彼の人達と狂詩曲

つちやながる

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かりそめ

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「俺な、町で辛くなったんだ。知り合いが皆死んで、俺はなんで生きてるんだろうって。よくあるよな。少し町から離れたかった。でも今は何処行っても戦後っての変わらないからさ。ここ思い出してさ…」

膝の上に顎を載せて俺はじっとアイリを見ていた。

「お前、ずっとここにいたのか」

確実に理解してる自分って魔物なのに、言葉通じてるのも変だよなと思った。さりげなく肯定の意味もこめて目を閉じた。

少しでもアイリが寂しくなかったらいいかな。俺、正直寂しかったんだ。
キングス、帰るの遅すぎるよ。
早くモルって呼んで欲しいなあ。

「俺も少しここに居させてくれ」

フッと笑って、アイリは犬の俺を撫でた。

「お前凄えな。完全感触が犬だな」

少し感心して俺をぎゅうと抱きしめた。



キングスのベッドはさすがに使えずソファーでアイリは寝てた。必ずといっていい程夜はうなされていた。
現代日本人だった俺でも知ってるよ。PTSDってやつだろ。

狭いソファーで犬の俺も寄り添って寝る事にした。悪夢なのか飛び起きたら俺を探しては見つけてホッとする。それから、ぎゅっと抱えて寝るようになった。


「この写真お前が見つけたのか。ははっ。おっさん若い。俺も嫁さん見つけないとな」

テーブルの上に置いた写真に気が付いた。アイリも二人の笑顔が気に入ったのか、微笑んで暫く見つめていた。

アイリはキングスじゃ無い。
それはわかってる。二人ともよく知ってる人でも無いけど、今、アイリから目を放したら危うい気がした。

食料がないなと小川で釣りをするというから側に居た。もちろん中型犬の姿だ。

「懐かしいな。お前拾ったのはもっと上流だったな。お、きたきたー」

釣竿をあげると見事に川魚が釣れていた。
さすがだなって意味で俺の頭をコツンと当てた。

「おっ、褒めてくれてるのかー?」

わかってくれてるじゃないか。ぐりぐりと頭を更に押し付けといた。

部屋の片付けもしてくれた。
慣れない人の体で動くのは難しかったし、アイリが来てからはずっと犬だったから助かった。


「良いもの見つけた。多分コレお前のだろ?名前モルって言うのか?ほら来いモル、付けてやる」

それはタグだった。
キングスは首輪を用意するつもりだったんだろうか。
アイリはタグに丈夫そうな組紐を通し、首輪にしてくれた。

「ははっ、似合うじゃないかモル」

だだもう一度呼んで欲しかった名前だった。呼んでくれた。それはとてつもなく胸に響く名前だった。

思わず人の形になってアイリに飛び付いた。

「えっ!なんだあっ?お、おいモル?」

アイリがその時どんな顔をしていたのかは知らない。モルって優しく呼ばれることに心地良さに酔っていた。俺はアイリの肩に頬を載せて抱き付いて甘えた。
しばらくは背中をさすってくれていた。

もっと名前呼んで欲しいよ。
俺、ここに居るよ。


その夜アイリが消えた。


俺が人の形になったから?裸だったから?


アイリがどんな顔をして俺を撫でてくれてたのか知るすべは無かった。
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