1 / 10
銀と白銀
しおりを挟む
とある国の特徴を訊かれたならば、ふたつの種族に大別できると真っ先に挙げるだろう。
そこは人間と獣人が暮らす国。
人は見目の楽しい獣人に癒され、獣人は完全な人の姿に憧れていた。
「人」である限り、どちらも多少なりの悪行は存在していたが、周辺諸国とも遜色無い平穏な国である。
国といっても延々と続く階級制による各地領主が王族の存在を認め、王を据え置くことで諍いを少なく足並みを揃える為の共同体だ。
王とはその集団の謂わば代表というだけで、平等に仲裁や取りまとめを行える権限を持つ委員長的存在なのだ。
立場上国の頂点であり象徴にもなり得る現国王は側に置く皆を尊び獣人に好意的な事と、「獣」を好むことで名が知れていた。
幼い頃から城を抜け出しては沢山の生き物を持ち帰り、臣下たちの仕事を増やしている事も有名だった。
しかしそれは過去の話だ。
何故なら今、王が飼っているのは白銀のネコ一匹だけなのだ。
一概に言えばネコだが、普通では無かった。
拾ってきて数年が経ち、少しずつ育った今や幼児級の大きさになっていた。
フサフサと癖のある長めの毛は白にも見える美しい白銀で、目はアイスブルー。尾も少し太めで長くフワフワしていた。両耳の先は、ほんの少しだけ桜の花の様にカットが入っている。ネコの名前はジオ。
飼い主は王ウォルドリック・ナズブル・ライナリー・ド・フォンダレイド。
歴史ある家系で名前が無駄に長い。
通称はウォリックだ。
四人兄弟の末っ子で、気が付けば王だった。
王と言えば権力も財力も何もかも満たされていると思えるが、王である限りその地位と職務上、城に縛り付けられるが必至。
兄達はそれが嫌で何もわからない八歳の末弟に継承権を譲ったのだ。
ウォリックは色素の薄い金髪で、光加減で銀髪にも見える。二十代後半の若さ故に貫禄を求め、髪を後ろに撫でつけ、わざと剃りが甘い無精髭を残す容姿をしていた。
「ジオ、今日は昼まで閣議だ」
「にゃー」
王ウォリックはネコに声を掛け、自室を出て執務に向かう。その数歩後ろから尻尾をぴーんと立ててついて歩くジオ。
銀髪と白銀のペアはどこへ行くにも一緒なのが、この城内のいつもの日常だった。
今日も会議があろうとジオはネコだけにマイペースだ。テーブルの上に乗り、王の手元の書類の上にごろんと寝転がり居場所を確保する。
「……少し端に寄ってくれないか」
「ぅにゃ、にゃ」
いやなの。
王様みるの。
ジオは腹を見せ、ごろんごろん右に左に自分の場所はココと言わんばかりに転がる。
「ったく」
ウォリックは苦笑して仕方なく下敷きにされた書を引っ張り出し、ジオの上に乗せた。
そうすると、ジオから見えなくなるのはウォリックの顔だった。
見えないの。
王様見えないの。
紙の端からジオの手がむいっと出た。ぺたっとウォリックの手に重ねたり、つついたりし始めた。王様の顔を転がったまま見える様に書類をどうにか除けたい様だった。
王の視線で見ると、紙の下や周りに暫くネコの手が出てきて書類をペシペシ突かれるわけで、仕事の邪魔でしかないのだが。
王は微笑んで、生えてくるネコの手をその都度つんっと突き返していた。
わざと構ってお互いで遊んでいるような王とネコのジオ。どこでもいつでもこうだった。
それを見ながら穏やかに進行するのは閣議。地方領主や城内各機関の代表が話し合う場だか、ジオが城にやって来てから議決が早くなっていた。
「今日もいい毛並みですなあ」
「わしも早く帰って孫を可愛がるぞ」
「それ、あんたら隣同士の領地で解決できるんじゃないですか」
「あとは前回先送りにしたのを今回に」
「それで解決ですわね」
「まとめていいですかな」
サクサクまとまり事案が提出されて解散だ。あとは再考確認して承諾通知と書面を下の機関に回せばいい。定刻内の時間が余る早さでひと仕事終えてしまうのだ。
「にゃ、にゃ!」
おわったの?
遊ぼ!外行こ?
解散していく人と獣人を見て、ジオはむくりと起き上がる。テーブルの上で王の肩に前足をおいて立ち上がり、顔をすりっとすり寄せた。
「なんだ。次は執務室だぞ」
「にゃー」
ええー?
