王様のねこ

つちやながる

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ネコは無力

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 延々と続くかと思われた家臣の挨拶は、王の書状に始まり王子の挨拶で漸く目処が付きそうだった。

「マルカ王子よ、遠路遥々よく参られた。貴殿の所望通りの予定の筈だ。先ずは部屋へ。旅の疲れを癒し寛いでくれ」
「有難い。然しだ。先に一杯やらないか」

 ウォリックは肘をついた姿勢のまま、正面で臣下を従え堅苦しい挨拶を終えた王子の提案に破顔した。

「よし酒だ。何年振りだ、遊学の友」
「十数年だろ。俺は未だ王子なのに、まさか未子ウォリックが王になるとは、っくしゅ」
「まさかだよな。……風邪か?」

 二人が立ち上がり歩き始めると、背後から臣下がぞろぞろと従い移動し始める。

 王座の後ろで丸まっていたジオは余りに長い挨拶で睡魔に襲われ微睡んでいたが、沢山の足音に顔をあげた。

「んにゃ」

 終わってるし!
 待ってー!

 慌ててウォリックの後を追うジオ。

 臣下たちの最後尾に何とか追い付くが、耳が痒くて堪らなくなった。ウォリックの側に行きたいのに耳が痒い。掻くならすぐ終わるとその場で座り、後ろ足でカッカッと耳を掻いた。

「にゃ」

 んふぅ。スッキリなの。
 あ、王様!

 パタン

 振り向くと虚しくドアが閉まる音と誰もいなくなっていた事に耳と尾がしんなり垂れた。

 ジオは王様が大好きだった。攫われたとも言える拾われた出会いから早くも数年が経つ。獣好きの王様に優しくされてペットとして友として可愛がられている。それに応えるように心を開き懐きまくっていた。側にいれる時は誰よりも側に居たかった。甘い声で名を呼ばれ、温もりをくれる手で撫でて抱き上げて貰うのが毎日至福なのだ。

「にゃー」

 誰か開けてー。

 会議室にもなる広間の大きなドアはジオには
 開けれなかった。

 閉まったの。あ、しまったって思ったの。ダジャレ言ってる場合じゃないや。えーと、誰もいないかな。開けて貰えるまで出れないというピンチなのー。

「……にゃ」

 ちょこんとドアの前で座って待つしかなかった。開けれそうなレバー式のドアノブでもなく、見上げても重厚なドアが自然に開くわけもない。こんな時、自分がただの猫で無力だと思い知らされるのだ。

 ガチャ

「にゃ!」

 開いた!

「……ネコ?」

 見たの事ない人間だった。チラリと視線をやると、先程挨拶していた王子の臣下の服装の様な気がした。忘れ物でも取りに来たのかと目で追うと王様の椅子につかつかと歩き、何やら触っているのがわかる。

「にゃー」

 何してるのー。 
 王様の椅子だよー。

 ジオはひと鳴きした。

 男は気にとめる事もなく何かをしていたが、それどころじゃないのを思い出す。目の前で隙間の出来たドアからするりと抜け出た。

 王様どこー。
 お客さんと一緒かな。
 どこなの?

 ぴーんと立てた尾はゆらゆらと、白銀の毛はふわふわと揺れ歩く姿は優美なネコ。今や誰もジオの邪魔をしない。追いかけられる事も観察される事も無くなった廊下をマイペースに進む。
 ウォリックの行きそうな客間に向かい、入り口に護衛がいないと次へ行く。三部屋目で外国の服を来た人が立つのを見つけたジオは、近づいて部屋に入れてもらおうと少し手前でちょんと座り鳴いてみた。

「にゃー」

 王様ここ?
 開けてー。

 マルカ王子の臣下二人はジオを見た。なんとも微妙な顔をしてから男達は視線を合わせて頷いた。

「しっしっ」
「向こう行け」
「にゃー」

 なんで?
 開けて?

 追い払われるなんて思いもしなかったジオはその場でまた鳴いた。動かないネコに男達は手や足が出た。床をドンッと大きな音を立て蹴り、パンッと両手で音を出しジオを威嚇した。動じないと次は捕まえようとにじり寄り手を伸ばす。

「フーーッ!」

 何なの!
 俺も怒るの!

「何だこのネコ、この城の飼猫か?」
「あっち行けって」
「ぅにゃぅなぅにゃ」
「るせーな、しっしっ!」
「しつこいなあ!」
「フーーッ!」

 手を出されては避け、蹴られそうになれば飛び退く。王様会いたさに好戦的な男達に立ち向かうジオ。バタバタとはたから見ればネコと遊んでいる護衛の図なのだが。

「騒がしい。煩いぞ、ックシッ!」

 ドアが開き、出て来たのは不機嫌な王子。それを見たジオは王子の足元にぴょんと跳ねて入ろうとした瞬間だった。

「ネコか!ハックシッ!」
「ゔにっ」

 ジオは王子の足に思い切り蹴られて吹っ飛んだが、本能で身体を捻り何とか着地した。

「……ぅにゃ」

 い、痛いの。
 何なの!

「ックショ。お前達それを早く遠くにやれ!痒くなってきた!」

 王子は蹴った足を触るのも嫌なのか、ズボンの上の方を摘んでついた毛を払い除けるようにパンパンはたいてからドアを閉めた。

「は!」
「直ぐに!」

 ジオはまた蹴られたら堪らないと、痛む身体にフラフラしながらその場を逃げる様に小走りに去る事にした。

「にゃー、にゃー、ぅなー」

 痛いよ。
 蹴るなんてひどいの。
 王様どこ。
 どこなのー。

 普段必要以上鳴かないジオは、王様に会えないのと身体の痛さで悲しくて、何度も何度も鳴きながらフラフラと廊下を歩く。

 普段と様子の違う事に首を傾げて見る城の勤め人達は、それでも誰も近づかない。ジオは王様のペットだ。いつもの様に勝手に触ろうとは思わなかったが、異変に訝しむ家臣は報告に走った。

「おい、クソネコ」
「なー、ぅなー」

 王様いないの。
 なんでなのー。

「ウォリック探してんのか。こっちだ」
「なー、ぅにゃぅなぅにゃ」

 お腹痛いのー。
 蹴られたんだよ。
 ひどいの。
 そんでねー。

「るせぇな。俺はネコ語はわかんねえって。連れてってやるからウォリックに話せ」
「にゃ」

 わかったの。
 狼優しいの。

 家臣に呼ばれた人狼ルードは、ジオを抱き上げ王の元に足を運ぶ。ジオが心を許しているもう一人はこの狼。このネコに触れる事が出来るのは王とルードだけなのだ。

 大人しく抱っこされるジオは少し痛む腹に気合を入れるが如くフンフンと鼻息荒く、ウォリックに会えるのが嬉しくて抱きあげているルードの腕を前脚の肉球でうにうにもみもみ押し始めた。

「やめろ、クソネコ」
「にゃ」

 なあに?
 何のこと?

 肉球もみもみは無意識だった。






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