19 / 45
第3章 ケース2:腐った園児
第19話 釘付け
しおりを挟む
腐った園児たちの先で灯っている信号の光は青……車なんて影も見えないしタイヤの音も一切聞こえていないが、奴らは律義に交通ルールを守った。
現実でも同じように子供のほうがしっかり社会のルールを守っていたりする。園児たちは手を自分の頭の上まで真っ直ぐに伸ばして、しきりに左右を確認しながら歩く。
凛太は腕の痛みも忘れてその行動の一部始終に立ち止まった。少し離れた横断歩道を小さな足で歩いているので多少立ち止まっても問題ない。
昨日の悪夢でもそうだったが、全く想像していなかった恐怖を見ると逆にじっくり見たくなってしまう……人間が持つ無限の好奇心なのか、ただ自分が変態なのか……。
あんなに恐ろしくて気持ちの悪い容姿をしているのに、中身はちゃんとした子供。そんなもの一瞬でも目にしていたくないのに……。
凛太は園児たちが横断歩道の半分ほどまで進み、我に返ると小さくなっていた
増川の背中のもとまで急いだ。
「草部君痛くない?大丈夫?」
「大丈夫じゃないです。めっちゃ痛いです」
凛太と増川は高い柵を構えた民家の敷地内に入らせてもらって息を潜めた。いくつか角を曲がった先の民家なので園児たちの足音は全く聞こえない。
「痛いよね。一応、夢だから自分が痛くないと強く思えば痛くないっていうのがあるんだけどやってみる?」
「え……やってみます」
凛太は痛くない痛くない……と心の中で連呼して自分の腐敗した左手首を見つめた。けれど、見た目のインパクトが強くてより痛くなった気がする。
「……っ痛い。……ダメみたいですね」
「まあ難しいよね。目覚めたら治るから我慢するしかないね。そのためにもさっさと終わらせよう」
「増川さんは痛くないんすか?」
「いや、俺も痛いよ。俺も上手く痛みまでコントロールできないかな。まあ慣れというか……現実で同じこと経験するよりは痛くない。草部君もそうだろうけど現実で手がこんなことになったらもがき苦しんで走れないでしょ」
増川は笑った。凛太から見れば状況はピンチだと思うのだが、ギャグでも言ったかのように笑った。本当にこんな悪夢に慣れてしまっているんだと感心に似た感情を抱く。
「こんな攻撃される悪夢ってけっこうあるんですか?」
「あるけど、そんなにないよ。正直今回は危ないほうかな。前には片腕まるまる落とされても俺生きてたりしたなんて案件もあったけどね。ははは」
「……っはは……はは」
凛太も笑うしかなかった。
「作戦考えたから言うね」
「はい。お願いします」
「俺たちのどちらかがあの園児たちをひきつけて遠くまで逃げる。その内に残った1人が患者さんに夢だと伝える。本当は2人で患者さんの所に行くべきだけどあいつらに触れられない以上、どっちかが囮にならないといけない。単純だけどこの作戦でいこう」
「はい」
「で、どっちがいい?囮か、救助か」
「……自分が救助でいいっすか」
凛太の側からすると、腐った園児たちに追われてひーひー言わされながら苦しむより患者の救助のほうが随分楽に感じた。増川には申し訳ないが正直に言う。
「いいよ。俺は囮側のほうがいいし」
「あ、いいんですか。すみません」
「患者さんに夢だと伝えるときはとにかく安心させてあげることね。もし何かあったら、俺またこっちのほうに逃げてくるから大声で呼ぶか追ってきて」
「はい」
「じゃあもうすぐ行こうか」
増川は背伸びをして柵の上に頭を出し辺りの様子を伺った。そうして凛太の初めての悪夢治療が始まる。
現実でも同じように子供のほうがしっかり社会のルールを守っていたりする。園児たちは手を自分の頭の上まで真っ直ぐに伸ばして、しきりに左右を確認しながら歩く。
凛太は腕の痛みも忘れてその行動の一部始終に立ち止まった。少し離れた横断歩道を小さな足で歩いているので多少立ち止まっても問題ない。
昨日の悪夢でもそうだったが、全く想像していなかった恐怖を見ると逆にじっくり見たくなってしまう……人間が持つ無限の好奇心なのか、ただ自分が変態なのか……。
あんなに恐ろしくて気持ちの悪い容姿をしているのに、中身はちゃんとした子供。そんなもの一瞬でも目にしていたくないのに……。
凛太は園児たちが横断歩道の半分ほどまで進み、我に返ると小さくなっていた
増川の背中のもとまで急いだ。
「草部君痛くない?大丈夫?」
「大丈夫じゃないです。めっちゃ痛いです」
凛太と増川は高い柵を構えた民家の敷地内に入らせてもらって息を潜めた。いくつか角を曲がった先の民家なので園児たちの足音は全く聞こえない。
「痛いよね。一応、夢だから自分が痛くないと強く思えば痛くないっていうのがあるんだけどやってみる?」
「え……やってみます」
凛太は痛くない痛くない……と心の中で連呼して自分の腐敗した左手首を見つめた。けれど、見た目のインパクトが強くてより痛くなった気がする。
「……っ痛い。……ダメみたいですね」
「まあ難しいよね。目覚めたら治るから我慢するしかないね。そのためにもさっさと終わらせよう」
「増川さんは痛くないんすか?」
「いや、俺も痛いよ。俺も上手く痛みまでコントロールできないかな。まあ慣れというか……現実で同じこと経験するよりは痛くない。草部君もそうだろうけど現実で手がこんなことになったらもがき苦しんで走れないでしょ」
増川は笑った。凛太から見れば状況はピンチだと思うのだが、ギャグでも言ったかのように笑った。本当にこんな悪夢に慣れてしまっているんだと感心に似た感情を抱く。
「こんな攻撃される悪夢ってけっこうあるんですか?」
「あるけど、そんなにないよ。正直今回は危ないほうかな。前には片腕まるまる落とされても俺生きてたりしたなんて案件もあったけどね。ははは」
「……っはは……はは」
凛太も笑うしかなかった。
「作戦考えたから言うね」
「はい。お願いします」
「俺たちのどちらかがあの園児たちをひきつけて遠くまで逃げる。その内に残った1人が患者さんに夢だと伝える。本当は2人で患者さんの所に行くべきだけどあいつらに触れられない以上、どっちかが囮にならないといけない。単純だけどこの作戦でいこう」
「はい」
「で、どっちがいい?囮か、救助か」
「……自分が救助でいいっすか」
凛太の側からすると、腐った園児たちに追われてひーひー言わされながら苦しむより患者の救助のほうが随分楽に感じた。増川には申し訳ないが正直に言う。
「いいよ。俺は囮側のほうがいいし」
「あ、いいんですか。すみません」
「患者さんに夢だと伝えるときはとにかく安心させてあげることね。もし何かあったら、俺またこっちのほうに逃げてくるから大声で呼ぶか追ってきて」
「はい」
「じゃあもうすぐ行こうか」
増川は背伸びをして柵の上に頭を出し辺りの様子を伺った。そうして凛太の初めての悪夢治療が始まる。
0
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる