8 / 86
第2章:騎士学校編
2-1. 【日本】職場の新卒爆死ざまぁ【転生】
しおりを挟む
休憩を終えた俺は聖女パーティーの備考を再開。距離を保ち、追い続ける。
俺は空を見て鳥の位置を確かめるし、定期的に立ち止まって全周囲を目で確認する。極力、モンスターとの遭遇は避けたい。
俺は隠れる場所の多いところで敵が人型魔族なら不意打ちで倒せるが、何もない広い場所だと、短槍を突き刺しても内臓に届かないサイズのモンスターは倒せない。
当然、内臓の位置が分からないような形状や、ゴーストや不定形生物にも勝てない。
周囲を警戒しつつ進む。泡爆弾はあと1個しかない。とにかくモンスターとの遭遇は避ける。
日が沈みかけてきたので岩陰で夜を越すことにした。
レストが狩りにでかけたので、俺は筋トレや戦闘訓練をした。しばらくするとレストがウサギと鳥を捕まえて戻ってきた。
俺は獲物をナイフで解体し、レストにはそれを食べてもらった。俺は乾燥肉や野菜を水魔法で戻して食べた。
聖女パーティーにも乾燥野菜や干し肉は渡してあるから、サリナの水魔法と火魔法でうまく煮て食っているだろう。
……保護者感が出てしまうというか、あいつらちゃんとしているか不安になってくる。
適当せずに、飯は煮て食っているか?
土、水、火魔法でお風呂を作って体を綺麗にしているか?
自分のことより仲間の心配の方が大きな旅は五日ほど続き、いよいよ魔王城の目前に到達した。
巨大な山脈は頂付近が厚い雷雲に覆われている。
時折、稲光によって、まばらな枯れ木の影が臓物表面の血管のように浮かび上がる。
「こんな、いかにも魔王が住んでますってところにマジで住んでいるのは、もはやギャグだろ」
俺は岩陰に座り、レストをソファ代わりにして寝転がる。
「魔王に俺がここにいることを伝えておくか。『Xitter』オープン」
ピロンッ♪
俺が左手にスマートフォンサイズの黒い板を出現させるのと同時に、魔王からDMが届いた。
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
くくくっ。
よくぞここまでたどり着いた。褒めてやろう
────────────────────
■自分
お前暇か?
俺と連絡取れるようになるの待ち構えてたか?
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
くくくっ。
お前と早く会いたくてうずうずしているに決まっているだろう
────────────────────
■自分
可愛いかよ。
とりあえず、山の下まできた
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
分かった。
その辺りで何か起こるようなら伝える。
『Xitter』は起動したままにしておいてくれ
────────────────────
■自分
ああ。スリープモードで待機しておくよ
例の作戦。忘れるなよ。聖女を傷つけるなよ
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
分かっている。適当に戦ったあと、我は爆発四散したフリをする。
その後、お前の影の中に隠れる。必ず近くに来い
────────────────────
■自分
ああ。疲れてるし寝るよ。
じゃあまた明日な
────────────────────
俺はまぶたを閉じると、すぐに夢を見始める。
魔王城の手前にたどり着いたという達成感がそうさせるのか、夢の意識は旅の軌跡を振り返るように過去へと遡っていく――。
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
回想?
────────────────────
■自分
え?
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
今からお前の記憶を見る感じ?
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
このもやもやしているの、アレルの記憶なの?
────────────────────
■自分
おい。待て。
自分で言うのも変だが、これは俺の夢だ。
なんでお前らの意思が伝わってくる
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
知らんけど、お前のスキルがスリープモードとやらで起動しっぱなしだから、近くにいる我の魔力といい感じに影響しあったのでは?
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
アレルをいっぱいペロペロしてたらつながった!
