王様のねこ

つちやながる

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銀と白銀

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 とある国の特徴を訊かれたならば、ふたつの種族に大別できると真っ先に挙げるだろう。
 そこは人間と獣人が暮らす国。
 人は見目の楽しい獣人に癒され、獣人は完全な人の姿に憧れていた。

「人」である限り、どちらも多少なりの悪行は存在していたが、周辺諸国とも遜色無い平穏な国である。
 国といっても延々と続く階級制による各地領主が王族の存在を認め、王を据え置くことで諍いを少なく足並みを揃える為の共同体だ。

 王とはその集団の謂わば代表というだけで、平等に仲裁や取りまとめを行える権限を持つ委員長的存在なのだ。

 立場上国の頂点であり象徴にもなり得る現国王は側に置く皆を尊び獣人に好意的な事と、「獣」を好むことで名が知れていた。
 幼い頃から城を抜け出しては沢山の生き物を持ち帰り、臣下たちの仕事を増やしている事も有名だった。

 しかしそれは過去の話だ。
  
 何故なら今、王が飼っているのは白銀のネコ一匹だけなのだ。

 一概に言えばネコだが、普通では無かった。
 拾ってきて数年が経ち、少しずつ育った今や幼児級の大きさになっていた。

 フサフサと癖のある長めの毛は白にも見える美しい白銀で、目はアイスブルー。尾も少し太めで長くフワフワしていた。両耳の先は、ほんの少しだけ桜の花の様にカットが入っている。ネコの名前はジオ。

 飼い主は王ウォルドリック・ナズブル・ライナリー・ド・フォンダレイド。
 歴史ある家系で名前が無駄に長い。
 通称はウォリックだ。

 四人兄弟の末っ子で、気が付けば王だった。

 王と言えば権力も財力も何もかも満たされていると思えるが、王である限りその地位と職務上、城に縛り付けられるが必至。
 兄達はそれが嫌で何もわからない八歳の末弟に継承権を譲ったのだ。

 ウォリックは色素の薄い金髪で、光加減で銀髪にも見える。二十代後半の若さ故に貫禄を求め、髪を後ろに撫でつけ、わざと剃りが甘い無精髭を残す容姿をしていた。



「ジオ、今日は昼まで閣議だ」
「にゃー」

 王ウォリックはネコに声を掛け、自室を出て執務に向かう。その数歩後ろから尻尾をぴーんと立ててついて歩くジオ。
 銀髪と白銀のペアはどこへ行くにも一緒なのが、この城内のいつもの日常だった。

 今日も会議があろうとジオはネコだけにマイペースだ。テーブルの上に乗り、王の手元の書類の上にごろんと寝転がり居場所を確保する。

「……少し端に寄ってくれないか」
「ぅにゃ、にゃ」

 いやなの。
 王様みるの。

 ジオは腹を見せ、ごろんごろん右に左に自分の場所はココと言わんばかりに転がる。

「ったく」

 ウォリックは苦笑して仕方なく下敷きにされた書を引っ張り出し、ジオの上に乗せた。

 そうすると、ジオから見えなくなるのはウォリックの顔だった。

 見えないの。
 王様見えないの。

 紙の端からジオの手がむいっと出た。ぺたっとウォリックの手に重ねたり、つついたりし始めた。王様の顔を転がったまま見える様に書類をどうにか除けたい様だった。

 王の視線で見ると、紙の下や周りに暫くネコの手が出てきて書類をペシペシ突かれるわけで、仕事の邪魔でしかないのだが。
 王は微笑んで、生えてくるネコの手をその都度つんっと突き返していた。

 わざと構ってお互いで遊んでいるような王とネコのジオ。どこでもいつでもこうだった。

 それを見ながら穏やかに進行するのは閣議。地方領主や城内各機関の代表が話し合う場だか、ジオが城にやって来てから議決が早くなっていた。

「今日もいい毛並みですなあ」
「わしも早く帰って孫を可愛がるぞ」
「それ、あんたら隣同士の領地で解決できるんじゃないですか」
「あとは前回先送りにしたのを今回に」
「それで解決ですわね」
「まとめていいですかな」

 サクサクまとまり事案が提出されて解散だ。あとは再考確認して承諾通知と書面を下の機関に回せばいい。定刻内の時間が余る早さでひと仕事終えてしまうのだ。

「にゃ、にゃ!」

 おわったの?
 遊ぼ!外行こ?

 解散していく人と獣人を見て、ジオはむくりと起き上がる。テーブルの上で王の肩に前足をおいて立ち上がり、顔をすりっとすり寄せた。

「なんだ。次は執務室だぞ」
「にゃー」

 ええー?
 そといくの。

 ジオは不満でゴツンと頭突きに変える。

「ははっ、まだ遊ばないからな」
「にゃー」

 がまん。
 王様といるの。
 がまん。

「よー、今日も議決早かったな。ちょっとだけいいか。例の採用者」

 ウォリックがジオを抱き上げて、席を立った時だった。ノックと同時に現れたのは黒い狼で人型の獣人だ。

 この国の獣人は、耳と尾を残すだけで他は人間と変わらない。この狼は獣の姿なのに人型をしていた。他国から来て住み着いた人狼という種の獣人だった。ウォリックが子供の頃からの付き合いだ。

「ルードか。何人だ」
「三人な。欠員採用で続くかわからねえし、補欠含めて獣人二人に人間ひとり」
「所属部署に任す」
「了解。クソネコは相変わらずだな」
「にゃ!ぅにゃぅにぅにゃ!」

 くそねこ違うの。
 ジオなの!

「何言ってんのかわかんねーぞ、ジオ」
「ははっ、確かに」
「にゃーー」

 おおかみ意地悪。
 いっつもなの。
 でも優しいの。

「さてと、執務室に帰るか」
「にゃ」

 今度は王の腕の中に、おとなしく抱っこされて移動するジオ。これも毎日のように見る風景だった。



 ネコのジオ。

 ただのネコにしか見えなかった。拾ってきて数年は確かにそうだった。
 警戒心が強く気紛れで、周りに無関心だったジオ。次第によく鳴き始め、話しかけると「ぅにゃぅにゃ」返事をしているように鳴くのを王は不思議に思った。

 人の話を理解しているとわかりウォリックは驚愕したが、ルードという獣型獣人もいることで種類を隈なく調べてみたらしい。

 ジオは希少種だったのだ。

 この国の猫獣人は尾が二又だ。尾が遺伝しなくても産まれながら人型になるが、ジオは尾もひとつでネコのままだ。希少種は全く別の獣人といえた。

 希少種という事は、ウォリックとルードだけが知る秘密だった。


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