帰るための代償

ゆーた

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6 予定より早い帰宅

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彼は自分の街へ帰ってきた。
ロッカーに入れた荷物も回収し、いつものように、バックの中を荒らして学校に行ったことにするための偽装を行っていた。
電車で、大宮駅から三十分くらいで着いたのだから、歩いてこれたのではと思った。
時間を見るために、左腕を見たが、タイムリミット前に帰ってこれた代償として、時計は無くなってしまったのだから、高級な腕時計はない。駅の壁のアナログ時計を見にいったところ、針は十五時になろうとしていた。
あと一時間程は学校に行っていることになっているから帰れないのである。

することがないなぁ。
一刻も早く、卓哉に謝罪の連絡を入れたいが、
家に帰るまでは携帯は使えない。
卓哉が怒らなければいいなぁ。と祈るしかなかった。とにかく、
『これしか帰る方法がなかった。』と『同じ物を買って返す。』
これを強調しよう。
残ったお釣りのうちの百円を使い、駅内のコンビニで、下校中の生徒に見つからないためにマスクを購入した。
こういうことに限っては、頭の回転が良い。今までの仮病がばれなかったのもこういうとこだろう。
持ってきていたおにぎりを、いつもよりもゆっくり食べ、時計を見るとあとニ十分で帰れる時間だった。

帰宅した彼は、これもいつもの通り疲れたような演技をし、自分の部屋に急ぎ、携帯に充電プラグを差し込んだ。
充電残り一%の携帯を、充電しながら起動する。そして、卓哉に、全てを打ち明ける時が来た。

頼む。頼む。頼む。理解してくれ。こればかりは祈るしかなかった。

親が入ってきたので、疲れたような素振りを見せながら、教科書を棚に入れていると、通知が来た。返信がきたのだろう。彼の心臓は激しく鼓動しており、足は震えている。

親が部屋から出た後見た、卓哉の返信には、怒った様子は無く、
「お前が帰れないほうがやばいし、気にするなよ。どこで売ったの?」とあった。
なぜ、やばいのか、詳しく聞いてみたかったが、今は『ほんとごめん』の六文字しか打つことは出来なかった。

固定電話から着信音が鳴り響いていたが、それに気づくこともできなかった。
幸い、親がごみ出しに行っていたため、親が電話に出ることはできなかった。
その電話に気づいたのは、彼がもしやと思って着信履歴を確認したときであった。仮病でこれまで休んでいたのが、親にはバレている様子はない。ふぅと一息つき、履歴を消去した。
神様はまた俊佑に微笑んだ。それは彼が改心してきたためなのだろうか。
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