────────────────────
■自分
だからって、夢に入ってくるなよ……
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
まあまあ。
お前の過去に興味あるし。黙ってるから覗かせてくれよ
────────────────────
■自分
知られて困る過去はないから構わんが。
別に面白くないぞ……
────────────────────
……なぜだ。
よく分からないが、こうして俺は夢で自分の回想シーンを、魔王やケルリルと同時視聴することとなった。
桜が散り始めたあの日、俺は勤務先のリサイクルショップで、新人の教育担当になった。
「――ここまでの手順は分かりましたか?」
「あーっ……。やっと終わりです? で、私は何をやらさせられるの?」
高校を卒業したばかりの吉田さんは、ネイルの仕上がりの方に興味があるらしく、俺の説明をほとんど聞いてなかったようだ。
「では、もう一度説明しますね――」
俺は同じ説明を簡潔に繰り返した。
「先輩がやり方を知ってるなら全部先輩がやればいいでしょ? 効率化とかわかんないの? 先輩馬鹿じゃん。つーか、年下に敬語ウケる。女慣れしてないのバレバレ。童貞っしょ? キッモ」
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
おら。どうした。
早くぶちのめせ
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
ボク、こいつ嫌い!
早くぶちのめして!
────────────────────
■自分
日本の回想シーンでそういうのは期待するな。
俺は平和な世界の一般人だぞ
────────────────────
俺は仕事の意図や目的は省き、すべき作業のみを説明し直した。
「覚えきれないんだけど? 分かりやすく説明してくれないのって、パワハラじゃないの?」
理解できないのか。買い取り品を持ってきたお客様に、必要な書類の記入を促すだけの行為を……。
「つうか、自分の仕事を押しつけようとしてない? わたしの彼氏ボクシングやってたし、昔は族に入っていて、ここらじゃ少し有名なワルなんですけど?」
唐突な彼氏ボクシングアピールが、まるで理解できない。
なんだ、この支離滅裂さ。
「では、改めて、吉田さん。もう一度、最初から説明しますね?」
「あーっ……」
机に置いてあった吉田さんのスマホが小さく振動した。彼女はそれを手にすると席を立つ。
「勤務中は電源を切るか、サイレントモードに――」
「ぷっ! サイレントモードってアンドロっしょ。アイポンはマナーモードです~。マジおっさん、キモ。だっさ。わたし休憩、行ってきまーす。……もしもし。ターくん。今ぁ? もちろん暇だよぉ~。職場の先輩がさー。なんかエロい目でうちのこと見てくるんだけど、今度ボコってよ~。大丈夫大丈夫。駐車場に連れだしてボコればバレないって。それよりもこの前のクスリ、超よかった~。今もターくんの声を聞いただけで、あそこジュンジュン~」
吉田さんは通話しながら事務所を出て行く。
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
アレル。どうした。
なんでぶちのめさないんだ?
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
アレル大丈夫?
お腹、痛いの?
────────────────────
■自分
お前ら、俺の前世をなんだと思ってるんだ……
────────────────────
吉田さんがいつまで経っても戻ってこないから時計を確かめると、1時間が経過していた。しかし、これを指摘したら「女性のトイレの時間を計っているって最悪。セクハラで訴えてやる!」みたいなこと言いそうだな……。
ん?
店舗入り口の方が何か騒がしい。
「なんだお前、その態度は! 客を舐めてんのか?」
「うるせえよゴミカス! 蛆がわいたピアス穴がくせえんだよ! 顔近づけんな!」
男と女の罵りあう声だ。
俺は買い取り品の整列を一時中断し、バックヤードから出る。
顔を真っ赤にしたごつい男と、吉田さんと鼻が触れあいそうな距離で喚きあっている。
「てめえ、殺すぞ! 裸で土下座しても許させねえぞ、るぁあっ!」
男は二の腕に入れ墨がしてあり、顔は皮がめくれないか心配になるほどたくさんのピアスで覆われている。明らかにヤバい人だ。
「てめえこそ裸で性病まみれの腐れチン*しごきながら謝っても許さねえぞ!」
「表に出ろや! 誠意の払い方を体に教えてやるからよ!」
男が吉田さんの手首を掴んで引きずり始めた。
俺は大声で駆け寄る。
「お客様! 申し訳ありません! 私がお話をうかがいます!」
ドンッ!
俺は間に割って入ろうとするが、いきなり男に横っ面を裏拳ぎみに殴られた。
「邪魔してんじゃねえよ! 警察呼ぶぞこら!」
ガシャァァァンッ!
突如、ガラスが割れたような甲高い音が鳴り響いた。
胸が熱かった。
何が起きたのかよく分からない。
顔や腕や脚に引き裂かれたかのような痛みがあるし、あっという間に体中が真っ赤になってくる。水中に落ちたかのように、遠くから叫び声が聞こえる。
(ああ。男に殴られて転んで、レジ横の高額商品展示用のショーウインドウに突っこんだのか……)
吉田さんがスマートフォンを取りだし、救急車を呼んでくれるのかと思ったが、パシャリという音とともに視界が白くなった。
は?
まさか、俺の写真、撮った?
心配や通報より先に?
違うよな?
犯人を撮ったんだよな?
それか、病院に送るために怪我の状態を記録したんだよな?
これが最後の記憶なので、俺はここで死んだのだろう。
────────────────────
■自分
こうして俺は死に、転生した
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
我慢の限界だ……
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
ボクも
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
やるか、ワン公!
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
ワン公じゃないけど、やる!
────────────────────
■自分
おい。何をするつもりだ
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
我慢の限界だと言っている!
次元を超えろ!
暗黒の爆発!
穴を開けたぞ、ワン公!
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
神ヲ捕食スル神狼ノ遠吠エッ!
────────────────────
■自分
おい! 魔王! ケルリル!
────────────────────
俺は自分の回想を、空に浮いた第三者目線で見ていた。
突如、リサイクルショップが爆発した。
壁際のみが綺麗にふっとんでいる。
俺の遺体は傷つくことなく残っており、少し離れた位置に、両手足がなくなり、焦げて性別が分からなくなった胴体が2つ転がっている。
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
安心しろ。
我にも、じひ、とやらの心がある。
殺してはおらん
────────────────────
■自分
そ、そうか。
お前らが地球の過去に介入したのか……
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
不死の呪いをかけてやった。
あいつらはあの状態で死ぬこともできず、半永久的に苦しむことになるだろう
────────────────────
■自分
高額医療費が税金から支払われると思うと国民が可哀想だな……。
不死なら実験動物にでもなって、何かしらの病の研究にでも貢献してくれれば良いが……。
それはそうと、言っただろ。
俺の過去は面白くないって
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
アレルのことだもん。ぜんぶ面白いよ!
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
うむ。面白い。
ほら。続きは?
────────────────────
■自分
は?
続きも何も、死んだだろ。
ここで終わりだ
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
『お前が我と出会うまで編』は?
────────────────────
■自分
いや、それこそ面白くないだろ。
地球編はお前らにとっては異世界だから面白いかもしれないが『こっち編』は、15年間ただの山奥で暮らすか、羊の遊牧だぞ
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
見たーい! 美味しそう!
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
見たーい! 美味しそう!
────────────────────
■自分
ケルリルが羊を美味しそうと思うのは分かるが、魔王は何が美味しそうなんだ
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
幼い頃の、お、ま、え♥
────────────────────
■自分
ぶちのめすぞ!
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
いいから、ほら。
我が退屈せぬよう、面白いところから思いだせ。
お。そうだ。
『お前が我と出会うまで編』の前に、
『初めてのぶちのめすぞ編』を見せてくれ!
────────────────────
■自分
初めてのぶちのめすぞ編?
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
覚えてないのか?
────────────────────
■自分
いや、はっきり覚えている
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
なら、それは確実に回想しろ
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
見たーい! 楽しみすぎておしっこ漏れる!
────────────────────
■自分
漏らすな!
……まあ、夢だから時間はたっぷりあるが
────────────────────
俺は空を見て鳥の位置を確かめるし、定期的に立ち止まって全周囲を目で確認する。極力、モンスターとの遭遇は避けたい。
俺は隠れる場所の多いところで敵が人型魔族なら不意打ちで倒せるが、何もない広い場所だと、短槍を突き刺しても内臓に届かないサイズのモンスターは倒せない。
当然、内臓の位置が分からないような形状や、ゴーストや不定形生物にも勝てない。
周囲を警戒しつつ進む。泡爆弾はあと1個しかない。とにかくモンスターとの遭遇は避ける。
日が沈みかけてきたので岩陰で夜を越すことにした。
レストが狩りにでかけたので、俺は筋トレや戦闘訓練をした。しばらくするとレストがウサギと鳥を捕まえて戻ってきた。
俺は獲物をナイフで解体し、レストにはそれを食べてもらった。俺は乾燥肉や野菜を水魔法で戻して食べた。
聖女パーティーにも乾燥野菜や干し肉は渡してあるから、サリナの水魔法と火魔法でうまく煮て食っているだろう。
……保護者感が出てしまうというか、あいつらちゃんとしているか不安になってくる。
適当せずに、飯は煮て食っているか?
土、水、火魔法でお風呂を作って体を綺麗にしているか?
自分のことより仲間の心配の方が大きな旅は五日ほど続き、いよいよ魔王城の目前に到達した。
巨大な山脈は頂付近が厚い雷雲に覆われている。
時折、稲光によって、まばらな枯れ木の影が臓物表面の血管のように浮かび上がる。
「こんな、いかにも魔王が住んでますってところにマジで住んでいるのは、もはやギャグだろ」
俺は岩陰に座り、レストをソファ代わりにして寝転がる。
「魔王に俺がここにいることを伝えておくか。『Xitter』オープン」
ピロンッ♪
俺が左手にスマートフォンサイズの黒い板を出現させるのと同時に、魔王からDMが届いた。
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
くくくっ。
よくぞここまでたどり着いた。褒めてやろう
────────────────────
■自分
お前暇か?
俺と連絡取れるようになるの待ち構えてたか?
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
くくくっ。
お前と早く会いたくてうずうずしているに決まっているだろう
────────────────────
■自分
可愛いかよ。
とりあえず、山の下まできた
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
分かった。
その辺りで何か起こるようなら伝える。
『Xitter』は起動したままにしておいてくれ
────────────────────
■自分
ああ。スリープモードで待機しておくよ
例の作戦。忘れるなよ。聖女を傷つけるなよ
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
分かっている。適当に戦ったあと、我は爆発四散したフリをする。
その後、お前の影の中に隠れる。必ず近くに来い
────────────────────
■自分
ああ。疲れてるし寝るよ。
じゃあまた明日な
────────────────────
俺はまぶたを閉じると、すぐに夢を見始める。
魔王城の手前にたどり着いたという達成感がそうさせるのか、夢の意識は旅の軌跡を振り返るように過去へと遡っていく――。
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
回想?
────────────────────
■自分
え?
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
今からお前の記憶を見る感じ?
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
このもやもやしているの、アレルの記憶なの?
────────────────────
■自分
おい。待て。
自分で言うのも変だが、これは俺の夢だ。
なんでお前らの意思が伝わってくる
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
知らんけど、お前のスキルがスリープモードとやらで起動しっぱなしだから、近くにいる我の魔力といい感じに影響しあったのでは?
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
アレルをいっぱいペロペロしてたらつながった!
────────────────────
■自分
だからって、夢に入ってくるなよ……
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
まあまあ。
お前の過去に興味あるし。黙ってるから覗かせてくれよ
────────────────────
■自分
知られて困る過去はないから構わんが。
別に面白くないぞ……
────────────────────
……なぜだ。
よく分からないが、こうして俺は夢で自分の回想シーンを、魔王やケルリルと同時視聴することとなった。
桜が散り始めたあの日、俺は勤務先のリサイクルショップで、新人の教育担当になった。
「――ここまでの手順は分かりましたか?」
「あーっ……。やっと終わりです? で、私は何をやらさせられるの?」
高校を卒業したばかりの吉田さんは、ネイルの仕上がりの方に興味があるらしく、俺の説明をほとんど聞いてなかったようだ。
「では、もう一度説明しますね――」
俺は同じ説明を簡潔に繰り返した。
「先輩がやり方を知ってるなら全部先輩がやればいいでしょ? 効率化とかわかんないの? 先輩馬鹿じゃん。つーか、年下に敬語ウケる。女慣れしてないのバレバレ。童貞っしょ? キッモ」
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
おら。どうした。
早くぶちのめせ
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
ボク、こいつ嫌い!
