出来損ないの符術士は恋をしません

ととせ

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4 呪いの正体

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「そなたには、身をもって娘を救ってもらうことになる。呪いを引き受ける者がいれば、静蘭は目を覚ますかもしれぬと、召喚士は申した。信じたいわけではない。だが、他に道がないのです」

 そう言って、泰然は彩香の方へ向き直る。
 大貴族の当主が、田舎の娘に頭を下げた。

「そなたをここへ呼んだこと、父上にも、そなた自身にも心より詫びたい。せめてもの恩返しができるよう、望みがあれば何でも言ってほしい。残された時間、不自由のない暮らしを、できる限り用意しよう」

 慧華も深く腰を折る。

(手紙の通り呪いを引き受けて死ね、ってことね。でもこんな優しい人達だったのは予想外だなあ)

 適当に誤魔化してさっさと帰る事もできた。けれど……彩香は口元に笑みを浮かべる。

「そんな、大袈裟な望みなんてありません。あ、でも」

 遠く、都に入る前に見上げた高い塔が彩香の脳裏を過る。
 空を刺すような石の塔。城下を見渡せる見張りの塔だ。

「お嬢様から呪いが取れて、目を覚ましたら――あの塔に登ってみたいです」
「塔?」

 泰然が瞬きをする。

「はい。私の故郷には、あんな高い塔はなかったんで。一度でいいから、高いところに登ってみたいんです」

 彩香が屈託なく笑うと、慧華が優しく目尻を下げる。
 泰然も力の抜けたような笑みを浮かべた。

「そんなことで、よいのかい」
「はい。それだけでじゅうぶんです」

 あまりにもささやかな願いに、部屋の空気が少しだけ和らいだ。

 田舎から出てきた娘の無邪気な願い、とでも思ったのだろう。
 召喚士は「くだらない」とでも言いたげに肩をすくめ、泰然に軽く一礼すると部屋の外へ退く。
 彩香が何をするのか興味も無い、といった態度を隠しもしない。

 扉が閉まり、男の気配が遠のく。

 その瞬間、彩香の表情から笑顔がすっと消えた。
 懐から素早く紙束と筆を取り出し、寝台のそばの小卓に置く。

「時間がないので、手短に説明します」

 携帯用の墨袋に筆先を含ませ、紙の上に走らせる。

「お嬢様が眠っているのは、呪いが原因ではありません」

 きっぱりと言い切る声に、泰然と慧華がはっと顔を上げた。
 さきほどまでの田舎娘ではない。

 寝台の傍らに立つ彩香の瞳は鋭く研ぎ澄まされ、尚夫妻は息を呑む。

ばくが悪夢を流し込んでいます」
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