21 / 24
第17話
しおりを挟む
「う……」
目を覚ますとそこは薄暗い部屋だった。体を起こそうにも重だるい。どうして私はここにいるのか。意識を失う前のことを思い出そうとした時、部屋のドアが開いてそこから入ってきた光に目を細める。
「――ああ、起きたのね」
聞こえてきた声は意識を失う前に聞いたその声で、そして絶対忘れようもない声に冷や汗が吹き出す。光に慣れてきた目でその人物の顔を見上げると、そこには私を見下ろす義妹が立っていた。
「おはようお姉様。全く目を覚さないから薬が効きすぎてもう起きないのかと思ったわ」
「レイラ……」
掠れた声で名を呼ぶと彼女は冷ややかに笑った。あの時、振り返ろうとしたら後ろから口を布で塞がれて意識を失ったことを思い出す。そのまま彼女の馬車に乗せられてここに閉じ込められたのだろう。
もう二度と見ることはないと思っていたレイラが何故目の前にいるのか。陛下より国内に立ち入ることを禁じられているはずなのに。そしてここは一体……。
思考がグルグル渦巻いていると、レイラが私に近づいてきると私の前に止まり、扇で寝そべる私の顎を持ち上げる。
「お姉様。仮初の幸せが楽しかった? お父様とお母様の手から逃れて普通の令嬢の人生を歩んでいけると思っていた? お父様を誑かした汚らしい妾の血を引いた貴方が公爵様と本当に結婚できると思っていたの?」
「……っ」
レイラの言葉が胸に深く突き刺さりズキズキと胸を痛めつけ、息が苦しい。
「お姉様はあのままあの家で私たちのために生きて路頭に迷えば良かったのよ。そうしたらお父様の手を煩わせることもなかったというのに」
「……お父様が私を誘拐することを企んだの?」
「そうよ。お姉様が公爵様と結婚したという知らせが入ってからお父様とお母様はお姉様のことで毎日喧嘩してる。お姉様のことが露見したことで私の婚約話は無くなった。お姉様のせいで私の家は壊れてしまった。お姉様が悪いのよ。私より幸せになるなんて、絶対許さない……!」
ギリっとレイラは奥歯を噛み締める。私を蔑むことしか知らない彼女も私と同じ被害者なのかもしれない。全てあの歪んだ家、両親のせいだ。
普通の家に産まれていたらならば私たちはどんな姉妹に育っていたのだろうか。そんなことを考えているとまたドアが開いた。
「起きたのか」
「……おとう、さま」
彼を父と呼ぶのは憚られたが他の呼び方が思いつかなかった。
「本当にお前は私の人生にとって唯一の汚点だ」
「…………」
「お前がいなければ私が王族に目をつけられることも国外に追放されることもなかった。私はお前のせいで築いてきた地位も財も失ったのだ。本当なら今すぐにでもお前を殺してしまいたいところだが、ようやくお前も私の役に立つ時がきた」
「……どういう意味ですか」
今まで見たことのない憎悪の目で私を見下ろしてくるお父様は私の質問には答えず、代わりにレイラがこの場に不相応な嬉しそうな声で答えた。
「おめでとうお姉様。お姉様みたいな役立たずでも引き取ってくれる人が現れたのよ!」
「……え?」
「私たち家族が国を追い出されてからどこに身を寄せていたか分かる? ダーブリアよ」
「ダーブリア……!?」
ダーブリア、黒の国。お父様が人身売買で取引をしていた国だ。まさかまだあの国に関わっていたとは思っていなかった。
そしてレイラの嬉しそうな顔を見て、私を引き取る相手というのは恐らくダーブリアの貴族だ。それがどういう意味か分からないはずがない。
私の顔から血の気が引いたのが分かったレイラは笑う。それは恐ろしいほどに、美しく。
「お姉様も知ってるわよね。あの国に入ればもう二度と出れず、奴隷として一生を終えるの。大丈夫、公爵様にはお姉様は家族のことで胸を痛めて自害したと伝えるわ。そして私が代わりに彼の方の婚約者になる。彼の方だって私のほうが良いに決まってるわ。だって私のほうが美しいんだもの」
「そうだ。お前はもう必要がない。明日の早朝、黒の国に向かう。最後の自由を楽しむことだな」
「それじゃあね、お姉様。良い夜を」
「まって……!」
私の必死な声はドアの閉まる音で消され、外から鍵がかけられる音が静粛な部屋に響く。窓もない薄暗い部屋の中で私は呆然とする。
彼らの話が本当なら、私は明日の朝にはここを連れ出されて黒の国に売り渡されて二度とあの国を出ることができなくなる。
つまりアナベラお母様やリリーとフランシスカ様、エリック様に二度と会えなくなるということ。
そんなの嫌。でも私はここを脱出する術がない。大好きなみんなの顔が脳裏に浮かぶと視界が歪み、涙が頬を流れる。私は薬指で輝く指輪をぎゅっと握りしめる。
「エリック様……!」
目を覚ますとそこは薄暗い部屋だった。体を起こそうにも重だるい。どうして私はここにいるのか。意識を失う前のことを思い出そうとした時、部屋のドアが開いてそこから入ってきた光に目を細める。
「――ああ、起きたのね」
聞こえてきた声は意識を失う前に聞いたその声で、そして絶対忘れようもない声に冷や汗が吹き出す。光に慣れてきた目でその人物の顔を見上げると、そこには私を見下ろす義妹が立っていた。
「おはようお姉様。全く目を覚さないから薬が効きすぎてもう起きないのかと思ったわ」
「レイラ……」
掠れた声で名を呼ぶと彼女は冷ややかに笑った。あの時、振り返ろうとしたら後ろから口を布で塞がれて意識を失ったことを思い出す。そのまま彼女の馬車に乗せられてここに閉じ込められたのだろう。
もう二度と見ることはないと思っていたレイラが何故目の前にいるのか。陛下より国内に立ち入ることを禁じられているはずなのに。そしてここは一体……。
思考がグルグル渦巻いていると、レイラが私に近づいてきると私の前に止まり、扇で寝そべる私の顎を持ち上げる。
「お姉様。仮初の幸せが楽しかった? お父様とお母様の手から逃れて普通の令嬢の人生を歩んでいけると思っていた? お父様を誑かした汚らしい妾の血を引いた貴方が公爵様と本当に結婚できると思っていたの?」
「……っ」
レイラの言葉が胸に深く突き刺さりズキズキと胸を痛めつけ、息が苦しい。
「お姉様はあのままあの家で私たちのために生きて路頭に迷えば良かったのよ。そうしたらお父様の手を煩わせることもなかったというのに」
「……お父様が私を誘拐することを企んだの?」
「そうよ。お姉様が公爵様と結婚したという知らせが入ってからお父様とお母様はお姉様のことで毎日喧嘩してる。お姉様のことが露見したことで私の婚約話は無くなった。お姉様のせいで私の家は壊れてしまった。お姉様が悪いのよ。私より幸せになるなんて、絶対許さない……!」
ギリっとレイラは奥歯を噛み締める。私を蔑むことしか知らない彼女も私と同じ被害者なのかもしれない。全てあの歪んだ家、両親のせいだ。
普通の家に産まれていたらならば私たちはどんな姉妹に育っていたのだろうか。そんなことを考えているとまたドアが開いた。
「起きたのか」
「……おとう、さま」
彼を父と呼ぶのは憚られたが他の呼び方が思いつかなかった。
「本当にお前は私の人生にとって唯一の汚点だ」
「…………」
「お前がいなければ私が王族に目をつけられることも国外に追放されることもなかった。私はお前のせいで築いてきた地位も財も失ったのだ。本当なら今すぐにでもお前を殺してしまいたいところだが、ようやくお前も私の役に立つ時がきた」
「……どういう意味ですか」
今まで見たことのない憎悪の目で私を見下ろしてくるお父様は私の質問には答えず、代わりにレイラがこの場に不相応な嬉しそうな声で答えた。
「おめでとうお姉様。お姉様みたいな役立たずでも引き取ってくれる人が現れたのよ!」
「……え?」
「私たち家族が国を追い出されてからどこに身を寄せていたか分かる? ダーブリアよ」
「ダーブリア……!?」
ダーブリア、黒の国。お父様が人身売買で取引をしていた国だ。まさかまだあの国に関わっていたとは思っていなかった。
そしてレイラの嬉しそうな顔を見て、私を引き取る相手というのは恐らくダーブリアの貴族だ。それがどういう意味か分からないはずがない。
私の顔から血の気が引いたのが分かったレイラは笑う。それは恐ろしいほどに、美しく。
「お姉様も知ってるわよね。あの国に入ればもう二度と出れず、奴隷として一生を終えるの。大丈夫、公爵様にはお姉様は家族のことで胸を痛めて自害したと伝えるわ。そして私が代わりに彼の方の婚約者になる。彼の方だって私のほうが良いに決まってるわ。だって私のほうが美しいんだもの」
「そうだ。お前はもう必要がない。明日の早朝、黒の国に向かう。最後の自由を楽しむことだな」
「それじゃあね、お姉様。良い夜を」
「まって……!」
私の必死な声はドアの閉まる音で消され、外から鍵がかけられる音が静粛な部屋に響く。窓もない薄暗い部屋の中で私は呆然とする。
彼らの話が本当なら、私は明日の朝にはここを連れ出されて黒の国に売り渡されて二度とあの国を出ることができなくなる。
つまりアナベラお母様やリリーとフランシスカ様、エリック様に二度と会えなくなるということ。
そんなの嫌。でも私はここを脱出する術がない。大好きなみんなの顔が脳裏に浮かぶと視界が歪み、涙が頬を流れる。私は薬指で輝く指輪をぎゅっと握りしめる。
「エリック様……!」
30
あなたにおすすめの小説
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして
Rohdea
恋愛
──ある日、婚約者が記憶喪失になりました。
伯爵令嬢のアリーチェには、幼い頃からの想い人でもある婚約者のエドワードがいる。
幼馴染でもある彼は、ある日を境に無口で無愛想な人に変わってしまっていた。
素っ気無い態度を取られても一途にエドワードを想ってきたアリーチェだったけど、
ある日、つい心にも無い言葉……婚約破棄を口走ってしまう。
だけど、その事を謝る前にエドワードが事故にあってしまい、目を覚ました彼はこれまでの記憶を全て失っていた。
記憶を失ったエドワードは、まるで昔の彼に戻ったかのように優しく、
また婚約者のアリーチェを一途に愛してくれるようになったけど──……
そしてある日、一人の女性がエドワードを訪ねて来る。
※婚約者をざまぁする話ではありません
※2022.1.1 “謎の女”が登場したのでタグ追加しました
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
婚約破棄された辺境伯令嬢ノアは、冷血と呼ばれた帝国大提督に一瞬で溺愛されました〜政略結婚のはずが、なぜか甘やかされまくってます!?〜
夜桜
恋愛
辺境の地を治めるクレメンタイン辺境伯家の令嬢ノアは、帝国元老院から突然の召喚を受ける。
帝都で待っていたのは、婚約者である若きエリート議員、マグヌス・ローレンス。――しかし彼は、帝国中枢の面前でノアとの婚約を一方的に破棄する。
「君のような“辺境育ち”では、帝国の未来にふさわしくない」
誰もがノアを笑い、見下し、軽んじる中、ひとりの男が静かに立ち上がった。
「その令嬢が不要なら、私がもらおう」
そう言ったのは、“冷血の大提督”と恐れられる帝国軍最高司令官――レックス・エヴァンス。
冷たく厳しい眼差しの奥に宿る、深い誠実さとあたたかさ。
彼の隣で、ノアは帝都の陰謀に立ち向かい、誇りと未来を取り戻していく。
これは、婚約破棄された辺境伯令嬢が、帝国最強の大提督に“一瞬で”溺愛され、
やがて帝国そのものを揺るがす人生逆転の物語。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる