武器は棍棒。撲殺系いっぱん羊飼いの俺、スキルXitterで超越者たちと相互フォローになってしまい「力が欲しいか?」とウザ絡みされる

うーぱー

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第16章:魔王VS聖女パーティー

16-2. 聖女パーティーが初手でぶっぱしてきた。対話の意思ゼロかよ!

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 さっき魔王が闇に包まれていたとき、声が低く聞こえた。
 それなら、俺が喋ってもバレないはず。

「ケルリル。意識をレストに返せ。レストの方が、俺との連携が上手い。場合によってはお前の力も借りる。油断はするな」

「分かった」

「レスト。頼んだぞ。吠えるなよ」

「クル!」

「ルーエル。俺の目の位置だけ闇を薄くしてくれ。このままだと外が見えない」

「うむ。どうだ」

「ああ。ちょうどいい。ありがとう。俺が魔王を演じる。お前は喋るな」

「えー」

「お前の声だと魔王感がない。俺が喋る」

「あとでちんちん見せてくれるなら黙っててあげる」

「それは女の子が要求することじゃない! 肩車してやるから!」

「むう。しかたない。肩の上からおしっこして飛ばしっこは我の勝ちだな!」

「やるな! やらせない! お前は外が見えるか?」

「うむ。見える」

「今の状態からでも魔法は撃てるか? お前は俺の右腕になっているから、足の裏から魔法を撃つと思うが」

「できんことはないだろう。やったことないから、ぶっつけ本番にはなるが」

「無理をさせてすまんが、頼む。レスト! ケルリル! ルーエル! 頑張ろう!」

「クルルル!」

「うん!」

「うむ!」

 ギュッ!

 ルーエルがしがみつく力を強くしてきた。俺の前腕が太ももに挟まれる。

 あっ。しまった。
 こいつ小便をしたあと顔しか洗ってねえ!

 くっそ。もう時間がない。
 行き当たりばったりの出たとこ勝負だ。

 外が静かになった。
 扉の向こうでの戦闘が終わったようだ。
 ありがとう門番ゴーレム。お前のおかげでなんとか間にあった。

 ギギギギギ……。

 扉が開き始める。
 一気に開け放たれることなく、こぶし大の隙間が空いただけだ。
 あっ。

「目を閉じろ! 耳を塞げ!」

 カッキィィィィィィィィッ!

 突如、甲高い音が響き、室内が真っ白になる。
 光だ。メイの『鮮度保つ保存の泡フレッシュ・スムージー』に保存した、サリナの閃光魔法を、ソフィアの『空気人形エアーマン』で飛ばしてきた。
 街で強盗団を壊滅させたときに俺が指示したやり方だ。

 まぶしい。
 だが、奇襲攻撃は一般的なサイズを想定した閃光と音響のため、広いこの部屋では効果が弱い。

 俺は目がくらんだが、闇の膜があったこともあり耐えられた。

「ルーエル。防御を固めろ」

「うむ。問題ない」

 ドンッ!
 ズドンッ!
 ズガガガガガンッ!

 会話を遮るように周囲に連続して爆発が起こる。轟音と振動が荒れ狂い、ホワイトアウトから回復した視界が今度は爆煙で染まる。

 妹たちには、魔法を保存した泡爆弾を風で送りこむスキルコンボを練習させていた。
 道中の人型魔族も大半をこの先制攻撃で仕留めてきたから,当然、魔王相手にも使ってくるよな。

 ドゴンッ!
 ズドーンッ!
 バギャーンッ!

 爆発音に続き突風や燃焼の音が聞こえたあと、すべての音が融合して、ただの騒音になった。
 炎、風、水、雷、光、聖、あらゆる属性の魔法攻撃が俺たちの眼前に炸裂する。初弾の後に部屋の広さに気づいたのか、次第に攻撃が室内中央を中心にして、広い位置で炸裂するようになる。

 どんだけ、泡に魔法を溜めこんでいたんだよ……!
 魔王の姿を見ることなく、初手で片付けるつもりか?!
 互いの正義を主張して言い争えよ!

 いや、まあ、ルーエルは『魔王だから』という理由だけで、奇襲を受けているわけだから、互いに話しあう余地はないのかもしれないけど。

 マジでこれ、単なるド派手な暗殺じゃねえか。

「ルーエル。大丈夫なのか?」

「うむ。予想以上に強力だから、防御に集中しないといけないが、貫かれることはない……はず。ケルリルも魔力を貸してくれている。大丈夫……なはず」

 少しだけ声に焦りがある。さすがに、瞬間的に大火力を連続で叩きこまれたら魔王も余裕をなくすか。

「なんなんだよ、あいつら。会話もなく姿も見せずにいきなり一方的に攻撃するって、理不尽すぎるだろ。あれでも聖女かよ」

「アレルの仲間らしいと思う」

「うむ。アレルの仲間らしいと思う」

「なんでだよ! 俺は一応、知能のある奴と戦うときは最初に警告するだろ」

「えーっ。この前の魔族、背後から思いっきり棍棒で殴ってた! ボク、見てた!」

「あれは、こう、なんていうか、実力差があるから不意打ちするしかなかったわけで」

「だから、奴等も必死なのだろう。まあ、奴等の誤算は部屋の広さを把握しておらず、我の行動不能を狙った精神系や束縛系の初手を外したこと」

「最初のはただの爆発じゃなかったのか」

「うむ。我も知らぬようなデバフ魔法のオンパレードだった」

「ボクがいることも、メイたちの誤算だよ! 誤算ってなに?!」

 ようやく爆発が収まった。ストックしておいた泡を使い切ったのだろう。

「アレルよ。意外と魔力を消耗してしまった。闇の衣の維持には問題ないが……」

「ボクもちょっと疲れちゃった」

「分かった。俺とレストに任せて、ルーエルとケルリルは少し休んでろ」

 振動や熱で歪んだ扉が内側にぶち抜かれた。

 直後、扉から少し離れた壁をぶち抜き、3人が棍棒、聖剣、魔法の杖をそれぞれ別方向に構えて、素早く侵入してくる。
 間違いない。メイ、ソフィア、サリナの3人だ。

 怖え……。聖女パーティっていうか、マフィアの暗殺専門チームとかだろ……。

 床はまだらに赤熱し、柱はアル中が作った蜘蛛の巣のように乱雑なヒビが走っている。
 天井から装飾物かアーチ構造だったらしき石の塊が落下し、砕けて小さく砂煙をあげる。

 風の膜で周囲を覆った3人は、俺に武器を向けると、別方向を警戒しつつ、部屋の中央に進んでくる。

(それじゃ、レスト。頑張ろうな)

(クルルルル!)

 俺はレストをゆっくり動かし、3人の方に体を向ける。

 威厳を感じさせるように、重々しく言う。

「よく来たな。矮小なる人の子よ」

「……わいしょう?」

 メイが疑問を口にするとサリナが「小さいという意味」とささやいた。

 よし。どうやら俺だとは気づかれていない。

「その異形。あなたが魔王で間違いないかしら」

 ソフィアが聖剣の切っ先を俺に向けてくる。

「くくくっ。いかにも。我が名は闇刻あんこく魔王ヴォルグルーエル」

「魔王ヴォルグ……! ……! 私は聖剣の聖女セイクリッド・セイントソフィア! 覚悟しなさい!」

 ソフィアは馬鹿な方ではないが、まあ、しょうがない。1回聞いただけでは覚えられないだろう。
 ソフィアが風スキルで数センチほど浮きあがった。

 ふむ。
 ソフィアが魔王との会話を担当し注意を引き、スキルの内容をほのめかすことにより自分を警戒させる。そうやって、後衛のメイとサリナへこちらの意識が向かわないようにしている。

 俺は相手の戦術が分かっているから、適度に分かっていないフリをしてひっかからないといけないな。

(ルーエルとケルリルは、俺たち以外の誰かが、この戦いを見ている気配があるか探っててくれ)

(うむ。任せろ。我は魔力を探ろう)

(分かった! ボクは気配を探る!)

(頼んだぞ。この戦いは聖戦監視官に観測させる必要があるんだ)

 さっきの爆発で、監視官も戦いが始まったことに気づいているはず。だが、念のためだ。監視官が観測準備をする時間を稼がなければ。確実に、この戦いを観測させる。
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