俺はいつも拾われている

つちやながる

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未来へと歩む道

16、俺、迷走する

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メルダさんは典型的貴族だった。

従僕とは何か。貴族の出自だろうがただの召使いだ。客室も食事する場所も主と離れて、出勤する為に屋敷に側に行くという線引きを明瞭にしていた。

俺はここでは執事と紹介された。
フィルがそういうなら従うしかない。

久し振りに一人で眠るのが不思議だった。
エリアルさんの屋敷では思いもしなかった。

そうだよ。エロいことなしなくても最近ずっと一緒に寝てたんだ。暑いと離れろと怒ったり、寒いと自分から抱きついたりしてた。
独り寝が寂しいってこの事か。気不味いままだし余り眠れなかった。

それでも毎日朝は来るわけで。

「メルダと出掛ける。レオは留守番だ」
「……わかりました」
「迷惑かけるなよ」

執事として屋敷に入ると、フィルは見送りはいいと、メルダさんと腕を組み仲よさ気に外出した。

仲よさ気。色眼鏡がなくてもそう見えた。似合いの二人だった。自分で思って少し後悔したけど、また胸が重苦しくなった。

留守番。他家で主に置いてけぼりの執事は、することが無い。執事といえど客だからだ。

「レオ、観光しないか」
「……いいです」

この屋敷の従僕は数人いて、シューは執事の下の雑用係りのひとりだった。歳だけは近く二十五で俺の担当になったらしい。見た目は自分と正反対。普通に好青年だ。

「……何か雑用無いですか」
「客に仕事は無いなあ」
「……じゃあ、寝ます」
「俺、観光担当なんだ。仕事させてくれないかな。昨日もそうだったろ。体調悪いのか」

悪いよ。気分が良く無い。フィルに用事が無いと言われ放置二日目。フィルが構ってくれなくて他家でどうしろってんだ。

夜も眠れないと食も落ちる。怠いしする事がなくて鬱々と考えて、引きこもりになる以外やる気が出るかってんだ。

俺、病んできた。

かといって、気持ちの問題だとわかってるし病気じゃない。この屋敷で迷惑は掛けられない。フィルにも迷惑、という事になる。

「……じゃあ、観光お願いします」
「レオは顔は良いのに暗いなあ」
「……そうですね。顔は良いですね」
「言うねえ」

そう。俺の取り柄は顔。そしてこの細い身体だけだ。女性と見紛うこの容姿が無ければ、フィルだって見向きもしなかったんじゃないかな。拾われた時は骨と皮だったけど。

見合うように負けないように頑張ってきた。

わきまえろってフラッグさんが言ってた。
ノールさんは勘違いするなって。
マズイ。思考も病んできた。マイナスだ。
俺は基本前向きだ。どうした自分。そんなにフィルが好きなのか。恋の病ってやつか?

シューが先導し、街を歩き歴史的建造物や、今流行りの店だとか話は何となく聞こえていたけど見て楽しむ気力も無かった。

だって今、フィルが俺を必要としてない。
側にいてくれない。
・・・寂しい。
当たり前だと思ってた事が途切れた。
たったの一日なのに何だこの空虚な気持ち。

「メルダ様だ。二人で買い物かあ」

シューの声に俯いた顔を上げた。向かいの通りでフィルとラウダさんは腕を組み、二人だけで仲睦まじく荷を分け持ち歩いている所だった。

やっぱり似合いの二人だ。

メルダさんが笑顔で話しかけ、フィルはそれに笑顔で答える。俺が並ぶより自然だと思った。そんな事考える自分が可笑しかった。

フィルに嫌われた訳じゃない。俺が勝手に気不味く感じてるだけ。歳の差の歴史とか背景に今更ビビってるだけ。隠し事されてることに勝手に傷付いて、自分の器の小ささに自己嫌悪してるだけ。

メルダさんの頬ににフィルがキスをしたのが見えた。満足そうに微笑見返すラウダさんも見えた。

キス。
頬にするのは挨拶で、好意で、愛情表現だ。
フィルが他の人にしてるのを初めて見た。
この感情は何だろう。
もやもやするのは嫉妬か。多分そうだ。それに胸がチクチクするのは悲しいやつ。

俺がノールさんにキスされたのを見てたってフィルは言った。こんな気持ちになってくれたかな。平気そうだったな。

俺、転生しまくってるけど、やっぱり好きな人に思う事は同じだよ。チクショウ!

ブワッと涙が溢れ出したのを自覚した。

俺、こんなにもフィルが好きだ。
誰にも触れてほしくない。
俺はフィルの執事。
フィルは俺の主。
俺の。

辛くなって走り出していた。

「おい、レオ?!」

シューが呼んで追いかけて来てる気もした。それでも一人になりたくて、知らない街を泣きながら走った。
迷うとわかってるのに。
迷惑を掛けるとわかってるのに。
涙が止まらなくて、足も止まらなかった。

俺、馬鹿だ。

やっぱり自己中だ。

人にぶつかるまで走り続けていた。


「ああ?なんだあ?」
「……ごめんなさい」
「うわっ、きたねえっ、鼻水かコレ!」
「あはははっ、なんだそりゃ!」
「このクソガキッ!」

ゴッ

「っ?」

謝ったのに胸ぐらを掴まれた瞬間殴られた。
いるよね。どこの街にも短気なチンピラが。まあ、鼻水か涙でぶつかってベトベトにされたらキレるよなあ。

「うわー、可愛い子じゃんか」
「るせえっ、この汚れ具合見てみろよ」
「あははは!べっとべと!」
「笑うな!おい、クソガキどうしてくれる」

どうって、この世界クリーニングないしな。
謝るしかないじゃんか。金かな、金で解決する?

俺はズボンのポケットから財布を出した。



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