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・二の部屋
第20話 意志
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持てば腕に確かな負担がかかる5kgほどの木製のイスを頭の上まで持ち上げてから力いっぱい斜めに振り回して、目の前の奇形の目をした少年をテーブルのほうへ叩きつける。柔らかく硬い物にイスを打ち付ける嫌な感覚が大量の虫に這われるように手を蝕んでいく。けど、それと同時に長い廊下を走っているときにあった息苦しさが無くなった。
嫌な感覚も一緒に投げ捨てるようにイスから手を離し、二階の化け物の部屋へ繋がる穴を目指して棚の上に足をかけると、ナオキに続いて化け物がドアを豪快に吹っ飛ばして部屋に突っ込んできた。
「ウアアアアアアアアアア。なんで。なんでいないの…………いるよ。ここに」
同じ目をした少年に重い一撃を決めてやったのが効いているのか化け物は片腕で両目を覆って怯み苦しんでいた。化け物は泣くように叫んでいるが男の子のほうは死体のようにぐったりしていた。
その様子を見てナオキは上へ行かず、さっき通ってきた道を戻ることにした。化け物の後ろを通って部屋を出る。
変な空間を通ってここに来たので危ない賭けをせず一旦戻りたい――その思いで部屋を出たが長い廊下は跡形もなく消えていて、元の家の形に戻っていた。
……それならあとはここから出るだけだ。時間は十分に稼いだので作戦通りカズオが脱出方法を見つけられているはず。カズオはどこへ行った?女と少女もいない。
ナオキはリビングに向かい、足元まである大きな窓を開けようと試みた。どこからでも出られるならここから出る手はずだった。しかし、開かない。ガラスに手を張り付けて横に引っ張っても、思いっきりガラスを蹴っても開かない――全身でぶつかり自分が試せる肉体的攻撃を何度もやっても結果は同じだった。壁みたいだ。
続いて玄関へ急いで、ドアを引きちぎれそうなほど引っ張り、その反動で体をドアに預けて押す。しかしこれも開かない。
「……ぉい。おい!何してる!」
リビングからカズオの声がして、慌てて振り返る。
「化け物はどうした?なんで外に出てこない!?」
「開いてませんでしたよ!あいつはあっちで弱ってます。男の子が正体でした」
「男の子?誰のことだ?それに開いて――」
バキッ
大きな木が割れる音……それは一瞬だった……叫び声は出さず音もなく部屋からヌルリと出てきて、伸びてくる腕……逃げるという意志を強く持ってそちらの方角に集中していたナオキはすぐに反応できた。
化け物に捕まれて恐怖と怒りの声をあげるカズオを背にして半開きにされていた窓までたどり着くとすんなり外に出られた。
ナオキの体が完全に家の外に出ると勢いよくガラス戸が閉まる。
外へ出てガラス越しに見るカズオは足をバタつかせていた。必死にもがき胸ポケットからお札を取り出すと化け物の手と頭に張り付ける。
全く動じずカズオを天井まで持ち上げた化け物はものすごいスピードで振り下ろした。飛び散る赤い色。それを見たナオキは走った――走った――。
結末はあっけなく、何が何だか分からなかった。けど、これでこの場所とはお別れだ。
アスファルトの上に置かれている無表情な白い扉の前まで来て後ろを振り返る。化け物は追ってきていない。外から見る自分が今まで居た家は屋根が灰色でどこにでもある普通の民家だった。
夜に包まれて真っ黒な場所との境界線があやふやになったこの空間の端に立ってゆっくり息を吐き出した。
「結局あなたが助かったのね」
横を見ると家の中に居た女が暗闇に立っていた。少し後ろにはダンボールを抱えたガタイがいい男も立っているが、顔はよく見えない。
「あなたが来てくれたおかげで、私も出られたわありがとう」
「……どこまで知ってたんですか?」
「ほとんど知ってたわ。あの子が4人に固執していて5人目にならないと外には出られないことも。けど、今日は何で2人出れたのかしら」
目を凝らせば、二階の窓を少女が叩いていて、それが何かに吸い込まれるように奥に消えた。
「ほんと人生ついてないわ。目が大きくて気持ち悪い子が生まれて、いないものとして殺そうとしたら家から出られなくなっちゃって。あとから入ってくる奴らも全員役立たず。あの男もビビりでいつまで待っても囮にすらならない。あなたは勇敢ね」
怒りの感情が沸々としたがナオキは何もしなかった。ただ茫然と笑顔で話しかけてくる女を見ていた。
「あなたがこれからどうするのか知らないけど私のことは誰にも言わないでね。あの子は大丈夫。あそこからは出てこないわ。そういう教育をしてきたから」
ナオキは返事をせずに扉を開けた。
嫌な感覚も一緒に投げ捨てるようにイスから手を離し、二階の化け物の部屋へ繋がる穴を目指して棚の上に足をかけると、ナオキに続いて化け物がドアを豪快に吹っ飛ばして部屋に突っ込んできた。
「ウアアアアアアアアアア。なんで。なんでいないの…………いるよ。ここに」
同じ目をした少年に重い一撃を決めてやったのが効いているのか化け物は片腕で両目を覆って怯み苦しんでいた。化け物は泣くように叫んでいるが男の子のほうは死体のようにぐったりしていた。
その様子を見てナオキは上へ行かず、さっき通ってきた道を戻ることにした。化け物の後ろを通って部屋を出る。
変な空間を通ってここに来たので危ない賭けをせず一旦戻りたい――その思いで部屋を出たが長い廊下は跡形もなく消えていて、元の家の形に戻っていた。
……それならあとはここから出るだけだ。時間は十分に稼いだので作戦通りカズオが脱出方法を見つけられているはず。カズオはどこへ行った?女と少女もいない。
ナオキはリビングに向かい、足元まである大きな窓を開けようと試みた。どこからでも出られるならここから出る手はずだった。しかし、開かない。ガラスに手を張り付けて横に引っ張っても、思いっきりガラスを蹴っても開かない――全身でぶつかり自分が試せる肉体的攻撃を何度もやっても結果は同じだった。壁みたいだ。
続いて玄関へ急いで、ドアを引きちぎれそうなほど引っ張り、その反動で体をドアに預けて押す。しかしこれも開かない。
「……ぉい。おい!何してる!」
リビングからカズオの声がして、慌てて振り返る。
「化け物はどうした?なんで外に出てこない!?」
「開いてませんでしたよ!あいつはあっちで弱ってます。男の子が正体でした」
「男の子?誰のことだ?それに開いて――」
バキッ
大きな木が割れる音……それは一瞬だった……叫び声は出さず音もなく部屋からヌルリと出てきて、伸びてくる腕……逃げるという意志を強く持ってそちらの方角に集中していたナオキはすぐに反応できた。
化け物に捕まれて恐怖と怒りの声をあげるカズオを背にして半開きにされていた窓までたどり着くとすんなり外に出られた。
ナオキの体が完全に家の外に出ると勢いよくガラス戸が閉まる。
外へ出てガラス越しに見るカズオは足をバタつかせていた。必死にもがき胸ポケットからお札を取り出すと化け物の手と頭に張り付ける。
全く動じずカズオを天井まで持ち上げた化け物はものすごいスピードで振り下ろした。飛び散る赤い色。それを見たナオキは走った――走った――。
結末はあっけなく、何が何だか分からなかった。けど、これでこの場所とはお別れだ。
アスファルトの上に置かれている無表情な白い扉の前まで来て後ろを振り返る。化け物は追ってきていない。外から見る自分が今まで居た家は屋根が灰色でどこにでもある普通の民家だった。
夜に包まれて真っ黒な場所との境界線があやふやになったこの空間の端に立ってゆっくり息を吐き出した。
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「……どこまで知ってたんですか?」
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目を凝らせば、二階の窓を少女が叩いていて、それが何かに吸い込まれるように奥に消えた。
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怒りの感情が沸々としたがナオキは何もしなかった。ただ茫然と笑顔で話しかけてくる女を見ていた。
「あなたがこれからどうするのか知らないけど私のことは誰にも言わないでね。あの子は大丈夫。あそこからは出てこないわ。そういう教育をしてきたから」
ナオキは返事をせずに扉を開けた。
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