彼の人達と狂詩曲

つちやながる

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よりそう

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本当にキングスが死んだのかわからない。

だって「またな」って言って出掛けたらちゃんと帰って来てたしなあ。

アイリは、とぼとぼ帰ったし町でちゃんと暮らしているはず。

獣だし時間も日付もわからないのは、獣らしくていいかと思った時もありました。
とりあえず日数を数えることにした。
アイリがきてから約三ヶ月経った。大体。多分。

キングスの家に住み着いて長いし、荷物整理もしたいから最近は人の擬態の練習をしている。
成長して黒だけじゃなくて本当に細部まで色から毛の一本まで擬態出来るようになった。

凄いよ、この魔獣。

そしてモデルは前世の自分。ここは西洋だから日本人じゃないやつになってみた。でもなんでか股間に息子はつかなかった。魔獣として性が無いからかな。服は擬態できないようでキングスのシャツだけ借りてる。彼シャツみたいな事になってて内心苦笑した。
手鏡を見たら懐かしい顔だった。表情も変化できるよう頑張ってる。人になりたい訳じゃなく擬態の極み?自己満足?
だって他にする事がないから。


キングスの部屋はそのままにしていたけど、もう十年も経ったんだね。
散らかしたままだったから埃も凄いし整理させてもらおう。捨てはしないから。

これは日記だろうか。
紙の山の中から出て来たのは厚めの手帳。見るもんじゃないよね人の日記なんて。
それ以前にこの世界の字が読めない事に気がついた。
パラパラとめくるとセピア色の写真が挟まっているのを見つけた。写真機ある世界なんだ。これはキングスと女の人だ。若い二人が仲良く並んで笑ってる。大事にしてるという事は彼女か嫁さんかなあ。

無精髭のおっさん顔しか知らなかったから写真のキングスは若くて可愛く見えた。彼女の笑顔も素敵だった。
気に入って居間のテーブルに飾る事にした。


ゴトン


物音がした。
この家は持ち主不在だから誰が入ってもいい感じなんだけど、今は夜中だ。
魔物か獣かと音の方に確認しにいく事にした。

アイリだった。ドアの前で立ち尽くしていた。
なんか更に痩せていた。

「お前は誰だ、人の家で何をしている」

あ、今人だった。失敗したなあ。俺字も書けないし話せないからどうしよう。いきなり魔獣になったらボコボコにされそうだし。

「誰だ。ここはキングスの家だ。出て行け」

そうだ。あれが有った。おぼつかない動作でチェスト内を探す。

「聞いているのか!」

あった!ずかずかと向かって来たアイリに振りむいて突きつけた。

「は?ハンカチ?がどうした、…っこれ」

ルイが俺を包んだハンカチだった。
覚えてるかな。
暗いけど見えてる?
アイリは覚えていた。くしゃっと握り涙ぐむのが、ろうそくの光でもわかった。

「何故これを…」

俺をしっかり見たアイリ。また燃やすと言われるかも知れないけど、元の姿に戻る事にした。
拾われた時とは違うけど、真っ黒な伸びたゴムのような目だけがある影を好む獣の姿。幻影獣になった。
アイリは驚いて硬直してたけど俺をずっと見ていた。
次はアイリが泣いた日に居た中型犬の姿になった。
アイリが怖がらないように、前脚をゆっくり触手にして伸ばしてハンカチをつんつん引っ張った。

「お、おまえ、まさか、あの魔物なのか?…おっさん捨てなかったのか、は、ははは!」

アイリは笑った。
悲しい顔で笑ってへたりと座り込んだ。

「こっち来いよ魔物。言葉わかるか?」


俺は皆の悲しい切ない顔が嫌いだ。
俺は泣けないんだ。
俺は鳴けもしないんだ。

アイリに近づいて膝に頭をコツンと当てた。

そんな顔するなよ。

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