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34 初めてのプレゼント
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店を出て階段を上がると、そこには黒塗りの車が待機していた。
運転手が後部座席の扉を開けると、弘城が乗るように促す。
「三葉さん、こっちを向いて。そのまま、動かないでね」
「へ?」
間の抜けた声を出すと、いきなり弘城が顔を寄せる。
(え、この状況って……でも運転手さんもいるのに?)
内心焦りまくる三葉にかまわず、弘城は先程購入した真珠のブローチを箱から出して三葉の胸元に留める。
「あの、これってまさか私に?」
「そう、君へのプレゼント。気付いてなかったの? お守りだから、受け取り拒否はしないでね。それと外出するときは、必ず身につけて」
「校則では、華美な装飾品を付けてはいけないと……」
「ブローチは襟の内側に留めればいい。櫛は問題ないよね?」
珍しく弘城の口調が強くて三葉はこくりと頷く。
「君は危うい状態なんだ。まだ羽立野家は君を手放すつもりはないらしい」
「叔父が何か言ったのですか?」
すると弘城が首を横に振る。
「事業には大神家も融資の検討をしていたから、それを理由に話し合いを申し入れたのだけれど返事は保留にされている」
大神家相手にあり得ない対応だ。
遠回しに大神家にも喧嘩を売っていると取られても仕方ない。
「あと力の使い方は、近いうちに教えるよ」
「結構です」
即答して俯く三葉は、唇を噛みしめた。
神憑の能力だなんてご大層な名目だけど、実際は逃げるしか能がないと分かってしまった。
こんな力があったところで、両親の敵である叔父夫婦をどうにかしたいとか、そういう問題以前だと三葉は悲しくなる。
(江奈様には「決心がつかない」なんて言ってしまったけど、いざってなったら私は逃げることを最優先するって事だよね。そんなの……卑怯だ)
母が病で苦しんでいた時、三葉は母の知り合いに預けられていた。
弘城から自分の能力を説明された今、あれは母の優しさではなく神憑の能力が発動したのではて疑問が生じる。
もし江奈の力を頼って叔父達に一矢報いようと決意しても、不測の事態になったら自分は逃げ出すという事だ。
(どうしてこんな力なの?)
せめて人の役に立てるような能力だったなら、気持ちは救われた。
(逃げるだけだなんて……何をしたらいいのか分からないけど、お世話になった人には感謝しなさいってお母さんは言ってた)
それでも自分は、生かされた命だ。
羽立野家から逃げ出した自分を匿ってくれたのだから、弘城が欲しがった物を差し出すのは当然だと考える。
「あの、弘城さん」
「なんだい?」
「醜い私を契約でも婚約者として望んでくださった事には感謝します」
「君が醜い?」
「はい。ですからお飾りの婚約者として、弘城さんの都合の良いように使ってください。吹雪にも弘城さんの命に従うようにお願いしてみます。もし私との婚姻が必要でしたら、結婚後は妾の方を本妻の待遇としてください」
一息に言って、弘城の返答を待つ。
大神家からの条件提示を考えれば、申し分ない答えの筈だ。
運転手が後部座席の扉を開けると、弘城が乗るように促す。
「三葉さん、こっちを向いて。そのまま、動かないでね」
「へ?」
間の抜けた声を出すと、いきなり弘城が顔を寄せる。
(え、この状況って……でも運転手さんもいるのに?)
内心焦りまくる三葉にかまわず、弘城は先程購入した真珠のブローチを箱から出して三葉の胸元に留める。
「あの、これってまさか私に?」
「そう、君へのプレゼント。気付いてなかったの? お守りだから、受け取り拒否はしないでね。それと外出するときは、必ず身につけて」
「校則では、華美な装飾品を付けてはいけないと……」
「ブローチは襟の内側に留めればいい。櫛は問題ないよね?」
珍しく弘城の口調が強くて三葉はこくりと頷く。
「君は危うい状態なんだ。まだ羽立野家は君を手放すつもりはないらしい」
「叔父が何か言ったのですか?」
すると弘城が首を横に振る。
「事業には大神家も融資の検討をしていたから、それを理由に話し合いを申し入れたのだけれど返事は保留にされている」
大神家相手にあり得ない対応だ。
遠回しに大神家にも喧嘩を売っていると取られても仕方ない。
「あと力の使い方は、近いうちに教えるよ」
「結構です」
即答して俯く三葉は、唇を噛みしめた。
神憑の能力だなんてご大層な名目だけど、実際は逃げるしか能がないと分かってしまった。
こんな力があったところで、両親の敵である叔父夫婦をどうにかしたいとか、そういう問題以前だと三葉は悲しくなる。
(江奈様には「決心がつかない」なんて言ってしまったけど、いざってなったら私は逃げることを最優先するって事だよね。そんなの……卑怯だ)
母が病で苦しんでいた時、三葉は母の知り合いに預けられていた。
弘城から自分の能力を説明された今、あれは母の優しさではなく神憑の能力が発動したのではて疑問が生じる。
もし江奈の力を頼って叔父達に一矢報いようと決意しても、不測の事態になったら自分は逃げ出すという事だ。
(どうしてこんな力なの?)
せめて人の役に立てるような能力だったなら、気持ちは救われた。
(逃げるだけだなんて……何をしたらいいのか分からないけど、お世話になった人には感謝しなさいってお母さんは言ってた)
それでも自分は、生かされた命だ。
羽立野家から逃げ出した自分を匿ってくれたのだから、弘城が欲しがった物を差し出すのは当然だと考える。
「あの、弘城さん」
「なんだい?」
「醜い私を契約でも婚約者として望んでくださった事には感謝します」
「君が醜い?」
「はい。ですからお飾りの婚約者として、弘城さんの都合の良いように使ってください。吹雪にも弘城さんの命に従うようにお願いしてみます。もし私との婚姻が必要でしたら、結婚後は妾の方を本妻の待遇としてください」
一息に言って、弘城の返答を待つ。
大神家からの条件提示を考えれば、申し分ない答えの筈だ。
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