私が勇者であんたが魔王よ!

四ノ宮士騎

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第70話 ド・オデッセリアの攻防? ルミナの魔王化と黒き魔竜① 黒き魔竜VSミノタウロス

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 危険を知らせる仲間達の声は当然彼女にも届いていたはずだが、それでもルミナは瞳を閉じて、自身の魔力を高めるために意識を集中させていた。

 ルミナは、自分の仲間達を信じていた。ゆえに自らの身に危険が迫っていることを感じつつも、身じろぎ一つすらせず、表情一つ変えることなく、仲間を信じて、ただ、自分のなすべきことをなすために、行動していたのである。

 そう、例えどのような危険が自分に迫っていたとしても、きっと自分の仲間達ならば、どんな危険からも自分を守ってくれるから。

 それに、いまさらどんな手を打ってきても、もう手遅れ。なぜなら、私の成すべきことはすでに完成しているから。

 ルミナからこの四大都市の一つであるド・オデッセリアの町全体を包み込むほどのオレンジ色の膨大な魔力が溢れ出し、それが紅色のそれえと変わると、真紅の魔力がルミナ自身を包み込んだ。

 そしてゆっくりとルミナはその瞳を開けた。

 元々オレンジ色をしていた瞳や髪の色は、今は自身を包み込んでいる魔力と同じ真紅のそれへと変わっていた。

 真紅の魔力を纏った魔王の娘の誕生である。

 魔王化し本来持つべき力を発揮したルミナの魔力は、解放されると共に自分の意思とは関係なく、周囲一体に建物を揺さぶるほどの衝撃波のような魔力の波動を放った。

 そしてそれと共に、瞬時にルミナ自身の周囲にも、魔法の障壁が作り上げられる。

 その障壁はミノタウロスが繰り出した巨大な剣による一撃を、それを振るうミノタウロスごと軽々と弾き飛ばしたのだった。

 普通は魔力で直接的な打撃やそれを防ぐ防御などは出来ないはずなのだが、それが可能ということは、それほどまでにルミナの持っている魔力が強大であり、また物理的に作用できるほどの力があるということだった。

 そして、ミノタウロスの操る巨大な剣と、それを弾き飛ばしたルミナの作り出した魔力障壁が衝突するときに発生した、その余波とも言うべき魔力を伴った衝撃波が周囲に撒き散らされた。

 二つの力が衝突する余波に巻き込まれた者たちは、あるものはその余波をまともに食らって吹き飛ばされ、またあるものは周囲にある柱や、何がしかの建造物などに捕まって耐え忍んでいた。

 それとは別に魔王化し、真紅の魔力をその身に纏ったルミナは、間髪入れずドゥルグの頭蓋骨の上へと飛び移っていた。

「いくわよっドゥルグ!」

「へ? 行くってどこにだね!?」

 まったく状況が飲み込めていないドゥルグが狼狽した声を上げたが、ルミナはおかまいなしに、

「ハアアアアッッ!」

 と、気合の雄叫びを上げると共に、ルミナは自らの膨大な魔力をドゥルグ・ムド・クアーズと一体化しているスカルドラゴンに注ぎ込んだのだ。

 注ぎ込まれた魔王の血族としてのルミナの魔力が、スカルドラゴンの中で渦巻き、彼らの中が巨大な力で満たされていく。

 ルミナの圧倒的な魔力をその身に受けて、スカルドラゴンの骨が復元していくと共に、スカルンの骨だけの身体を強靭な筋肉が覆い始める。そしてさらにその上を黒く硬い鱗が覆い尽くした。

 そして、ルミナから注ぎこまれた膨大な魔力の胎動が収まったとき、筋骨隆々の全身を硬く黒い鱗で覆われた、一頭の黒きドラゴンがその場に姿を現わしたのだった。

「グルガアアァアア――――ッ!」

 黒きドラゴンが産声ともいうべき咆哮を上げると、黒きドラゴンと一体化しているドゥルグにも、今までに感じたことがないほどの力の奔流が全身を駆け巡った。

「なんなんだね、これは――っ!? おおっ力が、力が溢れ出してくるぞぉおっ! これならば僕はどんな奴にも負けないぞぉ! さぁっかかってきたまえ、牛のバケモノめぇ!」

 ドゥルグの言葉に触発されたのか、先ほどルミナの魔法障壁に吹き飛ばされたミノタウロスが、起き上がると共に野太い雄叫びを上げながら、黒き竜と化したスカルドラゴンに向かって猛然と襲い掛かってきた。

「グオオオオ――ッ!」

 今までのドゥルグなら、敵がこれほどの迫力で襲い掛かってきたならば、なんだかんだと言い訳をつけて、この場から逃げだそうとしていたはずだが、今のドゥルグはルミナから注ぎ込まれた強大な力が全身を駆け巡っている。

 そのためにドゥルグ自身分不相応な自信に満ち溢れていた。

 黒き魔竜と化したドゥルグは、襲い掛かってくるミノタウロスに真正面から向かい合うと、まるで力比べをするかのようにして、互いの爪と爪を合わせるとがっしと組み合った。

「ふぬぬぬぬ……」

「グオオオオ……」

 二体の巨人ともいうべき存在は、互いに組み合ったまままったくといっていいほど微動だにしなかった。
 どうやらこの様子からして双方とも力では互角なようだ。

「ふむ。どうやら君と僕とでは力では、ほぼ互角といったところみたいだね」

「ドゥルグッあんたなに余裕かましてんのよ! そんな場合じゃないでしょう!」

「まぁそこでおとなしく見ていたまえよ、ルミナ女史!」

 自分の頭部に乗っているルミナに、竜の眼を細めながら余裕のそぶりで一瞥をくれると、ドゥルグは第五の腕とも言うべき黒い鱗で覆われた強靭な、野太い尻尾を反り返らせると、その勢いのまま尻尾をまるで鞭のようにして、組み合っているミノタウロスに向かって叩きつけたのだった。

「グオルゥウッッ」

 鞭のような尻尾ではたかれたミノタウロスは、始めて痛みをこらえるようなくぐもった声を上げた。その声を聞いたドゥルグは、

「わははははははっ君のその細く短い牛のような尻尾では、このような真似はできまいて! わはははは!」 

 とまるで悪役のように笑う。

「なかなかやるじゃない」

「まぁ、そこいらの牛と天才たる僕とでは所詮格が違うのだよ、格が」

 さっきまで、やられっぱなしで逃げ腰だったのに、力を得ると人はこうもガラリと変わるのね。とルミナがドゥルグのあまりの豹変振りに感心していると。ドゥルグが調子に乗って再度尻尾を叩きつけた。

「さぁもう一撃くらいたまえ!」

 そしてそうこうしている間にも、もう何度目かの打撃を加えていると、どこからか声が聞こえてきた。
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