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第1話 家庭円満の女神②
「コーラル・イルミナ様」
不意に名前を呼ばれ、私は画面から目を逸らし、正面を見た。そこには、金髪をフワッと巻いたゆるふわな雰囲気を纏っている女性が立っていた。
彼女は、パルナ・ドニアート。
私の補佐を務めてくれている、優秀な後輩だ。いずれは彼女も、新しく新設された女神の任に就き、多くの人々を導いていく存在になるだろう。
パルナは私の横に来ると、画面を覗き込み、軽くため息を一つついた。
「はぁ……また不貞を働いた人間の【ざまぁ】に協力したのですか?」
「まあね」
「コーラル様は、家庭円満の女神ですよね? それなのに、そんな復讐みたいな行為に手を貸していて大丈夫なのでしょうか?」
「別にいいんじゃない? ざまぁの手助けをし出してから、私への信仰は増えているし」
「そうかもしれませんけど……」
泣き崩れる王子とビッチ令嬢が兵士たちに引っ立てられる姿を、薄笑いを浮かべながら見ている私に、パルナはどこか不安そうに呟く。
私は天界に住まい、人々を導く神々の一人――家庭円満を司る女神という任についている。
文字通り、人間たちの夫婦や親子関係など、家庭に関する秩序を守り、加護を与えるのが私の役目だ。それに派生して、恋人たちも守ったりしている。
本当は、恋人たちに関しては別の女神の担当だったりするけれど、その恋人のどちらかが私の信者だったりすると、私も面倒を見たりするので、そのあたりの線引きはあいまいだ。
家庭円満の女神は、代々、我がイルミナ家の長女が受け継いでいる。
イルミナ家にとって、家庭円満の女神という任は誇り。だから私も、代々の家庭円満の女神の名を穢さぬよう、日々懸命に勤めていた――んだけど……
「……だって、不貞を働く奴が許せないんだもん」
私は、幸せな結婚をしたオリビアの姿を見ながら、ギュッと手を握り締めた。
私が、不貞をした相手へのざまぁに手を貸すようになったのは、半年前、彼氏――勝利を司る男神ディラック・ヘイスに別れを告げられてからだ。
彼とは結婚も考えていて、家庭円満の女神の威信にかけて、懸命に彼をサポートしていた。その甲斐もあってか、ディラックの成績も伸び、他の神々から一目置かれる存在にまで成長した。
しかし、次第にディラックと会う時間が減っていった。
そして最終的には、
『俺、他に好きな女ができたんだ。滅茶苦茶綺麗な子でさ。お前と違って守ってやりたくなるタイプなんだよなー。コーラル、お前は気が強いし、一人でも平気だろ? だから、別れてくれ』
という感じで、呆気なく私たちは終わった。
後にディラックは、私と会う時間を減らし、代わりに別の女性と逢瀬を重ねていたことが判明した。
つまり、奴は二股をかけていたのだ。
それからだ。
私が、不貞をする人間へのざまぁの手助けをするようになったのは。
不貞をして相手を傷つけているのに、お咎めがないのが許せなかった。
不貞をされた相手が、泣き寝入りをすることに怒りが抑えられなかった。
だから今日も可哀想な令嬢を救って幸せに導き、不貞を犯した奴等を地獄の底に突き落としてやった。可哀想とも何とも思わない。
ふと顔をあげると、クリスタルの画面に私の顔が写っていた。
二重だけどそこまでパッチリしていない青い瞳。今は真っ直ぐだけど、ここまで真っ直ぐするのに時間と手間がかかってしまう、長い茶色の髪。
二十六歳にしては童顔なのがコンプレックスだし、中肉中背の体つきも、もう少し痩せれたらなと思う。
今でも、どうしてディラックに捨てられたのか、私の一体何が悪かったのかと考える。
この見た目が駄目だった?
それとも尽くす私が重かった?
――分からない。
とにかく、私がディラックに裏切られて悲しい思いをした分、他の被害者たちは存分に復讐をし、スッキリした気持ちで次の恋や結婚に行って欲しい。
それのどこが悪いことなの?
