俺は帰りたいんですが。

つちやながる

文字の大きさ
71 / 71
第二章 勇者召喚

ひーーつ!

しおりを挟む
 ガンガンガン…

 拍動する音がする。重痛さという目頭に響くのは人だった頃に味わった苦痛だ。

 風邪で発熱した時、十六歳にして徹ゲーをしてしまった後の肩凝り、背もたれの長い座椅子に勢い良く座りネタのように倒れて頭を強打した時の痛み。それは頭痛。しかも何か熱い。

 ……って何コレ。

 拍動っていうか太鼓の音?周りで変な人?達が逆さまで踊ってるんだが。
 え。俺、動けないし。四脚見ると縛られて吊るされてんだけど。


 ドンドコドンドコ…

「ヒーッ!」
「ヒッヒーッ!」

 ドンドコドンドコ…

「ヒーッ!」
「ヒッヒーッ!」

 それはツッコミがいるんだろうか。俺が逆吊りされて周りで乱舞されてりゃ解るわ。
 火だろ。アマゾン秘境の旅番組なのコレ?

「……何で俺が火炙りにされてんだ」
「ヒッヒーッ!」
「うるさいっ!」

 ドンドコドンドコ…

「ヒーッ!」

 てか、皆どこ行った。
 何でこうなった。

「あっ、あっつ!?」

 やっべ、俺、最強なの魔法耐性だけじゃ?
 焼け死ぬ!?

 魔狼、死す。
(素焼き)
 ※この後スタッフが美味しくいただきました

 完




「……じゃねーよ。俺は帰るんだよ」

 グルルルルッ

 魔力を四肢に集中し、疾走する気で力を入れたら簡単に縄はブチ切れ火元からズレて着地した。

「ヒ……」
「あっ!」
「解けた!」

 脚さえ自由ならどうとでもなる。今の姿は魔狼。大型犬くらいだけどな。後ろ脚でザッザッと火に砂をかけた。

 ドンドコド…

 音が止み、踊りを周回していた仮面を付けたり口元を布で覆ったり楽しそうにしていた人達も立ち止まる。状況を把握する為にも集団を睨んだまま消火した場所を一巡する。耳が尖り角があったり、緑や灰色の皮膚だったり軽く百名を超す人数だった。

 グルルルルッ
 何なんだ一体。
 頭もガンガンする。
 それにこの何民族か知らないが魔族だろ?
 俺を火炙りにして何の儀式だ。この集団の中に村長とか話のわかる奴は……

 シーンと静まり返った村人を改めて見た。

「……ちょっと待て。お前トメちゃんだろ!ゴスロリ魔力だだ漏れ!そこのミニマムはプー!仮面大きすぎて鞄掛けして顔でてるし!手甲したままのルクセルもいるじゃないか!っく」

 自分の声が頭に響き頭痛に変換され鼻シワが寄る。

「なんじゃルー、シラけるの」
「そうだぞ。やると言ったからには最後までやり遂げるのが漢じゃないか」
「は?何の話だ?!」

 プーは走って来て俺の前でブーッ!と駄目出しのつもりなのか腕でバツを作った。

「酒が抜けたかのぅ。ノリの良いルーは一興じゃったのに」
「酒?!」
「忘れてるみたいだな。村長。折角意気投合したのに真っ白みたいだぞ」
 ルクセルは仮面を外し肩を竦めた。頬は軽く染まりホロ酔いお姉さんだ。てゆか何馴染んでんだ軍人!

 ドカドカと向かってくるのは屈強な筋肉を纏った灰色の皮膚の大男、おお……
 ってパースおかしい!遠近おかしいぞ!

 集団に並んでた時左右隣と一緒だったのに目の前に来たら何故見上げる。体高三メートル近いマッチョ。拳王ですか?

「魔狼殿、生贄役、ヤル、言った」
「……は?」
 記憶にないぞ。何でカタコト。

「ははっ、村長!本気で踊るから息切れしてるな。自分が変わりに話そう」
「た、頼む」

 息切れかい!
 ルクセルは器を持って俺の前に来た。ツンと痛い程鼻につくアルコール臭に酒だとわかる。そのまま血管が収縮し頭痛に変わる。

「飲んだら面白いぞ(貴様が)」

 にっこり微笑むルクセルはスーツを着せ、細めの眼鏡を掛ければ秘書のお姉さんにハマり役だと思った。いや待て自分。テンションが確かにおかしい。

「どうした。度数86%だ。余裕だと一気飲みしたじゃないか。もう一杯いかんのか?」
「え?俺、飲んだ?」
「飲んだぞ。よくわからんこと言ってたな。チートやらテンセイで人間がどうだか意味がわからんかったが。食料分けて貰いに入った村で祭りにまで参加させてくれてな。毎年贄が焦げすぎて勿体無いとボヤく村長に変わりをやろうかと自ら打診したじゃないか」
「は?」

 え?度数高い酒飲んで火炙り?
 魔狼になって初めて全身の血が下がったのを経験した。

 よ、よく引火しなかったな俺ーっ!!

「あ、ああ、食料ね。それは協力しないと駄目か。はは」
「そうか。やってくれるか。自分も何も考えず楽しいのは久しくてな。軍規や国の重圧の縛りが無いのはいいな」
 ルクセルはふふっと笑った。

 ……お、お姉さま!

 って、クソ。
 何で俺は狼転生なんだ。

「どうなのじゃ、ルーはやってくれるかの」
「やるそうだ」
「有難い。魔獣に感謝しよう皆の者!」

 わあああぁっ!

 再び村人たちの活気が戻り、太鼓もテンポ良く響き始めた。またあの変な奇声と踊りが始まった。
 ドンっと胸に拳を当て俺にウインクの村長。今普通サイズになってんだけど何。魔力変身の必要あった?意気投合したの全部忘れたわスマン。


 ドンドコドンドコ…

「ヒーッ!」
「ヒッヒーッ!」

 流石に生活魔法の火に変えて貰った。熱くはない。ぽかぽかします。

 逆吊りの丸焼き姿勢は気分は悪い。頭痛も辛い。それでも戦争も人種も何もかも忘れて楽しんでる皆を見て、こんな日も有りかと思った。

 のは数時間まで。

 この祭りは全員が疲れ果て、ひとり残るまで踊るというサバイバルだったようだ。途中から槍や銃剣みたいなのを持って、ギラギラしたヤバイ目で踊る集団は怖かった。
 勝ち残った者は高額賞品がでるらしい。

「我に勝てるものがいるのか!?いないであろう!ヒッヒーッ!」

 トメちゃんの一人勝ちだった。



しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

煌
2017.04.10

……?
どっち? 続くよなあ、つづきあるんだろ!?

見たいよ!?

解除
煌
2017.03.29

『イライラテラマックス・エクストラドリームアタックとでも命名しよう。』

うん。毒されたね

解除
煌
2017.03.23

ふと思った。
こいつ人化したら(いろんな意味で)ヤバそうだ

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。