私が勇者であんたが魔王よ!

四ノ宮士騎

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第77話 ド・オデッセリアの攻防? ルミナの魔王化と黒き魔竜⑧ 最後の攻撃

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「みんなっいまだ! 頼むっ!」

 カナタが時の声を発するとそれに呼応するかのようにして、カナタたちに協力している学院の生徒たちから声が上がった。

「ああっ! 任せろ! みんなっ今だ! 放てぇぇぇっっ!」

 言うが早いかカナタの声に反応して動き出した生徒たちは、のけぞったばかりで体制が整いきれていないミノタウロスに向かって、一本のバリスタの矢を解き放った。

 もちろん。それはただのバリスタの矢などではない。それは学院に残っていた生徒たちが、最後の気力と力を振り絞りバリスタの矢に何重にもコーティングの魔法を施して矢の強度を上げ、さらにその矢に幾条もの風の魔法を纏わせて、極限まで矢の推進力を上げた代物である。

 しかも、その矢の先端にはありったけの魔力が込められた破壊に特化している雷の魔法が付与されていた。

 そしてさらにいうならば、風と雷の力は非常に相性がよく、お互いの力を高めあう性質を持ち合わせていた。そのせいもあって、元々の風と雷の魔法の力は何倍にも膨れ上がりその威力を増していった。

 風の魔法はその威力を増すと同時に、矢の先端を中心に渦を巻き始め、雷の魔法はそれが当たり前のように、自然に矢を取り巻く風に溶け込んでいった。

 そして瞬く間に合わさった二つの魔法は、互いの相乗効果によってその威力を高めながら融合していくと、強力な雷を纏った竜巻と化した。

 しかもその竜巻と化した先端部分は、高速回転する風と雷二つの魔法の力が最も発揮された場所となり、まるでドリルのような鋭さを持つにいったのだった。

 まさにここに雷を纏った竜巻の矢、雷竜の矢。いや雷竜の牙。ライジング・ファングとも呼べる魔法の牙が誕生したのである。

 一条の稲妻と化した雷竜の牙は、周囲に雷をちらつかせながらカナタの合図と共に学院の生徒達の手によって解き放たれると、ミノタウロスに向かって襲い掛かっていったのだった。

 ミノタウロスの拡大した隙を狙って襲い掛かる雷竜の牙。

 その存在を知ってかしらずか、イルのギガント・ナックルをまともに食らったミノタウロスは、のけぞりから回復するなり、

「グルガァアアアァアアアァアアア――ッ!」

 と、怒りの咆哮を上げた。

 そして、ミノタウロスは目を血走らせながら、未だ視界は赤い一枚布に覆われているというのに、なりふり構わずまるで狂ったかのように強大な両腕を振り回して反撃に出たのだった。

 どうやらこの様子からして、巨人は先ほどイルに食らったギガント・ナックルが相当に応えているらしく、かなり頭にきているようだった。

 しかしその狂ったような行動が、巨人の運命を一瞬大きく変えたのである。

 視界が遮られているというのに、なりふり構わずに振り回した左腕が、偶然にも己に向かい襲い掛かってきた雷竜の牙に当たりその軌道を反らせたのだ。

 それは偶然腕に当たって軌道が変化したにすぎない。しかし、それを目にしていた人々の間には動揺が広がっていった。

 そして、バリスタの矢を偶然にもかわし、その後巨大な赤い一枚布を振り払ったミノタウロスは、上空を仰ぎ見るなり空に向かって本能のままに猛り狂い咆えた。

「グルオォォオオォォオオオオオ――――ッ!」

 怒号ともいえるその咆哮は、このド・オデッセリアの町全体にいきわたり、生きとし生ける者たちの心臓を凍てつかせた。

 自分たちの切り札とも言うべき一撃を、偶然とはいえあっさりとかわされてしまい動揺していたところへ追い討ちをかけるかのようにして、あの怒号とも言うべきミノタウロスの咆哮が町中に響き渡ったのだ。それはぎりぎりの線で耐えていた人々を恐慌に陥らせ、この場から逃げ出させるには十分だった。

「もうだめだ……」

「みんな逃げろぉ!」

「うわあああっ!」

 ミノタウロスの咆哮を耳にした人々は、例えこの場から逃げおおせたとしても、町中に溢れかえった冥界の魔物たちから自分たちが逃れる術などないとわかっていながらも、この場から泣き叫びながら逃げ出さずにはいられなかったのである。

 しかしそれとは別に、ルミナやカナタたちと共に青銅の巨人に立ち向かった人たちは、巨人の怒号とも呼べる咆哮を耳にして、おびえた表情を浮かべながらも、大多数のものは逃げ出そうとはせずにその場に踏み止まったのである。

 とはいっても、あんな形で自分たちの切り札とも言うべきものを失った人々の間には、やはり少なからず動揺が広がり絶望感がにじみ出ていたことはいうまでもない。

 そしてそれは彼らの中にいるカナタも同じようだった。カナタもまさかあんな形で、自分の考えた切り札を失うとは思っても見なかったからだ。

 しかしそれでもカナタは、最後の最後まで諦めてたまるかよ! と一抹の望みを胸に何か、何かないかとあたりを見回していた。

 そんな時だった。カナタの目にふとある人物の姿が映りこんできたのは。

 それの姿を目にしたカナタは、まだだ、まだ、俺たちは運命の女神って奴に見放されちゃいない! と、思わず心の中で歓声をあげていた。

 なぜなら、狙いを外れたバリスタの矢の向かう先の屋上には、先ほど物凄い一撃をミノタウロスに浴びせかけたあの小さな勇者、イル・クア・ラシェスの姿があったからだった。
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