王様のねこ

つちやながる

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ひみつ

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「ジオ、どこ行ってた」
「フラフラしてたらしいぞ」
「にゃ」

 王様なの。
 探してたの!

 執務室に連れて来られ、ウォリックの姿を認めて耳がピッと正面を向いた。早く側に行きたくてルードの腕の中で「んー!」と足を突っぱりモゾモゾし始めた。

「あー、落ち着けよ」

 ルードは人狼らしい野太く毛深い腕からジオをその場に落としたが、ネコだけにすたっ!と音がしそうな着地をした。

「にゃ!」

 鳴いた次の瞬間だった。
 ジオが人型に変化して、猫獣人になった。

「王様なの!」

 白銀の毛はそのまま髪の色に、大きめの耳も残り、ゆるく癖が残った髪はふわふわと背中まで流れて太めの尻尾に続く。眉も睫毛も透き通る程色素が薄く、アイスブルーの目が強調される色白の獣人だ。人にして何とか十六歳以上で通る容姿だった。

 ジオは、すっぽんぽんだったが会いたかった王様目指して両手を広げて走りだした。

 ルードはそんなジオを眺めつつ、腕を組み溜息をつきボヤいた。

「ああ~?もうそんな時期か」
「お月様隠れるの!」
「はははっ、ジオ、人型でそこは駄目だ」
「何でなのー」

 いつもネコの姿で膝の上に乗るのは習慣なのに、人型になったら膝の上は毎回駄目だと言われるのが不満だった。
 もうお決まりのやり取りだったが、何度王様に言われても納得いかないジオは耳をしなっと寝かせ、ぶうっと頬を膨らませた。

「重い。降りろジオ」

 それでも椅子に座るウォリックの膝に座るジオは、少しだけ視線が下になった王様の目を見てからコツンと頭を肩にのせた。ふわふわの尾を腕に絡ませ甘えてみるのがジオのいつもの挨拶だった。

 ネコの時にしている挨拶を人型でされると、ウォリックは微妙な気分になり何とももどかしく感じていた。
 可愛いジオには変わりない。それでもこれは可愛くても雄ネコだと自分に言い聞かせる。それからやっと、挨拶のお返しにジオの鼻先にいつもしているキスをするのだ。

 そしてその後ジオは必ずネコの時は『にゃ』と鳴く。

「王様なの」

 ジオはニコニコして言う。いつもの『にゃ』はそう言っているのだと判明する瞬間だ。

 ウォリックはジオが可愛くて堪らなくなるのだが、ぐっと耐えた。

「おい、クソネコ。服着るか」
「ルード、着せなくていい。ジオはネコに戻れ。獣人になるのは夜だ。ルードと外にいる時と部屋だけにしろって約束しただろ?」
「したー」
「ジオが人型になれるのは秘密にした方が楽しい。城内は善人ばかりじゃない。ネコの方が身の危険も少なくなるって覚えてるか?」
「わかってるの。お月様隠れてウズウズするの。そいでね、今日ね、王様探してたの!」

 わかってると言ったがジオはひと月ぶりの変化で興奮気味だった。

 月齢でいう新月含めた四日、たった四日間だけ人型になれる不思議な獣人希少種なのだ。知っているのはウォリックとルードだけ。

 善人ばかりじゃない。未だ他国では獣人を人間以下で扱う国もあるのだ。この国でも人攫いが裏で横行しているのも事実だった。城内といえど用心するに越したことはない。

 膝を降りて王様の前に立ったジオは、首を右に左に傾げて今日の出来事を思い出しつつ話し出す。

「あーこりゃあ暫くかかるな。ウォリック、任せるぞ。俺は部屋の前で誰も入れないようにするから、頑張ってネコに戻せよ」
「ははっ、悪いな」
「急げよ。……て、それな」
「ああ、わかってる」

 ルードは頭をガシガシ掻き乍ら部屋を出た。

「王様、聞いてる?」
「どこでぶつけた」

 ウォリックは、打ち身なのか赤黒くうっ血したジオの脇腹をツンとつついた。

「ぅ、触るのダメ!蹴られたのー」
「誰に」
「お客さんなの。ネコきらいなの。そいでね痒いんだって。ハクシッってしてた。しっしって、怒ったの、ネコきらいなの」
「は、……そうか。痛かったな。痛いのに触ってゴメンな」
「大丈夫なの。名前呼んで!」
「何だ、ジオ」
「んふぅ」

 呼ばれて口元をぱしっと両手で隠すジオは、ニヤニヤ口角が上がるのが止まらなかった。 

 王様たちと同じ言葉で話が通じ、同じ人型になれて、お願いも聞いてくれる王様が目の前にいる。ひと月ぶりなのだ。いつも見上げる王様が、いつもより近くに見えて触れるのが嬉しくてワクワクして仕方なかった。

「もっと呼んで!王様の声好きなの!」
「……ジオ」

 このネコは自分が言っている事と表情がどんなに艶かしいか、わかっているのだろうか。

 ・・・わかってないよな。

 耳はぴーんと正面を向いて、尻尾が忙しなくタシタシと振られ、王様に遊びを催促する時と同じ動きをしているのだ。色気云々以前の話だった。

「……あれだな。お客さんは、猫アレルギーかも知れないな。好き嫌いの前に身体が嫌がるんだ。こうブツブツ吹出物が出来たりな、だから無闇に知らない人に近付くのは今迄通り駄目だ。わかったか?」
「ふーん?」
「ジオ」
「わかってるの。そいでね、」
「ジオ」
「あはっ。王様なの」

 呼ばれる度に瞬きして、ウォリックをじっと見つめてしまうジオは『王様なの』が口癖だった。
 そこにいる存在を、側にいる事を確かめるように見るのだ。それは熱い視線とも言えたのだが、精神年齢が低いジオに勿論そんなつもりは微塵もない。

 好き好き赤外線くらいは出ているのだろう。ネコの時と少しだけ違う丸みを帯びるその瞳からの視線に、ウォリックはもう沸沸と邪まな欲情という感情が渦巻くのを自覚しているのだ。これは雄ネコ。これはペットであり友で、まだ子供だ。そう言い聞かせて自制するこの感情は誰にも言えない秘密だった。

「ジオ、もうネコに戻るんだ」
「えー」
「夜にしろ。約束しただろ」
「わかったのー」
「おいでジオ」
「王様なの!」

 ジオは呼ばれるなり、椅子に座るウォリックに飛び乗り抱き付いた。頭をぐいぐい押し付けて甘えるのは、獣人になっても基本行動がネコの証拠なのだ。

 ウォリックは、これはこれで裸体の可愛いジオを堪能できて満足だった。

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