4 / 10
第3話 変色
しおりを挟む
エイタが望んでいた展開に鼓動が早くなったが、距離を詰めることなくゆっくり階段を下りた――。エイタが1階に着いたとき公民館の正面入り口の自動ドアがちょうど閉まる。
これでまた今度にするのは何回目だ。問題を先送りにして、どこかへ捨ててしまう度に降り積もっていく気持ちはそろそろ溢れてしまいそうだった。
エイタは自分で作った嘘を全うする為にカフェスペースへ向かった。本当はルリに話しかけるチャンスを逃さないために1人で出てきたのだが今日も勇気が出せなかった。
外ではまだ雪が降っていて電気をつけていないとカフェスペースのキッチンは薄暗かった。アルコールの消毒の臭いの中大型の冷蔵庫を開けて、最初に見えた冷凍食品を手に取りため息を吐いた。重い足取りで3階まで戻って、廊下の突き当りまで歩く。
ここからは公園が一番よく見えて、ここからならルリの金色の髪も見えた。ルリはいつも1人でいて、それはルリの髪が金色で、金色は今の世界では忌み嫌われる色だからだ。
うわさによると昔は周りと同じ黒髪だったらしいが、染めたわけでもなく、ある日突然金色になったらしい。その話をしていた女の子は続けて不気味だとルリの悪口を言っていた。ルリは普段通り大きなアスレチックの向こう側の散歩道にある木製ベンチで彼女は本を広げている。
エイタはちょっとした隙にこの場所で窓越しに斜め後ろ姿のルリを見つめることが習慣になっていた。
立って眺めていても仕方ないし、冷凍食品の袋を持っている手が冷たいのでショウゴとタイシと過ごす遊び部屋に戻る。
ドアを開けると、2人の体制は部屋を出る時と同じだった。どうやら本当に寝てしまったらしい。エイタは手に持った冷凍食品を冷蔵庫に入れ、座イスに座ることを静かにこなした。
暖房の音だけが流れる部屋で、座イスの背もたれを倒し部屋の蛍光灯を見つめる。ルリは今も1人なのだ。自分が望む未来を叶えるには行動するべきなのはわかっている。しかし景色は止まったままだ。
目を閉じそうになった時、ザーザーと音が聞こえた。窓に無数の雨粒がぶつかっていて、起きあがり近づいて見てみると一瞬でアスファルトを濡らし色を濃くするなかなか見ないような豪雨だ。おそらく通り雨だけど――ルリは傘を持っていただろうか……。
すぐに体が動き、部屋の出口においてある傘を持って走り出していた。
階段を降りる途中、傘を2本盛ってくるべきだったと気づいたが止まらない。1階で急な雨に濡れた顔見知りとすれ違ったが目もくれず、あっという間に外に出て雨の中公園を目指す。
この雨の中で傘を差して走ったことはなかったので激しく傘にぶつかる雨に濡れずに体を動かすのが難しい。大きなアスレチックのところまできて走る速度を緩め向こう側に目を凝らすと、屋根付きの休憩所の中にいるルリを見つけた。
ルリは傘を両手で持ち広げて、前方からくる雨を傘を回しながら受け止める子供のようなことをしていた。
エイタはなんだか拍子抜けしてその場で数秒止まり、今度は歩いた。雨でぬかりみ始めたグラウンドから出て、両脇に緑が並ぶ石床の散歩道を通って後ろ姿のルリに近づく。
ルリは傘を回すのをやめて傘を少しだけ下げた。同時に肩が下がりうつむく。おそらくこの雨でこちらには気づいてない。
雨が差し込み床が半分濡れている休憩所の数歩手前、このまま、やってやろう――
「あのさ……」
振り向く彼女、エイタを捉えた瞳が大きく開いて、信じられないくらい輝いた。
これでまた今度にするのは何回目だ。問題を先送りにして、どこかへ捨ててしまう度に降り積もっていく気持ちはそろそろ溢れてしまいそうだった。
エイタは自分で作った嘘を全うする為にカフェスペースへ向かった。本当はルリに話しかけるチャンスを逃さないために1人で出てきたのだが今日も勇気が出せなかった。
外ではまだ雪が降っていて電気をつけていないとカフェスペースのキッチンは薄暗かった。アルコールの消毒の臭いの中大型の冷蔵庫を開けて、最初に見えた冷凍食品を手に取りため息を吐いた。重い足取りで3階まで戻って、廊下の突き当りまで歩く。
ここからは公園が一番よく見えて、ここからならルリの金色の髪も見えた。ルリはいつも1人でいて、それはルリの髪が金色で、金色は今の世界では忌み嫌われる色だからだ。
うわさによると昔は周りと同じ黒髪だったらしいが、染めたわけでもなく、ある日突然金色になったらしい。その話をしていた女の子は続けて不気味だとルリの悪口を言っていた。ルリは普段通り大きなアスレチックの向こう側の散歩道にある木製ベンチで彼女は本を広げている。
エイタはちょっとした隙にこの場所で窓越しに斜め後ろ姿のルリを見つめることが習慣になっていた。
立って眺めていても仕方ないし、冷凍食品の袋を持っている手が冷たいのでショウゴとタイシと過ごす遊び部屋に戻る。
ドアを開けると、2人の体制は部屋を出る時と同じだった。どうやら本当に寝てしまったらしい。エイタは手に持った冷凍食品を冷蔵庫に入れ、座イスに座ることを静かにこなした。
暖房の音だけが流れる部屋で、座イスの背もたれを倒し部屋の蛍光灯を見つめる。ルリは今も1人なのだ。自分が望む未来を叶えるには行動するべきなのはわかっている。しかし景色は止まったままだ。
目を閉じそうになった時、ザーザーと音が聞こえた。窓に無数の雨粒がぶつかっていて、起きあがり近づいて見てみると一瞬でアスファルトを濡らし色を濃くするなかなか見ないような豪雨だ。おそらく通り雨だけど――ルリは傘を持っていただろうか……。
すぐに体が動き、部屋の出口においてある傘を持って走り出していた。
階段を降りる途中、傘を2本盛ってくるべきだったと気づいたが止まらない。1階で急な雨に濡れた顔見知りとすれ違ったが目もくれず、あっという間に外に出て雨の中公園を目指す。
この雨の中で傘を差して走ったことはなかったので激しく傘にぶつかる雨に濡れずに体を動かすのが難しい。大きなアスレチックのところまできて走る速度を緩め向こう側に目を凝らすと、屋根付きの休憩所の中にいるルリを見つけた。
ルリは傘を両手で持ち広げて、前方からくる雨を傘を回しながら受け止める子供のようなことをしていた。
エイタはなんだか拍子抜けしてその場で数秒止まり、今度は歩いた。雨でぬかりみ始めたグラウンドから出て、両脇に緑が並ぶ石床の散歩道を通って後ろ姿のルリに近づく。
ルリは傘を回すのをやめて傘を少しだけ下げた。同時に肩が下がりうつむく。おそらくこの雨でこちらには気づいてない。
雨が差し込み床が半分濡れている休憩所の数歩手前、このまま、やってやろう――
「あのさ……」
振り向く彼女、エイタを捉えた瞳が大きく開いて、信じられないくらい輝いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる