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「我が愚妹ローズ! お前の罪は明日、明らかにされるぞ! 楽しみにしていろ!」
夕食の席、テーブルに付くやいなや兄のグラズが声高に言い放った。長いテーブルを挟んでいなければ、唾が料理に飛んできていただろう。
「心優しき聖女エミリを公然と虐めるなど、全くお前は公爵令嬢あるまじき女だ。しかしそれも明日で終わる。お前の婚約者であるダニエル王太子は、我慢の限界だと仰られた!」
得意げに演説するグラスに一瞥もくれず、ローズは黙々とポタージュスープを口へ運ぶ。
そんな妹の様子が気に食わないのか、グラズの声は益々熱を帯びていく。
「エミリの教科書を破り、制服を中庭で焼き、王宮の噴水に突き落とすなど下劣な虐めの証拠は揃っているのだぞ! 少しは反省したらどうだ! ああ、何があっても顔色一つ変えないお前に反省を促しても無意味だったな。本来なら死罪が妥当だが、殿下はそんなお前にも慈悲を与えてくれるそうだ!」
「慈悲とは、どういうことでしょうか」
やっと反応したローズに、グラズがにやりと歪んだ笑みを浮かべた。
「国外追放だ!」
「煩い!」
ダン!
とテーブルにナイフを叩き付けると狂ったように頭をかきむしりながら叫んだのは、妹のサリーだ。
長テーブルの丁度中央に座る妹は、美しいブロンドの巻き毛を振り乱し両端に座る兄と姉を交互に見てからキーキーとわめく。
「お兄様! 食事の時くらい黙って! お姉様もその辛気くさい顔をどうにかして頂戴! 二人とも私が楽しめる話題を出したらどうなの? 気が利かないわね!」
「さ、サリー落ち着け……」
顔を引きつらせながら宥めようとするグラズに、サリーはワイングラスを投げつける。
三人で食事をするときは恒例行事みたいな光景なので、ローズは眉一つ動かさない。
「ああもう! どうして食事くらい静かにできないのかしら? まったくお兄様もお姉様も、マナーを分かってないのね! この公爵家の行く末が心配だわ! アンナ、料理は部屋に運んでちょうだい! 馬鹿な兄姉と一緒に食事なんてできませんわ」
言うとサリーは椅子をひっくり返す勢いで席を立ち部屋から出て行く。
「……全く……十五歳になるというのに、癇癪が治らないサリーはどうしたものか。あれでは社交会デビューなどできはしない。いっそお前と一緒に、どこぞの国へ行ってくれたらなぁ……ああ、それがいい。そうしよう」
うんうんと一人頷く兄にかまわず、再びローズは黙々と料理を食べ続ける。
が、内心ではガッツポーズを取っていた。
(よっしゃ! 私の国外追放はほぼ確定って事ね。サリーも体よく押し付けてくれそうだし。あとは明日の断罪が成功すれば問題なし!)
***
ローズ・ブラッド公爵令嬢には前世の記憶があった。
十歳の時に原因不明の病で高熱を出して生死の境を彷徨った後、ローズは奇跡的な生還をし同時に前世の記憶を取り戻したのである。
ここは前世でプレイした乙女ゲームの世界で、自分はヒロインを虐める所謂「悪役令嬢」のポジションだ。
貴族学院在学中にヒロインへの悪質な虐めを行い、婚約者である王太子直々に衆目の中で断罪される。一般的に考えれば避けたいルートだ。
けれどローズは違った。意識を取り戻したローズは、ベッドの上で一人呟く。
「こんな頭お花畑の国なんて捨ててやる」
夕食の席、テーブルに付くやいなや兄のグラズが声高に言い放った。長いテーブルを挟んでいなければ、唾が料理に飛んできていただろう。
「心優しき聖女エミリを公然と虐めるなど、全くお前は公爵令嬢あるまじき女だ。しかしそれも明日で終わる。お前の婚約者であるダニエル王太子は、我慢の限界だと仰られた!」
得意げに演説するグラスに一瞥もくれず、ローズは黙々とポタージュスープを口へ運ぶ。
そんな妹の様子が気に食わないのか、グラズの声は益々熱を帯びていく。
「エミリの教科書を破り、制服を中庭で焼き、王宮の噴水に突き落とすなど下劣な虐めの証拠は揃っているのだぞ! 少しは反省したらどうだ! ああ、何があっても顔色一つ変えないお前に反省を促しても無意味だったな。本来なら死罪が妥当だが、殿下はそんなお前にも慈悲を与えてくれるそうだ!」
「慈悲とは、どういうことでしょうか」
やっと反応したローズに、グラズがにやりと歪んだ笑みを浮かべた。
「国外追放だ!」
「煩い!」
ダン!
とテーブルにナイフを叩き付けると狂ったように頭をかきむしりながら叫んだのは、妹のサリーだ。
長テーブルの丁度中央に座る妹は、美しいブロンドの巻き毛を振り乱し両端に座る兄と姉を交互に見てからキーキーとわめく。
「お兄様! 食事の時くらい黙って! お姉様もその辛気くさい顔をどうにかして頂戴! 二人とも私が楽しめる話題を出したらどうなの? 気が利かないわね!」
「さ、サリー落ち着け……」
顔を引きつらせながら宥めようとするグラズに、サリーはワイングラスを投げつける。
三人で食事をするときは恒例行事みたいな光景なので、ローズは眉一つ動かさない。
「ああもう! どうして食事くらい静かにできないのかしら? まったくお兄様もお姉様も、マナーを分かってないのね! この公爵家の行く末が心配だわ! アンナ、料理は部屋に運んでちょうだい! 馬鹿な兄姉と一緒に食事なんてできませんわ」
言うとサリーは椅子をひっくり返す勢いで席を立ち部屋から出て行く。
「……全く……十五歳になるというのに、癇癪が治らないサリーはどうしたものか。あれでは社交会デビューなどできはしない。いっそお前と一緒に、どこぞの国へ行ってくれたらなぁ……ああ、それがいい。そうしよう」
うんうんと一人頷く兄にかまわず、再びローズは黙々と料理を食べ続ける。
が、内心ではガッツポーズを取っていた。
(よっしゃ! 私の国外追放はほぼ確定って事ね。サリーも体よく押し付けてくれそうだし。あとは明日の断罪が成功すれば問題なし!)
***
ローズ・ブラッド公爵令嬢には前世の記憶があった。
十歳の時に原因不明の病で高熱を出して生死の境を彷徨った後、ローズは奇跡的な生還をし同時に前世の記憶を取り戻したのである。
ここは前世でプレイした乙女ゲームの世界で、自分はヒロインを虐める所謂「悪役令嬢」のポジションだ。
貴族学院在学中にヒロインへの悪質な虐めを行い、婚約者である王太子直々に衆目の中で断罪される。一般的に考えれば避けたいルートだ。
けれどローズは違った。意識を取り戻したローズは、ベッドの上で一人呟く。
「こんな頭お花畑の国なんて捨ててやる」
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