何でも検索できるパソコンを手に入れました。ーBPCー

木岡(もくおか)

文字の大きさ
70 / 117

word32 「迷子 親の場所」③

しおりを挟む
 幸いなことに迷子に気づいたこの場所から僕の家はそれほど遠くなかった。

 何か僕に困ったことが起こったとしても、家まで近いのであれば、それは困ったことではない。1日1度の制限はあるけれど……。

「ほんと?」

「本当本当。でもちょっと準備しなきゃならないんだよね」

「じゅんび?」

「うん。5分間だけ待っててもらっていいかな。そこの公園で」

 僕が指差す方向にはちょうど公園があった。休日の午後だというのに誰もいない。ブランコしかない小さな公園だ。

「絶対に5分で戻ってきて、そしたらお母さんの場所まで連れてってあげるからここを動かないでね」

「うん……」

「大丈夫?」

「うん……」

 公園には入ってみたものの、やはり不安そうなちひろちゃん。僕にとってはここが山場だった。5分待っててもらうことさえクリアできれば安心させるための嘘ではなく本当に親の元まで迷うことなく連れて行ってあげられる。

 何かいいものはないかと鞄の中を探ってみると、ちょうど小さなポケットからアメ玉が出てきた。何のアメかは分からないけどイチゴ味っぽいピンク色のアメ玉だった。

「これあげるから。このアメを舐めて待っててくれたら無くなる頃には帰ってくるよ。いい?」

「……わかった」

 小さな手をぎゅっと握ってアメ玉を渡すと、僕はすぐに走り出した。これ以上は何か安心させる策を考えるよりさっさと帰って、さっさと戻ってきたほうがいい。

 いつにない速さで自転車を走らせる。僕は時間に余裕を持って行動できる人間だったのでこういうことはあまりない。正直なところ5分で戻ってくるのはかなりギリギリな時間だった。けれど、迷子の少女の気持ちを考えるとうやるしかなかった。

 自宅にはすぐに到着できた。自転車をまたすぐに出せる状態で止めると、さらにまた家に入って検索してから出ていくまでのRTA始まりである。

 交番に連れていくだとか、僕が自転車を漕いできた道を遡っていくとか他に方法はあったけれど、たぶんこれが1番確実で早いと思う。僕も初めてで何をすれば正解か分からない状態だと不安だし。

「迷子 親の場所」

 収納に黒いパソコンを入れたままの状態で検索を行った僕は、ざっと文を読み終えると画面をスマホで撮影した。

 黒いパソコンにやるべきだと指示されたのはそんなに難しい内容ではなかったけれど、1分1秒が惜しい。

 そのまま黒いパソコンを奥に入れずに収納を閉じるだけで、また走り出す――。

 公園まで戻るときも同じように急いだ。けれど、心の余裕は全然違っていた。不測の事態が起こったとしても解決までの道が見えさえすれば落ち着くことができる。

 そして、ちひろちゃんの姿がまだ公園にあることを確認すると僕は勝ちを確信した。

「さあ。行こうか。準備完了したからお母さんのところ行こう」

 他人からしたら根拠のない自信。ちひろちゃんから見てもおかしいという思いは多少あったかもしれない。けれど、そんな自信は程なくして安心を与えた。

「俺ねえ。本当は神様なんだよね」

「かみさま?」

「うん。だから1発でちひろちゃんのお母さんの位置も分かっちゃうんだよね」

「すごい」

「すごいっしょ。何でも知ってるんだよ。俺が調べれば何でも分かるの」

 相手が子供なのを良い事に僕はべらべらと喋った。

「ドラゴンって知ってる?」

「うん」

「あのドラゴンって奴はね本当にいるんだよ。人間に混じって地球に暮らしてるの」

「うそだ。いないよ」

「いるいる。見たことあるんだから。また今度機会があったら見せてあげれるのにな。あとは魔法もあるし未来のことも分かるし……あ、この辺通って来たでしょ。見覚えない?」

 黒いパソコンの画面を撮影しておいたスマホを確認しながら歩く。黒いパソコン曰く、思うままに歩いて僕が今日行ったアウトレットの近くにある公園まで戻ればちひろちゃんの親に会えるということだった。

 その結果が出たということは、このちひろちゃん……かなり気合が入った迷子である。いつからか詳しくは分からないが、帰りのバスに乗る前からついて来ていたということだ。

 鬼ごっこどころか追跡ごっこというかストーカーごっこというか……全く、なんてかわいいんだろう。

「わたし、ちくわになったみたい」

「ちくわ?」

「うちのねこのなまえ」

「へー」

「このまえまいごになってさがしたの」

 自分から話すようになってきて、笑顔を取り戻したちひろちゃんは天使のようだった。というか天使である。

 バスに乗るときはちひろちゃんのほうから手を握ってきた。その手はこんなに小さいかというほど小さくて。バスの座席で隣に座ってずっと握っていると、小さな子ってこんなにかわいいんだと思った。

 とてつもなく純粋で素直。守りたいと心から思える。

「ねえかみさま。わたしもいつかドラゴンにあえる?まほうつかえる?」

「うん。きっといつか。大きくなったら」

 ――バスから降りる頃には綺麗な夕焼けが見れた。その町をまた、僕は自信を持って歩いた。

 目的地の公園の前までくると、繋いでいた手がほどかれた。僕が母親らしき女性を見つける前にちひろちゃんは走り出した。

 僕はちひろちゃんが母親に抱きつく前にはもう後ろを向いて来た道を帰りだしていた。親子の喜んでいる声が後ろから聞こえてくればそれだけで幸せな気分になれたから。

 黒いパソコンを使って人助けをするって、良い事をするって悪くない気分だ。ちひろちゃんが最後に約束した「もう知らない人についていっちゃダメ」をこれから守ってくれるのなら検索した価値はある。

「……かみさま、ありがとー」

 背中から微かに聞こえた声で胸が痺れる。たった1時間にも満たない時間だったけど寂しさもあった。

 けれどそれ以上にいつか自分も……そんな元気が心に満ちていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

交換した性別

廣瀬純七
ファンタジー
幼い頃に魔法で性別を交換した男女の話

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

処理中です...