70 / 74
未来へと歩む道
16、俺、迷走する
しおりを挟む
メルダさんは典型的貴族だった。
従僕とは何か。貴族の出自だろうがただの召使いだ。客室も食事する場所も主と離れて、出勤する為に屋敷に側に行くという線引きを明瞭にしていた。
俺はここでは執事と紹介された。
フィルがそういうなら従うしかない。
久し振りに一人で眠るのが不思議だった。
エリアルさんの屋敷では思いもしなかった。
そうだよ。エロいことなしなくても最近ずっと一緒に寝てたんだ。暑いと離れろと怒ったり、寒いと自分から抱きついたりしてた。
独り寝が寂しいってこの事か。気不味いままだし余り眠れなかった。
それでも毎日朝は来るわけで。
「メルダと出掛ける。レオは留守番だ」
「……わかりました」
「迷惑かけるなよ」
執事として屋敷に入ると、フィルは見送りはいいと、メルダさんと腕を組み仲よさ気に外出した。
仲よさ気。色眼鏡がなくてもそう見えた。似合いの二人だった。自分で思って少し後悔したけど、また胸が重苦しくなった。
留守番。他家で主に置いてけぼりの執事は、することが無い。執事といえど客だからだ。
「レオ、観光しないか」
「……いいです」
この屋敷の従僕は数人いて、シューは執事の下の雑用係りのひとりだった。歳だけは近く二十五で俺の担当になったらしい。見た目は自分と正反対。普通に好青年だ。
「……何か雑用無いですか」
「客に仕事は無いなあ」
「……じゃあ、寝ます」
「俺、観光担当なんだ。仕事させてくれないかな。昨日もそうだったろ。体調悪いのか」
悪いよ。気分が良く無い。フィルに用事が無いと言われ放置二日目。フィルが構ってくれなくて他家でどうしろってんだ。
夜も眠れないと食も落ちる。怠いしする事がなくて鬱々と考えて、引きこもりになる以外やる気が出るかってんだ。
俺、病んできた。
かといって、気持ちの問題だとわかってるし病気じゃない。この屋敷で迷惑は掛けられない。フィルにも迷惑、という事になる。
「……じゃあ、観光お願いします」
「レオは顔は良いのに暗いなあ」
「……そうですね。顔は良いですね」
「言うねえ」
そう。俺の取り柄は顔。そしてこの細い身体だけだ。女性と見紛うこの容姿が無ければ、フィルだって見向きもしなかったんじゃないかな。拾われた時は骨と皮だったけど。
見合うように負けないように頑張ってきた。
わきまえろってフラッグさんが言ってた。
ノールさんは勘違いするなって。
マズイ。思考も病んできた。マイナスだ。
俺は基本前向きだ。どうした自分。そんなにフィルが好きなのか。恋の病ってやつか?
シューが先導し、街を歩き歴史的建造物や、今流行りの店だとか話は何となく聞こえていたけど見て楽しむ気力も無かった。
だって今、フィルが俺を必要としてない。
側にいてくれない。
・・・寂しい。
当たり前だと思ってた事が途切れた。
たったの一日なのに何だこの空虚な気持ち。
「メルダ様だ。二人で買い物かあ」
シューの声に俯いた顔を上げた。向かいの通りでフィルとラウダさんは腕を組み、二人だけで仲睦まじく荷を分け持ち歩いている所だった。
やっぱり似合いの二人だ。
メルダさんが笑顔で話しかけ、フィルはそれに笑顔で答える。俺が並ぶより自然だと思った。そんな事考える自分が可笑しかった。
フィルに嫌われた訳じゃない。俺が勝手に気不味く感じてるだけ。歳の差の歴史とか背景に今更ビビってるだけ。隠し事されてることに勝手に傷付いて、自分の器の小ささに自己嫌悪してるだけ。
メルダさんの頬ににフィルがキスをしたのが見えた。満足そうに微笑見返すラウダさんも見えた。
キス。
頬にするのは挨拶で、好意で、愛情表現だ。
フィルが他の人にしてるのを初めて見た。
この感情は何だろう。
もやもやするのは嫉妬か。多分そうだ。それに胸がチクチクするのは悲しいやつ。
俺がノールさんにキスされたのを見てたってフィルは言った。こんな気持ちになってくれたかな。平気そうだったな。
俺、転生しまくってるけど、やっぱり好きな人に思う事は同じだよ。チクショウ!
ブワッと涙が溢れ出したのを自覚した。
俺、こんなにもフィルが好きだ。
誰にも触れてほしくない。
俺はフィルの執事。
フィルは俺の主。
俺の。
辛くなって走り出していた。
「おい、レオ?!」
シューが呼んで追いかけて来てる気もした。それでも一人になりたくて、知らない街を泣きながら走った。
迷うとわかってるのに。
迷惑を掛けるとわかってるのに。
涙が止まらなくて、足も止まらなかった。
俺、馬鹿だ。
やっぱり自己中だ。
人にぶつかるまで走り続けていた。
「ああ?なんだあ?」
「……ごめんなさい」
「うわっ、きたねえっ、鼻水かコレ!」
「あはははっ、なんだそりゃ!」
「このクソガキッ!」
ゴッ
「っ?」
謝ったのに胸ぐらを掴まれた瞬間殴られた。
いるよね。どこの街にも短気なチンピラが。まあ、鼻水か涙でぶつかってベトベトにされたらキレるよなあ。
「うわー、可愛い子じゃんか」
「るせえっ、この汚れ具合見てみろよ」
「あははは!べっとべと!」
「笑うな!おい、クソガキどうしてくれる」
どうって、この世界クリーニングないしな。
謝るしかないじゃんか。金かな、金で解決する?
俺はズボンのポケットから財布を出した。
従僕とは何か。貴族の出自だろうがただの召使いだ。客室も食事する場所も主と離れて、出勤する為に屋敷に側に行くという線引きを明瞭にしていた。
俺はここでは執事と紹介された。
フィルがそういうなら従うしかない。
久し振りに一人で眠るのが不思議だった。
エリアルさんの屋敷では思いもしなかった。
そうだよ。エロいことなしなくても最近ずっと一緒に寝てたんだ。暑いと離れろと怒ったり、寒いと自分から抱きついたりしてた。
独り寝が寂しいってこの事か。気不味いままだし余り眠れなかった。
それでも毎日朝は来るわけで。
「メルダと出掛ける。レオは留守番だ」
「……わかりました」
「迷惑かけるなよ」
執事として屋敷に入ると、フィルは見送りはいいと、メルダさんと腕を組み仲よさ気に外出した。
仲よさ気。色眼鏡がなくてもそう見えた。似合いの二人だった。自分で思って少し後悔したけど、また胸が重苦しくなった。
留守番。他家で主に置いてけぼりの執事は、することが無い。執事といえど客だからだ。
「レオ、観光しないか」
「……いいです」
この屋敷の従僕は数人いて、シューは執事の下の雑用係りのひとりだった。歳だけは近く二十五で俺の担当になったらしい。見た目は自分と正反対。普通に好青年だ。
「……何か雑用無いですか」
「客に仕事は無いなあ」
「……じゃあ、寝ます」
「俺、観光担当なんだ。仕事させてくれないかな。昨日もそうだったろ。体調悪いのか」
悪いよ。気分が良く無い。フィルに用事が無いと言われ放置二日目。フィルが構ってくれなくて他家でどうしろってんだ。
夜も眠れないと食も落ちる。怠いしする事がなくて鬱々と考えて、引きこもりになる以外やる気が出るかってんだ。
俺、病んできた。
かといって、気持ちの問題だとわかってるし病気じゃない。この屋敷で迷惑は掛けられない。フィルにも迷惑、という事になる。
「……じゃあ、観光お願いします」
「レオは顔は良いのに暗いなあ」
「……そうですね。顔は良いですね」
「言うねえ」
そう。俺の取り柄は顔。そしてこの細い身体だけだ。女性と見紛うこの容姿が無ければ、フィルだって見向きもしなかったんじゃないかな。拾われた時は骨と皮だったけど。
見合うように負けないように頑張ってきた。
わきまえろってフラッグさんが言ってた。
ノールさんは勘違いするなって。
マズイ。思考も病んできた。マイナスだ。
俺は基本前向きだ。どうした自分。そんなにフィルが好きなのか。恋の病ってやつか?
シューが先導し、街を歩き歴史的建造物や、今流行りの店だとか話は何となく聞こえていたけど見て楽しむ気力も無かった。
だって今、フィルが俺を必要としてない。
側にいてくれない。
・・・寂しい。
当たり前だと思ってた事が途切れた。
たったの一日なのに何だこの空虚な気持ち。
「メルダ様だ。二人で買い物かあ」
シューの声に俯いた顔を上げた。向かいの通りでフィルとラウダさんは腕を組み、二人だけで仲睦まじく荷を分け持ち歩いている所だった。
やっぱり似合いの二人だ。
メルダさんが笑顔で話しかけ、フィルはそれに笑顔で答える。俺が並ぶより自然だと思った。そんな事考える自分が可笑しかった。
フィルに嫌われた訳じゃない。俺が勝手に気不味く感じてるだけ。歳の差の歴史とか背景に今更ビビってるだけ。隠し事されてることに勝手に傷付いて、自分の器の小ささに自己嫌悪してるだけ。
メルダさんの頬ににフィルがキスをしたのが見えた。満足そうに微笑見返すラウダさんも見えた。
キス。
頬にするのは挨拶で、好意で、愛情表現だ。
フィルが他の人にしてるのを初めて見た。
この感情は何だろう。
もやもやするのは嫉妬か。多分そうだ。それに胸がチクチクするのは悲しいやつ。
俺がノールさんにキスされたのを見てたってフィルは言った。こんな気持ちになってくれたかな。平気そうだったな。
俺、転生しまくってるけど、やっぱり好きな人に思う事は同じだよ。チクショウ!
ブワッと涙が溢れ出したのを自覚した。
俺、こんなにもフィルが好きだ。
誰にも触れてほしくない。
俺はフィルの執事。
フィルは俺の主。
俺の。
辛くなって走り出していた。
「おい、レオ?!」
シューが呼んで追いかけて来てる気もした。それでも一人になりたくて、知らない街を泣きながら走った。
迷うとわかってるのに。
迷惑を掛けるとわかってるのに。
涙が止まらなくて、足も止まらなかった。
俺、馬鹿だ。
やっぱり自己中だ。
人にぶつかるまで走り続けていた。
「ああ?なんだあ?」
「……ごめんなさい」
「うわっ、きたねえっ、鼻水かコレ!」
「あはははっ、なんだそりゃ!」
「このクソガキッ!」
ゴッ
「っ?」
謝ったのに胸ぐらを掴まれた瞬間殴られた。
いるよね。どこの街にも短気なチンピラが。まあ、鼻水か涙でぶつかってベトベトにされたらキレるよなあ。
「うわー、可愛い子じゃんか」
「るせえっ、この汚れ具合見てみろよ」
「あははは!べっとべと!」
「笑うな!おい、クソガキどうしてくれる」
どうって、この世界クリーニングないしな。
謝るしかないじゃんか。金かな、金で解決する?
俺はズボンのポケットから財布を出した。
0
あなたにおすすめの小説
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する
スノウマン(ユッキー)
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。
そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる