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悪役令嬢の回想1
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私の本当の名は、アイリス・ロヴィ・クランメトーレ。
ペグランド王国を支える五代貴族――クランメトーレ公爵の長女です。
私は幼い頃、ペグランド王国の王太子であるケルビン・オール・ペグランド様と婚約いたしました。
この国は、国王が全て。絶対的な権力を有しております。
たとえ王妃であっても、国王の身に危険が迫れば、身を挺して守らなければならない、いわば護衛の一人。
ですから、次期国王となられる相手の結婚相手は、五大貴族の中で一番魔力量が多く、魔法に長けた女性だと決まっているのです。
それが――私でした。
ケルビン様を守るため、私は幼い頃から過酷ともいえる魔法訓練も受けてきました。魔法訓練に比べれば、妃教育など可愛いもの。
公爵令嬢に似つかわしくない、文字通り血の滲むような努力を続けた結果、私は僅か十九歳にして、王国内でも五本の指に入るほどの実力をもつ魔法使いとなったのです。
全ては未来の国王となられる婚約者、ケルビン様を守るために――
ケルビン様は……そうですね。
彼は未来の国王となられる御方だと育てられたせいか、非常に我が強い方でした。国の主として強い意志をもたれることは良いことなのですが、いささか……その態度が強固すぎるというか――ふふっ、私ったら。彼の短所を良いように言う癖は、まだ直っていないようですね。
ええ、あなたの言う通り、ケルビン様はとても我が儘で自己愛の強い御方でした。
しかしそれもきっと今だけ。
民の上に立つお立場になったとき、ご自身の身を振り返り行動を正してくださる。
そう、信じておりました。
神殿が聖域としている聖なる泉に、ホンジョウ レイカ様が現れるまでは。
*
レイカ様は、明らかにペグランド王国の人間ではありませんでした。彼女が身につけていた服装や持ち物が、この国では見たことないものばかりだったからです。
聖域で発見されたため、彼女の身柄は当初神殿が引き受けました。
神殿には大昔、異世界からやってきた黒髪と黒い瞳をもつ聖女が、魔物に征服されていた世界を聖なる力――魔の物たちを跡形もなく消滅させる力――で救ったという伝承が残っておりました。
レイカ様から、伝承にある聖なる力を見いだした神殿は、彼女を、異世界からやってきた聖女と認定したのです。
丁度その頃、ケルビン様は、とあるミスを犯してしまい、次期国王の座が危うくなっておりました。弟君をおす者たちの声が大きくなり、窮地に陥っておられたのです。
次期国王の座を取り戻すには、ケルビン様に国を治める力があることを国内外に示す必要がありました。
ですから、この世界に蔓延る魔の権下である魔王を、聖女とともに倒そうと決意なされたのです。
それくらいなさらなければ、落ちた権威を取り戻すことなど、不可能でしたから。
こうしてケルビン様は、初めてレイカ様とお会いになられたのです。
あの日のことは……今でも夢に見ますわ。
レイカ様は、彼女を護衛する聖騎士クライム様とともにやってこられました。
案内された広い応接間で、ケルビン様に向かって頭を下げるレイカ様の第一印象は、小さくて可愛らしい方でした。
長い黒髪が艶やかで、黒い瞳からは怯えが見えました。年齢は私と同じだと聞いておりましたが、幼く思えます。
神殿の巫女が身につける白いワンピースと、肩にはケープを羽織り、頭には額冠をつけておられました。
ケルビン様が、クライム様とともに頭を下げるレイカ様に近付きました。そしてレイカ様の前で腰を落とし、彼女の頬に無遠慮に触れると、ご自身の方へ無理矢理顔を向けさせ、
「こんな小娘が聖女だとは。神殿の目は節穴ではないか?」
と嘲笑されたのです。
神殿の宝たる聖女様への暴言に、私の背筋に寒気が走りました。殿下のまさかの発言に、周囲もざわついています。
神殿は、魔王が現れてから急速に力をつけていました。今では、王家とほぼ同等の権力をもっているからです。
もし神殿を敵に回すことになれば、大変な事態となるでしょう。
しかし、レイカ様の斜め後ろに控えていたクライム様が、口を開こうとなされた瞬間、
「誰が小娘よ! この手を離しなさい、セクハラ王子‼」
レイカ様の叫びが部屋に響くと同時に、ケルビン様が腹部を押さえながらうずくまりました。
どうやらレイカ様が、ケルビン様の腹部を殴ったようでした。
近衛兵たちが動きました。
兵に武器を向けられ、立ち上がったレイカ様の瞳が恐怖で見開かれました。クライム様が立ち上がり、レイカ様を背中で守りながら周囲に鋭い視線を向けています。
一触即発な空気の中、
「武器を下げよ‼」
ケルビン様の一喝によって、近衛兵達は武器を下げました。ですがクライム様はまだ警戒されているようで、レイカ様を庇いながらケルビン様の様子を伺っています。
ですがケルビン様はクライム様を押しのけると、レイカ様の手首を掴まれました。
そして一度も、婚約者たる私に向けたことのない笑顔を浮かべながら、こう仰ったのです。
「俺に楯突くとは面白い女だ。気に入った。お前、俺の妃になれ」
と。
ペグランド王国を支える五代貴族――クランメトーレ公爵の長女です。
私は幼い頃、ペグランド王国の王太子であるケルビン・オール・ペグランド様と婚約いたしました。
この国は、国王が全て。絶対的な権力を有しております。
たとえ王妃であっても、国王の身に危険が迫れば、身を挺して守らなければならない、いわば護衛の一人。
ですから、次期国王となられる相手の結婚相手は、五大貴族の中で一番魔力量が多く、魔法に長けた女性だと決まっているのです。
それが――私でした。
ケルビン様を守るため、私は幼い頃から過酷ともいえる魔法訓練も受けてきました。魔法訓練に比べれば、妃教育など可愛いもの。
公爵令嬢に似つかわしくない、文字通り血の滲むような努力を続けた結果、私は僅か十九歳にして、王国内でも五本の指に入るほどの実力をもつ魔法使いとなったのです。
全ては未来の国王となられる婚約者、ケルビン様を守るために――
ケルビン様は……そうですね。
彼は未来の国王となられる御方だと育てられたせいか、非常に我が強い方でした。国の主として強い意志をもたれることは良いことなのですが、いささか……その態度が強固すぎるというか――ふふっ、私ったら。彼の短所を良いように言う癖は、まだ直っていないようですね。
ええ、あなたの言う通り、ケルビン様はとても我が儘で自己愛の強い御方でした。
しかしそれもきっと今だけ。
民の上に立つお立場になったとき、ご自身の身を振り返り行動を正してくださる。
そう、信じておりました。
神殿が聖域としている聖なる泉に、ホンジョウ レイカ様が現れるまでは。
*
レイカ様は、明らかにペグランド王国の人間ではありませんでした。彼女が身につけていた服装や持ち物が、この国では見たことないものばかりだったからです。
聖域で発見されたため、彼女の身柄は当初神殿が引き受けました。
神殿には大昔、異世界からやってきた黒髪と黒い瞳をもつ聖女が、魔物に征服されていた世界を聖なる力――魔の物たちを跡形もなく消滅させる力――で救ったという伝承が残っておりました。
レイカ様から、伝承にある聖なる力を見いだした神殿は、彼女を、異世界からやってきた聖女と認定したのです。
丁度その頃、ケルビン様は、とあるミスを犯してしまい、次期国王の座が危うくなっておりました。弟君をおす者たちの声が大きくなり、窮地に陥っておられたのです。
次期国王の座を取り戻すには、ケルビン様に国を治める力があることを国内外に示す必要がありました。
ですから、この世界に蔓延る魔の権下である魔王を、聖女とともに倒そうと決意なされたのです。
それくらいなさらなければ、落ちた権威を取り戻すことなど、不可能でしたから。
こうしてケルビン様は、初めてレイカ様とお会いになられたのです。
あの日のことは……今でも夢に見ますわ。
レイカ様は、彼女を護衛する聖騎士クライム様とともにやってこられました。
案内された広い応接間で、ケルビン様に向かって頭を下げるレイカ様の第一印象は、小さくて可愛らしい方でした。
長い黒髪が艶やかで、黒い瞳からは怯えが見えました。年齢は私と同じだと聞いておりましたが、幼く思えます。
神殿の巫女が身につける白いワンピースと、肩にはケープを羽織り、頭には額冠をつけておられました。
ケルビン様が、クライム様とともに頭を下げるレイカ様に近付きました。そしてレイカ様の前で腰を落とし、彼女の頬に無遠慮に触れると、ご自身の方へ無理矢理顔を向けさせ、
「こんな小娘が聖女だとは。神殿の目は節穴ではないか?」
と嘲笑されたのです。
神殿の宝たる聖女様への暴言に、私の背筋に寒気が走りました。殿下のまさかの発言に、周囲もざわついています。
神殿は、魔王が現れてから急速に力をつけていました。今では、王家とほぼ同等の権力をもっているからです。
もし神殿を敵に回すことになれば、大変な事態となるでしょう。
しかし、レイカ様の斜め後ろに控えていたクライム様が、口を開こうとなされた瞬間、
「誰が小娘よ! この手を離しなさい、セクハラ王子‼」
レイカ様の叫びが部屋に響くと同時に、ケルビン様が腹部を押さえながらうずくまりました。
どうやらレイカ様が、ケルビン様の腹部を殴ったようでした。
近衛兵たちが動きました。
兵に武器を向けられ、立ち上がったレイカ様の瞳が恐怖で見開かれました。クライム様が立ち上がり、レイカ様を背中で守りながら周囲に鋭い視線を向けています。
一触即発な空気の中、
「武器を下げよ‼」
ケルビン様の一喝によって、近衛兵達は武器を下げました。ですがクライム様はまだ警戒されているようで、レイカ様を庇いながらケルビン様の様子を伺っています。
ですがケルビン様はクライム様を押しのけると、レイカ様の手首を掴まれました。
そして一度も、婚約者たる私に向けたことのない笑顔を浮かべながら、こう仰ったのです。
「俺に楯突くとは面白い女だ。気に入った。お前、俺の妃になれ」
と。
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