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word37 「SNS バズらせ方」①
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まだ太陽が高い位置にある午後、帰宅した僕は荷物を自室のベッドにぶん投げた。
肩を軽くした後は、暖かいけど窮屈な冬用の制服カスタマイズセット達を脱ぎ捨てていく。手袋と、マフラーと、長い靴下。綺麗に脱ぐのは面倒なので手袋と靴下は裏返しにして。
制服だけは雑に扱わずにハンガーにかける。この前アウトレットで買ったお気に入りのカーディガンも。すると、随分楽な服装になって、服の中に溜まっていた熱が抜けていくのが気持ち良い。
冬の学校帰りは脱ぐだけで着替えが終了。他の服を着なくても、部屋着になる長袖シャツもジャージのズボンも制服の下に着ているからである。
プライベートモードへスイッチを切り替えた僕は今日、休む態勢にはならずに……先週からの1番のお気に入りを手に取ってベッドに座る……。
期末テストが終わった今日という日、僕はこの日を待ちわびていた。ようやくめんどくさいテストのことを気にせずに趣味に没頭できるようになるこの日を。
そう、僕は今日から本格的にギターの練習を開始する――。
部屋に来る前に入念に洗っておいた手で、まだまだ光沢が美しいギターを膝に乗せる。ピックやらアンプやら諸々の準備もすぐに済ませると、僕はまず最初に軽く6本の弦を弾いた。
ヘッドホンから響くイカした音。この基本的な音1つだけでテンションが上がる。
次に開くのは今日帰りに買ってきた、ギター初心者用の練習マニュアル。いつもなら友達と遊んで帰ったりするのだけど、本屋に直行して買った。まだ先の話だけどギター用の楽譜集なんかもビニール袋に入っている。
何を参考にして練習するかは悩んだけど、とりあえず本にした。ネットで調べるとそれ用のサイトや動画もいくつか出てきたが、これ。本屋でざっと見た感じでは分かりやすそうだった。
その本の目次から、1ページ目。僕は書いてある通りさっそくギターを使ってのドレミファソラシド練習から始める。
今日がくる前にも当然ギターには触った。ギターを買って帰ったその日から楽器屋の店長にもらった冊子を頼りに、練習というほどではないけれど基本的な知識を頭に入れながら触ってみた。
まだやったことは基本中の基本の内容だと思うんだけど、今のところあんまり難しい感じはしない。何か曲を1曲演奏しようと思えば、かなりの時間の練習がいる感じがするが、逆に言えば練習すればできるようにはなる気がする。
とにかくやる気とやるしかないという気持ちはあるから、難しいと聞いていたコードについても嫌な顔をせずにどういうものか知っていくことができた。
「この弦のここを抑えて……こっちはここ……合ってんのかな」
どれだけのことを覚えたら軽音楽部に入部しようかはまだ決めていない。けど、少なくとも今のほとんど分からない状態では行くべきではないし、自分としてもある程度弾けるようになってからにしたかった。
初心者ならではの教えてもらうという会話パターンはあるかもしれないけど、僕はそういう形じゃなくてかっこいいと思ってほしかった。やっぱ、男は女をリードするものでしょ――。
ラブパワーに身を任せて、僕はギターの練習に没頭した。数時間経っても集中力は切れなくて、やる気もきれなかった。
でも、そっちが切れる前に指が痛くなってしまって僕は練習を中断する。
弦を抑える左手はもちろん、ピックを持っていた右手もなんだか固まってしまって、ほぐしてやらないとつってしまいそうだった。
ヘッドホンを外すと、もう夕飯を作るような音が台所から聞こえてきていた。何か野菜を切るような包丁の音。それが聞こえてから自分が空腹であることにも気づく。
今日の練習をこれで終わりにするかは別として、僕はいったん休憩に入った。ギターを大切にスタンドに置くと、ベッドに寝転がってスマホを起動する。
すると、まず画面で注目を集めるのは友人からメッセージが届いているという通知。タップすると、そこには……。
