異世界オークはうまかった。ブタっぽい俺の異世界丸焼きサバイバル生活

第五十四話 ブタっぽい俺の最終決戦① 眠るブタと二人の少女(ナポリタン(ナナリー)とヒステリア(テリヤキ))

「モオォォォォオオオオオオオオオオオオッッッッッッーーーーー！！！！！！」

　天をつんざくような巨大な咆哮が丸焼き広場内に轟き、まるで大地震の様に大地を揺らし、空を歪める。

　オルガは見上げるようにして、天に向かって咆哮を上げる巨大なビーフを睨み付ける。

「間に合わなかったか……」

「あれが……」

「暴食王……ビーフ……」

　怒号のような咆哮を丸焼き広場に轟かせながら姿を現したのは、頭に野太く捻じれた二本角を生やし、黒々とした見事な牛皮と、天を突くほどの巨大な体を持った。領主の城と比較しても遜色ないほどの巨大な巨大な二足歩行の牛だった。

　広場中に轟くビーフの巨大な咆哮を耳にしたナナリーとヒステリアは、圧倒的な力を持った捕食者と対面した野ネズミや野ウサギのように本能的に体を震わせて、ボーゼンとビーフを見上げることしかできなかった。

　しかし狩人として場数を踏み、ビーフがどういったものであるかを見知っていたオルガは、丸焼き広場に姿を現わした予想以上のビーフの巨体に舌打ちしながらも、ビーフの圧倒的な存在感に気圧されて放心状態となっているヒステリアとナナリーを見て、このままではまずいと思い。声を、否、激を飛ばす。

「ヒステリア様っナナリーッビーフの存在感に呑み込まれるな！　己を強く保てっ！」

　オルガの飛ばした激によって、ヒステリアとナナリーが何とか正気を取り戻すことに成功すると、それを確認したオルガは、いつの間にかヒステリアやナナリーやオルガたちを庇うようにビーフに近づいて、注意を引こうとしているガルバンへと声を飛ばした。

「ガルバンッ何とかこの場からヒステリア様とナナリーを逃がす時間を稼いでくれ！」

「わかった！　オルガッお前もヒステリア様とナナリーをこの場から避難させたらすぐさまこの場を離れろよ！」

「わかっている！」

　ガルバンはオルガの返事を聞くと、すぐさま馬を走らせて、何とかビーフの注意を自分に引いて時間を稼ごうと、オルガの仲間の狩人や兵士たちと共にビーフに向かって弓矢を射るが、射った弓矢は、ビーフの堅い牛皮に弾かれて矢の先端さえも突き刺さらなかった。

「まずいぞオルガッ時間稼ぎすらできんかもしれん！」

　矢を弾くビーフの堅い牛皮を見てガルバンが焦ったような声を上げた。

「くっヒステリア様！　ここにビーフが到達するまでの時間がありません！　一刻も早くこの場を離れませんと！」

　しかしオルガの一喝によって正気を取り戻したヒステリアとナナリーは、オルガの言うことを聞かずに、火の消えた丸焼き機に未だロープで縛りつけられている俺に駆け寄っていた。

「ブタさん早く起きて！」

「ブタ様お早く起きてくださいませ！」

　二人が体をゆするが、まったく俺は反応も示さず目も覚まさない。

「二人とも何をしている！　ビーフがここに来るまでもう時間がないのだ！　急いで離れるぞ！」

　オルガが一喝するも、ヒステリアもナナリーも、オルガの声が耳に入っていないのか、俺から離れようとはしなかった。

　そんな時、ふと俺を城へドナドナする道中。俺が俺を運ぶ皆の食料を枯渇するほど食ったことを思い出したナナリーが提案する。

「そうだヒステリア様っブタさんは食べ物を食べることが大好きだからっもしかしたらおいしい食べ物の匂いで起きるかもしれません！」

　ナナリーの提案を聞いたヒステリアが、ハッとしたように表情を変えるとすぐさま胸元に手を入れて、自分の首から垂れさがっている麻の紐を引っ張り袋を取り出した。

「確かにそうですわっナナリーさんのおっしゃる通り、ブタ様ほど食い意地が張っていれば、食べ物の匂いで目を覚ますかもしれませんわっそれにブタ様に渡そうと思って持ってきた物がありましたわ」

　ヒステリアは懐から取り出した袋を開くと、袋の中に幾つも入っている黄金色に輝く梅干し大の大きさの一つの玉を取り出す。

「ヒステリア様それは？」

「我が家に代々伝わる体力の回復や滋養強壮によく聞くと言われる甘くておいしい蜂蜜飴ですわ。ブタ様を逃がした後、ブタ様の体力を維持するのに使ってもらおうとブタ様に差し上げるために持ってきたのですわ。さ、ブタ様。蜂蜜飴を食して体力を回復させてくださいまし」

　ヒステリアが未だに丸焼き機の棒に縛り付けられて吊るされている俺の口の中に蜂蜜飴を強引に押し入れると、無意識のうちに俺の口が動き粗食しだす。

　そうして甘い味が口いっぱいに広がるにつれて、俺の意識も徐々に覚醒し始めて、薄目を開け始める。