学園制圧

月白由紀人

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第16話 生理現象

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「起きたのね」

 目を開いた僕の耳に、明莉の声が流れ込んできた。

「休めた?」

 見ると、起き上がってソファに座っている明莉が、僕を気遣う目線で見つめてくれている。

「うん。寝てた」
「こんな状況で私が言うのもなんだけど……。いい夢、見れた?」
「…………」

 僕は、答えなかった。明莉も、さほど関心がなかったのか、それ以上突っ込んでこない。テーブル上の明莉のスマホを見て時間を確認すると、深夜の十二時を過ぎていた。

 僕らがサーヤさんに閉じ込められたのはお昼ごろだったから、半日も眠っていたことになる。ちょっと驚きながらも、精神的にも肉体的にも疲れていたんだと理解する。

 今度は僕が明莉に聞いた。

「眠れた?」
「眠りはしなかったわ。長年の習性で、一人でないと眠れないの。でも休めたわ。時間は十分あったから」
「よかった。こんな状況で僕が言うのは変なんだけど、休めるときに休んだ方がいいと思う」
「そうね。気遣ってくれてありがとう」

 明莉は感謝しているという声の後、言葉を切って黙り込んだ。

 その、じっと座っている明莉。何か様子がヘンに見える。もじもじしているというか、じれているというか、やっぱり様子がヘンに見える。体調が悪いわけじゃなさそうだけど、でも、落ち着かない様子なので聞いてみた。

「どうしたの? 大丈夫? なんかヘンな感じだけど」
「……」

 明莉は答えなかった。かわりに、僕の視線を避ける様に明後日の方向を向く。薄暗闇の中で見にくいけど、頬が薄っすらと染まっているように見える。

「本当に大丈夫? 問題があるなら……」
「何でもないわ」
「でも」
「何でもないって言ってるでしょ!」

 明莉が、怒っていて苛立たしい、同時に言われて恥ずかしいという抑揚で答えてきた。

「それならいいんだ」
「……」
「ごめん。様子がおかしく見えたから……」

 と、明莉は何やらもじもじする様子を見せた後、戸惑いながら言い難いという調子で途切れ途切れに返ししてきた。

「お……」
「え?」
「……」
「なに?」

 僕が促すと、明莉は観念したという様子を見せる。

「お、おしっ……。ト……トイレに……行きたい」

 消え入りそうな声で、明莉はそう言った。

「ああ、なんだ」

 どうということないことで、ぜんぜんなんでもないことで、僕は安堵した。よかった。体調が悪くなったとかじゃなくて、本当によかった。

「なんだじゃないでしょ。どうすれいいのよ、こんな場所で」
「それは」
「それは?」
「普通にすればいいんじゃないかな? 生理現象で、生物なら普通で当たり前のことなんだし」
「すればいいんじゃないかなって、なんのつもりなのっ! 貴方がここにいるでしょ!」
「え? 僕は全然平気だよ。なんにも気にしないよ。僕もトイレしたくなるかもだけど、そうしたらどうしようもないから部屋の隅ででもするよ。どうしようもないし」
「私が気にするの!」
「人を……その、気に障ったらごめん。人を害したりするのはそれほど気にしないのに、トイレは気にするんだ」
「それとこれとは話が別よっ!」

 明莉が声を爆発させた。音が外にまで響いて、たまたま廊下を歩いていた誰かが助けにきてくれればいいんだけどムリだよねと思いながら、無神経にも続けてしまった。

「人を害する方が全然大問題だと思うけど」
「私もそう思うけど自分でも全然わからないけどでも気にするのっ!」
「僕のお父さん、明莉も知っていると思うけど介護士だから、そういうのは全然平気なんだ。明莉の……その、下の世話とかでも、全然無問題」
「殺されたいの?」

 刃の様な冷気、物凄い殺気を感じてさすがの僕も黙った。

「貴方に答えた私がバカだったわ!」

 ふんっと、荒い息を吐いて僕から顔を背ける明莉。そのあとしばらく黙ってじっとしていたんだけど……。やがて身体を細かくゆするようになり、立って部屋を歩き出して、最後にはもう無理という様子で僕に告げてきた。

「見たら殺すからっ! 耳と鼻を塞いで! 息をするのもダメッ!」
「君が言うと冗談には聞こえない……うそごめん、あっちにいくね」

 僕は部屋の隅に言って、しゃがんで顔を手で覆って丸まる。明莉が見えなくなってしばらく時間が経ってから。

「もういいわ」

 声が聞こえたので、顔を隠していた手を外して立ち上がって振り向く。明莉は平然とした様子で、ソファに腰かけていた。着衣、制服に乱れもなく、泰然として優雅な様子。

 僕は全然何も気にしてないんだけど、明莉は年頃の女の子らしく気にしているというか羞恥心があるっぽいから、何も言わないで僕もソファに座った。

 不謹慎だけど……ナイトメアで人殺しの明莉が普通の女の子っぽいところがあったのがちょっと安心できるというか、明莉はやっぱり明莉なんだなぁって思えて、妙に嬉しかった閉鎖空間のひとときなのだった。
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