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第7話 虚弱聖女と目覚め
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”約束、する……約束……するから、だから……”
誰かの泣きそうな声が聞こえる。
時々夢に出てくる声。
この声を聞くと、いつも胸の奥が苦しくなり、鼻の奥がツンッと痛くなる。
どうして……
この夢を見ると、決まって身体が冷たくなる。
寒気が襲ってきて、震えが止まらなくなって――
だけど不意にぬくもりに包まれた。
……温かい。
なんだか、お日様の匂いがする。
明るい光を瞼の裏に感じ、私はゆっくりと瞳を開いた。
視界に入ってきたのは、見知らぬ天井……ではなく天蓋。少なくとも、私の部屋じゃない。
私は、一体……と考えたところで、今までの記憶が蘇ってきた。
私、隣国ルミテリス王国にやってきたんだ。そしてこの国の守護獣様と王様に助けられて、お城でお世話になることになったんだ。
そして――
カァァっと顔全体に熱が上がってきた。
私、レイ様に抱き上げられて運ばれたのに、途中で寝てしまったんだわ!
「わ、私、レイ様に、し、失礼なことをっ!!」
相手は国王様。
自分が侵した失態に慌て、ベッドから起き上がろうとしたとき、
「あ、目が覚めた? セレスティアル」
「ん? 俺がどうかしたのか?」
二種類の声に、私の動きが止まった。
一つは私の後ろから、そしてもう一つは横からだ。ただ両方ともに共通していることは、すぐそばから聞こえたということ。
まず後ろを見ると、
「セレスティアル、おはよう」
「お、おは、よ、う……」
ラメンテがいた。
彼の身体からお日様の良い匂いがする。どうやら私、ラメンテに寄り添われながら眠っていたみたい。
不意に包まれた温かさは、彼の体温だったみたい。
「ラメンテ? どうしてあなたがここに?」
「セレスティアルの様子を見に来たの。そしたらなんか辛そうに震えてたから、温めてたんだ」
寒かったのは夢かと思ったけど、現実の私も震えていたんだ。
「そうだったのね、ありがとう、ラメンテ」
彼の頭を撫でると、ラメンテの尻尾が揺れた。
可愛いし、フワフワの毛が柔らかくて気持ちいい。
まあそれはいい。それは。
問題は――
「良かった、セレスティアル。顔色が随分と良くなっている」
「れ、レイ様!?」
「……何で俺に対しては、そんなに驚いているんだ?」
レイ様が不思議そうに首をかしげたかと思うと、彼の手が伸びてきて、私の手を握った。
……って、え? 手?
私の手を握ったレイ様の表情が一変、険しくなる。
「……随分冷えているな。まだ体調が思わしくないのか?」
「え、そうなの? レイ、大丈夫だよね? セレスティアル、元気になるよね?」
「もちろんだ。早く医者を呼ぼう!」
「ま、まって! 待ってくださいっ!」
私の手の冷たさに大騒ぎする一人と一頭に、私は慌てて声をかけた。
私の手が冷たいのは、体調が悪いなどではなく、平常運転。
むしろゆっくり休ませていただいたことで、いつもよりも随分身体が軽くなっているほど。
なので、お医者様を呼ばれても困る!
しかし、
「セレスティアル、大丈夫だ! すぐに医者を手配するから、耐えるんだ!」
「大丈夫? ねえ、大丈夫? しっかりして、セレスティアル!」
と、一人と一頭は、まるで私が死の淵にいるかのような反応を見せてくる。
このままだと、私の手が冷たいだけなのに、大事になってしまう!
レイ様が勢いよく立ち上がる――が、彼の頭が突然現れた別の手に押さえつけられ、椅子に戻されてしまった。
同時に、
「……落ち着け、レイ。相手が困っているだろ」
呆れ声が部屋に響き渡った。
頭を押さえつけられた手を引き剥がそうと、レイ様が後ろを振り向かれた。
そこには、私たちが城に戻ったとき、出迎えてくれたルヴィスさんがいた。しかしレイ様への言動が、初めて出会ったときとは違う。
一体どうなっているのかと困惑している私のそばで、レイ様が何事もないようにルヴィスさんに食ってかかった。
「セレスティアルの手が冷たすぎる! これは何か重大な病が……」
「隠れてない、隠れてない。主治医が、疲労と栄養失調だと言ってただろ。しっかり食べて、しっかり休めば良くなると。なのに騒ぎ立てたら良くなるものも良くならないだろ」
ルヴィスさんの発言に、私は首がもげてもおかしくないほど、ぶんぶんと首を縦に振った。
ほら見ろ、と、ジト目になったルヴィスさんが、レイ様を見る。
まだ何か言いたそうなレイ様だったが、ルヴィスさんにぎゅっと頭を押さえつけられ、それ以上何も言わなかった。
ルヴィスさんの発言にラメンテが、しゅんっと耳を垂らしながら私に謝ってきた。
「ごめんね、セレスティアル。大騒ぎしちゃって……」
「う、ううん、気にしないで。少し驚いたけどね」
「ほら、ルヴィス。セレスティアルも、気にするなと言ってる」
「……お前は気にしろ。どうせお前が不用意に騒ぎ立てて、ラメンテ様を不安にさせたんだろ」
……当たりです、ルヴィスさん。
何で分かったんだろ。
そんなことを考えながら、私はレイ様たちに改めて頭を下げた。
「助けていただき、ありがとうございました。身体の調子もすっかり良くなりました」
私の発言に、この場にいるみんながホッと安堵の息を吐き出した。それを見て、私の気持ちも少し落ち着きを取り戻す。
だけど同時に、申し訳なく思う。
私なんかのせいで、ラメンテとレイ様を不安にさせてしまったから。
ルヴィスさんが持ってきてくださったスープを受け取ると、口を付けながら話を聞く。
話を聞くと、私はあのあと二日も眠りっぱなしだったらしい。
随分と、体力が消耗していたのね……
改めて、いつ命を落としてもおかしくない旅だったのだと、恐怖に駆られた。
食事が終わると、レイ様が真剣な表情で仰った。
「セレスティアル、君が結界の外にいたことは、ラメンテから聞いている。一体何故あんな危険な場所にいたのか、もし良かったら話して貰えないか?」
誰かの泣きそうな声が聞こえる。
時々夢に出てくる声。
この声を聞くと、いつも胸の奥が苦しくなり、鼻の奥がツンッと痛くなる。
どうして……
この夢を見ると、決まって身体が冷たくなる。
寒気が襲ってきて、震えが止まらなくなって――
だけど不意にぬくもりに包まれた。
……温かい。
なんだか、お日様の匂いがする。
明るい光を瞼の裏に感じ、私はゆっくりと瞳を開いた。
視界に入ってきたのは、見知らぬ天井……ではなく天蓋。少なくとも、私の部屋じゃない。
私は、一体……と考えたところで、今までの記憶が蘇ってきた。
私、隣国ルミテリス王国にやってきたんだ。そしてこの国の守護獣様と王様に助けられて、お城でお世話になることになったんだ。
そして――
カァァっと顔全体に熱が上がってきた。
私、レイ様に抱き上げられて運ばれたのに、途中で寝てしまったんだわ!
「わ、私、レイ様に、し、失礼なことをっ!!」
相手は国王様。
自分が侵した失態に慌て、ベッドから起き上がろうとしたとき、
「あ、目が覚めた? セレスティアル」
「ん? 俺がどうかしたのか?」
二種類の声に、私の動きが止まった。
一つは私の後ろから、そしてもう一つは横からだ。ただ両方ともに共通していることは、すぐそばから聞こえたということ。
まず後ろを見ると、
「セレスティアル、おはよう」
「お、おは、よ、う……」
ラメンテがいた。
彼の身体からお日様の良い匂いがする。どうやら私、ラメンテに寄り添われながら眠っていたみたい。
不意に包まれた温かさは、彼の体温だったみたい。
「ラメンテ? どうしてあなたがここに?」
「セレスティアルの様子を見に来たの。そしたらなんか辛そうに震えてたから、温めてたんだ」
寒かったのは夢かと思ったけど、現実の私も震えていたんだ。
「そうだったのね、ありがとう、ラメンテ」
彼の頭を撫でると、ラメンテの尻尾が揺れた。
可愛いし、フワフワの毛が柔らかくて気持ちいい。
まあそれはいい。それは。
問題は――
「良かった、セレスティアル。顔色が随分と良くなっている」
「れ、レイ様!?」
「……何で俺に対しては、そんなに驚いているんだ?」
レイ様が不思議そうに首をかしげたかと思うと、彼の手が伸びてきて、私の手を握った。
……って、え? 手?
私の手を握ったレイ様の表情が一変、険しくなる。
「……随分冷えているな。まだ体調が思わしくないのか?」
「え、そうなの? レイ、大丈夫だよね? セレスティアル、元気になるよね?」
「もちろんだ。早く医者を呼ぼう!」
「ま、まって! 待ってくださいっ!」
私の手の冷たさに大騒ぎする一人と一頭に、私は慌てて声をかけた。
私の手が冷たいのは、体調が悪いなどではなく、平常運転。
むしろゆっくり休ませていただいたことで、いつもよりも随分身体が軽くなっているほど。
なので、お医者様を呼ばれても困る!
しかし、
「セレスティアル、大丈夫だ! すぐに医者を手配するから、耐えるんだ!」
「大丈夫? ねえ、大丈夫? しっかりして、セレスティアル!」
と、一人と一頭は、まるで私が死の淵にいるかのような反応を見せてくる。
このままだと、私の手が冷たいだけなのに、大事になってしまう!
レイ様が勢いよく立ち上がる――が、彼の頭が突然現れた別の手に押さえつけられ、椅子に戻されてしまった。
同時に、
「……落ち着け、レイ。相手が困っているだろ」
呆れ声が部屋に響き渡った。
頭を押さえつけられた手を引き剥がそうと、レイ様が後ろを振り向かれた。
そこには、私たちが城に戻ったとき、出迎えてくれたルヴィスさんがいた。しかしレイ様への言動が、初めて出会ったときとは違う。
一体どうなっているのかと困惑している私のそばで、レイ様が何事もないようにルヴィスさんに食ってかかった。
「セレスティアルの手が冷たすぎる! これは何か重大な病が……」
「隠れてない、隠れてない。主治医が、疲労と栄養失調だと言ってただろ。しっかり食べて、しっかり休めば良くなると。なのに騒ぎ立てたら良くなるものも良くならないだろ」
ルヴィスさんの発言に、私は首がもげてもおかしくないほど、ぶんぶんと首を縦に振った。
ほら見ろ、と、ジト目になったルヴィスさんが、レイ様を見る。
まだ何か言いたそうなレイ様だったが、ルヴィスさんにぎゅっと頭を押さえつけられ、それ以上何も言わなかった。
ルヴィスさんの発言にラメンテが、しゅんっと耳を垂らしながら私に謝ってきた。
「ごめんね、セレスティアル。大騒ぎしちゃって……」
「う、ううん、気にしないで。少し驚いたけどね」
「ほら、ルヴィス。セレスティアルも、気にするなと言ってる」
「……お前は気にしろ。どうせお前が不用意に騒ぎ立てて、ラメンテ様を不安にさせたんだろ」
……当たりです、ルヴィスさん。
何で分かったんだろ。
そんなことを考えながら、私はレイ様たちに改めて頭を下げた。
「助けていただき、ありがとうございました。身体の調子もすっかり良くなりました」
私の発言に、この場にいるみんながホッと安堵の息を吐き出した。それを見て、私の気持ちも少し落ち着きを取り戻す。
だけど同時に、申し訳なく思う。
私なんかのせいで、ラメンテとレイ様を不安にさせてしまったから。
ルヴィスさんが持ってきてくださったスープを受け取ると、口を付けながら話を聞く。
話を聞くと、私はあのあと二日も眠りっぱなしだったらしい。
随分と、体力が消耗していたのね……
改めて、いつ命を落としてもおかしくない旅だったのだと、恐怖に駆られた。
食事が終わると、レイ様が真剣な表情で仰った。
「セレスティアル、君が結界の外にいたことは、ラメンテから聞いている。一体何故あんな危険な場所にいたのか、もし良かったら話して貰えないか?」
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