私が勇者であんたが魔王よ!

四ノ宮士騎

文字の大きさ
3 / 88

第2話 入学式② ルミナとカナタの押し問答

しおりを挟む
「で、お前は俺に魔王科に入れと?」

 自分より幾分背の高い少女に声をかけられたのは黒髪黒目全身を黒、漆黒を基調にした服装でまとめあげている少年である。名をカナタという。この彼に話しかけてきた少女の幼馴染である。背丈は十五歳男子の平均より少し低めで、自然自分より背丈の高い少女を見上げる形になりながら問いかける。

「うん♪」

「あ~もしかして、あれか?」

 カナタは少しばかり思考を巡らすと、何か心当たりがあったのか聞いてみる。

「あったりまえでしょ!」

「俺としてはガキの頃の冗談かと思ってたんだけどな」

 というか冗談であってほしいんだけどな。などという内心は吐露せずにルミナの言葉を待つ。

「そんなわけないじゃない!」

「だいちお前は魔……」

「それ以上余計なこといったらカナタ。普通に、殺すからね!」

 言いながら指先に朱色の強大な魔力を集め始める。

 魔王の血族、それも正当な血筋にしか扱えない朱色の魔力だ。

「ってちょっまっおまっ!? わかったっわかったから! ちょっと待てっ!」

 あんなものこんなところで解き放たれたらたまらないと、カナタは必死になって落ち着かせようとルミナを説得にかかる。

 それで何とかルミナは思いとどまったのか、指先に灯していた朱色の凶悪な魔力の塊を引っ込めると、カナタをキッと睨みつけて文句を言った。

「と・に・か・く! どこで誰が聞き耳を立ててるかわからないんだからっ余計なことは言わないこと! いいわねっカナタ!」

「わあったよ。たく。けどどう考えてもおかしくないか?」

「なにが?」

「いや、そもそもだな。勇者ってのは将来魔王を倒すためになるわけで、お前が勇者になっちまったら……」

 親子喧嘩になるんじゃないか? などというカナタの脳裏に浮かんだ素朴な疑問は、ルミナの鋭い視線を受けて静止させられる。

「いや、なんでもない」

「そう。なら一つ聞くけど、もしカナタがこのまま百分の一。いえ、千分の一、ううん。百万、百億分の一の確立で勇者科に通ったとして、カナタはもし将来勇者になったら魔王を倒すの?」

「それはないな。悪いことしてるとかならともかく、別に俺あの人嫌いじゃないし」

「なら、私が勇者になっても問題ないじゃない」

「まぁ確かにそうだけどさ」

「とにかく! カナタがなんと言おうとこればっかりは譲れないのよ!」

「なぁルミナ一つだけ聞いてもいいか?」

「なによ?」

「そこまでして勇者にこだわる理由は」

「そんなの決まってるじゃない!」

 ルミナは左手を腰に当てて、ない胸をそらせながら右手の指先をカナタに向かって突きつけると、強き意思の光をその瞳に宿らせながら、威風堂々と宣言したのだった。

「今の時代魔王より勇者よ! そのほうがかっこいいじゃない! で、とにかく今日から私はルミナ・ギルバート・オデッセリアで、カナタはカナタ・ユア・モーティスね」

「なんで、俺の家名を勝手に使うんだお前は? しかも俺の名前まで変えてんし」

「さすがに名前を変えないとばれると思うのよね」

「いやそもそも俺たち学園に通うんだし、向こうだって馬鹿じゃないんだから、名前変えたぐらいじゃばれると思うぞ?」

「大丈夫だって、そもそもあの学園って実力主義だから、こういうとこって結構アバウトなのよね。それに今時名前だけで本人だって断定できないんだし、あそこは性別も重視してないし絶対ばれないって! ね?」

「ね? というか人の名前を勝手に……変えるべきではないと俺は思うんだが」

「まったく違う名前にしないだけでもありがたいと思いなさいよ」

 自分勝手なわがままをほざくルミナの言い草に小声で、カナタが横暴だ。と呟くと己の悪口には耳ざといルミナが聞き逃すはずもなく。

「何か言った?」

 すぐさま聞き返しながら、指先に強大な朱色の魔力の光を灯しながら言う。

 ルミナが指先に灯した凶悪な魔力の光を目にしたカナタは、冷や汗を浮かべながら下手に今ここでこいつを怒らせると命が危ない。と思いとりあえず今は文句を言わず穏便に済ませることにした。まぁ自然その言葉自体がぶっきらぼうになってしまっていたのだが、別段ルミナは気にしたふうでもなかった。

「なんでもない」

「そう? でもカナタが納得してくれて良かったわ。実はもう学園に輸送するプロフィールにさっきの名前載せちゃってたのよね」

「…………」

「ん? どうかしたのカナタ?」

「いや、なんでもない。ただこの世の不条理について考えていただけさ」

 ニヒルな感じに言うカナタに対して、ルミナはふ~んと不思議そうにカナタを見ていた。

「とにかくっ今日から私はユア・モーティスじゃなくってギルバート・オデッセリア。で、カナタはモーティス家の子息って事でよろしく♪」

 ハァまぁここでこいつに抗議したところでどうせ力づくで言うこときかせられるんだろうし、ここはおとなしく従っとくしかないか。どのみち学園に着いたらさすがにばれんだろ~しな。そうしたらさすがにこいつも諦めんだろ? そう考えをまとめるとカナタは仕方ないといった感じに口を開いた。

「はぁったくしょうがねぇな」

「わかったの?」

「ああ」

 カナタは疲れたように頷いたのだった。

「なら、これはもらっておくわね」

 言うが早いかルミナは、カナタが背中に背負っていた薄手の長剣を奪い取る。

「はっ? て、ちょっまて、なんでそう~なるっ!? てか、ルミナッそれ俺の剣っ!」

「あのね。カナタ。魔王科の生徒がこんなもの持ってたらおかしいじゃない?」

「まぁ確かにお前の言うとおりだけど。それ入学祝に俺の父さんにもらった大事な剣なんだが」

「うん。それはわかってるの。けど勇者科の私が剣をもってなかったら、それはそれでおかしくない?」

「ん? ああ、まあ確かにそうだけど? それと俺の剣と何の関係が?」

「だから、これちょ~だい」

「はっ?」

「だから、カナタがお父様にもらったこの剣。私の入学祝いに頂戴♪」

「ざけんなっ!」

「いいじゃないっ! 別に減るもんでもないしっ剣くらい!」

「剣は減るわ!」

「あ~もう、ああ言えばこう言うんだから」

「お前が無茶振りばっかすっからだろが!」

 そのカナタの言葉にルミナは、頬を膨らませながらむ~~と唸り声を上げて抗議してきた。

「唸ってもだめだ。それにんなに剣欲しければ自分で買えばいいだろうが お前んち金持ちなんだし」

「パ……お父様にばれたらさすがにやばいから、買えなかったのよ」

「…………」

「…………」

 しばし無言で見つめあう二人。

「とにかく、これは駄目だ」

「けち」

「なんとでもいえ」

 しばらく頬を膨らませながら、む……と唸り声を上げていたルミナだったが、カナタの意思が変わらないことを悟ったルミナは、仕方ないといった感じにはぁわかったわよ。と言いながら、なにやら自分の荷物の入った茶色い高級そうな鞄をごそごそあさりだす。

 しばらくして目当ての物が見つかったのか。ごそごそまさぐる手を止めてなにやら取り出すと、カナタに見せびらかすかのように手の平に載せる。それは紫がかったどす黒いにっと、その人形の形状からしたら、やたら大きな歯をむき出しにして笑っている人形だった。

 そしてそれを手にしたルミナは、本当に惜しいといった声音でカナタに話しかける。

「ならカナタには私がお父様からもらった……このグッキーの魔法のストラップをあげるわ。なんと、押すとなくのよっグッキーグッキーって、しかも真夜中になると顔まで変わるわ」

「んな不気味なもんいらんわ! つ~かお前が手放したいだけだろうが!」

「……こほん。まぁこれは置いといて」

 取り出したストラップをさりげなくカナタの持っていた荷物の入ったずだ袋に入れようとして手で弾かれる。

「だからさりげなくその不気味なもんを俺の荷物に紛れ込ませようとするな! 俺だってんな薄気味悪いもんいらんわ!」

「あ~もう、とにかくっこれほど私が譲歩してあげてるんだからいい加減譲りなさいよ!」

「これのいったいどこが譲歩してるんだ! つってるんだが?」

「とにかく。黙って。その剣。よこしなさい」

 ルミナは背後にどす黒いオーラを揺らめかせると、一句一句区切りながら高圧的な態度で迫る。

「い・や・だ」

 そのどす黒い魔力にダラダラ冷や汗浮かべながらも、勇気を振り絞ってカナタは断りの言葉をルミナに告げたのだが、もちろんこのわがまま女王様にそんな言葉が通用するはずもなく。

 そのすぐあとには、カナタの抵抗むなしく力づくで、カナタが父さんから入学祝にもらった薄手の長剣をルミナに奪われたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...