そといくの。
ジオは不満でゴツンと頭突きに変える。
「ははっ、まだ遊ばないからな」
「にゃー」
がまん。
王様といるの。
がまん。
「よー、今日も議決早かったな。ちょっとだけいいか。例の採用者」
ウォリックがジオを抱き上げて、席を立った時だった。ノックと同時に現れたのは黒い狼で人型の獣人だ。
この国の獣人は、耳と尾を残すだけで他は人間と変わらない。この狼は獣の姿なのに人型をしていた。他国から来て住み着いた人狼という種の獣人だった。ウォリックが子供の頃からの付き合いだ。
「ルードか。何人だ」
「三人な。欠員採用で続くかわからねえし、補欠含めて獣人二人に人間ひとり」
「所属部署に任す」
「了解。クソネコは相変わらずだな」
「にゃ!ぅにゃぅにぅにゃ!」
くそねこ違うの。
ジオなの!
「何言ってんのかわかんねーぞ、ジオ」
「ははっ、確かに」
「にゃーー」
おおかみ意地悪。
いっつもなの。
でも優しいの。
「さてと、執務室に帰るか」
「にゃ」
今度は王の腕の中に、おとなしく抱っこされて移動するジオ。これも毎日のように見る風景だった。
ネコのジオ。
ただのネコにしか見えなかった。拾ってきて数年は確かにそうだった。
警戒心が強く気紛れで、周りに無関心だったジオ。次第によく鳴き始め、話しかけると「ぅにゃぅにゃ」返事をしているように鳴くのを王は不思議に思った。
人の話を理解しているとわかりウォリックは驚愕したが、ルードという獣型獣人もいることで種類を隈なく調べてみたらしい。
ジオは希少種だったのだ。
この国の猫獣人は尾が二又だ。尾が遺伝しなくても産まれながら人型になるが、ジオは尾もひとつでネコのままだ。希少種は全く別の獣人といえた。
希少種という事は、ウォリックとルードだけが知る秘密だった。
そこは人間と獣人が暮らす国。
人は見目の楽しい獣人に癒され、獣人は完全な人の姿に憧れていた。
「人」である限り、どちらも多少なりの悪行は存在していたが、周辺諸国とも遜色無い平穏な国である。
国といっても延々と続く階級制による各地領主が王族の存在を認め、王を据え置くことで諍いを少なく足並みを揃える為の共同体だ。
王とはその集団の謂わば代表というだけで、平等に仲裁や取りまとめを行える権限を持つ委員長的存在なのだ。
立場上国の頂点であり象徴にもなり得る現国王は側に置く皆を尊び獣人に好意的な事と、「獣」を好むことで名が知れていた。
幼い頃から城を抜け出しては沢山の生き物を持ち帰り、臣下たちの仕事を増やしている事も有名だった。
しかしそれは過去の話だ。
何故なら今、王が飼っているのは白銀のネコ一匹だけなのだ。
一概に言えばネコだが、普通では無かった。
拾ってきて数年が経ち、少しずつ育った今や幼児級の大きさになっていた。
フサフサと癖のある長めの毛は白にも見える美しい白銀で、目はアイスブルー。尾も少し太めで長くフワフワしていた。両耳の先は、ほんの少しだけ桜の花の様にカットが入っている。ネコの名前はジオ。
飼い主は王ウォルドリック・ナズブル・ライナリー・ド・フォンダレイド。
歴史ある家系で名前が無駄に長い。
通称はウォリックだ。
四人兄弟の末っ子で、気が付けば王だった。
王と言えば権力も財力も何もかも満たされていると思えるが、王である限りその地位と職務上、城に縛り付けられるが必至。
兄達はそれが嫌で何もわからない八歳の末弟に継承権を譲ったのだ。
ウォリックは色素の薄い金髪で、光加減で銀髪にも見える。二十代後半の若さ故に貫禄を求め、髪を後ろに撫でつけ、わざと剃りが甘い無精髭を残す容姿をしていた。
「ジオ、今日は昼まで閣議だ」
「にゃー」
王ウォリックはネコに声を掛け、自室を出て執務に向かう。その数歩後ろから尻尾をぴーんと立ててついて歩くジオ。
銀髪と白銀のペアはどこへ行くにも一緒なのが、この城内のいつもの日常だった。
今日も会議があろうとジオはネコだけにマイペースだ。テーブルの上に乗り、王の手元の書類の上にごろんと寝転がり居場所を確保する。
「……少し端に寄ってくれないか」
「ぅにゃ、にゃ」
いやなの。
王様みるの。
ジオは腹を見せ、ごろんごろん右に左に自分の場所はココと言わんばかりに転がる。
「ったく」
ウォリックは苦笑して仕方なく下敷きにされた書を引っ張り出し、ジオの上に乗せた。
そうすると、ジオから見えなくなるのはウォリックの顔だった。
見えないの。
王様見えないの。
紙の端からジオの手がむいっと出た。ぺたっとウォリックの手に重ねたり、つついたりし始めた。王様の顔を転がったまま見える様に書類をどうにか除けたい様だった。
王の視線で見ると、紙の下や周りに暫くネコの手が出てきて書類をペシペシ突かれるわけで、仕事の邪魔でしかないのだが。
王は微笑んで、生えてくるネコの手をその都度つんっと突き返していた。
わざと構ってお互いで遊んでいるような王とネコのジオ。どこでもいつでもこうだった。
それを見ながら穏やかに進行するのは閣議。地方領主や城内各機関の代表が話し合う場だか、ジオが城にやって来てから議決が早くなっていた。
「今日もいい毛並みですなあ」
「わしも早く帰って孫を可愛がるぞ」
「それ、あんたら隣同士の領地で解決できるんじゃないですか」
「あとは前回先送りにしたのを今回に」
「それで解決ですわね」
「まとめていいですかな」
サクサクまとまり事案が提出されて解散だ。あとは再考確認して承諾通知と書面を下の機関に回せばいい。定刻内の時間が余る早さでひと仕事終えてしまうのだ。
「にゃ、にゃ!」
おわったの?
