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第2章 ケース1:何度も刺し殺す女
第8話 ケース1:何度も刺し殺す女
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次に目を開けると、凛太はアスファルトの上に立っていた。
見渡す景色は日本のどこにでもありそうな住宅街、屋根の色が違う家屋が道に沿って並んでいる。隣にあった無機質な電柱……空ではその電柱と同じ色をした雲がどんより漂っていて、いつ雨が降り出してもおかしくない重い雰囲気を纏っていた。
暗くはない……。朝方か夕方か、そのくらいの明るさ。
ここが現実ではないことは何となく理解できる。空気の密度が濃い感じがして、体を動かせば薄く纏わりついてくる。目には映ってないけど霧の中にいるような……けれど、吸い込んでも全く味がしないというか……。
それに、風が全く吹いていない。屋外にいる気がしない。
緑の葉っぱを茂らせた街路樹は微動だにせず、作り物のようにそこにあった。
「草部君こっちこっち」
見える景色の形容しがたい不気味さに、目を奪われていると増川の声がする。後ろから聞こえてきた声に振り向けば、美しい桜田もそこにいた。
「すごいでしょ。ここが夢の中だよ」
「無事に来られたみたいですね」
凛太はすぐに声を出すことができなくて、喉を大きく動かして空気を飲み込んだ。
「こ、ここが夢の中なんですか」
「そうだよ。びっくりするよね」
「こ……これって現実……」
「現実だよ。いや、夢の中だけど。おかしな夢を見ている訳じゃない」
「………………」
「行こう。歩きながらここで俺たちがやることを説明するよ」
増川は凛太の代わりに自分のほっぺたをつねって見せて、凛太の背中を軽く叩いた。
「ここって、うちの大学の近くですよ。真っ直ぐ行ったら一宮大学です」
「そうなの?じゃあ今日の患者さんはこのへんに住んでるのかもね」
「私の家の近くにも悪夢を見てる人がいるんだ。どんな霊がいるんだろう。楽しみだなあ」
桜田は散歩でもするかのように、口角をあげて景色を眺めている。
「草部君も一宮大学なんだよね?」
「はい」
「何年生?」
「3年です」
「私は4年生。経済学部」
「そうなんですか。でも4年生って……その、いいんですか。バイトしてて」
桜田が隣で陽気に話しかけてくるものだから、そんな場合ではないのだけれど凛太も応答した。
「このバイトはね、疲れないの。理由はあとで分かると思うけど。私にとって生きがいだし、来年社会人になっても続けるかもしんない」
「へー」
桜田が一個上の先輩という情報だけ頭にしまって、凛太は桜田から目を逸らす。
道の真ん中を3人で横並びに歩いていると、その先に見慣れた建物である一宮大学が見えてきた。そこまで来て、振り返ってみると通ってきた道は見たことがある形をしていることが分かった。普段、通ることは無い道だが知ってはいた。
「いいかい草部君。これから俺達がする仕事は悪夢治療」
「はい」
「それは簡単に言うと、悪夢をただの夢にすることなんだ。それはつまり、現在恐怖の真っ最中にいるであろう夢の主を俺たちが救い出すんだ。今回の場合で言うと患者の男性は毎晩夢の中で知らない女に殺されてしまうらしい。何度も何度も。だから俺たちがそこから救い出す」
凛太は増川の話を適当に頷きながら聞いた。
「悪夢の種類が十人十色であるように、救い出す方法も臨機応変に選ばなきゃいけないけど、基本的には夢の中の患者に会って、俺たちが来たことを伝えるって方法」
「それだけでいいんですか」
「うん。ここは夢です。俺たちが付いてますって患者を励ませば悪夢で無くなる場合がほとんどだね。院長の話によると、1回こうして治療するだけで長く続く悪夢も大体直るらしい。悪夢治療にはそれを克服するイメージを作るのが大切なんだとか」
「悪夢をただの夢にする……」
「詳しくはまた院長に聞いてみなよ。あの人この話するの好きだから。悪夢をただの夢にする……これだけで患者さんは悪夢とおさらばできる」
簡単そうに増川は言うけれど、凛太はそんなことできるのかと不安だった。納得させられるような理論ではあるが、そもそも夢の中に入ってこれているのも未だに信じられない。
「だから、まずはこの夢のどこかにいる患者を探さないといけないんだけど、それはほとんどの場合さほど難しくない。夢の中は狭いし……」
その時、聞こえてきた声は増川が狙って話していたのではないかというタイミングで、空間に響き渡った。
「こうして、患者が悲鳴をあげたりするからね」
見渡す景色は日本のどこにでもありそうな住宅街、屋根の色が違う家屋が道に沿って並んでいる。隣にあった無機質な電柱……空ではその電柱と同じ色をした雲がどんより漂っていて、いつ雨が降り出してもおかしくない重い雰囲気を纏っていた。
暗くはない……。朝方か夕方か、そのくらいの明るさ。
ここが現実ではないことは何となく理解できる。空気の密度が濃い感じがして、体を動かせば薄く纏わりついてくる。目には映ってないけど霧の中にいるような……けれど、吸い込んでも全く味がしないというか……。
それに、風が全く吹いていない。屋外にいる気がしない。
緑の葉っぱを茂らせた街路樹は微動だにせず、作り物のようにそこにあった。
「草部君こっちこっち」
見える景色の形容しがたい不気味さに、目を奪われていると増川の声がする。後ろから聞こえてきた声に振り向けば、美しい桜田もそこにいた。
「すごいでしょ。ここが夢の中だよ」
「無事に来られたみたいですね」
凛太はすぐに声を出すことができなくて、喉を大きく動かして空気を飲み込んだ。
「こ、ここが夢の中なんですか」
「そうだよ。びっくりするよね」
「こ……これって現実……」
「現実だよ。いや、夢の中だけど。おかしな夢を見ている訳じゃない」
「………………」
「行こう。歩きながらここで俺たちがやることを説明するよ」
増川は凛太の代わりに自分のほっぺたをつねって見せて、凛太の背中を軽く叩いた。
「ここって、うちの大学の近くですよ。真っ直ぐ行ったら一宮大学です」
「そうなの?じゃあ今日の患者さんはこのへんに住んでるのかもね」
「私の家の近くにも悪夢を見てる人がいるんだ。どんな霊がいるんだろう。楽しみだなあ」
桜田は散歩でもするかのように、口角をあげて景色を眺めている。
「草部君も一宮大学なんだよね?」
「はい」
「何年生?」
「3年です」
「私は4年生。経済学部」
「そうなんですか。でも4年生って……その、いいんですか。バイトしてて」
桜田が隣で陽気に話しかけてくるものだから、そんな場合ではないのだけれど凛太も応答した。
「このバイトはね、疲れないの。理由はあとで分かると思うけど。私にとって生きがいだし、来年社会人になっても続けるかもしんない」
「へー」
桜田が一個上の先輩という情報だけ頭にしまって、凛太は桜田から目を逸らす。
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「いいかい草部君。これから俺達がする仕事は悪夢治療」
「はい」
「それは簡単に言うと、悪夢をただの夢にすることなんだ。それはつまり、現在恐怖の真っ最中にいるであろう夢の主を俺たちが救い出すんだ。今回の場合で言うと患者の男性は毎晩夢の中で知らない女に殺されてしまうらしい。何度も何度も。だから俺たちがそこから救い出す」
凛太は増川の話を適当に頷きながら聞いた。
「悪夢の種類が十人十色であるように、救い出す方法も臨機応変に選ばなきゃいけないけど、基本的には夢の中の患者に会って、俺たちが来たことを伝えるって方法」
「それだけでいいんですか」
「うん。ここは夢です。俺たちが付いてますって患者を励ませば悪夢で無くなる場合がほとんどだね。院長の話によると、1回こうして治療するだけで長く続く悪夢も大体直るらしい。悪夢治療にはそれを克服するイメージを作るのが大切なんだとか」
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