勇者の命を狙うサブイベント令嬢ですが、前世の記憶を思い出したので命を狙うのを止めたら「なんで殺しに来ないんだ」と勇者に執着されました

・めぐめぐ・

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第13話 どっちが悪役か分からないよっ‼

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 ジークに手を引かれながら、私たちは敵アジトの廊下を走っていた。
 やがて長い廊下の先に 【この先、ボスがいます】という主張がやたら凄い大きな扉が現れた。

 イヒャルゼクトが待つ部屋だ。
 さらに言うなら――ゲーム内でリタがジークたちと対峙し、殺される部屋。

 今更になって、手が震えてくる。
 二年前に、私の死亡イベントは回避出来ているはずなのに、ここが本来の死に場所だったのだと想像すると、動悸が治まらなくなる。

 そして恐怖する理由がもう一つある。

 私は……この場所を知っている。
 ゲームの記憶ではなく、今世の記憶の中で、微かに心に触れる物があるのだ。

 捕らわれていた牢屋と同じように――

 私を攫ったイヒャルゼクトのセリフ。
 来たことのない場所に対して感じる、懐かしさ。

 もしかして……もしかして、私は……

「リタ、怖い?」
「えっ?」

 隣にいるジークの声によって、私の思考は今へと引き戻された。金色の瞳が、私を気遣うように細められている。

 私と違って、ジークは余裕そのものだ。これからボス戦だというのに、不安や恐怖を微塵も見せない。

「大丈夫。何があっても、君は僕が守るから」

 優しくも、自信に満ちた声色が、緊張感漂う空間にフワッと響く。同時に、私の手が強い力に包まれた。
 その温もりが今はとても心強い。

 この場所で私が死ぬ予定だったことは言えないけれど、もう一つの不安は打ち明けても良いかもしれない。

「……ジーク、あのね、私……ここに来たことがあるかもしれない」
「えっ?」

 緩んでいだ彼の唇が、驚きの声を発した形で止まった。だけどすぐさま真剣な表情へと変わり、質問を投げかけてくる。

「それはいつ頃の話?」
「……分からない。記憶がハッキリしないから、かなり小さい頃かもしれないわ」
「もしそれが本当なら、リタは生け贄にされて生きていないと思うけど……」
「そうなのよね……」

 これが一つの疑問点。
 イヒャルトゼクトが人間を誘拐するのは、魔王に捧げる生け贄が目的。もし、私が幼い頃に誘拐されていたのなら、生贄に捧げられ、こうして生きているわけがない。

 もちろん、誰かの活躍によって、イヒャルゼクトの手から救い出されたという可能性もあるけど。

「どんな理由があろうとも、イヒャルゼクトは絶対に倒すから。もうこれ以上不安にならないで、リタ」

 ジークの手が、私の頭をポンポンッと撫でた。
 彼の言葉に、不安と恐怖で縮こまっていた心が、力を取り戻す。イヒャルゼクトに対する怒りが再熱し、激しい憎しみへと変わる。

「……ありがとう、ジーク。絶対に……絶対に倒してね」

 イヒャルゼクト討伐をジークに願う私の声は、とても低かった。だけど、

「うん、もちろん……生かしておけるわけがないよ」

 それ以上に低く、怒りを押し止めたようなジークの声が、辺りに響き渡る。

 今まで私に気遣い、優しい表情を浮かべていた彼の瞳からハイライトが消えた。双眸を見開きながら目の前の扉を凝視し、唇は、楽しくて楽しくて堪らないと言わんばかりに、大きな弧を描いている。

「リタに不安を与え、思考を奪っているだけでも万死に値するというのに、僕ですら知らない幼い頃のリタと出会っただけでなく、連れ去って閉じ込めるなんて……許せると思う? リタを閉じ込め、その全てを愛でる権利は、後にも先にも僕だけのものなのに……イヒャルゼクト、絶対に許さない……絶対に……ぜったいにぜったいにぜったいにぜったいに……ふふっ……ふふふっ……」

 少し俯いて笑っているため、丁度ジークの前髪が目許に深い影を落とす形になっていて、いつもよりも怖さが倍増している。

 急に人恐ひとこわ系ホラー味くるやん……

 笑いを止めたジークが、ゆっくりと顔をあげる。瞳にはハイライトが戻り、私が知っているキラキラ勇者の顔に戻っている。

 そして私と目が合うと、ゲーム内で良く見た陽キャオーラ全開の笑顔を浮かべた。

「じゃあ行こうか。愚か者の末路を見届けに」
「勇者が笑顔で物騒なセリフ、言わないの‼」

 もうっ、どっちが悪役か分からないよっ‼

 しかし私のツッコミ空しく、ジークは、イヒャルゼクト絶対に殺す、と笑顔で呪詛を吐くと、目の前の扉に手をかけた。

 *

 部屋の中は広く、薄暗かった。
 しかし足を踏み入れた瞬間、戦い素人の私ですら分かるほどの、禍々しい気配を感じた。

 この気配、知ってる。
 私が街中で攫われたときと同じ気配――更に言うなら、もっともっと昔に感じたことのある気配だ。

 間違いない。
 幼い頃、私はイヒャルゼクトに会っている。

 何故今まで忘れていたのか、不思議に思うほど――

「よく来たな、勇者ジークフリート」

 目の前には、豪華な椅子に座っている男性がいた。パッと見は、スーツを身につけたダンディなおじさまという感じだ。オールバックの茶色い髪の内側には、前世で言う青のインナーカラーが入っていてとってもオシャレだ。顔だって彫りが深く、特に鼻が高い。

 だけど、人間とは明らかに違う特徴がある。

 人間の形をしているが、額からは大きな二本の角が突き出ている。服から出ている肌は、深緑の鱗に覆われていた。

 そして一番目を惹いたのが――爬虫類のような、縦に細長い瞳孔の赤い瞳。

 こんな感じの敵だったっけ。
 いつも私が殺された後、バックアタックで戦闘が始まるから、怒りで速攻倒してたもんなあ。

 私を背中で守るように、ジークはイヒャルゼクトの方に一歩進み出た。そして低く問う。

「お前が、イヒャルゼクトか」
「まさか、たった一人で私に挑みに来るとは……愚かな男だ」

 彼の問いかけに、イヒャルゼクトはククッと喉を鳴らしながら肯定すると、ゆっくりと椅子から腰を上げた。
 そして両手を広げると、高らかに宣言した。

「いかにも! 私は魔王様の忠実なるげぼく、いひゃ――」

 刹那、イヒャルゼクトの首元に、銀色の一閃が走った。

 次に私の視界に入ってきたのは、イヒャルゼクトのすぐ傍で聖剣を鞘に収めているジークの姿。

 いつの間にジーク、あんなところに移動したんだろう。
 動きが見えなかったんだけど……

 と不思議に思っている私の前に、何か丸いものが落ちてきた。

 ――イヒャルゼクトの頭部だった。

 剣を収め、満面の笑みを浮かべながら戻ってきたジークが、驚きで言葉を失っている私に言った。

「さ、リタ。帰ろうか」

 ええええええええええええ――――――――⁉
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感想 1

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みんなの感想(1件)

ろぉ
2025.03.24 ろぉ

続きを楽しみにしています。
少しづつでも出してもらえたら嬉しいです。

2025.03.26 ・めぐめぐ・

ろぉ様
ありがとうございますか(*´▽`*)
そう言って頂けて嬉しいです♪
展開に詰まってて止まっていますが、更新出来た際には読みに来て頂けると幸いですー。

解除

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