早くぶちのめして!
────────────────────
■自分
日本の回想シーンでそういうのは期待するな。
俺は平和な世界の一般人だぞ
────────────────────
俺は仕事の意図や目的は省き、すべき作業のみを説明し直した。
「覚えきれないんだけど? 分かりやすく説明してくれないのって、パワハラじゃないの?」
理解できないのか。買い取り品を持ってきたお客様に、必要な書類の記入を促すだけの行為を……。
「つうか、自分の仕事を押しつけようとしてない? わたしの彼氏ボクシングやってたし、昔は族に入っていて、ここらじゃ少し有名なワルなんですけど?」
唐突な彼氏ボクシングアピールが、まるで理解できない。
なんだ、この支離滅裂さ。
「では、改めて、吉田さん。もう一度、最初から説明しますね?」
「あーっ……」
机に置いてあった吉田さんのスマホが小さく振動した。彼女はそれを手にすると席を立つ。
「勤務中は電源を切るか、サイレントモードに――」
「ぷっ! サイレントモードってアンドロっしょ。アイポンはマナーモードです~。マジおっさん、キモ。だっさ。わたし休憩、行ってきまーす。……もしもし。ターくん。今ぁ? もちろん暇だよぉ~。職場の先輩がさー。なんかエロい目でうちのこと見てくるんだけど、今度ボコってよ~。大丈夫大丈夫。駐車場に連れだしてボコればバレないって。それよりもこの前のクスリ、超よかった~。今もターくんの声を聞いただけで、あそこジュンジュン~」
吉田さんは通話しながら事務所を出て行く。
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
アレル。どうした。
なんでぶちのめさないんだ?
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
アレル大丈夫?
お腹、痛いの?
────────────────────
■自分
お前ら、俺の前世をなんだと思ってるんだ……
────────────────────
吉田さんがいつまで経っても戻ってこないから時計を確かめると、1時間が経過していた。しかし、これを指摘したら「女性のトイレの時間を計っているって最悪。セクハラで訴えてやる!」みたいなこと言いそうだな……。
ん?
店舗入り口の方が何か騒がしい。
「なんだお前、その態度は! 客を舐めてんのか?」
「うるせえよゴミカス! 蛆がわいたピアス穴がくせえんだよ! 顔近づけんな!」
男と女の罵りあう声だ。
俺は買い取り品の整列を一時中断し、バックヤードから出る。
顔を真っ赤にしたごつい男と、吉田さんと鼻が触れあいそうな距離で喚きあっている。
「てめえ、殺すぞ! 裸で土下座しても許させねえぞ、るぁあっ!」
男は二の腕に入れ墨がしてあり、顔は皮がめくれないか心配になるほどたくさんのピアスで覆われている。明らかにヤバい人だ。
「てめえこそ裸で性病まみれの腐れチン*しごきながら謝っても許さねえぞ!」
「表に出ろや! 誠意の払い方を体に教えてやるからよ!」
男が吉田さんの手首を掴んで引きずり始めた。
俺は大声で駆け寄る。
「お客様! 申し訳ありません! 私がお話をうかがいます!」
ドンッ!
俺は間に割って入ろうとするが、いきなり男に横っ面を裏拳ぎみに殴られた。
「邪魔してんじゃねえよ! 警察呼ぶぞこら!」
ガシャァァァンッ!
突如、ガラスが割れたような甲高い音が鳴り響いた。
胸が熱かった。
何が起きたのかよく分からない。
顔や腕や脚に引き裂かれたかのような痛みがあるし、あっという間に体中が真っ赤になってくる。水中に落ちたかのように、遠くから叫び声が聞こえる。
(ああ。男に殴られて転んで、レジ横の高額商品展示用のショーウインドウに突っこんだのか……)
吉田さんがスマートフォンを取りだし、救急車を呼んでくれるのかと思ったが、パシャリという音とともに視界が白くなった。
は?
まさか、俺の写真、撮った?
心配や通報より先に?
違うよな?
犯人を撮ったんだよな?
それか、病院に送るために怪我の状態を記録したんだよな?
これが最後の記憶なので、俺はここで死んだのだろう。
────────────────────
■自分
こうして俺は死に、転生した
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
我慢の限界だ……
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
ボクも
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
やるか、ワン公!
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
ワン公じゃないけど、やる!
────────────────────
■自分
おい。何をするつもりだ
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
我慢の限界だと言っている!
次元を超えろ!
暗黒の爆発!
穴を開けたぞ、ワン公!
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
神ヲ捕食スル神狼ノ遠吠エッ!
────────────────────
■自分
おい! 魔王! ケルリル!
────────────────────
俺は自分の回想を、空に浮いた第三者目線で見ていた。
突如、リサイクルショップが爆発した。
壁際のみが綺麗にふっとんでいる。
俺の遺体は傷つくことなく残っており、少し離れた位置に、両手足がなくなり、焦げて性別が分からなくなった胴体が2つ転がっている。
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
安心しろ。
我にも、じひ、とやらの心がある。
殺してはおらん
────────────────────
■自分
そ、そうか。
お前らが地球の過去に介入したのか……
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
不死の呪いをかけてやった。
あいつらはあの状態で死ぬこともできず、半永久的に苦しむことになるだろう
────────────────────
■自分
高額医療費が税金から支払われると思うと国民が可哀想だな……。
不死なら実験動物にでもなって、何かしらの病の研究にでも貢献してくれれば良いが……。
それはそうと、言っただろ。
俺の過去は面白くないって
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
アレルのことだもん。ぜんぶ面白いよ!
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
うむ。面白い。
ほら。続きは?
────────────────────
■自分
は?
続きも何も、死んだだろ。
ここで終わりだ
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
『お前が我と出会うまで編』は?
────────────────────
■自分
いや、それこそ面白くないだろ。
地球編はお前らにとっては異世界だから面白いかもしれないが『こっち編』は、15年間ただの山奥で暮らすか、羊の遊牧だぞ
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
見たーい! 美味しそう!
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
見たーい! 美味しそう!
────────────────────
■自分
ケルリルが羊を美味しそうと思うのは分かるが、魔王は何が美味しそうなんだ
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
幼い頃の、お、ま、え♥
────────────────────
■自分
ぶちのめすぞ!
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
いいから、ほら。
我が退屈せぬよう、面白いところから思いだせ。
お。そうだ。
『お前が我と出会うまで編』の前に、
『初めてのぶちのめすぞ編』を見せてくれ!
────────────────────
■自分
初めてのぶちのめすぞ編?
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
覚えてないのか?
────────────────────
■自分
いや、はっきり覚えている
────────────────────
■ヴォルグルーエル@闇刻魔王
なら、それは確実に回想しろ
────────────────────
■ケルリル@ケルベロスとフェンリルのハーフ
見たーい! 楽しみすぎておしっこ漏れる!
────────────────────
■自分
漏らすな!
……まあ、夢だから時間はたっぷりあるが
────────────────────
20
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
空手馬鹿の俺が転生したら規格外の治癒士になっていた 〜筋力Eのひ弱少年治癒士が高みを目指す!?〜
くまみ
ファンタジー
前世は空手部主将の「ゴリラ」男。転生先は……筋力Eのひ弱な少年治癒士!?
「資質がなんだ!俺の拳は魔法を超える!……と、思うけど……汗」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は五里羅門(ごり・らもん) 35歳独身男だ。硬派すぎて女が寄り付かず。強すぎる空手愛と鍛え抜かれた肉体のせいで不本意ながら通称「ゴリラ」と呼ばれていた。
仕事帰りにダンプに跳ねられた俺が目覚めると、そこは異世界だった。だが転生した姿は前世とは真逆。
病弱で華奢。戦闘力最低と言われる職業の「治癒士」(ヒーラー)適正の10歳の少年・ノエル。
「俺は戦闘狂だぞ!このひ弱な体じゃ、戦えねぇ!
「華奢でひ弱な体では、空手技を繰り出すのは夢のまた夢……」
魔力と資質が全てのこの世界。努力では超えられない「資質の壁」が立ちふさがる。
だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。
「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」
これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。
伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる