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・二の部屋

第18話 募る重音

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「お願いしますね」

 化け物が姿を見せると同時に隣に座る女が神妙な面持ちでナオキに言った。よっぽど余裕がなければ子供も一緒に脱出するという女の望みを叶えるつもりはなかったがナオキは首を下に振って対応した。

 化け物の目は純粋な黒色に戻っていた。それでも充分に気味が悪い巨大な目をギョロつかせながら部屋に入ってくる。

 朝にあんなことを言われたのでいきなり襲ってくるかもしれないと警戒していたが昨夜と同じで机の周りをうろつき始めた。

 立ち上がることはおろか足を伸ばしたり腕を組んでリラックスすることもできない。眠ることもできず夜通しここで座り続ける。こんなことを毎日するのはどのくらいの苦しみだろう……。

 十分ほどが経ち、ナオキはカズオと目を合わせて2人で頷き覚悟を決めた。さあ、やるぞ――

 動き出すタイミングはナオキ自身の按排に任されていた。自分が思ったタイミングでここを抜け出しこの化け物を引き付ける。走り出すルートは決まっている。動き出したら引き返すことはできないだろう。

 化け物が部屋の一番奥に行ったとき、ナオキがイスの座る部分に手を触れただけで化け物が反応する。ナオキを一点に見下ろし、一つまばたきをした――。巨大ゆえにミチッと気持ち悪い音がする。ナオキが手と足に力を入れ始めると、化け物が徐々にまばたきが加速していく。

 ミチミチミチミチミチミチミチミチミチミチミチミチミチッ

 ナオキは走り出した――。座っていたイスを化け物のほうへ突き飛ばし。全力で部屋を出る。廊下を一瞬で通過して、階段へ向かう。

 バキッと木が割れる音がした後でドッドッドッっという音がついてきた。走りながら、壁にある廊下や階段の電源ボタンを、押していくが電気はつかない。それでも止まることはできないので階段を手も使いながら一段飛ばしで猿のように上る。

 ほとんど何も見えない暗闇の中で重い音はすごいスピードで追いついてきた。追われるということは怖い。化け物がどのくらいの場所にいるのかは音で判断して振り向くことはしなかった。

 二階の化け物の部屋に辿り着き、急いでドアを開けて中に入る。まずはこの部屋と隣の部屋で穴を使って時間を稼ぐ。カズオとの予定では1分。1分ここで化け物に捕まらないように上手いこと立ち回らなければいけない。

 月明りで廊下よりは明るい血塗られた部屋の中、隣の部屋へ続く穴の周りを蹴ると、化け物が部屋の前に到着した。

「四人。四人だ。絶対に」

 化け物が低い声と高い声が混ざった変な声で言った言葉の意味は分からない。周りが赤くなった目になった化け物が部屋に入ってくる素振りを見せたら、すぐに体を縮めて隣の部屋へ移動する。

 ドンッ

 ナオキに向かって高速で伸びてきた細長い腕が空を切って壁にぶつかる。

 ドンッドンッ

 避けられて腹が立ったのか、二度壁を叩く音がした。
 よし、次はその扉から姿を見せるか――見えたらすぐにまたさっきの部屋へ戻る。

 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

 より強力な力で壁を何度も叩く音がして、その衝撃が部屋中に響いた。部屋に置かれていたクローゼットが倒れ、壁を殴る音はさらに大きくなる――。

 ついには壁にひびが入り始めて、小さな穴が開いて、化け物の手の一部が見えた。

 ナオキは動けなった。どうしていいか分からないまま、ものすごい音と共に隣の部屋から化け物の手が伸びてきて、また戻っていく。瓦礫が部屋中に散らばり、壁の小さな破片が粉になって舞い、顔に降りかかった。

 化け物も通り抜け可能なかなり大きな穴が開いた。 
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