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苦痛
しおりを挟む肩に激痛を感じて目が覚めた。痛みの原因は鞭だった。
カイトは椅子に縛られ、指一本動かせない様にきつく縛り付けられていた。配慮なんて無く、血が止まっているのではと思う程にきついそれに、腕が痺れて感覚が無い。
「いっ!……っ、はっ、……はっ……」
目が覚めた瞬間に状況を理解した。目の前でにやにやとこちらを見つめるエドガーを見つけては理解しない訳が無いのだが。
後ろに知っている顔を見つけた。細身だが、しっかりした体格、薄いグレーの長髪、実質アレクサンダーの補佐、軍で二番目に強いと言われている男だ。彼は無表情でこちらを見つめていた。
「いい気味だなぁ、あんな奴に付いてるからだよ!ははっ!痛いか?痛いだろう?…………下民が!…………私の城に!……入るからだ!!」
喋る間、鞭を何度も叩きつける。悲鳴が漏れる。幾つもの赤い線が、カイトの体に出来始めた。服の上から少しづつ血が滲み始める。痛い。痛い。
鞭が顔に当たった。顔の痛みで生理的な涙が溢れる。
「ぁ、……っ、……い、た、……っ」
その様にエドガーは更に嘲笑われた。血が滴る感触がする。苦しい。痛い。辛い。
心臓の鼓動が早まる。エドガーの影が、昔見た、影に被る。
これは、嫌だ。
思い出したく無い。
嫌だ。嫌だ。嫌だ!
あの、影、は…?
覚えてる。痛い、痛い痛い。赤が広がる。
あの人を知っている。
彼は、彼は…………。
…………俺の、…………父だ……。
目の焦点が合わない。呼吸が不自然に乱れる。
「あ、あぁ、ぁあぁあっ!!う、ぅぅっ、あぁぁぁぁあぁぁあぁぁああぁああぁああぁああああぁっ!!!!!!」
大声で叫び、体が震え始めた。エドガーはうるさいと叫び、棒を持ち、全力で殴りつけた。椅子と一緒に倒れ、そこを足蹴にされた。
リチャード達はアレクサンダーの案内で城を走っていた。エドガーの部屋には本人も、カイトも居なかった。他に考えられるのは、地下の囚人用の部屋。
拷問用の部屋だ。
ユリウスは下手に部屋に置いておけなかった。
メイドであるシンリーに託すことも一瞬考えたが、それをユキは良しとしなかった。彼女を完全に信頼している訳ではない上、彼女には守るだけの力が無い。
走るアレクの後ろにリチャードがつき、その後ろにユキがユリウスを抱えて走った。前にいるリチャードからは彼女の表情は伺えないが、漂ってくる空気で何となく分かる。
地下に近づく。微かに呻き声と、エドガーの声がした。
ユキがリチャードの腕にユリウスを押し付けた。慌てて彼を抱える。次の瞬間彼女は消え、前の方から大きな破壊音が聞こえた。
急いで後を追う。
ユキが部屋に入った瞬間、血の匂いがした。呆然とし、一瞬立ち止まる。前に視線を向けると、エドガーともう一人、こちらを驚いたように見つめていた。その後ろに誰かが倒れていた。
そんなの決まってる。カイトだ。
顔に髪がかかっていて顔が見えない。赤い液体が辺りに流れ出している。薄暗い部屋ではよく見えない。見たく無い。
近くに落ちてある棒には血が付いていた。
エドガーの持っている鞭にも血が付いていた。
こちらを振り向くエドガーの顔にも血が付いている。彼の血ではない。
誰のだ。
カイトが全く動かない。生きているのか分からない。声がしない。音を立てない。縛り付けられている。
エドガーが我に返ってこちらに怒鳴りながら向かってきた。
後ろからリチャードの声がした。部屋に辿り着いたのだろう。
昔見た。
見たことがある光景。
何処で見たか。
そんなの忘れるわけが無い。
カイトの家だ。
何時まで経っても約束の場所に来ない彼に、痺れを切らして家に向かいに行った。
誰もドアを開けてくれない。
無理やり入った。
父親がいた。
カイトの父親だ。
彼が拳を振り上げて何かを殴りつけていた。
その度に微かに弱々しく上がる呻き声に聞き覚えがあった。
カイトがいた。
彼の父親の下で、されるがままに殴られている彼は、真っ赤だった。
血だらけで目の閉じた彼は、まるで死んでいる見たいで、彼女は絶望した。
台所から包丁を取ってきた。
殴り続ける父親の後ろからそっと近づいた。
その時初めてユキは人を殺した。
あの時カイトは死んでいなかった。
死んでなんかいない!!
「おい!誰の許可を得て此処に入ってきた!!いますぐっ!?!?」
近づいてきたエドガーを殴りつけた。死んではいないだろう。手加減はした。此処で彼が死んだら、カイトの計画が台無しだ。
それ位の理性は残っていた。
しかし、そばに立っていた人物に手加減する理由は無かった。
懐に潜り込み、思いっきり腹を殴りつけた。腕が貫通し、血が降りかかる。苦しむ男の表情に、嬉しい筈なのに表情が変わらない。
倒れる彼を蹴り上げ、カイトの元に恐る恐る近づいた。
「…………か、いとぉ……?」
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