学園制圧

月白由紀人

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第17話 二人の時間

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 一時間ほどたった。僕と明莉はソファの両側に座ったままだ。退屈というわけじゃなかったけど、せっかく明莉と二人きりになった場面だったので、僕は明莉に話しかけた。せっかくというのも変なんだけど。

「明莉はナイトメアなんだ」
「なに? いまさら?」

 明莉は、先ほどのトイレを我慢していた時とは打って変わって、落ち着いた抑揚で返してきた。

「本当の明莉のこと、少しでもいいから教えてよ。もしよかったら。ナイトメアのこととか」
「…………」

 明莉は、あまり嬉しくないという様子だった。でも少ししてから、明莉はゆっくりと語りだした。

「何度も言った通り、ナイトメアは異界の生命体。異能力者。それがたまたまこのセカイに転移してきて帰れなくなっただけ。人間より強力な筋力とスキルを持っているけど、その他は人間と一緒。食べて眠って排泄して……」
「うん」
「でもこのセカイに元からいた人間から見たら、嬉しいものじゃなかったのね。このセカイの支配者層、このセカイをコントロールしている層がナイトメアの排除を決めてから百年ほど経つわ」
「そう……なんだ……」
「ナイトメアの中にはごく少数、人間と密かに婚姻してセカイの中に溶け込んで静かにひっそり暮らしている者もいるけれど……。そんな運のいい者は極々少数で、多くは政府組織に監視され追われながら生きながらえているのが現実」
「…………」

 黙って聞いている僕に、明莉が続けてくる。

「私は、人を騙したり殺したりカラダを売ったりする少女たちの一人として生きてこなくちゃならなかった。私はカラダを売りたくなかったから、騙して殺す方を選んだだけ」

 僕は、相槌を打てなかった。明莉や先生との会話から、その一旦は見えていた気がするけど、明莉からはっきりと言葉にして告げられると、その重さが堪える。明莉は、小さい頃は一緒に遊んだ明莉は、どんな想いでどんな気持ちでどんな生活をしてきたのだろう。僕にはわからないことなんだけど、想像すると押しつぶされそうになる。

「どう? 私のこと、少しはわかった……気がする?」

 明莉を見る。誇らしげな笑み、というより自嘲的なんだろう。その中に、あきらめと哀しみが滲んでいた。

「軽蔑する? 蔑む? あるいは、怖くなった?」
「そうだ!」

 僕は、突然思いついて声を出した。その声に、明莉がびっくりしたという顔を見せる。

「僕と結婚しよう。そうやってセカイに溶け込んで暮らしているナイトメアもいるんしょ。君は僕が相手じゃ嫌かもだけど、でも、ひっそりとでも暮らせるのなら!」
「…………」

 明莉が黙り込んで、真意を見透かそうとするように僕を凝視してくる。

「私が……怖くないの? 私は人殺しなのよ。教室で見てたでしょ」
「う、うん……。それは……確かにそうなんだけどでも……」
「でも?」
「僕にも、君の為に出来ることがあるって思ったんだ」
「私は、生き方を変える事はできないわ」
「うん。いいよ。でも僕は君と一緒に居たいって、思った。今、わかった。僕にもできることがある」
「私の……カラダ目当て?」
「え?」

 僕は唐突に思えた明莉の疑念に、驚いた。明莉が僕の瞳をのぞいてきて、それから明莉は素直な様子で謝ってきた。

「ごめんなさい。今の言葉は忘れて。でも……本気……なの?」
「うん。本気」
「もう一度言うけど、私は人殺しなのよ。これまでに多くを殺してきて、これからも殺すわ」
「それは……。困ったことで、できるならどうにかして欲しいんだけど、でも君とこの件でお別れなのは……嫌なんだ」
「そうなのね」

 明莉は、ふふっと小さな声を漏らした。少し可笑しくて、同時に少しだけ嬉しいという調子で笑った。

「うん。僕には人殺しは出来ないけど、小さい頃からずっとずっと好きだった君の味方をしたい、君の力になりたいって思ったんだ。たぶん、今回の事件で君に魅入られたんだ」

 明莉と二人きりの場所。空間。

 二人で視線を合わせて見つめ合い、笑みを交わす。

 夜明け前の午前四時。

 異常な状況に陥っている学園内の秘密の教室で、僕と明莉だけの時間が過ぎてゆく。
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