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未来へと歩む道
11、下山にはつきもの
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見渡す限りの平野部は緑の絨毯だった。点在する集落は帝都でみたより遙かに劣る昔ながらの建屋だが、景色に溶け込み絵画にも見えた。
「が、頑張った甲斐がある景色」
「……そうだな」
少し寂しげに微笑むフィルを見て思うのは、昔の景色と違うのを悲しく感じてるんじゃないかってことだ。
「もしかして住んでた?」
「いや、俺は旧帝都に。こう何も無くなってるとは思わなくてな」
「数百年振りに来たとか?」
「そうだな。これからも時々旅行しないか。執事のレオもいいが、普段のお前は子供っぽくていい」
「……旅行は同意」
「楽しいと褒めてるんだ」
「微妙」
石造りの塔の建物は頑丈で、遺跡とは言い難い程形がしっかり残っていた。内部には古語と思える文字と壁画。戦争と魔法に関する絵ばかりだった。古語は俺には読めなくてフィルに聞いても絵と同じ内容だと言われた。
「収穫なし?」
「……そうだな」
間があったな。戦争とかで気になること書いてたかな。でもフィルが言わないのは俺に必要ないって事だよね。
「昔来たことある?」
「ある。うろ覚えだし、レオと来たかった。もう少しだけ帝国を一緒に観てくれるか」
「それは勿論」
「よし、駅に戻るか」
生暖かい突風が吹き始めた。高地程山の天気は変わりやすい。この山はそんなに高くないけど、この世界に天気予報は無いから仕方の無いことだ。フィルも心配した通りに大粒の雨が降り出した。
下山中は雨宿り出来る場所も無く、全身ずぶ濡れになる。貴重品や手荷物は駅に預けてるし、手持ちは軽食と水筒だけだ。体が冷えてくる以外は滑り易くなった下山道が不安だった。
「眼福」
「?」
先を行くフィルが立ち止まり、段差の大きい場所で手を差し伸べてきた。
水を含み身体に張り付くシャツは透け、造りのいい身体の線が見えていた。顔にはしっとりと濡れそぼる髪も張り付き、水も滴るいい男とはこの事だと思った。
待てよ。眼福?シャツは透けてる?
俺も同じずぶ濡れだと自分の胸元を見下ろすと、乳首は透けてるし細い体の線が丸見えだった。
「……変態」
「お互い見慣れてるだろ」
「視線がやらしい」
「いいから滑るしそこ降りろ」
集中豪雨とでもいえる大粒の雨が続く。山道は泥水も出ている。所々は小石も転がり、土砂崩れが不安になって来た。でもフィルがいる。だって無詠唱で魔術を使う魔力持ちだ。何も心配要らない。
「下山は登りで使わない筋肉を使う。足が怠くないか?」
「怠いです。休憩は……」
「登りで休んだトコまで来た。頑張ったな。ここで少し休もう。身体が冷えたから術を使うか。こっちに来い」
中間地点だと言われた岩場に到着した。平らな箇所もあり岩を背に休めたけど、この土砂降りで泥水の川が出来ていた。
「ちょっとトイレ!」
「近くでしろ」
「いやデス!」
「危ないから崖淵にいくな」
「端に寄らないからっ
「レオ!!」
フィルの忠告を聞いたのに、雨と泥水と岩場の苔を舐めきっていた。思いっきり足を滑らせ転倒だけなら未だしも、運悪く足場が崩れ落ちた。
ガラガラと崩れ落ちる石と、滑り落ちる身体は根や岩肌にあちこち打ち付ける。高木が少なく草木の中を流れるように滑って行くのがわかる。
・・・これ死ぬかも。
身体が回転し岩場に落ちたのもわかった。速度がついたままゴロゴロと抵抗できず転がるだけの人の体は、法則に従うだけで無力だ。
俺って、何でこんなに冷静?
走馬灯のように人生流れてないから?
今世の母は幼児の頃に死別。
クソ親父は元気かな。
村の飢饉はフィルが支援した。
領主が変わって平和ってきいた。
家を出た時は十六。歳だけは立派な成人。
死にかけたけど俺は執事になれた。
人生を考えてみても浮かぶのはフィルの顔や仕草、優しく触れてくる手だった。
フィルが好き。
やがて身体が何かにぶつかり停止した。視界には傾斜のある落下してきた山肌、草木と岩場と剥き出しの地面。青い蝶か鳥のようなものが飛んでる気がした。
落ちた場所は遙か上らしく見えもせず、フィルの声も聞こえなかった。
冷静な精神状態と身体の痛みが殆ど無いことが不思議だった。動かずに現状を把握する。
「……膜?」
雨が当たらない。透明なガラスでもあるかのように滴る水滴が見えた。恐る恐る手を動かし触れてみるとシャボン玉が弾けるように消えてしまった。
小降りになった雨粒が全身を浸していくのがわかる。
「フィルだ」
魔術で全身を包むクッションか何かだったようだ。咄嗟に俺を守ってくれたとわかる。ドジな自分が嫌になった。
「ごめんフィル……ありがとう」
ゆっくり起きてみると切り傷が多数あれど、骨折や酷い打撲がなく身体は無事だ。たすき掛けしたバッグもそのままだった。中身を確認すると甘味と水筒が残っている。
今頃心配してるかな。呆れてるかな。それとも怒ってるかな。これ、場所動かない方がいい?登るなんて馬鹿はしない。ここから下山は可能?
転生記憶とか活用すると、登山道によるから総歩時間はあてにならない。展望景観から標高四百メートル以下。中間地点で休憩して転落したから、短絡的だけと下山出来る距離だと考える。どこに出るかは賭けだけどさ。
「フィルなら俺がどうするって思うかな」
レオは手頃な石で木の根をガリガリと擦り、「無事。下山。レオ」と文字を書いた。大きめの石には数カ所に矢印を書いた。
「ここに降りてはこないだろうけど一応ね。これでよし。後で会おうねフィル」
レオは落下してきた方を見上げてから、ゆっくりと木を掴んで滑らない足場を選んで下山し始めた。
「が、頑張った甲斐がある景色」
「……そうだな」
少し寂しげに微笑むフィルを見て思うのは、昔の景色と違うのを悲しく感じてるんじゃないかってことだ。
「もしかして住んでた?」
「いや、俺は旧帝都に。こう何も無くなってるとは思わなくてな」
「数百年振りに来たとか?」
「そうだな。これからも時々旅行しないか。執事のレオもいいが、普段のお前は子供っぽくていい」
「……旅行は同意」
「楽しいと褒めてるんだ」
「微妙」
石造りの塔の建物は頑丈で、遺跡とは言い難い程形がしっかり残っていた。内部には古語と思える文字と壁画。戦争と魔法に関する絵ばかりだった。古語は俺には読めなくてフィルに聞いても絵と同じ内容だと言われた。
「収穫なし?」
「……そうだな」
間があったな。戦争とかで気になること書いてたかな。でもフィルが言わないのは俺に必要ないって事だよね。
「昔来たことある?」
「ある。うろ覚えだし、レオと来たかった。もう少しだけ帝国を一緒に観てくれるか」
「それは勿論」
「よし、駅に戻るか」
生暖かい突風が吹き始めた。高地程山の天気は変わりやすい。この山はそんなに高くないけど、この世界に天気予報は無いから仕方の無いことだ。フィルも心配した通りに大粒の雨が降り出した。
下山中は雨宿り出来る場所も無く、全身ずぶ濡れになる。貴重品や手荷物は駅に預けてるし、手持ちは軽食と水筒だけだ。体が冷えてくる以外は滑り易くなった下山道が不安だった。
「眼福」
「?」
先を行くフィルが立ち止まり、段差の大きい場所で手を差し伸べてきた。
水を含み身体に張り付くシャツは透け、造りのいい身体の線が見えていた。顔にはしっとりと濡れそぼる髪も張り付き、水も滴るいい男とはこの事だと思った。
待てよ。眼福?シャツは透けてる?
俺も同じずぶ濡れだと自分の胸元を見下ろすと、乳首は透けてるし細い体の線が丸見えだった。
「……変態」
「お互い見慣れてるだろ」
「視線がやらしい」
「いいから滑るしそこ降りろ」
集中豪雨とでもいえる大粒の雨が続く。山道は泥水も出ている。所々は小石も転がり、土砂崩れが不安になって来た。でもフィルがいる。だって無詠唱で魔術を使う魔力持ちだ。何も心配要らない。
「下山は登りで使わない筋肉を使う。足が怠くないか?」
「怠いです。休憩は……」
「登りで休んだトコまで来た。頑張ったな。ここで少し休もう。身体が冷えたから術を使うか。こっちに来い」
中間地点だと言われた岩場に到着した。平らな箇所もあり岩を背に休めたけど、この土砂降りで泥水の川が出来ていた。
「ちょっとトイレ!」
「近くでしろ」
「いやデス!」
「危ないから崖淵にいくな」
「端に寄らないからっ
「レオ!!」
フィルの忠告を聞いたのに、雨と泥水と岩場の苔を舐めきっていた。思いっきり足を滑らせ転倒だけなら未だしも、運悪く足場が崩れ落ちた。
ガラガラと崩れ落ちる石と、滑り落ちる身体は根や岩肌にあちこち打ち付ける。高木が少なく草木の中を流れるように滑って行くのがわかる。
・・・これ死ぬかも。
身体が回転し岩場に落ちたのもわかった。速度がついたままゴロゴロと抵抗できず転がるだけの人の体は、法則に従うだけで無力だ。
俺って、何でこんなに冷静?
走馬灯のように人生流れてないから?
今世の母は幼児の頃に死別。
クソ親父は元気かな。
村の飢饉はフィルが支援した。
領主が変わって平和ってきいた。
家を出た時は十六。歳だけは立派な成人。
死にかけたけど俺は執事になれた。
人生を考えてみても浮かぶのはフィルの顔や仕草、優しく触れてくる手だった。
フィルが好き。
やがて身体が何かにぶつかり停止した。視界には傾斜のある落下してきた山肌、草木と岩場と剥き出しの地面。青い蝶か鳥のようなものが飛んでる気がした。
落ちた場所は遙か上らしく見えもせず、フィルの声も聞こえなかった。
冷静な精神状態と身体の痛みが殆ど無いことが不思議だった。動かずに現状を把握する。
「……膜?」
雨が当たらない。透明なガラスでもあるかのように滴る水滴が見えた。恐る恐る手を動かし触れてみるとシャボン玉が弾けるように消えてしまった。
小降りになった雨粒が全身を浸していくのがわかる。
「フィルだ」
魔術で全身を包むクッションか何かだったようだ。咄嗟に俺を守ってくれたとわかる。ドジな自分が嫌になった。
「ごめんフィル……ありがとう」
ゆっくり起きてみると切り傷が多数あれど、骨折や酷い打撲がなく身体は無事だ。たすき掛けしたバッグもそのままだった。中身を確認すると甘味と水筒が残っている。
今頃心配してるかな。呆れてるかな。それとも怒ってるかな。これ、場所動かない方がいい?登るなんて馬鹿はしない。ここから下山は可能?
転生記憶とか活用すると、登山道によるから総歩時間はあてにならない。展望景観から標高四百メートル以下。中間地点で休憩して転落したから、短絡的だけと下山出来る距離だと考える。どこに出るかは賭けだけどさ。
「フィルなら俺がどうするって思うかな」
レオは手頃な石で木の根をガリガリと擦り、「無事。下山。レオ」と文字を書いた。大きめの石には数カ所に矢印を書いた。
「ここに降りてはこないだろうけど一応ね。これでよし。後で会おうねフィル」
レオは落下してきた方を見上げてから、ゆっくりと木を掴んで滑らない足場を選んで下山し始めた。
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