「俺の犬の動画がめっちゃバズってるから見てくれ」
こういう連絡があった……。
肩を軽くした後は、暖かいけど窮屈な冬用の制服カスタマイズセット達を脱ぎ捨てていく。手袋と、マフラーと、長い靴下。綺麗に脱ぐのは面倒なので手袋と靴下は裏返しにして。
制服だけは雑に扱わずにハンガーにかける。この前アウトレットで買ったお気に入りのカーディガンも。すると、随分楽な服装になって、服の中に溜まっていた熱が抜けていくのが気持ち良い。
冬の学校帰りは脱ぐだけで着替えが終了。他の服を着なくても、部屋着になる長袖シャツもジャージのズボンも制服の下に着ているからである。
プライベートモードへスイッチを切り替えた僕は今日、休む態勢にはならずに……先週からの1番のお気に入りを手に取ってベッドに座る……。
期末テストが終わった今日という日、僕はこの日を待ちわびていた。ようやくめんどくさいテストのことを気にせずに趣味に没頭できるようになるこの日を。
そう、僕は今日から本格的にギターの練習を開始する――。
部屋に来る前に入念に洗っておいた手で、まだまだ光沢が美しいギターを膝に乗せる。ピックやらアンプやら諸々の準備もすぐに済ませると、僕はまず最初に軽く6本の弦を弾いた。
ヘッドホンから響くイカした音。この基本的な音1つだけでテンションが上がる。
次に開くのは今日帰りに買ってきた、ギター初心者用の練習マニュアル。いつもなら友達と遊んで帰ったりするのだけど、本屋に直行して買った。まだ先の話だけどギター用の楽譜集なんかもビニール袋に入っている。
何を参考にして練習するかは悩んだけど、とりあえず本にした。ネットで調べるとそれ用のサイトや動画もいくつか出てきたが、これ。本屋でざっと見た感じでは分かりやすそうだった。
その本の目次から、1ページ目。僕は書いてある通りさっそくギターを使ってのドレミファソラシド練習から始める。
今日がくる前にも当然ギターには触った。ギターを買って帰ったその日から楽器屋の店長にもらった冊子を頼りに、練習というほどではないけれど基本的な知識を頭に入れながら触ってみた。
まだやったことは基本中の基本の内容だと思うんだけど、今のところあんまり難しい感じはしない。何か曲を1曲演奏しようと思えば、かなりの時間の練習がいる感じがするが、逆に言えば練習すればできるようにはなる気がする。
とにかくやる気とやるしかないという気持ちはあるから、難しいと聞いていたコードについても嫌な顔をせずにどういうものか知っていくことができた。
「この弦のここを抑えて……こっちはここ……合ってんのかな」
どれだけのことを覚えたら軽音楽部に入部しようかはまだ決めていない。けど、少なくとも今のほとんど分からない状態では行くべきではないし、自分としてもある程度弾けるようになってからにしたかった。
初心者ならではの教えてもらうという会話パターンはあるかもしれないけど、僕はそういう形じゃなくてかっこいいと思ってほしかった。やっぱ、男は女をリードするものでしょ――。
ラブパワーに身を任せて、僕はギターの練習に没頭した。数時間経っても集中力は切れなくて、やる気もきれなかった。
でも、そっちが切れる前に指が痛くなってしまって僕は練習を中断する。
弦を抑える左手はもちろん、ピックを持っていた右手もなんだか固まってしまって、ほぐしてやらないとつってしまいそうだった。
ヘッドホンを外すと、もう夕飯を作るような音が台所から聞こえてきていた。何か野菜を切るような包丁の音。それが聞こえてから自分が空腹であることにも気づく。
今日の練習をこれで終わりにするかは別として、僕はいったん休憩に入った。ギターを大切にスタンドに置くと、ベッドに寝転がってスマホを起動する。
すると、まず画面で注目を集めるのは友人からメッセージが届いているという通知。タップすると、そこには……。
「俺の犬の動画がめっちゃバズってるから見てくれ」
こういう連絡があった……。
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