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成長
しおりを挟むその後はまさに、尻尾を巻いて逃げたと言う言葉通りだった。多少負け犬の遠吠えなどが混じってはいたが。
リチャードはエドガーが出て行った扉を見つめた。一度目を閉じ、カイトに向き合うために膝をついた。
少し息の上がった彼を抱きしめた。
驚いてリチャードの背に手を回せずに、空中で固まる手。きつく抱きしめる彼は、何も反応を見せない。
ふと小さく彼が呟いた。
「…………もう、二度と、……………二度とこんな目には合わせないっ、……ほんと、に、ごめん。……今度から私が守るから。絶対に。…………もちろん、ユキ。君も、私が守る」
そう言ってユキを見つめる彼は、泣いていなかった。今まで見た事の無い程の力強さ。
この一日で彼は確かに成長した。
「ふっ、守ってくれるの?……嬉しいよ。あ、もちろん私も君達のこと守るからね。……もう二度とこんな事は起きないようにしよう……?」
そう言ってカイトとリチャードを抱きしめた。それからカイトを再びベットに寝かした。
嬉しそうにする彼に、今日はもうゆっくり寝るように言い、頭を撫でた。
直ぐに目を閉じ、小さく寝息を立て始める彼を見た後、今まで黙っていたアレクサンダーが口を開いた。
「…………申し訳ございません。……彼を止められず、この部屋まで来させてしまいました…………」
そう言い頭を下げる彼に、リチャードは苦笑した。
「謝るな。……将軍とは言い、一階の軍人が王族に盾突けないのは普通のことだ。お前が気にする事は何も無い」
リチャードがそう言うと、アレクサンダーは感謝の言葉を口にし、仕事の為に部屋を出て行った。
ユキが彼の補佐を殺したため、これからどんどん忙しくなるのだろう。申し訳ないとは思うが、死んだ奴の自業自得の結果なので恨むなら彼だろう。アレクは恐らく恨みも何もしないのだろうが。
ユキはユリウスをカイトの横に寝かせ直し、その隣で横になった。
「ねぇ、リチャード。……今日は色々あったから疲れちゃった。…………一緒に寝よう?…………カイトが起きないとご飯も食べられないしね」
そう言ってカイトの反対隣を指差した。
リチャードは頷き、疲れたように頷いた。
その日はそのまま四人で眠った。リチャードは、戻ってきた温もりに安心し、静かに眠りについた。
朝起きてもカイトは眠ったままだった。初めて彼より早く起きたリチャード達は、食事を作ってやるべきか迷っていた。
恐らく昨日の事でまだ回復しきっていないのだと分かっていたので、無理やり起こすなんて論外だった。けれどもユリウスはぐずり始めていて、リチャード達も昨日のお昼から何も食べていなかったため、お腹が空いていた。
「……私、頑張ってみる…………」
彼女の言葉にリチャード慌てて宥めた。以前カイトから聞いたのだ。彼女の料理は壊滅的だと。
料理器具を壊されたくなければ、彼女を厨房に立たせるなと。
「ゆ、ユキはユリウスの面倒を見ていてくれ!!その、だいぶ前からカイトの料理の仕方を見ていたから簡単なものならいける気がする……」
その言葉に嘘は無かったので、リチャードは手探り状態だったが何とかお粥と、卵焼きを作る事が出来た。
これくらいのものしか作れなかったのだが。
テーブルに料理を運んだら寝室から物音が聞こえた。慌ててそちらに向かう。
扉を勢いよく開けたら何かにぶつかった。
「あぁ!!すまない!平気かカイトっ!!」
下に尻餅を着いたカイトがいた。リチャードは手を差し出し、急いで起き上がらせた。
「ははっ、そんなに気にするなリチャード。…………迷惑掛けたな」
少し照れくさそうに笑う彼に思いっきり抱きついた。ユリウスごとユキも抱きつき泣き始めた。
「ほ、本当だよぉ……!!どれだけ私達が心配したと思ったの……!?」
「悪い悪い。本当に、…………ありがとう」
眉を下げ柔らかく笑う彼に、もう何も言えずリチャード達は溜め息を吐いた。
「はぁ、……カイト、簡単なものなんだが朝食を作った。……食べられるか……?」
リチャードの言葉に目を丸くした後嬉しそうに頷いた。
ユリウスがカイトに両手を伸ばした。彼には随分と我慢をさせてしまった。カイトが笑って受け止めた。彼の腕に収まったユリウスは彼の胸に顔を埋めた。
「凄いなリチャード!料理が出来るようになったのか!凄く美味しい」
元気そうに頬張る彼にやっと日常が戻ってきた様な気がする。
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