私が勇者であんたが魔王よ!

四ノ宮士騎

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第1話 入学式① 聖魔道学園 

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「うおっすっげ~~」

 一人の短い黒髪をした少年が、黒い瞳を見開いて、これから自分が通うことになる学園を見渡して、思わずその醸し出す圧倒的な迫力に飲まれて、口から驚きの言葉を吐き出していた。

 それとは対照的に、彼の傍らに立つ少女は、落ち着き払い学園の出す圧倒的な迫力を目にしていても、たいして動じた風もなく。学園を見渡している少年に声をかける。

「はいはい。これっぽっちのことでいちいち驚かない」

 などと少女は言っているが、敷地面積だけで優に一小国家並みの規模を誇っているのだ。

 しかも彼らが学ぶであろう学舎と思われるものは、国の中央都市の居城に匹敵するほどの大きさを誇る旧時代に作られて、実際籠城戦にも使用された巨大な城であった。

 しかも学園の敷地内と思われるところには、ここから見渡す限りでも各所には小さな砦からちょっとした規模の城に塔。大小様々な山や森。湖や川。さらには小さな規模の実際に人が暮らせるほどの町などが乱立している。

 この学園内でちょっとした冒険や攻城戦。模擬戦争ができるようになっているのである。

 これらを始めて目にして驚かないほうがおかしい。

 学園のかもし出す圧倒的な迫力に飲まれている少年を目にしながら、少女自身もこれから何年か学ぶであろう学舎を希望に満ちた眼差しで見つめていた。

 ここは歴代勇者と魔王を排出した超有名名門校。聖魔道学園である。

 伝説の勇者の血筋を引いているカナタ・ギルバート・オデッセリアは今年で十五才になる。

 これから数年間この聖魔道学園に通って、立派な勇者となるための訓練を受けるために、この学園へとやってきたのである。

 それと同じくして、彼の隣に佇む今年十五才になる少女も、立派な魔王になるために故郷を出て、この学園までやってきたのであった。

「というわけで、カナタ。わかってるわよね?」

「いや、しかしだな」

 カナタと呼ばれた少年は、やっぱり少し納得がいかないといった感じに返事を返す。

「わ・か・って・る・わよね? カナタ?」

 顔を笑みの形に形作りながら、言葉を一句一句区切って、半ば脅しにも取れるような口調で言ってくる傍らの少女にたいして、カナタはハァしゃあないかぁといった感じに口を開いた。

「ああ~はいはい。わかってるって、ルミナ。例のことだろ?」

「うん♪ わかってるなら、よろしい♪」

 嬉しそうにしている少女の名はルミナ、ルミナ・ユア・モーティス。まるで大聖堂に飾られている大きな聖女の描かれた絵画から抜け出してきたかのような美しい理髪的な顔立ちをした美少女である。

 ただ絵画から抜け出してきたかのような。といっても彼女自身の持つ雰囲気に絵画や彫刻がもっているような堅苦しさはない。

 なぜなら絵画から抜け出してきたような美しく調った彼女の顔には、年相応の十代の少女の持つ人間味溢れる愛嬌たっぷりな豊かな表情が浮かんでいるからだ。

 その豊かな表情は、絵画から抜け出してきたかのような整った顔立ちとあいまって、彼女の持つ魅力を十二分に引き出していた。

 自慢の長い美の妖精がもっているようなオレンジ色の髪をツインテールに結わえ付け、二つの愛らしい大きな深く澄んだオレンジ色の瞳には、何者にも屈することのない強き意志を宿し、これから起こることへの大きな希望がありありと見て取れた。

 そしてルミナと呼ばれた少女は、童顔に似合わぬ不遜な態度で、自分よりも小柄なカナタを指差して、子供の頃からカナタにしか言わない口癖で宣言したのだった。

「私が勇者であんたが魔王よ!」

先ほどの紹介を訂正しよう。

 今年十五になるカナタは、自身の名をカナタ・ユア・モーティスと改めて、理不尽にも幼馴染のルミナの昔からの夢を叶えるために彼女の我侭を半ば強引に力づくで押し通されて、これから魔王を目指して魔王科に通うことになる。

 そしてルミナも自身の名をルミナ・ギルバート・オデッセリアと改めて、幼いころの憧れをその未だ発展途上の小さな胸に抱いて、勇者を目指すために幼馴染を誠意ある真摯な(力づくの)説得によって勇者科に通うことになったのである。

 二人がこんなことになったのも過去に起きた出来事がきっかけであり、数日前に学園に向かう折、久方ぶりにあったルミナの一言がきっかけだった。
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