この国では魔力を譲渡できる

ととせ

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「これまでよく耐えたな、シエラ嬢」
「労りの言葉、恐れ入ります。ですが己が決めた事ですから、譲渡した責任は自分にあります」

 美しいカーテシーをするシエラに、フランツは優しい微笑みを向ける。

「顔を上げなさいシエラ公爵令嬢。この件は、私に判断が任されている。シャーリ嬢、魔力を返せば罪は問わない。ロルフとの結婚も許可しよう」
「ありがとうございます兄上!」
「……ありがとう」

 まだ事態が飲み込めていないのか、シャーリがむくれたまま礼を口にする。
 そんな二人を見る親世代の貴族の目は冷ややかだ。
 とはいえ、学園では有名なカップルだったロルフとシャーリが結ばれるとなって、生徒達は喜んでる者が大半だ。
 不満そうなシャーリを肘でつつきロルフが促す。

「さ、早く魔力を返すんだ」

 あの日の口上を今は反対の立場で口にする。

「シエラに、魔力の全てを差し上げます」
「シャーリから全ての魔力を受け入れます」

 シエラが言い終わった瞬間、凄まじい光が広間を包み込んだ。

「……? やだやだやだ、何よこれえええええっ」

 しゅーっと革袋から空気が抜けるような音がして、シャーリがみるみるうちに干からびていく。

 一方魔力の戻ったシエラは、髪は明るい金髪になり血色も良い。青い瞳は澄んだ湖のように輝き、赤く潤った唇はみずみずしい果実のようで、令息達は皆息を呑んでシエラに釘付けになっていた。

「誰か助けてよ!」

 しゃがれた金切り声が広間に響き渡る。
 老いた獣でも出さないだろう酷い声で訴えるのは、半分ミイラのようになったシャーリだ。

「ロルフ、お前の魔力をシャーリ嬢にそそげ!」
「で、でも……」
「早くしろ! 大切な恋人が死んでしまうぞ!」

 近くに居た教師が急ぎ駆け寄り魔法陣を床に描いて、シャーリとロルフを押し込む。狭い魔法陣の中で二人が抱き合うと空気の抜ける音は収まったが、シャーリはまだミイラの姿だ。

「この者は、魔力をどれだけ使ったのだ」
「毎日のように何かしら使っていましたから、想像もできません」

 学園内のみならず屋敷でもシエラに魔法を見せびらかしていた。おそらく夜会やお茶会でも披露していたのだろう。
 魔力は使えば使うほどに強くなる。
 制御できるのは本人だけで、譲渡された者が使用する場合は非常に細かな操作が求められる。
 更に譲渡された側が同等かそれ以上の魔力を持っていなければ、返したときの反動が凄まじいのだ。

 ふと何かに気付いたように、フランツが声を張り上げた。

「グラッド公爵! あなた方夫妻にはシエラ令嬢からの爵位簒奪の嫌疑がかかっている。他にもシエラ令嬢に関する虚言流布など、数え切れない罪状で訴えが出ている。証拠は揃っているが、申し開きをする場は与えよう」

 フランツが扉の方に視線を向けると騎士が数名入ってきて、騒ぎに乗じて逃げようとしていたグラッド公爵夫妻を捕縛し連行していった。

「グラッド公爵家は、王家と繋がりの深い由緒ある家だ。暫くは我が母の叔母上が女公爵として領地を預かる。異存はないな?」

 集った貴族達が反対するはずもない。

「そしてシエラ・グラッド嬢。君には私の婚約者となってほしい」
「待ってくれよフランツ兄さん! シエラは俺の婚約者だぞ! 公爵家は俺が継ぐ」
「何言ってるのよ! わたしと結婚するんでしょう?」
「お前みたいな醜い女と結婚するわけないだろ!」

 魔法陣から逃げようとするロルフに、シャーリが必死の形相でしがみついている。

「ロルフ、お前はパーティーを台無しにしてまで婚約破棄をしたのだ。責任を取りなさい。シャーリ嬢は可哀想だが、平民が魔力を譲渡されれば数年で衰弱死すると学んでいるはずだ。一日数時間、そうやってロルフから魔力を受け取るだけで普通に生活はできる。離宮で静かに暮らすといい」

 窘めるフランツの言葉が聞こえているのかいないのか、罵り合いを続ける二人を隠すように衝立が置かれ華やかな音楽が流れ始めた。

「さて不愉快な話は終わりだ。みなの門出を祝福する」

 そうフランツが宣言し踵を返す。
 その時、さりげなくシエラの手を握る。
 シエラは素直に握り返し彼の後に続いた。
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