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失踪
しおりを挟む途中でアレクは現在のこの国の宰相に呼び出され、別行動になった。申し訳なさそうにする彼を笑って見送った。
案内された厨房は何とも味のあるものだった。日本で言う中世の西洋風、石やレンガで造られたこの部屋は見ていてとても興味深かった。
この国にはあまり電気が普及していない。発見されていない訳ではないが、実用化に至っていないのだ。
ならば、何故冷蔵庫があるのかと言うと、魔法使いのお陰だ。彼らの中で冷却を得意とする人が箱に魔法を掛けるのだ。お陰で冷蔵庫なんて城ぐらいにしかないが。
「何が作りたいんだ?ご飯、デザート?」
現在は夕食後のため、すでに後片付けをする為だけの最低限の人達しか周りに居なかった。ちらちらと此方を盗み見る彼らを無視し、早速食事に取り掛かることにした。
彼女に尋ねると勢いよくデザートと返ってきた。どこの世界でも女性がデザート好きなのは王道の様だ。苦笑して、この間読んだこの世界のデザートの本を思い浮かべた。
この世界にない、プリンとメレンゲの焼き菓子を作る事にした。とても簡単で、失敗が少なく、少ない種類の材料で作れる。
しかも美味しい。
彼女に説明をしても、まるで分からないという様に首を傾げたが、作り方を教えると、彼女は何でも素直に飲み込んでいった。教えがいがある子だ。
メレンゲは直ぐに出来上がり、プリンも後は冷やすだけだ。
満足そうに笑う彼女に悪い気がしなかった。
冷やすのは後十分程で平気そうだと思い、プリンが出来たらリチャード達の元に戻ろうと考えていた。
「……悪い、ここら辺ってトイレどこにある?」
「えっ!?と、と、と、トイレ!?あ、で、出て直ぐ右側の奥です!!」
トイレという単語の何処が恥ずかしいのか顔を真っ赤にして狼狽えた。純情と言えば聞こえは良いが、正直その反応は面倒くさい。
カイトは見なかった事にし、礼を言って言われた場所へと向かった。外はもう暗い、電気も何も無いこの城には、僅かな蝋燭が唯一の灯りだった。
一瞬誰かの気配がした。慌てて後ろを振り返ったが、遅かった。
振り返ってから覚えていることは、頭に響いた酷い激痛と、一瞬にして奪われた視界。痛みと暗闇だけだった。
十五分後、いつまで経っても戻って来ないカイトにメイド改めシンリーは流石に可笑しいと感じ始めた。嫌な予感で慌ててトイレに向かった。男子トイレを覗くなど破廉恥極まりないが、そんな事構って居られなかった。
ドアを叩いた。カイトの名を呼んだ。静寂しか戻らない空間に焦り中に入った。
トイレには誰も居なかった。
ドアを強く叩く音がした。尋常じゃ無い響きとメイドの叫び声でユキは慌てて扉を開けた。カイトが出て行ってから一時間半ほど経っていた。
「ごめんなさいっ!あぁ、私、どうしようっ、本当にっ!本当にすみませんっ!!!ごめんなさい!ど、どうしよう、私、私っ」
支離滅裂な彼女の言葉にユキは嫌な予感がした。
「い、居ないのっ!さ、探したのに何処にも、居ないんです……!カイトさんがっ、見つからない……っ!」
目の前が真っ暗になった。
今までの騒音にユリウスの目が覚めた。空気を感じて、泣き始める彼を一瞬固まっていたリチャードが、はっとしたようにあやし始めた。
「ユキっ!しっかりしろ!……おい!アレクを呼んでこい!」
リチャードは固まったまま動かないユキの肩を掴み、メイドに話し掛けた。今は時間が無い。
走り去って行くメイドを見送ってユキに目を向けた。目を見開いた状態から全く動かない。
「ユキ!ユキ!目を覚ませっ!そんな状態でいる場合じゃ無いだろう!!!ユキ!……ユキっ!……っ!良い加減にしろ!!ユキっ!!!」
「っ……」
「君達の関係を全て知っている訳では無い私が、今の君の気持ちがどんなものなのか分かる訳が無い!!でも、今はそんな事をしている場合では無いだろう!!…………カイトを探すぞ」
暫くしてメイドがアレクサンダーを連れてきた。ユキを見て一瞬顔を青ざめたが直ぐにリチャードに向き直った。
勢いよく頭を下げ謝った。確かにカイトと一緒に行動した彼が、守らなくてはいけなかったのかもしれない。しかし、彼に護衛の命令もお願いもしていない。
今回彼に非は無い。
「カイトの居場所は分かるか?」
「おそらくは……!本当に申し訳ない、今回はおそらくエドガー様の犯行だと思われます……、城に侵入者が入った情報が無いですし、……宰相の呼び出し方が可笑しかったです。おそらく私の足止めでした……。可笑しいと気づいていながら、私はっ……」
吐き捨てるようにそう言った彼に、何も言えなかった。
「二カ所って何処」
今まで黙っていたユキが口を開いた。
彼女は短期だ。そのため何回も起こっている所を見てきた。
それでも、今回の様な怒り方は初めて見た。冷や汗が、止まらない。
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