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第4章 ケース3:みなみな私のもの
第25話 束の間の休日
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まったく俺が悪夢を見るなんて……。
しかも、かなり怖い部類に入る夢だったと思う。人から聞いた話でもちゃんと殺される悪夢はなかなか聞かないし。とにかくリアルだった。
実際に経験したことのある記憶を繰り返すみたいに、その場の空気とか見える景色、聞こえてくる音が現実と変わらなかった。まるで、バイトで夢の中に入った時みたいに。
けれど、そんな夢も現実に戻っていくらか時間が経てば頭の中で薄まっていく。顔を洗って水を飲み……テレビの電源を入れて座れば……もうここはただの自分の家だ。
あんな夢、さっさと忘れてしまおう……。
「おじゃましまーす」
遊びに誘って来た凛太の親友は凛太が起きてから30分後くらいには家に来た。玄関を開けた凛太を見ると、中肉中背の男は小さく手を挙げて中に入ってくる。後ろ向きに玄関に上がり、靴は綺麗に揃えておいた。
名前は遠藤 良介。凛太の大学一年生からの友達だった。初日の授業の時に知り合って、時間が経つと共に同級生たちが各々気の合う奴で固まっていくうちに、凛太と良介も同じ講義や昼飯を隣で過ごすようになった。
「今日はどうしたの?」
「いや俺さ。明日から実家帰るから、その前に凛ちゃんに会っとこうかなって」
「そうなん。一週間くらいは実家にいるの?」
「たぶんそうするかな。決めてないけど。凛ちゃんは帰んないの?」
「俺は……まあ、ここにいるかな」
良介はいつも家に来た時に座る座椅子に腰を下ろした。何度も互いの家を行き来しているので互いの家の過ごし方は言わなくてもよく分かっている。何はともあれスマホを取り出して雑談が始まった。
「最近くっそ暑いな」
「マジで終わってるよな。雨全く降らんもん」
「夏本当にうぜえわ」
「冬のほうが好きって言ってたっけ?」
「うん」
「まあ俺は冬のほうが嫌いかもな。どっちも嫌いだけど……つーかこれ見てくれよ」
良介はスマホの画面を凛太に向けた。そこには凛太もプレイしているソシャゲのレアキャラクターが映っていた。
「え。マジ?当てたん?」
「昨日さ。急に出てきて画像送ろうかと思ったんだけど直接自慢しようと思って」
「それずっとほしがってたもんな。いいな。俺も欲しい」
そのキャラクターは良介がこのソシャゲの話をする度に欲しいと言っていたキャラだった。女の子のキャラでかわいくて強い。良介は持っていない間もフレンド機能でずっとそのキャラを借りて使っていた。
良介とは趣味趣向がとにかく噛み合っていた。好みがどれも同じとか言うんじゃなくて、大まかに分けたジャンルでは好きなものは同じだが、より細かく好きなものを分類すると違う。語り合うのが一番盛り上がる仲だった。
好きなアイドルは同じでも推しメンは違う。好きなコンビニは同じでも買うものはいつも違った。
「……んでさ。最近今話題のマンガ読んだんだけどそれがめっちゃ面白かったの」
「えーあれ面白くなさそう。なんかダサいわ」
「いや、俺も最初はそう思ってたの。でも、読んでみるとねめっちゃ面白かったわ。買ったから貸すし凛ちゃんも読んでよ」
「まあ貸してもらえるなら読むよ。今日は取りに行くのめんどいし今度で良いわ」
それから凛太と良介は夏休みの何でもない日を、何でもない過ごし方をした。途中、コンビニへ食べ物を買いに行った以外は部屋でゲームをしたり、動画を見たり。
良介と過ごすときはいつもこんな感じで、特に変わったことはしなかった。少年でもするような遊び方だ。そういう過ごし方をできることが良介といると落ち着ける理由だ。
他にもお互いの家に行ける仲の友達もいくらかいるが良介といるのが一番落ち着く。純粋で野心みたいなものは感じられない。きっと良介は将来、安定した職について普通に奥さんをもらって普通に幸せな家庭を築く。もちろん、良い意味で……。
「そういえば、バイト始めたんだっけ。夏休み入る前にやるって言ってたよね」
「うん……まあ……始めたけど。何というか、すぐやめるかも」
「え。何で?」
「思ってたのと違った……それだけかな」
「へー」
凛太は最近のバイトに対する愚痴をもう言ってしまおうか迷ったがとりあえず我慢した。
「つーかそれで思い出したけど、今日昼寝してたら怖い夢見てさ。めっっちゃ怖かったから聞いてくんない?」
「どんなの」
自分が見た悪夢の話くらいならしていいだろうと凛太はさっき見た夢の話をした……。良介はその話を相槌を打ちながら真剣に聞いてくれた……。
話すと、恐怖の場面が思い出されたが、話すことですっきりもした。誰かと共有することで悪夢も笑い話になる。
「え。めっちゃ怖いじゃん」
「だろ。あんな夢初めて見た」
「俺も悪夢とかあんま見ないな……」
良介は22時過ぎに近所にあるマンションに帰っていった。帰るときには良介が実家から戻ってきたらまた遊ぶ約束もした。何でもない良い休日だった。
そんな穏やかな日は翌日の夜まで続いた……。その時がくればまた悪夢治療のアルバイトの時間がやってくる。
また恐怖の時間へ立ち向かわなければならない……凛太はそう思っていた。
「えっと、今日の患者さんの悪夢は眠る度に夢の中で友達が家に遊びに来て……うるさく騒ぎ始めて起こされるだって。なにこれ全然面白くなさそう」
とまと睡眠治療クリニックのバイト準備室。その日一緒のシフトだった美人の桜田がつまらなそうに言った。
しかも、かなり怖い部類に入る夢だったと思う。人から聞いた話でもちゃんと殺される悪夢はなかなか聞かないし。とにかくリアルだった。
実際に経験したことのある記憶を繰り返すみたいに、その場の空気とか見える景色、聞こえてくる音が現実と変わらなかった。まるで、バイトで夢の中に入った時みたいに。
けれど、そんな夢も現実に戻っていくらか時間が経てば頭の中で薄まっていく。顔を洗って水を飲み……テレビの電源を入れて座れば……もうここはただの自分の家だ。
あんな夢、さっさと忘れてしまおう……。
「おじゃましまーす」
遊びに誘って来た凛太の親友は凛太が起きてから30分後くらいには家に来た。玄関を開けた凛太を見ると、中肉中背の男は小さく手を挙げて中に入ってくる。後ろ向きに玄関に上がり、靴は綺麗に揃えておいた。
名前は遠藤 良介。凛太の大学一年生からの友達だった。初日の授業の時に知り合って、時間が経つと共に同級生たちが各々気の合う奴で固まっていくうちに、凛太と良介も同じ講義や昼飯を隣で過ごすようになった。
「今日はどうしたの?」
「いや俺さ。明日から実家帰るから、その前に凛ちゃんに会っとこうかなって」
「そうなん。一週間くらいは実家にいるの?」
「たぶんそうするかな。決めてないけど。凛ちゃんは帰んないの?」
「俺は……まあ、ここにいるかな」
良介はいつも家に来た時に座る座椅子に腰を下ろした。何度も互いの家を行き来しているので互いの家の過ごし方は言わなくてもよく分かっている。何はともあれスマホを取り出して雑談が始まった。
「最近くっそ暑いな」
「マジで終わってるよな。雨全く降らんもん」
「夏本当にうぜえわ」
「冬のほうが好きって言ってたっけ?」
「うん」
「まあ俺は冬のほうが嫌いかもな。どっちも嫌いだけど……つーかこれ見てくれよ」
良介はスマホの画面を凛太に向けた。そこには凛太もプレイしているソシャゲのレアキャラクターが映っていた。
「え。マジ?当てたん?」
「昨日さ。急に出てきて画像送ろうかと思ったんだけど直接自慢しようと思って」
「それずっとほしがってたもんな。いいな。俺も欲しい」
そのキャラクターは良介がこのソシャゲの話をする度に欲しいと言っていたキャラだった。女の子のキャラでかわいくて強い。良介は持っていない間もフレンド機能でずっとそのキャラを借りて使っていた。
良介とは趣味趣向がとにかく噛み合っていた。好みがどれも同じとか言うんじゃなくて、大まかに分けたジャンルでは好きなものは同じだが、より細かく好きなものを分類すると違う。語り合うのが一番盛り上がる仲だった。
好きなアイドルは同じでも推しメンは違う。好きなコンビニは同じでも買うものはいつも違った。
「……んでさ。最近今話題のマンガ読んだんだけどそれがめっちゃ面白かったの」
「えーあれ面白くなさそう。なんかダサいわ」
「いや、俺も最初はそう思ってたの。でも、読んでみるとねめっちゃ面白かったわ。買ったから貸すし凛ちゃんも読んでよ」
「まあ貸してもらえるなら読むよ。今日は取りに行くのめんどいし今度で良いわ」
それから凛太と良介は夏休みの何でもない日を、何でもない過ごし方をした。途中、コンビニへ食べ物を買いに行った以外は部屋でゲームをしたり、動画を見たり。
良介と過ごすときはいつもこんな感じで、特に変わったことはしなかった。少年でもするような遊び方だ。そういう過ごし方をできることが良介といると落ち着ける理由だ。
他にもお互いの家に行ける仲の友達もいくらかいるが良介といるのが一番落ち着く。純粋で野心みたいなものは感じられない。きっと良介は将来、安定した職について普通に奥さんをもらって普通に幸せな家庭を築く。もちろん、良い意味で……。
「そういえば、バイト始めたんだっけ。夏休み入る前にやるって言ってたよね」
「うん……まあ……始めたけど。何というか、すぐやめるかも」
「え。何で?」
「思ってたのと違った……それだけかな」
「へー」
凛太は最近のバイトに対する愚痴をもう言ってしまおうか迷ったがとりあえず我慢した。
「つーかそれで思い出したけど、今日昼寝してたら怖い夢見てさ。めっっちゃ怖かったから聞いてくんない?」
「どんなの」
自分が見た悪夢の話くらいならしていいだろうと凛太はさっき見た夢の話をした……。良介はその話を相槌を打ちながら真剣に聞いてくれた……。
話すと、恐怖の場面が思い出されたが、話すことですっきりもした。誰かと共有することで悪夢も笑い話になる。
「え。めっちゃ怖いじゃん」
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「俺も悪夢とかあんま見ないな……」
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そんな穏やかな日は翌日の夜まで続いた……。その時がくればまた悪夢治療のアルバイトの時間がやってくる。
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