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子守り
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カイトの声に答えて、山賊虐めを止めたユキは、彼らの持っている金品を回収し始めた。
基本的にギルドでは、襲ってきた賊の類の持ち物は討伐した冒険者が勝手にいていいことになっている。
カイトは抱えている赤児をあやしながら馬に近づいた。多少興奮しているが怪我等は見当たらない。これならわざわざ街で馬を買う必要が無くなった。
後ろからリチャードの声がした。
「……君の、ご両親は、……あそこにいるか?」
彼の声は苦しそうで、顔も、笑顔にしようとしているが歪んでいた。
視界の端でユキが動きを止めたのが分かった。実際はカイトも同時に止まったのだが。
カイトは慌ててリチャードに近寄った、子供はちょうど彼の言葉に否定を返していたところだった。リチャードは明らかに安心した。
子供の話では彼は殺されていた人達に街から攫われ、馬車で運ばれていたところ山賊に襲われたのだと言う。
話しながら再び声を上げ泣き始めた子供を、リチャードは優しく抱きしめた。
子供を抱き上げ、優しく背中をさする。
次第に子供の声は聞こえなくなり、小さな寝息が立ち始めた。
「辛かったんだろう……。服もまだあまり汚れていないようだし恐らく次の街に行けば親は見つかる」
カイトはそう彼を励まし、いつの間にか戻ってきていたユキも薄く笑い、リチャードの手の中にいる子供を撫でた。
ここでの用もなくなったので、馬を引いてその場を離れることにした。
暫く歩いている間、ユキがいつもより静かだった。気持ちが解らないでもないカイトも特に気にせず普段通り過ごした。
カイトは相変わらず片手に赤児を抱いている。
夜も更け、これ以上進むのは危険と判断し、テントを張り休む準備を始めた。もちろん先に子供達を寝かすために寝袋を敷いていたが。
「……無理しなくて良い」
突然リチャードが言葉を発し、カイト達は準備の手を止めた。
唐突な言葉だが、彼らには心当たりがあった。
「……何が?」
ユキが笑いながら返した。酷く冷めたような目は、隠し切れない彼女の本性だ。
「……殺された人達のことも、山賊のことも、…………子供の事も、……本当は何とも思っていないのだろう?」
ユキは僅かに視線を逸らした。彼に気づかれるのが嫌だったのだろう。それはカイトも同様だが。
しかし、不思議とリチャードの言葉には非難の色は無い。
「…………君達は、……他人に酷く無関心な気がする」
そう小さく呟いた彼の言葉は、責めるものではなく、単に独り言のように呟いた様だった。
カイトはユキを見る。相変わらず明後日の方を向いていた。
確かに自分達は他人に興味など無い。
ユキとカイトは小学校で出会った。一年生にも関わらず、既に小学校の剣道の頂点に君臨していたユキと、同じく一年生にも関わらず既に大学レベルの数学の問題を解いていたカイトは周りと比べ異質だった。
親はただただその才能を褒め、世間に自慢して回る様な人達だったし、子供とは時に大人よりも残酷で、自分達と違うものを酷く嫌う。自然と彼らは周りの輪から外れた存在だった。
二人が知り合うのにそう時間は掛からなかった。
クラスが違えど、常に一緒にいた。
周りからどんな虐めを受けようと、親が次第に彼らを恐れ、虐待を始めても。
彼らが親を殺し、孤児院に入れられた時も。
周りはみんな自分達とは違う生き物だったから、周りがみんな自分達よりも弱い生き物だったから、次第に他人への興味は薄れ、気づいたら、その目には、酷く無機質な世界しか映らなくなっていた。
「きっと君たちは、……この子供達だって何の感情もなく殺せるのだろう」
そう言う彼は言葉とは裏腹に酷く落ち着いた笑みを浮かべていた。
とても綺麗なその姿に、カイト達は彼に初めて会った日のことを思い出した。
確かに彼らには他人への興味など無い。それなのに、初めてリチャードにあった時に、二人同時に彼に魅せられたその瞬間に、カイトは柄にもなく運命というものを信じたくなった。
彼はきっと、自分達にとっての運命の人なのだと。
「……そうだな、正直、その子供達は旅のこと考えると此処に放置したいくらいだ。……確かに殺せるしな」
静かにそう告げ、目を細めて子供を見つめる彼は酷く残忍な光が秘められていた。
ユキも観念した様に近くにより、座り込んだ。
基本的にギルドでは、襲ってきた賊の類の持ち物は討伐した冒険者が勝手にいていいことになっている。
カイトは抱えている赤児をあやしながら馬に近づいた。多少興奮しているが怪我等は見当たらない。これならわざわざ街で馬を買う必要が無くなった。
後ろからリチャードの声がした。
「……君の、ご両親は、……あそこにいるか?」
彼の声は苦しそうで、顔も、笑顔にしようとしているが歪んでいた。
視界の端でユキが動きを止めたのが分かった。実際はカイトも同時に止まったのだが。
カイトは慌ててリチャードに近寄った、子供はちょうど彼の言葉に否定を返していたところだった。リチャードは明らかに安心した。
子供の話では彼は殺されていた人達に街から攫われ、馬車で運ばれていたところ山賊に襲われたのだと言う。
話しながら再び声を上げ泣き始めた子供を、リチャードは優しく抱きしめた。
子供を抱き上げ、優しく背中をさする。
次第に子供の声は聞こえなくなり、小さな寝息が立ち始めた。
「辛かったんだろう……。服もまだあまり汚れていないようだし恐らく次の街に行けば親は見つかる」
カイトはそう彼を励まし、いつの間にか戻ってきていたユキも薄く笑い、リチャードの手の中にいる子供を撫でた。
ここでの用もなくなったので、馬を引いてその場を離れることにした。
暫く歩いている間、ユキがいつもより静かだった。気持ちが解らないでもないカイトも特に気にせず普段通り過ごした。
カイトは相変わらず片手に赤児を抱いている。
夜も更け、これ以上進むのは危険と判断し、テントを張り休む準備を始めた。もちろん先に子供達を寝かすために寝袋を敷いていたが。
「……無理しなくて良い」
突然リチャードが言葉を発し、カイト達は準備の手を止めた。
唐突な言葉だが、彼らには心当たりがあった。
「……何が?」
ユキが笑いながら返した。酷く冷めたような目は、隠し切れない彼女の本性だ。
「……殺された人達のことも、山賊のことも、…………子供の事も、……本当は何とも思っていないのだろう?」
ユキは僅かに視線を逸らした。彼に気づかれるのが嫌だったのだろう。それはカイトも同様だが。
しかし、不思議とリチャードの言葉には非難の色は無い。
「…………君達は、……他人に酷く無関心な気がする」
そう小さく呟いた彼の言葉は、責めるものではなく、単に独り言のように呟いた様だった。
カイトはユキを見る。相変わらず明後日の方を向いていた。
確かに自分達は他人に興味など無い。
ユキとカイトは小学校で出会った。一年生にも関わらず、既に小学校の剣道の頂点に君臨していたユキと、同じく一年生にも関わらず既に大学レベルの数学の問題を解いていたカイトは周りと比べ異質だった。
親はただただその才能を褒め、世間に自慢して回る様な人達だったし、子供とは時に大人よりも残酷で、自分達と違うものを酷く嫌う。自然と彼らは周りの輪から外れた存在だった。
二人が知り合うのにそう時間は掛からなかった。
クラスが違えど、常に一緒にいた。
周りからどんな虐めを受けようと、親が次第に彼らを恐れ、虐待を始めても。
彼らが親を殺し、孤児院に入れられた時も。
周りはみんな自分達とは違う生き物だったから、周りがみんな自分達よりも弱い生き物だったから、次第に他人への興味は薄れ、気づいたら、その目には、酷く無機質な世界しか映らなくなっていた。
「きっと君たちは、……この子供達だって何の感情もなく殺せるのだろう」
そう言う彼は言葉とは裏腹に酷く落ち着いた笑みを浮かべていた。
とても綺麗なその姿に、カイト達は彼に初めて会った日のことを思い出した。
確かに彼らには他人への興味など無い。それなのに、初めてリチャードにあった時に、二人同時に彼に魅せられたその瞬間に、カイトは柄にもなく運命というものを信じたくなった。
彼はきっと、自分達にとっての運命の人なのだと。
「……そうだな、正直、その子供達は旅のこと考えると此処に放置したいくらいだ。……確かに殺せるしな」
静かにそう告げ、目を細めて子供を見つめる彼は酷く残忍な光が秘められていた。
ユキも観念した様に近くにより、座り込んだ。
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