だからパルナが何を心配しているのか、全く分からなかった。
そう。
突然、この天界を治めている六人の最高神たちの会議に呼び出され、死を司る男神ゼーレ様より、
「そんなに浮気した人間にざまぁしたければ、今度新設する予定の【ざまぁの女神】になって貰いたいんだが、どうだろう?」
と打診されるまでは――
不意に名前を呼ばれ、私は画面から目を逸らし、正面を見た。そこには、金髪をフワッと巻いたゆるふわな雰囲気を纏っている女性が立っていた。
彼女は、パルナ・ドニアート。
私の補佐を務めてくれている、優秀な後輩だ。いずれは彼女も、新しく新設された女神の任に就き、多くの人々を導いていく存在になるだろう。
パルナは私の横に来ると、画面を覗き込み、軽くため息を一つついた。
「はぁ……また不貞を働いた人間の【ざまぁ】に協力したのですか?」
「まあね」
「コーラル様は、家庭円満の女神ですよね? それなのに、そんな復讐みたいな行為に手を貸していて大丈夫なのでしょうか?」
「別にいいんじゃない? ざまぁの手助けをし出してから、私への信仰は増えているし」
「そうかもしれませんけど……」
泣き崩れる王子とビッチ令嬢が兵士たちに引っ立てられる姿を、薄笑いを浮かべながら見ている私に、パルナはどこか不安そうに呟く。
私は天界に住まい、人々を導く神々の一人――家庭円満を司る女神という任についている。
文字通り、人間たちの夫婦や親子関係など、家庭に関する秩序を守り、加護を与えるのが私の役目だ。それに派生して、恋人たちも守ったりしている。
本当は、恋人たちに関しては別の女神の担当だったりするけれど、その恋人のどちらかが私の信者だったりすると、私も面倒を見たりするので、そのあたりの線引きはあいまいだ。
家庭円満の女神は、代々、我がイルミナ家の長女が受け継いでいる。
イルミナ家にとって、家庭円満の女神という任は誇り。だから私も、代々の家庭円満の女神の名を穢さぬよう、日々懸命に勤めていた――んだけど……
「……だって、不貞を働く奴が許せないんだもん」
私は、幸せな結婚をしたオリビアの姿を見ながら、ギュッと手を握り締めた。
私が、不貞をした相手へのざまぁに手を貸すようになったのは、半年前、彼氏――勝利を司る男神ディラック・ヘイスに別れを告げられてからだ。
彼とは結婚も考えていて、家庭円満の女神の威信にかけて、懸命に彼をサポートしていた。その甲斐もあってか、ディラックの成績も伸び、他の神々から一目置かれる存在にまで成長した。
しかし、次第にディラックと会う時間が減っていった。
そして最終的には、
『俺、他に好きな女ができたんだ。滅茶苦茶綺麗な子でさ。お前と違って守ってやりたくなるタイプなんだよなー。コーラル、お前は気が強いし、一人でも平気だろ? だから、別れてくれ』
という感じで、呆気なく私たちは終わった。
後にディラックは、私と会う時間を減らし、代わりに別の女性と逢瀬を重ねていたことが判明した。
つまり、奴は二股をかけていたのだ。
それからだ。
私が、不貞をする人間へのざまぁの手助けをするようになったのは。
不貞をして相手を傷つけているのに、お咎めがないのが許せなかった。
不貞をされた相手が、泣き寝入りをすることに怒りが抑えられなかった。
だから今日も可哀想な令嬢を救って幸せに導き、不貞を犯した奴等を地獄の底に突き落としてやった。可哀想とも何とも思わない。
ふと顔をあげると、クリスタルの画面に私の顔が写っていた。
二重だけどそこまでパッチリしていない青い瞳。今は真っ直ぐだけど、ここまで真っ直ぐするのに時間と手間がかかってしまう、長い茶色の髪。
二十六歳にしては童顔なのがコンプレックスだし、中肉中背の体つきも、もう少し痩せれたらなと思う。
今でも、どうしてディラックに捨てられたのか、私の一体何が悪かったのかと考える。
この見た目が駄目だった?
それとも尽くす私が重かった?
――分からない。
とにかく、私がディラックに裏切られて悲しい思いをした分、他の被害者たちは存分に復讐をし、スッキリした気持ちで次の恋や結婚に行って欲しい。
それのどこが悪いことなの?
だからパルナが何を心配しているのか、全く分からなかった。
そう。
突然、この天界を治めている六人の最高神たちの会議に呼び出され、死を司る男神ゼーレ様より、
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