この国では魔力を譲渡できる

ととせ

文字の大きさ
6 / 6

6

しおりを挟む
「シエラ嬢が公爵家を継ぐ予定だったから、私の婚約者候補からは外されていたんだ」

 学園内にある王族専用の談話室で、シエラはフランツと向き合って座っていた。
 彼はロルフの言ったとおり、騎士として身を守る術を覚えた後、他国へ留学していた。帰国後は貴族や商人の家を渡り歩き、執事や庭師、時には露天商の仕事までしていたというのだから驚きだ。

「陛下がよくお許しになりましたね」
「父が最低三十の職を経験するようにと命じたんだ。護衛が付いたのは八歳まで。その後は自力で生きろと。お陰で楽しい経験ができたよ」

 あははと笑うフランツに、シエラはぽかんとしてしまう。フランツはロルフと同じ金髪碧眼の美丈夫だが、豪胆な気質が見え隠れしている。

「国に戻ってからは、貴族達を観察し見定めるように言われていた。中でも弟の愚行は目に余るものがあった。愚弟に代わり謝罪する」

 頭を下げたフランツにシエラは首を横に振る。

「フランツ殿下が私の境遇に情けをかけてくださったことは理解いたしました。ですが私と婚約など……公言してよろしかったのですか?」
「実を言うと、君が魔力を譲渡した日から、ずっと気になっていた。留学してからも、どこに居ても君の姿が頭から離れなかった。酷い仕打ちを受けていると知りながら、力になれなくてすまない」
「いいえ。フランツ殿下に見守って頂いていると気付いていたら、きっと私は貴方を頼ってしまったことでしょう」

 魔力譲渡は自分で決めた事だ。
 理不尽だけど耐えなくてはならないと、シエラはあの時覚悟していた。
 もしもフランツが気にかけていると知ってしまったら、どうして自分ばかり苦しいのに助けてくれないのかと、捻くれた感情が生まれていただろう。
 運命に対して、公爵令嬢らしく気高くいられたのは一人で戦うと決めたからだ。

「君に相応しい強い心を持った王になると誓おう。だから改めて、君に愛を告げる」

 碧の瞳がシエラただ一人を映す。この人ならば、信じても大丈夫だと心の中で何かが告げる。

「愛しているシエラ。どうか私の妻になってほしい」
(お母様、私……気高く、そして幸せになります)

 病床でも気丈に振る舞った母を思い出しながら、シエラはフランツの言葉に頬を染めて頷いた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

王女は追放されません。されるのは裏切り者の方です

といとい
恋愛
民を思い、真摯に生きる第一王女エリシア。しかしその誠実さは、貴族たちの反感と嫉妬を買い、婚約者レオンと庶民令嬢ローザの陰謀によって“冷酷な王女”の濡れ衣を着せられてしまう。 公開尋問の場に引きずり出され、すべてを失う寸前──王女は静かに微笑んだ。「では今から、真実をお見せしましょう」 逆転の証拠と共に、叩きつけられる“逆婚約破棄”! 誇り高き王女が、偽りの忠誠を裁き、玉座への道を切り開く痛快ざまぁ劇!

お姉様、わたくしの代わりに謝っておいて下さる?と言われました

来住野つかさ
恋愛
「お姉様、悪いのだけど次の夜会でちょっと皆様に謝って下さる?」 突然妹のマリオンがおかしなことを言ってきました。わたくしはマーゴット・アドラム。男爵家の長女です。先日妹がわたくしの婚約者であったチャールズ・ サックウィル子爵令息と恋に落ちたために、婚約者の変更をしたばかり。それで社交界に悪い噂が流れているので代わりに謝ってきて欲しいというのです。意味が分かりませんが、マリオンに押し切られて参加させられた夜会で出会ったジェレミー・オルグレン伯爵令息に、「僕にも謝って欲しい」と言われました。――わたくし、皆様にそんなに悪い事しましたか? 謝るにしても理由を教えて下さいませ!

婚約破棄の途中ですが、特殊清掃代を頂戴します

来住野つかさ
恋愛
学院の卒業式で、ミルティーナ・バース侯爵令嬢は今まさに婚約破棄を宣言されたところだった。長年王子妃教育に取り組んだというのに、婚約者のアルジャーノン王子殿下はあっさりと可愛らしい男爵令嬢と学院内でせっせと不貞を働く。あちこちの場所を汚しながら。······ああ、汚い! よくある婚約破棄ものです。昨日友人と掃除と幻臭の話をしていてうっかり思いついた、短いお話になります。地の文がない形で書き進めているので、読みにくかったらごめんなさい。 タイトルにある「特殊清掃」は現代でよく使われる意味合いとは違いますので、あらかじめご了承下さい(オプション的、プラス料金的な感じで付けました)。 ※この作品は他サイト様にも掲載しています。

婚約破棄? あら、それって何時からでしたっけ

松本雀
恋愛
――午前十時、王都某所。 エマ=ベルフィールド嬢は、目覚めと共に察した。 「…………やらかしましたわね?」 ◆ 婚約破棄お披露目パーティーを寝過ごした令嬢がいた。 目を覚ましたときには王子が困惑し、貴族たちは騒然、そしてエマ嬢の口から放たれたのは伝説の一言―― 「婚約破棄されに来ましたわ!」 この事件を皮切りに、彼女は悪役令嬢の星として注目され、次々と舞い込む求婚と、空回る王子の再アタックに悩まされることになる。 これは、とある寝坊令嬢の名言と昼寝と誤解に満ちた優雅なる騒動録である。

そのフラグをへし折りまくっていることに気づかなかったあなたの負け

藤田あおい
恋愛
卒業パーティーで、婚約破棄を言い渡されたアリエッタ。 しかし、そこにアリエッタの幼馴染の男が現れる。 アリエッタの婚約者の殿下を奪った少女は、慌てた様子で、「フラグは立っているのに、なんで?」と叫ぶ。 どうやら、この世界は恋愛小説の世界らしい。 しかし、アリエッタの中には、その小説を知っている前世の私の人格がいた。 その前世の私の助言によって、フラグをへし折られていることを知らない男爵令嬢は、本命ルート入りを失敗してしまったのだった。

その幸せ(偽物の)欲しいなら差し上げます。私は本当の幸せを掴むので

瑞沢ゆう
恋愛
 とある国の古都で道具屋を営む"アリーナ"は、三十歳を迎えていた。子供は居ないものの、夫と二人仲睦まじく暮らしていたのだがーー 「ごめんなさいアリーナ。私、あなたの旦那との赤ちゃんが出来たみたいなの」  幼馴染のミレナから告げられた最悪の宣告。夫を亡くしたばかりのミレナは、悲しみのあまりアリーナの夫が慰める甘い言葉にのぼせて関係を持ったという。 「すまないアリーナ。僕はミレナと一緒になるから、君はこの家を出てくれないか?」  夫と幼馴染が関係を持っただけではなく、自分の父から継いだ店を取られ家を追い出されるアリーナ。  それから一年後、木工職人としてフィギュアなどを作って生計を立てていたアリーナの元へ来訪者が現れる。 「私はあの時拾って貰った子犬だ。アリーナーー君を幸せにするため迎えにきた」  なんと、現れたのは子供の頃に拾った子犬だという。その実、その子犬はフェンリルの幼生体だった。  アリーナを迎えに来たフェンリルは、誰もが見惚れるような姿をした青年。そんな青年は、国を作り王として君臨していた。  一夜にして王国の妃候補となったアリーナは、本当の幸せを掴むため大海へと漕ぎ出していくーー ※なろう、カクヨムでも投稿中。

幸せな花嫁たち

音爽(ネソウ)
恋愛
生真面目な姉と怠け者の妹はそれぞれに相応しい伴侶をみつける…… *起承転結の4話構成です。

急に婚約破棄だと騒がれたけど問題なしです。みんな大歓迎!

うめまつ
恋愛
パーティー会場でワガママ王子が婚約破棄宣言した。誰も困らない!

処理中です...