遊ぼ!外行こ?
解散していく人と獣人を見て、ジオはむくりと起き上がる。テーブルの上で王の肩に前足をおいて立ち上がり、顔をすりっとすり寄せた。
「なんだ。次は執務室だぞ」
「にゃー」
ええー?
そといくの。
ジオは不満でゴツンと頭突きに変える。
「ははっ、まだ遊ばないからな」
「にゃー」
がまん。
王様といるの。
がまん。
「よー、今日も議決早かったな。ちょっとだけいいか。例の採用者」
ウォリックがジオを抱き上げて、席を立った時だった。ノックと同時に現れたのは黒い狼で人型の獣人だ。
この国の獣人は、耳と尾を残すだけで他は人間と変わらない。この狼は獣の姿なのに人型をしていた。他国から来て住み着いた人狼という種の獣人だった。ウォリックが子供の頃からの付き合いだ。
「ルードか。何人だ」
「三人な。欠員採用で続くかわからねえし、補欠含めて獣人二人に人間ひとり」
「所属部署に任す」
「了解。クソネコは相変わらずだな」
「にゃ!ぅにゃぅにぅにゃ!」
くそねこ違うの。
ジオなの!
「何言ってんのかわかんねーぞ、ジオ」
「ははっ、確かに」
「にゃーー」
おおかみ意地悪。
いっつもなの。
でも優しいの。
「さてと、執務室に帰るか」
「にゃ」
今度は王の腕の中に、おとなしく抱っこされて移動するジオ。これも毎日のように見る風景だった。
ネコのジオ。
ただのネコにしか見えなかった。拾ってきて数年は確かにそうだった。
警戒心が強く気紛れで、周りに無関心だったジオ。次第によく鳴き始め、話しかけると「ぅにゃぅにゃ」返事をしているように鳴くのを王は不思議に思った。
人の話を理解しているとわかりウォリックは驚愕したが、ルードという獣型獣人もいることで種類を隈なく調べてみたらしい。
ジオは希少種だったのだ。
この国の猫獣人は尾が二又だ。尾が遺伝しなくても産まれながら人型になるが、ジオは尾もひとつでネコのままだ。希少種は全く別の獣人といえた。
希少種という事は、ウォリックとルードだけが知る秘密だった。
10
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
拗らせ問題児は癒しの君を独占したい
結衣可
BL
前世で限界社畜として心をすり減らした青年は、異世界の貧乏子爵家三男・セナとして転生する。王立貴族学院に奨学生として通う彼は、座学で首席の成績を持ちながらも、目立つことを徹底的に避けて生きていた。期待されることは、壊れる前触れだと知っているからだ。
一方、公爵家次男のアレクシスは、魔法も剣術も学年トップの才能を持ちながら、「何も期待されていない」立場に嫌気がさし、問題児として学院で浮いた存在になっていた。
補習課題のペアとして出会った二人。
セナはアレクシスを特別視せず、恐れも媚びも見せない。その静かな態度と、美しい瞳に、アレクシスは強く惹かれていく。放課後を共に過ごすうち、アレクシスはセナを守りたいと思い始める。
身分差と噂、そしてセナが隠す“癒やしの光魔法”。
期待されることを恐れるセナと、期待されないことに傷つくアレクシスは、すれ違いながらも互いを唯一の居場所として見つけていく。
これは、静かに生きたい少年と、選ばれたかった少年が出会った物語。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる