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第8話 ジェイドの本性
ジェイド、さっき俺って言わなかった? それに口調も何だかいつも丁寧口調じゃないし、感情がめっちゃこもった話し方してるし。
……聞き間違い、かな?
うん、きっとそう――
「コーラル? 急に黙ってしまって、どうした?」
「わわっ‼」
顔を上げると、彼の顔がすぐ傍にあったため、驚いた私は思わず二歩ほど後ろに引いた。
慌てた私を見たジェイドが、プッと噴き出しだす――って、え?
噴き出す?
「ふふっ、コーラル。いくらなんでも驚きすぎ」
「い、いや、驚くでしょうよ‼ どういうこと⁉ ジェイドの態度、今までと全然違うくない⁉」
「……ああ、そっちか」
何故かジェイドは、面白くなさそうに唇を尖らせた。だけど私と視線を合わせると、まるで挑発するように片方の口角をあげながら、顔を近づけてきた。
「少しだけ、意識してくれたのかなって期待したんだけど」
地味で静かな彼とは思えない、獲物を狙うような鋭くも熱い視線が向けられ、私の全身の血の巡りが急に良くなった。
カァッと顔が熱を帯びる。
そんな自分の変化を見て見ぬふりをするように、叫ぶ。
「はぁぁぁぁっ⁉ 意識なんて、す、するわけないじゃないっ‼ 私たち、小さい頃からの付き合いなのよ? なにを今更……」
「そうだな。俺たちはただの幼馴染み。休みの日にはお互いの家に泊まりに行き、一緒に風呂も入り、一緒のベッドで寝た程度の仲だもんな」
「……っ!」
小さい頃の話だと分かっていても、ジェイドの口から語られるそれは、何故か幼馴染みの関係だと片付けるには親密すぎる関係のように思えて、さらに顔が熱くなった。
何?
一体何なの、このジェイド⁉
え? そっくりさん?
実は双子でしたっていうオチ⁉
「驚かせて悪い、コーラル。これが本来の俺だ」
「本来の、おれ? ど、どういうこと?」
ますます意味が分からない。
大量の疑問符を頭の上に飛ばす私でも理解できるように、ジェイドはゆっくりとした語り口で説明してくれた。
「コーラル。知性の神と聞いたら、どんな神をイメージする?」
「イメージ? うーん……」
私は少し考えると口を開いた。
「やっぱり真面目な感じかしら? 後、物静かで、でも時々もの凄い鋭い意見を言うとか……」
「そんな感じ。コーラルだけでなく、皆が同じようなイメージを持っている。だからこそ、知性の神を引き継いだ者は、皆が思い浮かぶイメージを壊さないように行動しなければならないんだ」
「ってことは、丁寧口調のジェイドは、皆のイメージする知性の神像を壊さないように演じているってこと?」
「ああ、そうだ。だからノア家には、知性の男神を引き継ぐ者は一定の年齢に達すると、身内以外の前では、皆がイメージする知性の男神を演じなければならないという決まりがあるんだ」
初耳なんですけど‼
……でも確かに、ジェイドの話には一理あるかもしれない。
なんだかんだ、神もイメージが大切だから。
「じゃ、じゃあ昔、突然私に対して、そっけない態度をとるようになったのも……ノア家の決まりのせい?」
「ああそうだ。だけどこの話を身内以外にすることは禁じられていて……他の皆は、何となく俺の変化を受け入れてくれたけど、コーラルとの関係だけは拗れたまま元に戻らなかった。それがずっと心残りだったんだ」
「あなたも気にしてくれていたの? 私と仲がこじれたままだったこと」
「もちろんだ。長い時間がかかったけれど、伝えられることができて本当に良かった。本当に、ごめん……」
「う、ううん。そんな事情があるなんて知らなくて……私こそ、意地張って、ごめんなさい」
ジェイドのことを思い出すと、いつも怒りと鈍い痛みがあった。
だけど彼から真相を告げられ、やむを得ない事情があったと知った途端、ずっと心に突き刺さっていたものがとれたような……
この感情は一体――
しかし感情の正体を探る間もなく、ジェイドの顔が再び寄ってきた。彼の口角がまた意地悪く上がっている。
「あなたもってことは、コーラルも気にしていたのか?」
「わわっ! ち、近い! ジェイド、ちかっ――」
「答えないと、もっと近付く」
って!
これ以上近付くって、まるで――
思い浮かんだその先に、顔が激しく熱をもった。熱が赤色となって肌の表面に現れる前に、私はジェイドの胸を押し返し、顔を背けながら叫ぶ。
「き、気にしていたわよ! だって、あ、あんなに仲が良かったのよ⁉ なのに突然私への態度がそっけなくなるし、でも理由は教えてくれないし……私、何かしたんじゃないかって、ずっと……」
――苦しくて、悲しくて。
「で、でも、何で突然素の自分に戻ったの? 身内にしか見せられないんでしょ?」
私の質問に、ジェイドは笑う。
「コーラルはもう身内、だろ? 俺の婚約者なんだから」
「えっ? だって私たち偽装婚約じゃない。お互い、いい人が見つかったら解消する仲なのに、いい――」
「全く問題ない」
私の言葉と被せるように、ジェイドはハッキリと言い切った。
うーん……まあ本人がそれでいいのなら、いっか。
笑っていたジェイドの表情が真剣なものになる。
「今後も、他人がいる場では知性の男神として振る舞うから、驚かないで欲しい」
「分かったわ。でもあなたも大変ね。本来の自分とは違うものを演じ続けるなんて、疲れるでしょ?」
「なら昔みたいに、頑張った俺を癒やしてくれ」
「昔?」
「ほら昔、目標の距離を走りきって疲れた俺を、コーラルが……」
私、何をしたっけ?
長距離を走って疲れた幼いジェイドを、私はお疲れ様と言って、抱きしめ――
え?
だ、だ、抱きしめ⁉
疲れた彼を抱きしめ、よしよしと頭を撫でたことを指していると気づいた瞬間、私の背中は、本棚にべったりとくっついていた。
そんな私を、ジェイドはお腹を抱えながら笑っていた。
な、なんなのこいつ!
素のジェイドが、こんなに意地悪になっているなんて聞いてないんですけど‼
……聞き間違い、かな?
うん、きっとそう――
「コーラル? 急に黙ってしまって、どうした?」
「わわっ‼」
顔を上げると、彼の顔がすぐ傍にあったため、驚いた私は思わず二歩ほど後ろに引いた。
慌てた私を見たジェイドが、プッと噴き出しだす――って、え?
噴き出す?
「ふふっ、コーラル。いくらなんでも驚きすぎ」
「い、いや、驚くでしょうよ‼ どういうこと⁉ ジェイドの態度、今までと全然違うくない⁉」
「……ああ、そっちか」
何故かジェイドは、面白くなさそうに唇を尖らせた。だけど私と視線を合わせると、まるで挑発するように片方の口角をあげながら、顔を近づけてきた。
「少しだけ、意識してくれたのかなって期待したんだけど」
地味で静かな彼とは思えない、獲物を狙うような鋭くも熱い視線が向けられ、私の全身の血の巡りが急に良くなった。
カァッと顔が熱を帯びる。
そんな自分の変化を見て見ぬふりをするように、叫ぶ。
「はぁぁぁぁっ⁉ 意識なんて、す、するわけないじゃないっ‼ 私たち、小さい頃からの付き合いなのよ? なにを今更……」
「そうだな。俺たちはただの幼馴染み。休みの日にはお互いの家に泊まりに行き、一緒に風呂も入り、一緒のベッドで寝た程度の仲だもんな」
「……っ!」
小さい頃の話だと分かっていても、ジェイドの口から語られるそれは、何故か幼馴染みの関係だと片付けるには親密すぎる関係のように思えて、さらに顔が熱くなった。
何?
一体何なの、このジェイド⁉
え? そっくりさん?
実は双子でしたっていうオチ⁉
「驚かせて悪い、コーラル。これが本来の俺だ」
「本来の、おれ? ど、どういうこと?」
ますます意味が分からない。
大量の疑問符を頭の上に飛ばす私でも理解できるように、ジェイドはゆっくりとした語り口で説明してくれた。
「コーラル。知性の神と聞いたら、どんな神をイメージする?」
「イメージ? うーん……」
私は少し考えると口を開いた。
「やっぱり真面目な感じかしら? 後、物静かで、でも時々もの凄い鋭い意見を言うとか……」
「そんな感じ。コーラルだけでなく、皆が同じようなイメージを持っている。だからこそ、知性の神を引き継いだ者は、皆が思い浮かぶイメージを壊さないように行動しなければならないんだ」
「ってことは、丁寧口調のジェイドは、皆のイメージする知性の神像を壊さないように演じているってこと?」
「ああ、そうだ。だからノア家には、知性の男神を引き継ぐ者は一定の年齢に達すると、身内以外の前では、皆がイメージする知性の男神を演じなければならないという決まりがあるんだ」
初耳なんですけど‼
……でも確かに、ジェイドの話には一理あるかもしれない。
なんだかんだ、神もイメージが大切だから。
「じゃ、じゃあ昔、突然私に対して、そっけない態度をとるようになったのも……ノア家の決まりのせい?」
「ああそうだ。だけどこの話を身内以外にすることは禁じられていて……他の皆は、何となく俺の変化を受け入れてくれたけど、コーラルとの関係だけは拗れたまま元に戻らなかった。それがずっと心残りだったんだ」
「あなたも気にしてくれていたの? 私と仲がこじれたままだったこと」
「もちろんだ。長い時間がかかったけれど、伝えられることができて本当に良かった。本当に、ごめん……」
「う、ううん。そんな事情があるなんて知らなくて……私こそ、意地張って、ごめんなさい」
ジェイドのことを思い出すと、いつも怒りと鈍い痛みがあった。
だけど彼から真相を告げられ、やむを得ない事情があったと知った途端、ずっと心に突き刺さっていたものがとれたような……
この感情は一体――
しかし感情の正体を探る間もなく、ジェイドの顔が再び寄ってきた。彼の口角がまた意地悪く上がっている。
「あなたもってことは、コーラルも気にしていたのか?」
「わわっ! ち、近い! ジェイド、ちかっ――」
「答えないと、もっと近付く」
って!
これ以上近付くって、まるで――
思い浮かんだその先に、顔が激しく熱をもった。熱が赤色となって肌の表面に現れる前に、私はジェイドの胸を押し返し、顔を背けながら叫ぶ。
「き、気にしていたわよ! だって、あ、あんなに仲が良かったのよ⁉ なのに突然私への態度がそっけなくなるし、でも理由は教えてくれないし……私、何かしたんじゃないかって、ずっと……」
――苦しくて、悲しくて。
「で、でも、何で突然素の自分に戻ったの? 身内にしか見せられないんでしょ?」
私の質問に、ジェイドは笑う。
「コーラルはもう身内、だろ? 俺の婚約者なんだから」
「えっ? だって私たち偽装婚約じゃない。お互い、いい人が見つかったら解消する仲なのに、いい――」
「全く問題ない」
私の言葉と被せるように、ジェイドはハッキリと言い切った。
うーん……まあ本人がそれでいいのなら、いっか。
笑っていたジェイドの表情が真剣なものになる。
「今後も、他人がいる場では知性の男神として振る舞うから、驚かないで欲しい」
「分かったわ。でもあなたも大変ね。本来の自分とは違うものを演じ続けるなんて、疲れるでしょ?」
「なら昔みたいに、頑張った俺を癒やしてくれ」
「昔?」
「ほら昔、目標の距離を走りきって疲れた俺を、コーラルが……」
私、何をしたっけ?
長距離を走って疲れた幼いジェイドを、私はお疲れ様と言って、抱きしめ――
え?
だ、だ、抱きしめ⁉
疲れた彼を抱きしめ、よしよしと頭を撫でたことを指していると気づいた瞬間、私の背中は、本棚にべったりとくっついていた。
そんな私を、ジェイドはお腹を抱えながら笑っていた。
な、なんなのこいつ!
素のジェイドが、こんなに意地悪になっているなんて聞いてないんですけど‼
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