届けると、見るからに戦意喪失している山賊達へと歩みを進めた。
「さぁて、正直あんた達のことなんかどうでも良いんだけどねぇ。ご主人様の心をあんなにも痛めちゃったんだから、それなりの礼はして貰うわよぉ」
そう言い、恐らくそこに居る山賊達よりも、悪党らしくにやりと笑い、拳を振り上げた。
辺りにユキが山賊を殴る鈍い音がこだました。
酷く楽しそうに笑いながら殴りつける彼女は、どこからどう見ても犯罪者だ。何時もなら無感動にただそれを眺めているカイトも、さすがにため息が漏れた。
隣にいる彼と子供が目の錯覚などでは無く震えている。
赤ん坊は寝ているが、五歳位の子供は泣くのも忘れて、愕然とした様な顔でそれを見つめていた。とても子供のする顔では無い。
「……ユキ。もう意識無いだろう?……早く次の街に行きたいんだが」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
87
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる