【完結】ガラスの靴は幸せを運ぶ〜探しにきた王子様はオジ様公爵〜

くまい

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第19話

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 彼らの処遇はダーブリアに任せて、私たちは馬車に乗ってすぐに国を出た。家に帰り着くのは数日かかるので、途中の街の宿で泊まることにした。

 ここはまだダーブリアに近い街だ。大臣と関わりのあった貴族から刺客が向けられる可能性もあったので私はエリック様と同じ部屋に泊まることになった。

 隣の部屋にニコルがいるとはいえこんな形で同じ部屋で、しかも一つしかないベッドで一緒に寝ることになるとは思っていなくて心臓が爆発しそうなほどに緊張してしまって。

 こんな状態で眠れるはずないって思っていたんだけど……昨夜までの疲れもあってベッドに横になってすぐに眠りに落ちていた。




――助けて、助けて……

 私を射抜く赤色の瞳。私に助けを求める彼女の最後の姿が何度も繰り返される。彼女の泣き叫ぶ声が耳から離れない。あの時のように胸がズキンズキンと痛んで苦しい。

「……っ、う……」
「――シーラ」
「っ!」

 私を呼ぶ大好きな声と肩が揺さぶられる感覚に覚醒する。目を動かすと心配そうに覗き込んでくるエリック様。心臓がバクバク動いていて、自分が悪夢を見ていたのだと気づいた。

「あ……」
「酷くうなされていた。水を飲みなさい」
「はい……」

 彼に背中を支えてもらって体を起こし、渡されたコップを口に運ぶ。水が乾いていた口内と喉を癒し、ほっと息を吐く。

「大丈夫か?」
「はい……ご心配をおかけしてしまって申し訳ありません」
「あんなことがあったのだから仕方がない。それに婚約者が苦しんで寝ているのは見過ごせない」
「エリック様……」

 私以上に辛そうにしている彼に申し訳ない気持ちと同時に嬉しくなる。エリック様に肩を引き寄せられて大きな胸に寄りかかると規則正しい心臓の音が聞こえてくる。彼が今生きて側にいてくれる証の音。

「どんな夢を見ていたのか教えてくれるか? 吐き出した方が気持ちも落ち着くだろうから」
「……レイラの最後を見てました。連れて行かれる最後、彼女は私に目で助けを求めてきていました。……レイラが私に助けを求めるなんてそんなのことあるはずないと分かっています。あの子は私のことを一度も姉だとは思ってくれていなかった。それでも私はあの子を助けてあげなきゃと思ってしまった。今までされていた仕打ちも忘れて姉として妹を、助けてあげなきゃって……」

 彼女は私の誘拐の直接関わってきた。罪人はちゃんと罰を受けなければならない。それでも私は……。

 知らずに震えていた体をエリック様は強く抱きしめてくれた。

「彼女は君の妹なのだから姉として救おうとするのは当然だ。シーラは何も間違っていない」
「……ありがとうございます」

 彼にそう言ってもらえるだけで胸のつかえが取れた気がする。安心した途端にまた眠気が襲ってきて、またあの夢を見るのではないかと怖くなって頭を横に振ると、私の手を大きな手が握ってくれた。

「不安ならシーラが目が覚めるまで手を握って寝よう。そうすれば悪夢は見ない」
「……お願いしてもよろしいですか?」
「ああ。勿論だ」

 言葉に甘えて私たちは手を握ったままベッドに横になり、エリック様は背中に手を添えて赤子をあやすようにぽんぽんと撫でてくれる。

 年齢差もあるからか彼はよく私を子供扱いするところがあるけれど、今はそれが有難くてすごく居心地が良かったおかげ私はまた夢の世界に落ちて悪夢は見ることはなかった。



 ◇◇◇



 それから私たちは宿に泊まるたびに同じベッドで手を握って一緒に眠り、数日かけて我が家に帰ってくることができた。たった数日の出来事だったはずなのに長いこと離れていたような気がする。

 ドアを開けるとお母様とリリーが出迎えてくれて、お母様は体が軋むほど強く抱きしめてくれた。嬉しいけれど思い切り抱きしめられて……ちょっと、いやかなり痛い。

「お、お母様……い、痛いです……」
「シーラ……良かった、無事で……」
「お母様……」

 顔を上げると初めて見るお母様の泣き顔に私の目からも涙が溢れ、私たちは暫く抱き合って離れると今度はリリーが飛び込んでくる。その顔はグチャグチャで可愛い顔が台無しになっていた。

「リリー」
「お、おじょうさま……私がちゃんと馬車まで送っていれば……」
「……リリーは悪くないわ。貴方に危険がなくて良かった」
「お嬢様ー!!」

 リリーはわんわんと私の胸で子供のように泣くので頭を撫でる。血の繋がりがなくてもこんなにも私を大事にしてくれる人がいる。それだけで私は幸せだった。


 次の日、エリック様と一緒にやってきたフランシスカ様は私の姿を見ると優しく抱きしめてくれて甘い良い匂いに思わずドキッとしてしまった。

「貴方が誘拐されたと聞いて心配で心配で、貴方の顔を見るまで生きた心地がしませんでしたわ……」
「フランシスカ様……ご心配をおかけしてしまい申し訳ありません」
「本当よ。またわたくしを心配させたら承知しませんからね」
「はい」

 私たちがくすくすと笑いあっていると、エリック様に大事な話があると言われフランシスカ様の相手をお母様に任せて私の部屋に移動してソファに隣同士で座る。

「体調はどうだ?」
「問題ありません。エリック様が手を繋いでくれたおかげであれからあの夢も見ません」
「そうか、良かった。私はいつでも君の手を握って寝てあげることはできるんだけどね」

 耳元に顔が寄せられて甘く囁かれてぼんっと顔が赤くなるとエリック様はくつくつと楽しそうに笑うので私は頬を膨らませて彼の手を摘んだ。

 いつか子供をあやすためではなく妻として彼と一緒に眠る日が来るのかもしれないと考えてしまって、熱の引かない顔に手を当てているとエリック様は真剣な顔をした。

「今日来たのは君の前の家族のことだ」
「……っ」

 心臓が嫌な音を立てたがこれは私が逃げていいことじゃない。背筋を伸ばして彼に向き合う。

「私があいつらを渡した相手は信頼できる貴族だ。彼は奴隷制度をよく思っていなくてどうにかしたいと考えていて、平民を奴隷ではなく自分と同じ人として生きさせてあげたいと。奴隷はあの国の闇だから一朝一夕で行くとは思えないけれど時間はかかっても彼ならそれを成し遂げるだろう」
「そうですか……では父たちは」
「奴隷ではなく国の再建のための下働き。給金も与えられて家もちゃんともらえる。それでも雀の涙のお金だからあいつらにしたら地獄と同じだろうがな」

 はは、と笑うエリック様に苦笑するしかない。私が一番知りたいことがレイラのことだと分かってくれてエリック様は話しを続けた。

「君の両親はその扱い。妹はその貴族の元で一から鍛え直されることになっている。私も彼女は被害者だと思っているからね。あの家に産まれた時からいたら善悪も分からなくなるだろう。一般常識が身についたら彼女はあの国を出て隣国に住む私の知人の一般家庭の養子になり平民として生きることになる。ただし、出ても監視は付くから君と会うことはできない」
「……そうですか。ありがとうございますエリック様」
「私が勝手にしたことだよ」
「いいえ。彼女がずっとあの国にいたら私はずっと後悔していたでしょう。エリック様は妹だけじゃなくて私も救ってくれました。エリック様と出会えてからずっと私は幸せです」
「シーラ……」

 エリック様は嬉しそうに微笑むと私の頬に触れる。顔を上げると影が落ちてきて、私の唇に柔らかいものが触れた。至近距離にあるアメジストの瞳の中に驚いた顔の私が映っていた。

「私だって君と出会えて毎日幸せだ」
「えり、んっ!」

 名前を呼ぼうとしたらまたエリック様にキスをされて、さっきよりも長く唇を合わせる。初めてするキスに思わず息を止めてしまい、苦しくて彼の腕を叩くとようやくエリック様は離れてくれた。

「あ、はぁ……えり、くさま……」
「……すまない。あまりにも君が可愛きて我慢ができなくて」

 真っ直ぐ見つめて恥ずかしいことを言ってくるものだから、もう顔の熱が収まりそうにない。なんだか今日のエリック様はいつもと違うような気がする。

 エリック様はポケットから何かを取り出して私の左手の薬指にそれをはめた。右手で輝く指輪とは違う、シンプルな銀色の指輪。

 それを見た時、右手の指輪をもらった時の彼の言葉を思い出してエリック様を見ると、彼は穏やかな笑みを浮かべている。

「本当はクリスマスに渡すつもりだったんだが……シーラ」
「は、はい!」

 心臓の音が聞こえているのではないかと思うぐらいに緊張して体を固くしていると、そんな様子にエリック様は小さく笑って私の左手の薬指にキスをする。

「愛しいシーラ。私の妻に、シーラ・ブランジェになってくれないか?」
「……っ! は、い……不束者で、これから、色々ご迷惑をおかけ、すると思いますが……私を、貴方のものにしてください」

 視界が歪んで彼の顔がよく見えなくて、泣くのを我慢して途切れ途切れの不恰好になってしまったがなんとか返事をするとまた唇を塞がれ、体重をかけられてソファに一緒に倒れる。

 何度も何度も角度を変えてキスをされて、解放された時には私だけ息も絶え絶えの状態でそんな私をエリック様は慈しむように見下ろす。

「ありがとう……これからもっと幸せにするよ」
「はい……よろしくお願いします……旦那様」

 私の言葉にエリック様は目を丸くして嬉しそうに破顔する。それからエリック様はまたキスをしてくれて、私は彼の背中に腕を回して……私たちは離れないように強く抱きしめ合った。



 ◇◇◇



 義母と義妹に虐められた少女は御伽話の女の子とは違い魔法のドレスもガラスの靴も持っていません。
 ですが偶然出会った王子様に助けられた少女は彼の手を取り、不幸なお話に幕を閉じて彼との幸せな未来へとお話しを歩み始めたのでした。
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